扉に穴が開くとギャアギャアと喚きながらゴブリンが顔を覗かせた。透かさずロッキー保安官がレバーアクションライフルの引き金を引くと弾丸はゴブリンの頭に命中した。キッドも他の隙間に弾丸を放つ。基本保安官はクエストなどには参加はしないが、現場先でモンスターの襲撃された場合は特例でモンスターの討伐に参加してもいい事になっている。
「数は15匹!気を抜くなよ、新人君!」
「はいっ!」
「こんな密室空間でバカスカ撃ちまくるんじゃねぇよ!」
近距離で銃声を聞いた剣闘士の男は耳を塞ぎながら言い放つが、キッドとロッキー保安官は撃ち漏らしがないように的確にゴブリンの頭を狙い撃つ。だが、ゴブリンは扉を壊してなだれ込みながらキッド達の元へ駆けていく。
「接近戦なら任せてくれっ!」
「耳がキーンってなってるけど、戦えます!」
キッドとロッキー保安官の前に女剣士と盗賊の男が前に出て来てゴブリンと戦闘を始める。
「俺達は少し下がって援護に回るよ。冒険者を撃たない様に!」
「はいっ!」
キッドとロッキー保安官は来た道を戻を戻りながら冒険者達を援護した。
10分後、確認出来るゴブリンを討伐した冒険者達はへたり込む。
「はぁ、はぁ……まさかゴブリンが出て来るとは思わなかった」
「未発見だったから巣になってたんだよきっと……」
「新人君は来た道にゴブリンが待ち伏せしてないか確認してくれ。俺は冒険者が財宝の分配を違反しないか立ち会う」
「分かりました」
ロッキー保安官に指示されたキッドはレバーアクションライフルに弾を装填してから確認に向かった。ロッキー保安官は冒険者達に言い放つ。
「さぁ、冒険者の諸君。帰る前に宝箱を運ぼうか」
「はい!いよいよだな!」
「楽しみだね!」
「何が出るかな〜?もう開けちゃえ!」
盗賊の男勝手にが宝箱を開けると、中には10万ゴールド相当の金銀財宝が入っていた。3人の冒険者達は大喜びで叫び出す。
「やったぁぁっ!」
「神様、ありがとうっ!」
「どうする?ここで分けちゃおうか?」
まだ外に出ていないのにも関わらず、冒険者達はその場で財宝を分配しようとするがロッキー保安官が女剣士の手を取りながら止めに入る。
「まだ安全が確認されてないんだから分配するな。出ないと」
ロッキー保安官はそう言いながらホルスターから木目状の模様を特徴とするダマスカス鋼製のピースメーカーを抜いて女剣士に向けて発砲した。女剣士咄嗟に目を瞑った。だが、女剣士が目を開くと後ろにはゴブリンが倒れていた。
「まだ残ってたの!?」
ロッキー保安官はピースメーカーをスピンさせながらホルスターにしまう。
「だから言ったろ?ダンジョンは如何なる時も危険が伴うんだ。分配は帰ってからでも出来るだろ?お嬢さん」
女剣士に優しく微笑むと、女剣士は顔を真っ赤にさせる。
「ロッキー保安官。出口までモンスターは居ません。今のうちに出ましょう」
「ではお嬢さん、帰ろうか」
「はいっ……」
「ちょっとあんた、何俺達の仲間口説いてんだよ!」
「保安官だからってやっていい事と悪い事があんだろ!」
宝箱を運ぶ男冒険者から散々文句を言われながらキッドを先頭にダンジョンを脱出した。別れ際にロッキー保安官は女剣士に連絡先をひっそり交換していた。キッドは呆れながらロッキー保安官に言い放つ。
「ロッキー保安官に苦情が行く理由が分かりました」
「そう言うなよ。食事をするだけなんだから犯罪行為じゃないだろ?」
「職権乱用ですよ」
「それは言いがかりだよ。俺はゴブリンから彼女を助けただけさ♪」
キッドはため息を吐きながらロッキー保安官と共に街へと再び駆けて行った。
翌日。
キッドはロッキー保安官と共にコルト地区の8番通りでスピード違反の取り締まりを行っていた。相手は竜車や馬車だが、最も厄介なのが魔法使いだ。何故かと言うと、魔法使いは箒や変わった馬車に乗るからだ。ジリジリと太陽に照らされ、キッドは顔を引き攣らながら年老いた老婆魔導士の違反を取り締まっていた。
「ですから、ウェスタン国ではカボチャの馬車は違法なんです!」
「何言ってんだクソガキ!ただの馬車だって言ってんだろ!」
「だから野菜や動物を魔法で馬車に変えちゃ違法なんです!事故を起こしたら証拠が消えてしまうから!ここにサインして下さい。でなきゃ【クエスト法】50条と43条の違反で逮捕しますよ!?」
クエスト法とはウェスタン国の冒険者ギルドが定めている法律がある。ウェスタン国が開拓されるまでに様々な法律が作られた為、今では数え切れない程の法律が存在している。ちなみに、この女魔導士が違反したのは【魔法で野菜を馬車に変えてはならない】と【動物を魔法で他の動物に変えてはならない】という違反である。
老婆魔道士は渋々書類にサインすると、
「これでいいかい!?全く、年寄りを取り締まって虐めて楽しいのかい!この国の犬が!」
悪態をつきながら老婆魔道士は馬車を元の野菜に戻し、鼠を逃がした。風呂敷にカボチャを入れながらその場を去って行った。キッドは愛馬のビリーに寄り添いながら顔を埋める。
「この国の犬めぇっ!」
「ヒヒーン……ブルルル」
愛馬のビリーに慰められながら項垂れていると、ロッキー保安官から魔線機の通信が入った。
《ビリーアンドキッド。どうだい?国の犬ってでも呼ばれたか?》
キッドは魔線機を取り出して応答する。
「たった今言われました⋯⋯。訓練所でも教官にこんな文句言われませんでしたよ」
《まぁ、実際はこんなもんさ。馬車の違法よりも厄介なのは箒だからな》
「はい、箒は飛んでますからね。警戒しときます」
《そっちは頼んだよ。んじゃね》
ロッキー保安官は通信を終える。キッドは魔線機をしまうと、早速猛スピードでこちらに向かって来る魔導士を発見した。キッドは行く手を阻みながら銃を魔導士に向ける。
「保安官だっ!止まりなさいっ!」
魔導士はローブを上げて顔を表すと、顔にそばかすがある人間族の男性魔導士だった。キッドは銃をホルスターに戻して声を掛ける。
「法定速度を遥かに超えてますよ?ウェスタン国では箒に乗る際は馬より早く速度を出してはならないとクエスト法で定められているじゃないですか。冒険者ライセンスカードと武器所持許可証を出して下さい」
「すいません……急いでたので……。はい、どうぞ」
「はい、確認しますね」
キッドがそばかす魔道士の冒険者ライセンスカードと武器所持許可証を確認すると、冒険者ライセンスカードは★2だった。キッドはそばかす魔道士に冒険者ライセンスカードと武器所持許可証を返す。キッドはそばかす魔道士に尋ねた。
「そんなに急いでこれからどちらへ?」
「いやぁ、クエストに行くのに待ち合わせの時間に寝坊しちゃって……」
「そうでしたか」
キッドは淡々と書類を書いていると、そばかす魔道士が悪びれもなく声を掛けた。
「あの、今回だけ見逃して貰って良いですか?時間がないんで」
「ダメです。例え見逃してもそんな状態ではクエストで命を落としますよ?」
「大丈夫ですよ、簡単な討伐クエストですから」
「簡単だろうが厳しかろうがダメです」
キッドが堅固な態度で言うと、そばかす魔道士は突然箒に跨り飛び始め現場から逃走しようとした瞬間、銃声と共に箒の柄が折れた。それによりそばかす魔道士は転ぶとキッドは銃をホルスターに仕舞いながら両手を上げたそばかす魔道士に近付く。
「これでクエストに行けなくなりましたね」
「なにも箒を撃つ事ないじゃないか!」
「我々保安官は箒で逃走された場合は箒を撃つ様になってるんです。貴方を速度違反で逮捕します」
キッドはそばかす魔道士に手錠を掛けて立ち上がらせると、
「俺なんか捕まえないで、もっと凶悪な奴を捕まえろよ!」
「僕は新人なのでまだそこまでの実力はありません」
「この税金泥棒!国の犬っ!」
暴言を吐かれながらキッドは魔線機を取り出す。
「なんとでも言って下さい。こちらキッド保安官、速度違反者を逮捕。牢竜車を要請」
《了解。直ちに向かわせます》
───────牢竜車が到着すると、ロッキー保安官が現場にやって来た。御者の保安官と共にそばかす魔道士を入れると、
「どうだった?箒の恐ろしさが分かったろ?」
「えぇまぁ……危うく逃げられそうになりました。これが魔法使いの恐ろしい所なんですね」
キッドがそう言うと、ロッキーはしてやったりという感じでニヤリと笑う。
「ふふふっ、今日は一日中様々な魔道士を相手にして行くんだからな」
「はい。肝に銘じておきます」
「さっ、休憩時間まで張り切って頑張ろう!」
キッドは再びロッキー保安官と共に別れて一日中速度違反を取り締まり違反者からは暴言を吐かれ続けた。