スカイフィッシュ刑務所が見えてくると、入り口にはクラシス連邦保安官が既に門を開けて到着するのを待っていた。牢竜車が中に入ったのを確認すると門は固く閉ざされた。
「ふぅ、皆無事で良かった!」
「さすがにやばかったぜ。守りを固める必要があるな」
ジャックポット保安官がクラシス連邦保安官に言うと、
「大丈夫。ここは元々要塞だった所を刑務所に作り替えたんだ。多少の魔法攻撃じゃビクともしないよ」
「ならコイツを早く収監した方がいい。色々すっ飛ばして刑務所に来ちまったが、丁度いいだろ」
キッドとヴィクター保安官が牢竜車の鍵を開けると、ギュスターヴがこちらに顔を向ける。ヴィクター保安官は警戒したのか、ホルスターに手をかける。
「出ろ」
「ここは……保安官事務所では無いようだが……?」
「お前の信者達が襲いかかって来て保安官事務所に行けなくなったんだ。急遽こっちに避難しただけだ」
キッドがそう言うと、ギュスターヴは何も言わずに牢竜車から降り始めた。ギュスターヴが鎖に引っ張られながら石畳を歩き始めると、嫌な風が吹き始めた。不穏な空気を感じながら監獄の中へ入ると、水滴の音、鎖が揺れる金属音、他の囚人のうめき声や咳が聞こえてくる。
「酷い匂いだ……」
「ゲホッ……刑務所の中がこんな環境だとは思ってなかった……」
刑務所という所に初めて来たキッドとヴィクター保安官。中は石造りの厚い壁、窓がなく、湿った冷たい床、カビ臭い空間。それはまるでダンジョンの様だった。
「そういやキッドは刑務所に来るの初めてだったな。ウェスタン国の刑務所もこんな感じだから慣れるのに丁度いいな」
キッドの後ろを歩きながら嫌味を言うジェシカ保安官。
「そんな事言ってる場合ですか、外は信者達がいるんですよ!?」
「冗談だよ。オースティン、刑務所の見取り図とかあるか?」
「どうだろうな、クラシス連邦保安官。ここの見取り図はありますか?」
「その前に、ギュスターヴの留置するのが優先だね」
クラシス連邦保安官は大人しくなったギュスターヴを他の囚人と同じ牢に入れた。グッディ保安官はクラシス連邦保安官に尋ねる。
「いいんですか?囚人を1つの牢屋に入れて?」
「ギュスターヴは恐らく神官職だろう。なぁに、聖職者に人殺しなんかできやしないさ」
「だと良いんですが……」
心配するグッディ保安官を他所に、クラシス連邦保安官は刑務所の見取り図を片手にオースティン保安官達の元へやって来た。
「この刑務所は十字の形になっていて、それを円の形で囲う城壁には歩廊があり、360度見渡せるし壁も高い。出入口は北と南のみです。外は脱獄対策に半径3キロ整地されているので見晴らしは問題ありません」
「刑務官の数は?」
「人間族が2人、獣人族が2人、エルフ族が2人です」
「たったの6人か……合わせても16人。不味いな……」
クラシス連邦保安官とオースティン保安官の会話を聞いたジェシカ保安官が食ってかかる。
「16対1000だぞ?喧嘩にすらなんねぇよ……」
「クラシス連邦保安官。ここでギュスターヴの取り調べをするべきです。奴を処刑場に送るにはそれしかありません!」
リディ保安官がクラシス連邦保安官に言った。クラシス連邦保安官もそれしかないと判断したのか、黙って頷く。
「では、その様に……。ベッキー、手伝って頂戴」
「はい、了解しました」
だが、その時。
「失礼します!クラシス連邦保安官!」
突然、ラクーン系獣人族の男性刑務官が慌てた様子でクラシス連邦保安官に声を掛けた。
「どうしたんですか?」
「それが、今所長からの連絡で……」
刑務官はゼーゼーと息を荒らげながら言うと、
「所長とはここの刑務所の所長かい?落ち着いてくれ、何があった?」
「そ、それが……今所長はレッドロックに出張へ行っていたのですが、スカイフィッシュに行く魔導列車の線路が何者かによって破壊された様です!!」
それを聞いていたロッキー保安官、ジャックポット保安官、パーシー保安官が驚愕した。
「線路が破壊されたって事は……俺達、取り残されたんじゃ……?」
「それどころじゃない、今大軍が来たら応援も救援も来ない……」
「ちぃと今回ばかりは死ぬかも知れねぇな」
「確かに救援は厳しいが、このスカイフィッシュにも冒険者はいる。今からバウンティクエストを申請すれば人数は足りる筈だ!」
クラシス連邦保安官が打開策を出すが、他の保安官達には気休めの言葉にしか聞こえなかった。だが、ジェシカ保安官はこの絶望に興奮しているのかニヤリと笑いながら、
「そんなもん必要ねぇよ。相手は2000くらいだろ?あたしらは1000発の弾薬を持ち込んでるんだ。一匹残らず蹴散らしてやろうぜ」
「そうね。線路が絶たれてしまったんなら、戦うしかないわね」
リディ保安官も便乗して来た。オースティン保安官も半ば呆れた様に水平式散弾銃を机に置く。
「それもそうだな。ジタバタしたって仕方ない。やっちまうか……おい、準備しろ」
オースティン保安官の掛け声にキッド達は銃を取り出して弾薬を込め始めた。それに感化されたのかベッキー保安官、パーシー保安官、グッディ保安官、ヴィクター保安官もレバーアクションライフルに弾を込める。
「なら私は早速ギルドに連絡を取って冒険者をかき集める」
クラシス連邦保安官はそう言って刑務官と共に事務室に向かって行った。保安官一行は持てるだけの弾薬を持って城壁の歩廊へ上がる。外はすっかり暗くなっており、時刻は夜の20時を迎えていた。
十字の歩廊にそれぞれ配置する事になった。東方向にはジェシカ保安官、リディ保安官、ベッキー保安官、エルフ族の女性刑務官。北方向にはロッキー保安官、ジャックポット保安官、オースティン保安官、ラクーン系獣人族の男性刑務官。西方向には、パーシー保安官、ヴィクター保安官、キッド、人間族の男性刑務官。南方向には、グッディ保安官、ヘラジカ系獣人族の男性刑務官、エルフ族の男性刑務官、褐色肌の人間族の男性刑務官。
「ったく、冷えるなぁ」
「年明けだぜ?そりゃさみぃよ」
ロッキー保安官がオースティン保安官とジェシカ保安官の魔線機のやりとりを聴きながら望遠鏡で辺りを見渡す。
「おい、オースティン。来てくれ」
「なんだ、どうしたんだ?」
オースティン保安官がロッキー保安官の元へ行くと、ロッキー保安官の顔が険しくなっていた。
「100人近く集まり出した。信者なのか冒険者なのか区別出来ねぇ」
「貸して見ろ」
ロッキー保安官から望遠鏡を受け取って覗いて見ると、嫌なものを見たと言わんばかりに舌打ちをする。
「これじゃ攻撃できねぇし、警告も出来ねぇ。下手に威嚇すれば裁判沙汰になるしな……。クラシス連邦保安官、冒険者を雇えたんですか?」
魔線機でクラシス連邦保安官に尋ねるが、クラシス連邦保安官の表情は暗かった。
《いや、冒険者ギルドに頼んだが全て断られた。すまない、援軍は来ないし、来る予定も無い……》
クラシス連邦保安官の返答聞いた保安官達に一気に緊張が走る。追い討ちをかけるように、相手の人数がこの間に少しずつ増え続けていた。
「だんだん増えて来てる……。けどまだ撃つなよ?」
「敵の数は100から200。槍や剣を確認したわ、もっと引き付けて」
「あたしら相手に近接武器とは勇敢な奴らだぜ」
東方向を見張っていたジェシカ保安官。北方向にも敵が増え始めていた。
「こっちも確認した。長い夜になるぞ。夜明けまで12時間、みんな踏ん張れよ!」
ロッキー保安官が激励を飛ばした瞬間、1人の冒険者が魔法を放った。放った魔法はグレネードで刑務所の壁に魔法陣が現れた。
ドーン!!
爆発が起こった。それを皮切りに、保安官達は反撃を始める。レバーアクションライフルで敵を狙い撃つ。積もった雪に鮮血が飛び散り、赤く染め上がっていく。だが、敵は攻撃、進撃を止めなかった。10人程が梯子を持って刑務所の壁にかけようとしてるのか、西方向に向かって来ていた。
「梯子?大工仕事は頼んでないよっ!」
グッディ保安官がレバーアクションライフルで1人を撃ち落とすが止まらない。不味いと思ったヘラジカ系刑務官が水平式散弾銃に切り替えて梯子を狙った。散弾は梯子に当たり、梯子は真っ二つに割れた。
「梯子をかけようとしています!各方向、気をつけて下さいっ!」
グッディ保安官が大声で警告を促す。ジャックポット保安官もゴーレムライフルの照準器を覗きながら梯子を持った敵を確認した。
「こっちも確認した。奴ら余程乗り越えたいらしいな……」
ジャックポット保安官はゴーレムライフルで狙い撃つ。弾丸は螺旋回転しながら縦一列に並んだ敵5人を一気に貫いた。だが、直ぐに梯子に群がりこちらに向かって来る。
「キリがないな。梯子を壊した方が早いな」
再装填して今度は梯子の長い柱2本を狙い撃ち、使い物にならないようにした。敵もここでようやく諦めたのか、梯子を投げ捨てた。
「みんな、梯子を壊せ!敵を撃っても直ぐに集まって来る!」
「やれやれ、骨が折れるな……」
愚痴を零しながらレバーアクションライフルに弾を込めるオースティン保安官。その時、一瞬目を逸らしたロッキー保安官にファイヤーボルトが頭を掠めた。それにより、テンガロンハットが焦げてしまった。ロッキー保安官は慌てて身を隠して怪我をしてないか手で触る。
「あっぶねぇ……自慢の帽子が焦げちまった」
「なんだ、魔法が当たったのか!?」
「帽子に当たっただけだから問題ない。大丈夫だ」
ロッキー保安官もついでにレバーアクションライフルに弾を補充する。その頃、キッドも梯子を持った敵を狙っていた。
「ヴィクター保安官、一緒に梯子を!」
「了解しました!」
「ふふふ、2人とも……ききききをつつけて!」
何とか梯子を破壊した。ここでようやく敵も恐れをなしたのか、撤退を始める。
「しっぽ巻いて逃げるぞ!」
「追撃はするなよ、攻撃して来た奴だけだ!」
辺り一面赤い雪になった。一陣を退いた保安官達に安息の時間が訪れる。たが、寒空にされされ射殺された筈のカルト教団信者の死体が突然、目を開けた。