俺の町は今日も今日とて平和です!   作:ボトルキャプテン

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37 ギュスターヴ逮捕

大聖堂に向かったキッド達は、牢竜車を囲み並走しながらベッキーが話し始めた。

 

「ここから、教団の縄張りになります」

「縄張り?まだ走って4〜5分だぞ?いくら台形の形をした国だからってそりゃないだろ」

 

 ジェシカ保安官がボヤく。その理由をリディ保安官が話し始めた。

 

「それだけ苦戦してるって事よ。普通の犯罪者ならとっくに逮捕してるわよ」

「へーへーそうですか」

「その縄張りの印がこれだ」

 

 グッディ保安官が指す方向には、ゴーレム程の大きさのワニ系蜥蜴人族の法衣を着た石像が立っていた。

 

「うーわ、なんだよコレ」

「教祖とは言え、これじゃまるで独裁者見てぇだな」

 

 オースティン保安官が皮肉を言うと、

 

「全てが謎の人物。どこから来たのか、冒険者なのか調べれば調べる程謎が増えるばかりです。ギュスターヴの情報が全く見つからない」

「見つからない?冒険者ならギルドに記録があるはずです」

 

 キッドが首を傾げると、グッディ保安官が首を横に振る。

 

「それがまったく無いのです。★の数も職業も全て謎のままです。まるで記録が抹消されてしまったかのように……」

「記録を消されるなんて……そんなバカな!?」

「そう、ありえません。余程の権力がない限り冒険者登録を抹消するだなんて、まずなかったら不便なはずですからね」

「事務所で土地を買い漁ってるって言ってたけど、奴らの金の出処は?」

 

 牢竜車に乗っていたジャックポット保安官が尋ねると、

 

「魔薬草です。どうやら、やつらはこの国のどこかで魔薬草を密造し、国外に売り飛ばしているらしいです」

「魔界でしか自生しない魔薬草がここで?一体どうやって?」

「魔薬草は繁殖力が凄まじいので暗く湿って魔力のある場所ならどこでも自生しますよ」

「めんどくさいもん持ち込んでくれたなヤツらは……」

 

 スカイフィッシュ国の保安官達が苦戦する理由が良くわかった。莫大な財産の上に得体の知れない親玉に狂信的で保安官を躊躇なく手をかける凶暴な信者達。何をしてくるか予測不能である。

 

「怖気付いたなら、今すぐウェスタン国へ帰ってもいいんじゃない?」

 

 先頭を走っていたリディ保安官が突然言い出した。聞き捨てならなかったロッキー保安官が口を出す。

 

「おいおい、こっちは無関係の住民が命を奪われてるんだ。バカな事を言わないでくれよ」

「私はただ、ここの戦況を理解して欲しいの」

「そんなの知ったこっちゃねぇよ。あんま生意気言うとぶっ飛ばすぞ」

 

 リディ保安官の言い方が余程気に食わなかったのか、ジェシカ保安官までリディ保安官に食ってかかる。

 

「おいおい、若い衆よ。お喋りはそこまでだ。着いたぞ」

 

 オースティン保安官が間に入ってお互いを止めた。キッド達の視線の先には、ゴシック様式の大聖堂が目の前に現れた。入り口付近には、様々な武器で武装した冒険者やアメジスト魔石やトパーズ魔石が付いた杖を持った魔法使いなどがぞろぞろと集まっていた。

 

「こちらオースティン保安官。大聖堂に到着。これより中へ向かう」

 

 オースティン保安官が魔線機で事務所で待機していたクラシス連邦保安官に通信を試みた。

 

《こちらクラシス連邦保安官。了解。みんな、気を付けて》

 

 魔線機をしまったオースティン保安官はキッド達に顔を向ける。

 

「よし、若い衆よ、ここから油断するんじゃないぞ。行くぞ!」

 

 全員が馬から降りて大聖堂へゆっくりと歩いて行く。信者達は親の仇を見るような目付きでキッド達を睨みつけていた。ジェシカ保安官も信者達に睨みを利かせながら歩いていると、大聖堂の入り口に辿り着いた。グッディ保安官が扉に手をかけると、オースティン保安官が口を開いた。

 

「まてまて、ここは俺に任せろ」

「はっ、はい……」

「新人2人は俺と一緒に来い。ジェシカとリディ保安官、外の見張りは任せたぞ。誰も中へ入れるな」

 

 ジェシカ保安官はキッドに「しっかりな」という意味を込めて肩に手を乗せてリディ保安官と共に周辺を警戒する。大聖堂へはオースティン保安官、グッディ保安官、キッド、ヴィクター保安官が同行した。扉を開けるとそこには、白い鱗に覆われたナイルワニ系蜥蜴人族の男が白い法衣を着て信者達に説教をしていた。

 

「世界の滅亡させる悪魔が間もなくやってくるでしょう。皆さん、力を付けて戦うのです。ギルドは助けてはくれない、自分の身は自分で護るのです……ヤツらは我々の自由を、そして信仰を奪っていくでしょう」

 

 オースティン保安官達はゆっくりと近付いて行く。説教を聞いていた信者達はオースティン達に気付き立ち上がって睨みつける。だが、お構い無しにオースティン保安官はジム・ギュスターヴに逮捕状を突き付けた。

 

「説教中に失礼。ジム・ギュスターヴ教祖だな?我々は保安官だ。スカイフィッシュ国内での魔薬草の密造の疑い、公務執行妨害、殺人の容疑とウェスタン国でのテロ事件の首謀者として貴方を逮捕します。テロ行為により、貴方には黙秘権はない。大人しく両手を出せ」

 

 オースティン保安官がギュスターヴに言い放つと、ギュスターヴは両手を上げながら口を開く。

 

「邪神メデューサ様のお告げ通り、やはり来た。悪魔の使いが……この私を捕らえに……。私を皆から引き剥がし、希望を壊しに来たのだ」

 

 ギュスターヴがオースティン保安官達に言いがかりを付けると、説教を聞いていた信者達がギュスターヴを守るように前に出てきて武器を抜き始めた。キッドとヴィクター保安官も咄嗟にピースメーカーに手をかける。だが、ギュスターヴは信者達をなだめ、前に出てきた。

 

「心配しなくて大丈夫です、何故ならメデューサ様がお守りして下さるから……それに、我々はこの日の為に備えて来た……」

 

 ギュスターヴがそう言い聞かせると信者達は後ろに引き下がり、ギュスターヴは両手を前に差し出して来た。

 

「おい若いの、手錠をかけろ」

「はい」

 

 グッディ保安官は手錠を取り出し、ギュスターヴの手に手錠をかけて逮捕に成功した。

 

「よし、外に連れ出して牢竜車に連行しろ」

「了解」

 

 ギュスターヴは抵抗せずにグッディ保安官に連行されながら外に出ると、

 

「おい!あれ見てみろ!」

 

 ジェシカ保安官とリディ保安官が化け物を見たかのように騒いでいた。

 

「何を騒いでるジェシー?」

「あの空を見てみろよ空を!」

「空?空がどうしたっ……」

 

 キッドやオースティン保安官達が空を見上げるとそこには、黒雲が集まり次第に人の顔の形になった。グッディ保安官やジャックポット保安官は驚きを隠せなかった。

 

「なっ、なんだあれは!?」

「おいおい、冗談だろ。どうせなんかの魔法だろ!?」

「嫌な予感がする。早くギュスターヴを牢竜車へ入れろ!」

 

 長年の経験からなのか、オースティン保安官が焦りを見せる。空の不気味な顔を見た信者達がざわざわと騒ぎ出す。

 

「メデューサ様!」

「メデューサ様が、ギュスターヴ様をお護り下さるのだ!」

「そうだ、メデューサ様万歳!!」

 

 騒ぎ出した信者達は武器を片手に近付き始める。これ以上は危険と判断したリディ保安官とジェシカ保安官はホルスターからピースメーカーを引き抜き、構える。

 

「それ以上近付くな!発砲するぞ!」

「下がれ下がれ!近付くんじゃねぇぞ邪教徒共!!」

 

 キッドとヴィクター保安官はギュスターヴを牢竜車へ入れて鍵をかけると、

 

「教祖様を救え!」

「教祖様を助けるんだ!」

「教祖様を連れて行くなぁっ!!」

 

 再三警告したのにも関わらず、エルク系獣人族の男、人間族の女、ハト系の鳥人族の女が襲いかかって来た。ジェシカ保安官、ロッキー保安官、リディ保安官は咄嗟にピースメーカーの引き金を引いた。3人の弾丸はそれぞれの太ももに命中し、その場に倒れ込んだ。それ見ていた信者達は、我慢していたのか叫びながら牢竜車へ向かって行く。

 

「ジェシカちゃん!乗って!」

「ちっ、分かった!」

 

 ジェシカ保安官は牢竜車に飛び乗ると、ジャックポット保安官は手網を叩き牢竜車を急発進させた。オースティン保安官やキッド達も慌てながら愛馬に跨り後を追う。

 

「こちらオースティン保安官。ギュスターヴを逮捕した!だが、空に現れた変な顔を見て信者達が急に暴れ出した!」

 

《なんと……予定を変更してスカイフィッシュ刑務所に向かって下さい!刑務所は飛び切り頑丈な造りにしてますから!私も今から向かいます!》

 

 クラシス連邦保安官から指示が出た。オースティン保安官は魔線機を腰に仕舞い、後ろに振り向いた。

 

「激しい抵抗の恐れがある!スカイフィッシュ保安官事務所ではなく、スカイフィッシュ刑務所へ移送するぞ!案内を頼む!」

 

 オースティン保安官に頼まれたグッディ保安官は黙って頷き、先頭を走り始めた。

 

「私に付いて来て下さいっ!」

 

 キッド達の後ろからは馬に乗った信者達がいた。信者達は懐から短い杖を抜いて杖を突き出した。

 

「教祖様をお護り下さい……『ファイヤーボルト』!!」

 

 キッド達の後ろから火の矢が飛んで来た。キッドとヴィクター保安官は少しでも役に立とうとしたのか、ピースメーカーで応戦する。だが、後ろを向きながら片手に手網、片手にピースメーカーという不慣れな撃ち方をしてるのが祟って信者達には当たらない。リディ保安官やベッキー保安官は命中したが、信者達は止まらなかった。

 

「刑務所まで後、1kmです!踏ん張って!」

 

 グッディ保安官がそう言った瞬間。

 

「ギュアアアアッ!」

 

 どこからともなく聞こえるモンスターの鳴き声。

 

「なんだ!?」

「おいおい……こりゃなんの冗談だ!?」

 

 ジャックポット保安官の視線の先には、頭が鳥で身体が獣のモンスター【グリフォン】がこちらに向かって飛行していた。グリフォンを見たキッドは思わず声をあげる。

 

「そんな馬鹿な!?グリフォンはロンドール大陸にしか生息してないモンスターなのになんで!?」

「そんなのなんだっていい!もっと飛ばせ!グリフォンに捕まったらおしまいだ!」

 

 ロッキー保安官が叫ぶ。しかも、よく見るとグリフォンの背中にはエルフ族の男が騎乗していた。どうやら野生のモンスターではないようだった。ジャックポット保安官はゴーレムライフルを取り出し、弾を装填する。

 

「まさか飛行モンスター使いまでいるとは恐れ入ったね」

「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと撃ち落とせ!外したら御者席から蹴り落とすからな!」

 

 ジェシカ保安官から激が飛ぶ。すると、何をするのか悟ったのか、パーシー保安官が牢竜車の上に飛び移り、レバーアクションライフルに弾を装填していた。

 

「ぼぼぼくがしし進路を作ります!」

「……頼んだよ、パーシー保安官!」

 

 パーシー保安官がグリフォンに向かって5回発砲した。グリフォンは右左と避けながら飛行してくると、深呼吸をしたジャックポット保安官は狙いを定めて、

 

ドン!

 

 1発の弾丸は一直線にグリフォンの頭に命中した。グリフォンはそのまま急降下して後ろで攻撃していた信者達に落下した。排莢を終えたジャックポット保安官はニヤリと笑う。

 

「大当たり……!」

「やるじゃねぇかよ、ジャックポット」

 

 珍しくジェシカ保安官がジャックポット保安官を褒めた。だが1番驚いていたのはジャックポット保安官だった。

 

「あの泣く子も黙る番犬ジェシーちゃんが俺を褒めた!?夢じゃないよね!?現実だよね!?パーシー保安官も聞いてたよね!?」

 

 余程嬉しかったのかパーシー保安官に尋ねる。パーシー保安官は首をブンブンと縦に振る。

 

「でも、これで少しは時間が稼げる……」

 

 流石の番犬ジェシーも焦ったの大きくため息を吐いた。そしてようやくスカイフィッシュ刑務所が見えて来た。

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