俺の町は今日も今日とて平和です!   作:ボトルキャプテン

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47 ウェンディゴ

同時刻。グッディ保安官、クリス保安官、新人のヴィクター保安官らは、森林に囲まれむせ返るような湿気と腐葉土の匂いのする洞穴型の第4ダンジョンに辿り着き、ダンジョンの入り口で信者達の幌馬車を調査していた。ムジルリツグミ系鳥人族のヴィクター保安官は木々の間を飛び回りながら辺りの警戒に当たっていた。

 

「見張り1人居ませんね、何かあったのでしょうか?」

「恐らく今も魔薬草を加工しているのでしょう。ここに真新しい乳棒と乳鉢が積まれていますね」

「乳棒と乳鉢?粉末にしてどうするつもりなんだ……?」

 

 首を傾げるグッディ保安官。クリス保安官は証拠品として乳棒と乳鉢を回収し愛馬のサドルバッグに保管した。クリス保安官は振り向きながら、

 

「兎に角、ダンジョン内を捜査しないといけません。ヴィクター保安官、降りて来て結構です」

「了解!」

 

 ヴィクター保安官は滑空しながら降りて、ホルスターからピースメーカーを抜いて構える。グッディ保安官もレバーアクションライフルを構えると、クリス保安官が先頭に立ってランプを片手に進み始めた。薄暗い洞穴の中は湿気で生臭い臭いが漂っていた。思わずヴィクター保安官は口元を抑える。

 

「生臭いですね、何かの死体でもあるのでしょうか?」

「どうでしょうね……」

「モンスターの唾液や体液の可能性もある。気を引き締めろ」

 

 クリス保安官とヴィクター保安官の会話に混じる様にグッディ保安官も割って入って来た。喝を入れられたヴィクター保安官は顔を引き締めながら銃を構え始めた。湿気で緩くなった地面を進んで行くと、段々と道が木の板で舗装されていて、下の第2層に続く螺旋状に開けた暗闇の中、僅かに篝火の光が見えた。クリス保安官は身をかがめて双眼鏡で様子を伺う。

 

「どうやら作業中の様ですね……」

 

 クリス保安官に続いてグッディ保安官も双眼鏡を覗くと、信者達が魔薬草の実を乾かした粉を乳鉢に入れて細かくし、器に移して第2層へ続く石で造られた門へ持って行った。クリス保安官は首を傾げていると、信者達は門の扉が上へ上がって行った後に分厚い木の板を門の真下に敷き始めた。その木の板にはポツポツと均等の幅で穴が空いていた。すると、先程器に集めた粉末を撒き、紫色の液体を注ぎ、そこへ木の板を重ね始めた。今度はピッタリと穴に合う突起物が付いていた。そして、門が再び閉まると……分厚い木の板は挟まる状態になり、物凄い力を加えていた。

 

「ダンジョンの仕掛けを利用しているのか……でもアレで何を?」

「木の板に圧力を掛けている様ですね」

「粉に圧力をかけてどうするつもりなんだ?」

 

 3人が不思議そうに覗いていると、答えが直ぐにわかった。3分くらい経つと、信者は再び門を開けて木の板を引っ張り始めた。突起物のある木の板を外し、穴の方を持って大きなテーブルの所へ持って行き木槌でコンと叩くと不思議な事に先程の粉末が紫色の粒状になってコロコロと出て来たのだ。テーブルには様々な色の粒が山になっており、3人は驚きを隠せなかった。

 

「粒になった!?」

「なるほど、粉を圧縮させて粒にさせたんですね。あれを【粒型魔薬草】と呼びましょう」

「粒にしてしまえば、持ち運びや服用のしやすさも兼ね備えているのか……とんでもない発明家がいたもんだな……」

「アレを証拠として回収しなければなりません。あそこに向かいましょう」

 

 クリス保安官とグッディ保安官が下に向かおうとしたその時。

 

「待って下さいっ!」

 

 最後まで双眼鏡を覗いていたヴィクター保安官が呼び止めた。ヴィクター保安官の視線の先には、人間族の若い男性がロープで縛られていた。

 

「冒険者らしき人間族の男性がっ!」

「何っ!?」

 

 グッディ保安官が再び双眼鏡を覗いた。その男性を見ると、瞳孔が異常に開いており、異常な発汗が見て取れた。

 

「いや、実験台として捕まったんだ……もう既に過剰摂取している」

「そんな……回復魔法で助からないんですか!?」

 

 ヴィクター保安官がクリス保安官に尋ねると、

 

「残念ながら今の魔法の力では魔薬草に溺れた人を治療することは不可能です……」

 

 クリス保安官は苦虫を噛み潰したように答える。すると、グッディ保安官はレバーアクションライフルをシャキンと音を立てて装填する。

 

「治療が不可能でも命を助ける事は出来る。行きましょうっ!」

 

 3人は螺旋状の道を降りて行き、作業場まで到着した。グッディ保安官はレバーアクションライフルを構えて叫んだ。

 

「保安官だ!両手を頭の上に乗せて跪け!」

 

 信者達は突然現れた保安官に驚き咄嗟に跪き、両手を頭の上に乗せた。ヴィクター保安官は手錠をかけていき、密造していた信者4名の身柄を拘束した。

 

「仲間はこれで全員か?」

「ああ、ここは他の作業場とは違って簡単な作業だからな……」

「クリス保安官、身柄の拘束、完了しました」

「了解しました。捕らえられた人を救出しましょう」

 

 クリス保安官がロープで縛られていた人間族の男性冒険者に声を掛けた。

 

「もう大丈夫ですよ。我々が救出に来ました」

「あへへへ……救出〜?」

 

 粒型魔薬草の副作用で高揚感が上がっているのか、縛られているのにも関わらず人間族の男性冒険者はヘラヘラと笑っていた。

 

「証拠品も人質も回収しましたし、ダンジョンから脱出しましょう」

「グッディ保安官!」

 

 突然、精製に失敗した物を入れていたのか、木箱を両手に持ちながらヴィクター保安官がグッディ保安官を呼んだ。グッディ保安官とクリス保安官は同時に振り返る。

 

「どうした?」

「この木箱の中に形が悪い粒型の魔薬草が入ってるんです。これも回収しますよね?」

「精製に失敗したのでしょうね、それも回収しましょうか」

「了解しました。他にもあるので革袋に移し替えます」

 

 ヴィクター保安官がその場に木箱を置いてポーチから折りたたんで置いた革袋を取り出した瞬間。ヴィクター保安官の背後に長身の何かが現れた。それにいち早く気付いたクリス保安官はピースメーカーを抜いて構えた。

 

「ヴィクター保安官!」

「えっ?」

「なんだコイツは!?」

 

 ヴィクター保安官が振り向くと、そこには、身長が3m程で頭にエルク系獣人族の頭蓋骨を被り、皮と骨だけに痩せ衰え、灰白色の肌や腐乱した死人のような姿で、頭蓋骨の眼窩からは真っ赤に輝く目が確認出来た。グッディ保安官も驚きながらレバーアクションライフルを構えた。

 

「こいつは……【ウェンディゴ】!?」

「どうやらこのダンジョンを住処にしていた様ですね」

 

ウェンディゴとは、スカイフィッシュ国内の森林に生息しており、種族を問わずに人を食らう人食いモンスターとしか確認されておらず、生態や正体など謎が多い。

 

 ヴィクター保安官は思わず木箱を落としてしまい、クリス保安官達の元へ後退りする。すると、ウェンディゴはゆっくりと四つん這いになり、木箱の臭いを嗅ぎ始めた。グッディ保安官は首を傾げる。

 

「おいおい、そんなもん食ったら腹壊すぞ」

「ウェンディゴはモンスター、言葉は通じませんよ」

「凄い腐敗臭ですよ。アンデッドじゃないんですか!?」

 

 ウェンディゴはそのままボリボリと音を立てながら粒型魔薬草を食べ始めた。すると、

 

「ヴォォッヴォォッ!!ヴォォォォッ!!」

 

 不気味な声を上げた。雄叫びをした途端体中の血管が浮き上がり、筋肉が膨張し始める。過剰摂取なのは明らかだった。クリス保安官はレバーアクションライフルを装填し、構えた。

 

「不味いですね、ここは私が囮になります。お2人は人質と証拠品を持って脱出して下さい」

 

 凶暴化したウェンディゴを1人で相手にすると聞いた途端、グッディ保安官とヴィクター保安官は驚きを隠せなかった。

 

「1人じゃ無理ですよ。我々も残ります!」

「3人で力を合わせれば倒せます!」

 

 2人の言葉を聞いたクリス保安官は諦めたのか、ブツブツと何かを唱えなると、人質と信者達の周りに光のドーム型のバリアが創り出された。クリス保安官は元神官だったので朝飯前である。

 

「この結界は持って30分です。その間に倒しましょう」

「了解!」

 

 クリス保安官を中心に、グッディ保安官とヴィクター保安官は左右に別れた。ヴィクター保安官はピースメーカーから水平2連式散弾銃に切り替える。ウェンディゴは粒型魔薬草の効果で上手く歩けないのか、壊れかけた機械のように、カクカクと痙攣しながら足を踏み出す。ヴィクター保安官はチャンスと捉えたのか、散弾銃を足に銃口を向けて、

 

ズドン!ズドン!

 

 ダンジョン内に響き渡る銃声。放たれた散弾はウェンディゴの足に直撃し、破壊に成功した。ドス黒い血が飛び散り、ウェンディゴはバランスを崩す。

 

「今がチャンスだ!撃てぇっ!」

 

 グッディ保安官が号令を出した瞬間、ウェンディゴはグッディ保安官の方を向いた。ウェンディゴは地面の泥を掴みあげてグッディ保安官の方へ投げつけた。泥は散弾の様に向かって行くと、グッディ保安官はギリギリの所を躱した。

 

「あっぶねぇ……」

「無理はなさらずに、じっくり攻めて行きましょう」

 

 クリス保安官は翼を広げて飛び上がり、レバーアクションライフルで牽制しながらウェンディゴの注意を逸らす。その間、グッディ保安官とヴィクター保安官は地上から攻撃を仕掛ける。散弾とライフルの弾を何発も受けているのにも関わらず、ウェンディゴは暴れ続けた。

 

「グッディ保安官、散弾の弾がもう切れそうです!」

「こっちもだ、何かいい方法は無いか!?」

 

 2人は辺りを見渡すと、仕掛け扉に目を付けた。グッディ保安官とヴィクター保安官は互いに顔を見合わせる。

 

「この仕掛け扉使えるんじゃないか?」

「そうですね、まだ木箱があるのであそこにおびき寄せましょう!そして、仕掛け扉で押し潰すんです!」

 

 そう考えた2人は木箱を仕掛け扉の所へ持って行き、扉の真下にバラ撒いた。そして、準備を整えると、ヴィクター保安官がウェンディゴに声を掛ける。

 

「­­おい化け物!向こうを見てみろ!お前の餌がそこにあるぞ!」

「ヴォォッ!?」

 

 ウェンディゴも匂いを感知したのか、クリス保安官を追うのを止めて粒型魔薬草の方へと向かって行った。グッディ保安官はウェンディゴが真下に入ったのを確認すると、ヴィクター保安官に合図を送る。ヴィクター保安官は仕掛けに手を触れると、仕掛け扉が動き始めた。粒型魔薬草に夢中になっているウェンディゴは天井が狭まっているのにここでようやく気付いた。

 

「おっと、逃がしませんよ」

 

 ウェンディゴが出ようとした瞬間、飛んでいたクリス保安官が勢いよく飛び蹴りを繰り出し、ウェンディゴを押し返した。ウェンディゴはそのまま仕掛け扉に挟まり、頭を潰された。死んだのを確認したグッディ保安官とヴィクター保安官は緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んだ。

 

「はぁっ、はぁっ危なかった……」

「なんとか倒せたな……」

「いやはや、仕掛け扉を利用するとは……驚きました。さぁ、もうひと踏ん張りです。ダンジョンを出ましょう」

 

 その後。結界を解き、容疑者を連れてクリス保安官達はダンジョンを脱出した。

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