ジャックポット保安官とギュスターヴの激しい戦いが終わると同時に夜が明け始めた。ジェシカ保安官は魔線機を置き、腰が抜けた様に座り込んだ。
「流石に疲れたな……」
「地獄の番犬ジェシカでもキツかった様だな」
ロッキー保安官が隣りに座りながら声を掛ける。
「魔線機で聞いてたけど、ギュスターヴ倒しちまったんだって?」
「ああ、信者達を蘇生させてたのアイツらしいぜ?」
「通りで何回倒しても生き返る訳だ」
2人が話していると、ベッキー保安官とリディ保安官が慌てながらやって来た。
「ジェシカ保安官!」
「信者の生き残りがいました!」
「生き残り!?」
ジェシカ保安官は吸っていた紙煙草をフウッと噴きながら聞き返した。ベッキー保安官は方向に指を指す。
「向こうです!女冒険者の様ですが……」
「どうしますか?ギュスターヴはもう死亡していますし、逮捕で良いですか?」
「兎に角、案内しろ」
「こっちです!」
ジェシカ保安官とロッキー保安官は駆け足でベッキー保安官達と共に向かった。ヴィクター保安官やキッドは疲労困憊で泥の様に眠っており、ベテランのオースティン保安官ですら大の字になりながらいびきをかいて眠っていた。刑務所を出て発見場所に行くと、足を撃たれているのか足を引き摺りながらこちらへ向かって来る。白髪、細身でエルフ族の女冒険者がいた。まだ闘志が折れていないのか、ロングソードを右手で握り締めながら睨みつけており、ジェシカ保安官達は包囲しながら声を掛けた。
「動くな。お前らの教祖は死んだ。これ以上無駄な血を流す必要はない」
ジェシカ保安官がそう言うと、エルフ族の女冒険者は顔を青ざめた。
「そ、そんな……ギュスターヴ様が……」
「同族のよしみで言うが、もう抵抗せずに武器を捨ててくれ。君を撃ちたくない」
ロッキー保安官も説得を試みるが、
「黙れ!よくもギュスターヴ様を!私が代わりに成敗する!」
「捨てろって言ったよな?まだやる気か?あんな教祖の為になんでそこまでやるんだ?」
ジェシカ保安官がレバーアクションライフルをエルフ族の女冒険者に向ける。
「お前に、お前らに何が分かる?教団の為に、信仰の為に戦い続けた私達の事の一体何が分かる!?」
エルフ族の女冒険者は身に付けていた鎧をガチャガチャ言わせながらロングソードを振り回し荒ぶる。
「ご大層な騎士道を並べてるけどな、全く無関係な命を奪った奴らの事なんざ知りたくもねぇんだよボケカス」
「なんだと!?私の騎士道を愚弄するな!」
「信仰は確かに自由だ。けど、命を奪うのは信仰とは呼ばねぇ。ただの人殺しだ」
ジェシカ保安官も負けじと強気に応戦すると、さらにヒートアップして来た。
「黙れ!私達は間違えてない!見ただろメデューサ様を!我々を導いて下さるのだ!これ以上メデューサ様を愚弄するなら許さんぞ!私はまだ戦える!」
エルフ族の女騎士はロングソードを構える。だが、ジェシカ保安官はロングソードの柄を狙って弾き飛ばした。怯んだ隙にジェシカ保安官が取り押さえる。
「くそっ!離せっ!戦わせないと言うなら今すぐ殺せ!」
「殺さねぇよ。お前だって気付いてたんだろ?魔薬草を使って活動資金を作ってたって。あんなもん育てて何も感じなかったのか?」
ジタバタ藻掻いていたエルフ族の女騎士は思い当たる節があったのか、大人しくなり始める。
「そ、それは……」
「だよな?あれは祝福なんかじゃねぇ。人を不幸にする強力な呪いだ。魔薬草に一度手を出したら二度と元に戻らない。同士に呪いを与えるのがお前の言う騎士道なのか?」
「…………」
遂には黙り込んでしまった。ロッキー保安官やリディ保安官達はエルフ族の女騎士が抵抗しないと判断したのか、ピースメーカーをホルスターに仕舞う。すると、エルフ族の女騎士が口を開いた。
「確かにあの薬草に頼るのはおかしいと思った。けど、教団が活動するには資金がいると言うから私達は従うしか出来なかったんだ!あんなモノなんかなくたって教団は活動出来るのに!金策だって他に手はあったはずなのに!」
エルフ族の女騎士はギュスターヴに意見を言った経験があって余程悔しい思いをしたのか、地面に頭をガンガン打ち続ける。そこへ、重い空気を破る様にベッキー保安官があっけらかんとした表情で口を開いた。
「あの、この方はなんの罪で逮捕なんですか?一度死亡した様ですし、重罪はもう済んでますよね?今現在、捜査妨害と公務執行妨害で取り押さえてるだけですよね?だったら、こちらの捜査に協力して貰って、減刑した方が良いんじゃないでしょうか?」
空気が読めないのか、ただ純粋に疑問に思ったのかは分からないが、ベッキー保安官がそんな事を言い出した。ベッキー保安官の言葉にその場にいた保安官達は「あっ」と漏らす。
「ベッキー保安官の言う通りだ。今お前は重罪を犯してない。ここはどうだ?あたし達に協力すれば無罪放免にしてやってもいいんだぜ?」
「なんだと!?私は騎士を生業としているんだぞ!?生き恥を晒せと言うのか!?」
エルフ族の女騎士はプライドを傷付けられたのか、激昂する。だがジェシカ保安官とロッキー保安官が顔を見合わせ、予想出来た展開なのか、合図ちをする。
「逆にこのまま逮捕してもいいが、生き残りはあんただけだ。教団は壊滅するし、この国にもいられなくなる。あんたはもう行き場所は刑務所で教団を守れなかった騎士という汚名をつけたまま入る事になる。だけど、ここで無罪放免になれば教団を立て直すことも出来る。どっちがお前の騎士道に相応しいと思う?」
ジェシカ保安官が説得を試みる。エルフ族の女騎士は大人しくなり考えているのか黙り込んだ。そして、ようやく考えがまとまったのか顔を上げた。
「私が協力すれば……本当に教団は解体されずに済むのか?」
エルフ族の女騎士はロッキー保安官に尋ねる。
「信用出来ないなら、今すぐクラシス連邦保安官に聞いて許可貰っても構わないよ?」
「…………頼む」
確約が欲しいのか、エルフ族の女騎士はロッキー保安官に懇願する。待ってましたと言わんばかりにロッキー保安官は魔線機を取り出した。
「こちらロッキー保安官。クラシス連邦保安官、ちょっといいですか?」
《こちらクラシス。どうしたんだい?》
魔線機からクラシス連邦保安官の忙しそうな声が聞こえて来た。
「たった今教団の生き残りを取り押さえました。捜査に協力を申し出ると言っているんですが?」
《本当かい!?》
クラシス連邦保安官は嬉しそうに言った。ロッキー保安官はニヤリと笑いながら話し続ける。
「ですが、条件があるらしいんですが?」
《条件?どんな?》
「教団の解体を辞めて欲しいそうです。そうすれば、捜査に協力すると言っています」
ロッキー保安官が言いうと、思いがけない答えが返って来た。
《それは難しいね。ウェスタン国ではテロを起こしてるし、この小さい国でもこのザマだからね》
エルフ族の女騎士は絶望的な太息をもらした。要望は受け入れられなかったが、
《けど、新たに正式な手続きを踏めば新たに教団を立ち上げる事は可能だよ?》
クラシス連邦保安官の言葉を聞いた瞬間、エルフ族の女騎士はばっと顔を上げた。
「どうすればいい!?教えてくれ!」
《え?ちょっと待ってね……えーと……クエスト法185条だと、宗教団体として、3年以上、定期的に教義を広め、儀式行事を行い、信者を育成している実態があること。これらを証明する文書。独自の宗教施設を有すること》
それを聞いたジェシカ保安官は、
「施設はあるんだ、あとは3年以上実績を踏めば良いだけじゃねぇか」
「そうだね。長い道のりだけど、君なら出来ると思うよ?俺達エルフ族は長生きなんだし、3年なんて3ヶ月みたいなもんじゃないか」
2人に促されたエルフ族の女騎士がここでようやく決心したのか、力を抜きながら口を開いた。
「分かった。協力する」
「良し、なら話は早いな。早速手伝ってもらうぜ」
ジェシカ保安官はエルフ族の女騎士を立たせて手錠を外した。手錠がキツかったのか手首を撫でる。
「裏切られたら堪らないから剣を預からせくれ」
「剣をか?」
ロッキー保安官が手を差し伸べると、エルフ族の女騎士は少し躊躇ったが剣をベルトから外して差し出した。
「そういえば……あんた、名前は?」
「ジャンヌ……【ジャンヌ・メイデン】」
「ジャンヌか、こちらロッキー保安官。女騎士のジャンヌが捜査に協力するそうです」
ロッキー保安官が魔線機でクラシス連邦保安官に報告する。すると、
《本当かい!?なら一旦皆事務室に集まってくれ。牢屋にいるジャックポット保安官も忘れずにね!》
ロッキー保安官に指示すると、その場にいた保安官達は頷く。
おーい!
「なななんか聞こえませんでした?」
「ブラッドの旦那の声が聞こえたな……どこからだ?」
「あっ!向こうを見て下さいっ!」
パーシー保安官とジェシカ保安官が辺りを見渡す中、グッディ保安官が指を指した。全員が顔を向けると、光が差し込み始める中を何かが空を飛んでいた。キッドが目を凝らして見ると、翼を広げて飛んでいるクリス保安官に掴まっているジャンゴ保安官とブラッド保安官がいた。
「ブラッド保安官!?それにジャンゴ保安官にクリス保安官まで!?」
「どうやら魔導列車が止まってるから飛んで来たんだろうな。オリビア連邦保安官の計らいだろ」
3人が降りてくると、ジャンゴ保安官が声を掛けてきた。
「応援に来たぞ。カルト教団はどこだ!?」
「キッド君!キッド君は大丈夫か!?無事か!?」
「安心してくれ、ジャックポットが教祖を倒した。こいつは騎士のジャンヌ。司法取引で捜査に協力して貰う所だ。一緒に来てくれ」
「クリス保安官も遠い中ご苦労さまでした」
キッドは騒ぐブラッド保安官を無視してクリス保安官に労いの言葉をかける。ブラッド保安官は負けじと声を掛け続けるがキッドはブラッド保安官が見えてないのか無反応のまま刑務所の事務室に向かった。牢屋前に差し掛かると、尻尾の切れたジャックポット保安官が出てきた。
「おー、皆大丈夫か?」
「ジャックポット!?お前、尻尾はどうした!?」
ジェシカ保安官が上擦った声で尋ねると、
「いやぁ、ギュスターヴに食われちまって……けど大丈夫だよ。すぐ生えるから」
「お、おお……ほら、事務室に行くぞ」
「あれ?クリス保安官達も来たの!?」
ジャックポット保安官が首を伸ばしながら後ろを見ると挨拶する3人。
「オースティンはもう起きねぇからほっとけ、後で説明すりゃいいだろ」
ジャックポット保安官とも合流し、事務室に行くと今か今かとクラシス連邦保安官が待っていた。
「待ちかねたよ。信者達との戦闘、本当にご苦労さまでした。スカイフィッシュ代表として礼を言わせてくれ。本当にありがとう」
クラシス連邦保安官は深く頭を下げる。ジェシカ保安官が近付き、肩に手を置く。
「労いの言葉はその辺で、ジャンヌに色々聞いてみましょう」
「そ、そうだね。ジャンヌ・メイデンだったね?職と星の数は?」
クラシス連邦保安官がジャンヌに尋ねると、ジャンヌは騎士の作法で右手の甲を額の近くに当てた。
「ジャンヌ・メイデンです。騎士★6の資格を所有しています」
騎士とは、前衛の戦闘が得意とする職。剣や槍など様々な武器も使えて竜騎士や聖騎士を目指す冒険者には必ず必要となる資格でもある。
自己紹介を終えると、クラシス連邦保安官は応援に駆け付けた3人に顔を向ける。
「了解した。ウェスタン国からの応援に駆け付けてくれた3名、遠いところから申し訳ない。早速力を貸して欲しい。ジャンヌ、魔薬草はどこに保管されていて、どこで育成をしているか分かるかな?」
軽い挨拶を交わしたクラシス連邦保安官はスカイフィッシュの地図を再び広げると、ジャンヌは舐め回すように眺める。そして、特定出来たのか、指をさし始めた。
「このダンジョンの2層目で魔薬草を育ててます。ここと、ここにも、それからここもそうです。栽培された全ての魔薬草は運び出されてからは、北側のダンジョンの3層に集められます。ここで魔薬草は様々な姿に変える」
ジャンヌの説明にブラッド保安官が首を傾げた。
「姿を変える?どういう事?」
「言葉で言うのは難しい。なので直接見てもらった方がいい。そこにはスカイフィッシュで拉致した住民や冒険者達もここに監禁されている」
「通りで街を通った時に人気がないと思ったら、拉致されてたか……」
「私は拉致には関与してないから何とも言えないが、恐らく魔薬草の実験体にされている」
ジャンヌの言葉にクラシス連邦保安官は顔を青ざめる。
「なんて事だ……まさかダンジョンに連れて行ったとは……。早速、手分けしてそれぞれの場所を捜査しよう。編成は俺が考えておくから少しの間休んでてくれ」
クラシス連邦保安官と刑務官を除いた保安官達とジャンヌが分かれることになった。