それから数時間後。夜になり、ダンジョン捜査をしていた保安官達が全員刑務所に戻って来た。ランプの明かりに照らされた事務室にそれぞれのダンジョンで回収して来た魔薬草をテーブルに広げた。クラシス連邦保安官は変化した魔薬草をまじまじと見つめる。
「聞いてはいたが、まさかここまで姿形を変えているとは……」
「こっちは紙煙草、こっちは固形物。たった一つの魔薬草で効果も変わるなんてな、驚いたぜ」
ジェシカ保安官は嫌味な言い方をしながらひょいとキッド達が回収して来た【固形物型魔薬草】を持ち上げる。オースティン保安官は腕組みをしながらクラシス連邦保安官に尋ねる。
「それでジャンヌとかいうエルフ。これらの流通ルートはこのダンジョンで本当にいいのか?」
オースティン保安官は指で地図の一つの場所にとんと指差す。
「ええ、このダンジョンは国境から近い。標高が高いのをいい事にここから鳥型モンスターや小型ドラゴンに括り付けて運び出すのをこの目で見た」
「モンスターに括り付けて密輸していたのか……。そのモンスターの持ち主さえ分かれば、流通網を止めることが出来るって事だよな?」
ジャックポット保安官が頬の鱗をポリポリと爪で掻きながらジャンヌに尋ねるとジャンヌの眉間にシワが寄った。
「それはそうだろうが、もし他の七つの大罪のメンバーが絡んでいたり、他の国のギャングやマフィアと繋がっていたらどうするつもりだ?そいつらも相手にするつもりか?」
ジャンヌの言葉に事務室内に緊張が走った。だが、ジャックポット保安官は当たり前のように答えた。
「どうするって、逮捕するに決まってるだろ?」
「なっ、なんだと!?相手は巨大組織かもしれないのだぞ!?」
「だから?俺達は保安官。犯罪者を取り締まるのと住民の安全を守るのが仕事だ。ここで巨大組織がいたからって尻尾巻いて逃げる訳には行かないんだなぁ」
ジャックポット保安官の言葉にジェシカ保安官やオースティン保安官達も黙って頷く。
「ジャックポットにしては、良い事言うじゃないか」
「ああ、いつもジェシーのケツばっかり追いかけてるとは思えないな」
ブラッド保安官とジャンゴ保安官はニヤニヤと笑みを浮かべながら嫌味を言う。
「そりゃないぜブラッドの旦那、ジャンゴの旦那」
「帰ったら弁護士にでも相談するわ、セクハラ受けてるって」
「ジェシカちゃんまで冷たいこと言うなよぉっ!」
「寄るなクソ野郎っ!」
ジェシカ保安官がジャックポット保安官に蹴りを入れる。痛がるジャックポット保安官を見てロッキー保安官とキッドは笑い飛ばしていた。それを見ていたスカイフィッシュ国の保安官達は唖然としていた。
「あれだけのモンスターや凶悪犯と戦ってなんとも思ってない……」
「これがウェスタン国の保安官達なのか、イカれてる……」
「けけけけど、すごいですすよ?つつつ疲れてない」
「この強者の中でキッドさんは鍛えられているのか……負けてられない!」
リディ保安官、グッディ保安官、パーシー保安官、ヴィクター保安官は力の差を見せつけられたかの様に唖然としていた。ジャンヌもジャックポット保安官に何かを考えさせられたのか、じっとジャックポットを見つめる。
「みなさーん、一息いれませんか?コーヒー入れましたよ♪」
ベッキー保安官がトレーにコーヒーカップとポットを持って来た。ロッキー保安官が背を伸ばしながら手を挙げる。
「ここいらで休憩しようか、折角レディーがコーヒーをいれてくれたんだしね」
「そうだな。コレを飲んだら現場に行けばいい」
「連日連戦で申し訳ない。もうひと踏ん張り頑張ってくれ」
キッド達はコーヒーを飲みながら輸送地点のダンジョンの地図を見下ろしながら突入案を練り始めた。ジャンヌの話では、輸送地点のダンジョンはスカイフィッシュ国で標高が1番高い山の山頂にあり、山頂には古代の要塞跡があるらしい。信者達はそこから飛行モンスターを利用して各国に密輸していたようだ。念入りな作戦を立て始めて30分後、キッド達はジャンヌを先頭に輸送地点のダンジョンに急行した。馬で山道を駆けて行くと、古代要塞のダンジョンが見えて来た。切り立った断崖絶壁の縁に沿うように築かれたその古代要塞は、まるで山そのものが意志を持って牙を剥いたかのような威容を誇っていた。すると、ジャンヌは急に馬を止めて保安官達に合図を送る。
「予定通り、ここからは徒歩で向かう。飛行が出来る保安官はここから山を迂回して行けばモンスターの着陸場が見える」
「了解した。では、ベッキー保安官、ヴィクター保安官。行きましょうか」
「はいっ!みなさん気を付けて!」
クリス保安官とベッキー保安官、ヴィクター保安官は馬から降りて飛び上がって着陸場へ向かって行った。そして、ジャンヌは崖下を覗くと洞穴が見えた。
「ここだな……。この真下にあるのが緊急脱出用の洞窟だ。ダンジョンの保管庫になっている3層に続いている」
「手筈通りに私が行きます、キッド君気を付けて」
「はい、ブラッド保安官も気を付けて下さいね!」
キッドとブラッド保安官が声を掛け合い、ブラッド保安官は早々と洞窟の中へと入って行った。残った保安官達は再び馬を走らせる。古代要塞ダンジョンに辿り着くとダンジョンの入り口には数名の信者の見張りがいた。物陰に隠れながら様子を伺っていると、ジェシカ保安官が口を開いた。
「ここはあたしが請け負う。グッディ、リディ、パーシー、オースティン。手伝ってくれ」
「分かったわ」
「了解」
「俺達が引きつけるから後は頼んだぞ」
4人がレバーアクションライフルに弾を込めると、ジェシカ保安官が1番先に飛び出した。
「保安官だっ!武器を捨てろ!」
「保安官だっ!ブツを守れ!」
ジェシカ保安官のレバーアクションライフルが火を吹く。それに続いたグッディ保安官達も援護射撃をして信者達の動きを抑え始めた。チャンスと踏んだジャックポット保安官はキッド、ロッキー保安官、ジャンゴ保安官、ジャンヌを引連れてジャックポット保安官は器用に先に登ってロープを下ろした。キッド達はロープを伝って岩壁の上を走って入り口を越えて一気にダンジョンの中へ突入した。奥へ進むにつれて、淀んだ冷気が肌を刺す。カビと湿った土が混ざり合ったような、古い時代の匂いがキッドの肺を満たした。
「この先がモンスターの着陸場だ。予定通りに合図と共に突入するか?」
ジャンヌがそう言うと、ジャックポット保安官が否定する。
「いや、キッド、ロッキー、ジャンゴで第3層の保管庫を抑えてくれ。モンスター着陸場は俺とジャンヌちゃんでやるから」
「2人で大丈夫か?」
ロッキー保安官が心配そうに言うと、
「大丈夫大丈夫。ね?ジャンヌちゃん?」
「えっ?あ、ああ……まぁ着陸場ならなんとかなるだろう」
「では、僕らも行きます」
キッドもロッキー保安官と共にダンジョンの第3層へ向かって行った。そして、残されたジャックポット保安官とジャンヌは着陸場へ向かう。ジャックポット保安官達が辿り着いた先には苔むした壁、崩れ落ちた天井からの漏れ日、空中に舞う埃、風化して原型をとどめていない彫刻が広がっていた。その中で信者達が忙しそうに飛行モンスター達の背中に樽や箱を背負わせていた。ジャックポット保安官は魔線機を取り出し、散らばった保安官達に声を掛ける。
「こちらジャックポット。着陸場に着いた。他の皆はどうかな?」
《こちらキッド、ダンジョン第3層へ到着しました》
《こちらブラッド。いつでも》
《こちらベッキー保安官です。配置に着きました》
《こちらグッディ保安官、入り口は制圧しました。いつでもどうぞ!》
それぞれ返答が来た。ジャックポット保安官は、ゴーレムライフルとレバーアクションライフルに弾を装填し、ジャンヌに剣を渡した。ジャンヌは驚いた様子でジャックポット保安官に言い放つ。
「私に剣を寄越すのか?」
「ああ。新たな宗教を立ち上げる活動には持ってこいでしょ?それに俺一人じゃ手に余るからね」
ジャックポット保安官は何食わぬ顔で差し出すと、ジャンヌも吹っ切れたかのように剣を受け取った。
「貴殿の心遣いに感謝する。共に行こう」
「オーケー」
準備が整った。丁度いいタイミングで小型のドラゴンが着陸場へ降りたのを確認したジャックポット保安官は魔線機に向けて声を掛ける。
「3、2、1、突入!」
ジャックポット保安官がレバーアクションライフルを構えながらジャンヌと共に突入して行った。
「保安官だ!武器を捨ててその場に伏せろ!」
「不味い!保安官だ!荷物を積め!今すぐだ!」
信者達は慌ててモンスター達を飛び立たせようとしたが、既に制圧され出入口はクリス保安官、ベッキー保安官、ヴィクター保安官の3人で塞がれていた。
「くそったれ!この保安官を殺せ!」
スカンク系獣人族の男性信者が命令すると、ドワーフ族やカマキリ系蟲人族の信者が斧とロングソードを片手にジャックポット保安官へ襲いかかった。だがそこへ、閃光の速さで信者達の前に聖騎士ジャンヌが現れた。
「ここは私が引き受ける。早く荷物を押収するんだ!」
「心強いね、頼んだよ」
小型のドラゴンは多少暴れたが荷物を外すと颯爽と逃げて行き、着陸場にはそれぞれ取り押さえ、合計にして逮捕者20名。押収した魔薬草が並べられた。ジャックポット保安官はクラシス連邦保安官に応答を求めた。
「こちらジャックポット保安官。着陸場を制圧、信者達を全員逮捕した」
《こちらクラシス連邦保安官。協力に感謝する。さっき連絡があり、線路が復旧して各国から応援が間もなく到着するだろう。皆、ご苦労だった》
それを聞いた保安官達は緊張の糸が切れたのか、バタバタと座り込む。
「やっとか、これでようやく帰れるぜ」
「1〜2日しか居なかったのに1ヶ月いた気分だな」
「まったく、若いもんは容疑者が目の前にいるってのに!」
話が盛り上がっている時にキッドがふと壁に目を向けると、何かの落書きを見つけた。それは巨大過ぎて近くで眺めると分からないが少し離れてその落書きを見た。キッドは思わず声を出す。
「なっ、なんですかコレ……」
「どうしたキッド?」
ジャンゴ保安官とジャックポット保安官がキッドの真似をして落書きを離れて眺めて見た。するとそこには、ギャングやマフィアが縄張りを示す様に不気味なカタツムリの落書きが残されていた。