─────翌日。ミーティングルームに集められた保安官達は、お互いに顔を見合わせながらグレン連邦保安官を待っていた。グレン連邦保安官が書類を手に持ちながらミーティングルームに入って来た。
「おはよう諸君。聞いてると思うが、今からスカイフィッシュ国へ行き、メデューサ教団の教祖ジム・ギュスターヴを逮捕する。容疑は、ニューイヤーレースのテロの首謀者としての罪だ。だが、スカイフィッシュ国内での容疑は傷害目的の誘拐、魔薬草の密造も追加される。向こうも抵抗するだろうから気を引き締めて行け。だが、ここにいる保安官全員を行かせる訳にも行かない、そこで、俺が5人を選抜する。ジャックポット、ロッキー、ジェシカ、オースティン、キッド。この5名に行って貰う」
選ばれたロッキー保安官が手を挙げる。
「ちなみにですが、スカイフィッシュ国の保安官から何人なんですか?」
「スカイフィッシュ国の保安官からは指揮官も入れて8名だ。向こうに着いてからは【ジョン・クラシス】連邦保安官の指揮に従う事になる。それぞれ装備と弾薬の確認を忘れるなよ。スカイフィッシュ行きの魔導列車で1時間後出発だ」
選ばれた5人は装備を受け取り、ピースメーカー、レバーアクションライフル、散弾銃に弾薬を装填し始めた。
「あのカルト教団、どのくらいの数か分かるか?」
ロッキー保安官がピースメーカーに弾を込めながら言うと、散弾銃をメンテナンスしていたオースティン保安官が顔を上げた。
「色々調べたが、だいたい1600人くらいだったかな」
「1600!?魔王軍の一個大隊くらいじゃねぇかよ!」
「だから無闇に逮捕出来ないんだろ?下手すりゃ大戦争だ」
隣で聞いていたジェシカ保安官もピースメーカー2丁に弾を込めながら言う。1000人以上のカルト集団と衝突したらひとたまりもないのは事実。なるべく穏便に済ませたいのが本音だろう。
「弾薬1000発、散弾銃用の弾薬1000発、ゴーレムライフル用弾薬1000発、防刃ミスリルベスト用意出来ました」
キッドが重そうに両手に抱えながら机にドサッと置き、時計に目を向けると出発時間まであと20分まで迫っていた。
「そろそろ出発しませんか?」
「そうだな。そろそろ行くか……」
「ジェシカちゃんと一緒に行けるなんてラッキーだなぁ!」
「うるせぇよ疫病神。今からでも遅くねぇからジャンゴと代われ」
クネクネ動きながらジェシカ保安官へ言い寄るジャックポット保安官に、ジェシカ保安官はゲシゲシと蹴りを食らわす。
「そんなつれないこと言わないでよジェシカちゃ〜ん」
「うるせぇ!さっさと荷物持て!」
あまりにも仲が悪い2人を見てキッドはオースティン保安官にヒソヒソと尋ねる。
「あの、なんであの2人は仲が悪いんですか?」
「さぁな。どうせカジノで大負けしたからひがんでるんだろ。ほっとけ」
「は、はぁ……」
その後。キッド達はスカイフィッシュ行きの魔導列車に乗り込み、スカイフィッシュへ向かった。次第に、車窓は荒野から山々に囲まれた田舎に変わった。駅に着き、街並みを見てキッド達は首を傾げた。
「変だな、人が出歩いてねぇな」
「それだけメデューサ教団の影響があるのかもな」
「で?こっちの連邦保安官のお出迎えはなしかい?お気楽なもんだ」
ジェシカ保安官が嫌味を言うと、
「そうでもないさ」
「えっ?」
キッドが横に顔を向けるとそこには、フォックス系獣人族の保安官が壁に寄り添いながら立っていた。その保安官の胸には白金色のバッジが付いていた。
「しっ、失礼しました!」
「ウチの若いのが失礼しました。ウェスタン国保安官のオースティン・トンプソン、ジェシカ・レジーナ、ロッキー・ビル、ルーク・ジャックポット、キッド・ウォーカー到着しました」
オースティン保安官に続いてキッド達も敬礼をする。ジョン・クラシス連邦保安官は笑いながら、
「はっはっはっ!無理もない。あんまり連邦保安官らしく見えない見たいだからね。私がジョン・クラシス連邦保安官だ。よろしく。早速、スカイフィッシュ保安官事務所へ行こう。話しはそれからだ」
キッド達は、クラシス連邦保安官の案内でスカイフィッシュ保安官事務所へ向かった。スカイフィッシュ国は人口12万人程で、山脈に囲まれている国で、最近は先住民系や多様な人種も居住しているいう。そんな説明を受けている内に、木造の保安官事務所に辿り着いた。クラシス連邦保安官は扉を開けながら、事務所の中を見せた。広さの割には保安官や事務員、挙句の果てには受付にすら誰も居なかった。
「まぁ、古い造りだけど意外と落ち着くんだ。さっ、入ってくれ」
「失礼します……ってあれ?誰もいない……?」
「はぁー、ボロっちい事務いった!!」
ジェシカ保安官が何かを言おうとした瞬間、オースティン保安官に足を踏まれて騒ぎ出す。誤魔化せる訳もなく、クラシス連邦保安官の耳に入った。だが、怒るどころか笑っていた。
「はっはっはっ、言われても仕方ないさ。ウェスタン国とは違って田舎だからね。君らの言う所のミーティングルームは2階だ」
そのまま2階へ上がるとそこには、女性エルフ族、褐色肌の男性人間族、キベリタテハ蝶系女性蟲人族、チョウザメ系男性魚人族、ニシマキバドリ系男性鳥人族が席に着いていた。クラシス連邦保安官は声をかける。
「遅くなってごめんね。ウェスタン国の保安官達が到着したよ」
「ウェスタン国保安官のオースティン・トンプソン、ジェシカ・レジーナ、ロッキー・ビル、ルーク・ジャックポット、キッド・ウォーカー到着しました。今日からカルト教団の教祖ジム・ギュスターヴの逮捕に協力します」
オースティン保安官が軽く挨拶をしながら敬礼をすると、キッド達も同じく敬礼をした。すると、褐色肌の人間族の男性保安官が突然立ち上がって、
「いやぁ、待ってましたよ。僕の名前は【ジェームズ・グッディ】保安官と言います!」
グッディ保安官はオースティン保安官に握手を求める。オースティン保安官も応えるように握手に応じた。
「協力に感謝します」
「では、こちらも紹介します。エルフ族の女性は【リディ・ドライブ】元は狩人をしていたんだ。ここら辺の森なら彼女の右に出る奴はいないよ」
リディ保安官は呼ばれると、綺麗な金色の髪を靡かせながらこちらに顔を向けた。
「よろしく。足引っ張ったら承知しないからね」
「おやおや、ピリッとした性格してるなぁ。嫌いじゃないよ」
同族のロッキー保安官が返すようにリディ保安官に言うと、リディ保安官はロッキー保安官を睨み付けた。クラシス連邦保安官は「まぁまぁ」と言いながら紹介を続ける。
「その隣りの女性蟲人族は、キベリタテハ蝶系の蟲人族の【ローレンシア・ベッキー】彼女は鳥人族の様に空を飛べる事が出来て張り込みが得意です」
「ローレンシア・ベッキーです。皆さん、頑張りましょう!分からない事があったらなんでも聞いて下さいねっ!」
小柄で元気ハツラツなベッキー保安官は大きな声で挨拶すると、ジェシカ保安官は苦手なのか、ジャックポット保安官に囁く。
「アイツはお前に任せるわ。あたしはパス」
「出会って数秒で嫌うのは良くないよジェシカちゃん」
「ジェシカ保安官、仲良くしてください!!」
聞こえていたのか、ベッキー保安官はジェシカ保安官の名前を呼んだ。わざとなのか無意識なのか分からないジェシカ保安官は苦笑いをしながら会釈をする。クラシス連邦保安官もにこやかな笑顔でジェシカ保安官を見つめた。いたたまれない空気の中、紹介は続く。
「次は、なんでこんな水気のない所に魚人族がいるんだと思うかも知れないが、彼は陸でも生活出来る特殊な体質の【ニック・パーシー】。勿論、水辺に逃げても逃げられない」
ニック保安官は大きな体をしているのにも関わらず緊張しながら頭を下げる。
「ニニニニニニニニニニック・パパパパシーパーシーですぅ。よろしくお願いしますです!」
「あがり症なのがたまに傷なんだがね……」
クラシス連邦保安官は呆れながら言うと、「すいませんすいません」と何度も尖った頭をブンブンと縦に振る。そして、最後のニシマキバドリ系鳥人族の男性保安官に顔を向けた。
「そして、最後に年末に保安官になったばかりの新人保安官の【ヴィクター・ストライク】だ」
キッドと大して変わらない歳の青年ヴィクター保安官は自分だけ銅色のバッジが気まずいのか、申し訳なさそうに立ち上がる。
「ヴィクターです……えーっと、入ってまだ1ヶ月も満たない新人ですが、よろしくお願いします」
新人というワードに反応したキッドは、ヴィクター新人保安官に近付いて手を取り、ブンブンと握手をする。
「僕も半年前まで銅色のバッジだったから気持ちは凄く分かります!ヴィクター保安官、お互い頑張りましょう!!」
「はっはい……ありがとうございま……す」
余程同年代に近い同業者に会えたのが嬉しかったのか、ハイテンションのキッドの勢いに唖然とする。
「以上、スカイフィッシュ国保安官5名。捜査に合流する事になるね」
「5名?話しでは8名と聞いてましたが、スカイフィッシュの保安官はたったこれしかいないんですか?」
オースティン保安官が目を丸くしながら尋ねると、クラシス連邦保安官は沈んだ表情になった。
「正確には……もう、5名しか残ってないんだ」
「それってどういう意味ですか?」
「なら、我々が説明します」
庇う様にグッディ保安官が名乗りを上げた。ベッキー保安官が円陣を組む様に椅子を用意し、キッド達を席に着かせた。
「まず、メデューサ教団が半年くらい前にやって来て、国中の農場や土地を買い占め始めた。僕らもちょっとおかしな集まりくらいにしか見ていなかった」
「でも、様子を見たら狂信的で常軌を逸していた集団だったんです」
ベッキー保安官も口を挟むように入って来た。グッディ保安官はベッキー保安官に「口を出すな」というジェスチャーを出して話を続ける。
「まるで魔王軍の大隊でした。我々だって何度も奴らを逮捕しようとしましたが、激しく抵抗され、上手く行きませんでした。1人、また1人と殉職して行き、恐れをなして保安官を辞めて国から出て行った者もいる。そして今回のテロ事件が起こった。もうこれ以上好き勝手させてはならない。そこへオースティン保安官達が来てくれた」
ここでロッキー保安官はとんでもない奴らを相手にしてるんじゃないかと冷や汗をかき始めた。
「まさか、保安官相手にも容赦なく襲って来るなんてね……イカれてる」
「だが今回は正式に用意された証拠も罪状もある。肝心のヤツはどこに?」
オースティン保安官が自信に満ちた表情で言うと、ベッキー保安官が黒板に国内の地図を広げた。
「保安官事務所から馬車で10分くらい北へ行った所にある大聖堂で説教をしています。逮捕するならそこでしょうね」
「ならモタモタしてられねぇな。次の説教は何時からなんだ?」
ジェシカ保安官がグッディ保安官に尋ねると、
「夕方の5時頃ですね」
「もうすぐじゃねぇか。さっさと行くぞ」
「俺はなるべく戦力になりそうな冒険者を探しておくから、頼んだよ」
キッド達は、クラシス連邦保安官に見送られながらメデューサ教団の大聖堂へ向かった。