キッド達が第2ダンジョンから脱出した頃。ジャンゴ保安官、オースティン保安官、ベッキー保安官も第5ダンジョンの第2層まで降り立っていた。第5ダンジョンは地下墓地の様なダンジョンで、松明の炎さえ吸い込むような、濃密な死の静寂が廊下に満ちている。3人は見張りの信者達を拘束し、辺りを捜査していた。
「若いの、捜査は俺達がやっとくから周辺を見張っててくれや。お前さんは空を飛べる見てぇだからな」
「あっ……はい、分かりました……」
「少々暗いが、頼んだぞ」
ベッキー保安官は羽を羽ばたかせてながら飛び回り、警戒し始めた。ジャンゴ保安官とオースティン保安官は鼻と口元をバンダナで覆い隠しながら精製所の作業台を舐め回すように見渡す。その視線の先には、加工される前の魔薬草と加工途中の物が無造作に置かれていた。辺りには、青臭い草の匂いと甘ったるい匂いが混ざったような、刺激の強い匂いが漂っていた。
「搾り切った魔薬草の葉とそれを煙草の葉の様に乾燥させた魔薬草の葉とシガレットペーパー……紙煙草型に加工させたのか」
「ジャンヌという騎士が言っていた姿を変えるというのはこう言う事だったのか……樹液はまた別のダンジョンに運ばれた後の様だな」
「まさか葉っぱにまで効果があるとはな、とんでもねぇ植物だぜ」
ジャンゴ保安官は鞄から頑丈な木箱を取り出して、加工された乾燥魔薬草とシガレットペーパーに巻かれた【紙煙草型魔薬草】を回収した。その時、辺りを見張っていたベッキー保安官が一つのほら穴に目を向けると、とてつもない気配を感じ取った。ベッキー保安官はレバーアクションライフルを向ける。
「な、なにこの気配……」
暗闇の廊下から響き渡る足音にベッキー保安官の額から冷や汗が止まらなくなる。異変に気付いたオースティン保安官が声を掛けた。
「おう、若いの。一体どうした?」
「い、いや……この向こうから変な気配を感じるんです」
「変な気配……?」
「おい老いぼれ、そっちを見てみろ」
ジャンゴ保安官も変な気配を感じ取ったのか、ピースメーカーの撃鉄を起こし銃口を向けた。すると、暗闇の奥からレザーアーマーを身に纏い、深緑色の肌に筋骨隆々の大柄な容姿に鋭い目付きをしているモンスターが現れた。
「な、なんですかコイツ!?」
「まさか、まだこの個体が生きていたとはな……」
「ジャンゴ、知っているのか?」
オースティン保安官が水平二連散弾銃をモンスターに向けながら尋ねると、ジャンゴ保安官は口を開く。
「魔王軍の切り込み隊長と呼ばれたモンスター【ゴブリン・イェーガー】ゴブリンを束ねるゴブリンキングの知能と上級冒険者クラスと同等のゴブリンチャンピオンの戦闘力がある特殊個体だ」
「なんでまたそんなヤツがこんな所にいるんだ!?」
「わからん。だが厄介な奴には変わらない」
3人は銃口をゴブリンイェーガーに向けると、ゴブリンイェーガーは背中から巨大な大鉈を鞘から抜き、ガリガリと火花を散らしながら地面を引き摺り、こちらへ駆けてくる。ジャンゴ保安官、オースティン保安官、ベッキー保安官はそれぞれ銃を構えて発砲する。だが、ゴブリンイェーガーは雨あられの弾丸をものともせずに大鉈を振り上げて来た。
「よけろっ!」
「このおっ!!」
ベッキー保安官は飛び上がり、ジャンゴ保安官とオースティン保安官は左右に横っ飛びで避ける。オースティン保安官は仰向けになりながら素早く排莢し、装填してゴブリンイェーガーに水平二連散弾銃の銃口を向けた。
「ゴブリンにしちゃあ、血の気が多いなっ!」
ズドン!ズドン!
散弾銃の散弾はゴブリンイェーガーの脇腹に向かって行き、直撃した。
「やったか!?」
ほんの僅かに動きが鈍るが、直ぐに体勢を整える。ゴブリンイェーガーが銃創を爪でほじくると散弾が当たった所からポロポロと散弾が落ちて来る。すると、レザーアーマーの裏側が銀色に輝いていた。
「ミスリル製の鎖帷子だと!?」
「防弾対策も万全ということか」
「グオオッ!!」
ゴブリン・イェーガーは大鉈をオースティン保安官に目掛けて振り下ろすが、オースティン保安官は転がりながら躱す。その隙にジャンゴ保安官はゴブリン・イェーガーの背中にレバーアクションライフルの弾丸を数発当てるが、まったく怯む事はなかった。
「効いてません!ここは撤退しましょう!」
「そうしたいのは山々なんだがな……」
ゴブリン・イェーガーが肩越しに振り向くと、動きが止まったのを好機と考えてピースメーカーを一発撃つ。弾丸は螺旋を描きながら顔面に向かって行くが、ゴブリン・イェーガーは人差し指と親指で止めた。
「グオオ……」
「なっ、止めた!?」
ポロッと弾を落としたゴブリン・イェーガーはそのまま人差し指を立てて横に振った。それはまるで「当たらないよ」と言っている様だった。
「この化け物めっ!」
オースティン保安官の号令で3人は一斉射撃をお見舞いする。ゴブリン・イェーガーは大鉈で顔を守りながらゆっくりと歩み寄って来る。
「このまま撃ちながらダンジョンを出るぞ。証拠品は手に入れてるんだ、戦闘は避けるぞ!」
「人質はどうする?」
「後でまた救出に戻ればいい。3人ではアイツは無理だ」
「なら急ぎましょう!外に出れば魔線機も使えます!」
出口に向かって行きながら約40発分の弾丸を受けたゴブリン・イェーガーは流石に効いたのか、片膝をつき、動きを止めた。
「流石に効いた見てぇだな。このまま逃げるぞ!」
「オースティン、装填を忘れるな」
「分かってるよ!」
「早くしないと回復しちゃいますよ!」
ジャンゴ保安官達はそのまま弾を装填させながら階層を上がって行く。出口まであと少しという所で、
「グオオオオオオッ!!」
下から雄叫びが響いて来た。ベッキー保安官が思わず足を止める。
「まさか、回復したんじゃ……?」
「おい若いの!どの道ここでは戦えない!早く外に出るぞ!」
「はっ、はいっ!」
ようやくダンジョンを脱出すると、ジャンゴ保安官は辺りを見渡して信者達が使っていたと思われる幌馬車に乗り込み何かを探し始めた。それを目の当たりにしたオースティン保安官は声を掛ける。
「ジャンゴ、どうした?何を探している?」
「あれだけの加工場があるなら物資が必要だ。何かある筈だ」
樽や木箱の蓋を開けて回ると、松明やランプに使う白灯油と証拠を消す為に使うのか、木箱一杯に爆薬が入っていた。
「爆薬と白灯油か、こいつは使えるな」
「ゴブリンより頭が良いって事を教えてやろうぜ」
「どうしました?もうすぐそこまで来てますよ!?」
「若いの、ちょっと手伝え」
──────数分後。拘束した信者達を殺して来たのか、返り血塗れのゴブリン・イェーガーがダンジョンから出て来た。森に囲まれている為、ゴブリン・イェーガーは辺りを見渡す。そして、地面に血痕を見付けた。血痕を辿って行くと幌馬車の荷台に血の手形がべったりと着いていた。血の匂いが充満してここに侵入者が隠れていると確信したゴブリン・イェーガーは荷台に上がる前に、馬車馬を殺して逃げられないように退路を塞いだ。そして、傾いた荷台を馬の死体でバランスを取る。そしてお待ちかねの荷台を覗くと、樽の前に血痕を見付けた。
「グルルル……」
それで隠れてるつもりかと言わんばかりにゴブリン・イェーガーはニヤリと笑う。そして、荷台に上がり、樽に目掛けて大鉈を振り下ろした。その瞬間、バシャっと液体を頭から被りゴブリン・イェーガーは匂いを嗅いだ。嗅いだ瞬間、これは不味いと察知したのか、荷台から降りようとしたその時。
「今更遅せぇんだよ」
木の影からジャンゴ保安官達が幌馬車に向かって木箱に一斉射撃を行う。その瞬間、
ドッカーーーン!
爆薬に引火して幌馬車が大爆発を起こした。爆発に驚いた他の幌馬車は逃げてしまった。
「やった!やりましたよ!私の血が役に立ちました!これで安心ですね!」
手の平に傷を付けて血痕をワザと残したベッキー保安官が不用意に爆発地点に向かって駆けていく。ジャンゴ保安官とオースティン保安官も燃え盛る幌馬車へ近付いた瞬間。瓦礫の山から皮鎧を燃やし、上半身裸で大火傷負ったゴブリン・イェーガーが立ち上がって来た。
「きゃあっ!まだ生きてるの!?」
「やはり生きていたか。だが、鎖帷子はもう吹き飛んだ見たいだ」
「なら、撤退せずに……ケリをつけるか」
レバーアクションライフルを構えるジャンゴ保安官と水平二連散弾銃を構えるオースティン保安官。ベッキー保安官もピースメーカーを構えると、
「若いの、ここは俺達がやるから下に戻って人質解放して来い」
「えっ!?私1人でですか!?」
「いいから行け、命令だ」
「……分かりました、お気を付けて!」
ベッキー保安官は飛び上がり勢い良くダンジョンの中へ戻って行った。残されたジャンゴ保安官とオースティン保安官は引き金を引いた。武器を失ったゴブリン・イェーガーは落ちていた角材を咄嗟に手に取り振り回し始める。
「タフな野郎だ!まだ暴れやがる!」
散弾銃の散弾が胸に直撃すると、片膝をつき口からドス黒い血を吐き始めた。それでも鋭い目付きは変わらない。まだ負けてないと言わんばかりに2人を睨見付ける。ジャンゴ保安官は近付き、銃口を額に突き付ける。
「ゴブリンなのが惜しいくらいお前は強かった」
そう吐き捨てると、ゴブリン・イェーガーはニヤリと笑う。そして、頭を撃たれたゴブリン・イェーガーは大の字なって倒れた。オースティン保安官は死んだか確認する為に体を蹴るが動かなかった。安心したオースティン保安官はため息を吐いた。
「厄介なモンスターだったな、爆薬がなかったらヤバかったぞ!?」
「ああ、王国騎士団と同レベルの強さだった」
10分後、ベッキー保安官が10人の人質を連れて現れると、爆発で逃げた幌馬車を連れ戻して来たジャンゴ保安官とオースティン保安官が待っていた。
「良かった、無事だったんですね!」
「俺達が死ぬか。ほれ、人質を馬車に乗せろ」
「はいっ! 皆さんこちらへ!」
人間族や小人族の人質が幌馬車に乗せられ、その場を後にした。