太陽が沈み始める頃。オリビア連邦保安官を筆頭に、応援に駆けつけた保安官達と合流した。ぞろぞろと容疑者達を牢竜車へ詰め込む中、オリビア連邦保安官は、両手を腰に当てながらキッド達に声を掛ける。
「まさか、刑務所を拠点にしてるとは思ってなかったわ。事務所に行ったらもの家の空なんですもの」
「成り行きでここに来たんです。護送中に信者達に襲われたりして」
「まったく。けど、七つの大罪の一角を落としたのと七つの大罪の流通網を止めたのは褒めてあげる」
ゴーレムライフルの手入れをしていたジャックポット保安官は、それを聞いた途端、ガシャンとライフルを落とした。
「え?オリビア連邦保安官が俺を褒めてくれた!?嘘だろ!?」
「そっ、そんなに驚く事なんですか……?」
「だってオリビア連邦保安官だよ!?【荒野の黒豹】と呼ばれた保安官に褒められるなんて滅多にないんだよ!?凄いんだよ!?」
ジャックポット保安官が騒いでいると、聖騎士ジャンヌが呆れた顔をしながら声を掛けて来た。
「何をそんなに騒いでいるのだ?」
「あっ、ジャンヌさん」
キッドが頭を下げると、オリビア連邦保安官がジャンヌを頭から足先まで舐めるように見る。
「貴女が報告書に記されていた元メデューサ教団信者のジャンヌ・メイデン?私はキッド保安官やジャックポット保安官の上司であり、ウェスタン国の夜勤担当、連邦保安官。オリビア・ウィリアムよ」
オリビア連邦保安官は帽子を取って挨拶をすると、ジャンヌも騎士の礼儀作法の右手を額や胸に当てる挙手敬礼で返した。
「挨拶が遅れてしまい申し訳ない。私がジャンヌ・メイデンだ」
「報告書だと、貴女は一度死亡して蘇生しているし、法律上問題ないから逮捕は無いわ。それに捜査に協力もして貰ってるしね?なんでも新たな宗教を作りたいとか?」
それを聞いたジャンヌは胸を張って答える。
「勿論。ギュスターヴの宗教は間違っていた。今度は私が正しく導いてやりたい。それが今私ができる贖罪だ」
すると、先程まではしゃいでいたジャックポット保安官がいつになく真剣な顔をしながらオリビア連邦保安官に声を掛ける。
「そこでなんですが、オリビア連邦保安官。ジャンヌを俺の【保安官助手】にしたいんだが、良いですか?」
「保安官助手……」
保安官助手とは、バウンティクエストや犯罪者を追跡する場合に同行を許される冒険者の事である。正規の保安官とは違い、容疑者を独自に取り押さえる事は可能だが、逮捕する事は出来ない。
「ジャックポット保安官、本気ですか!?」
キッドが尋ねると、ジャックポット保安官は何食わぬ顔をする。
「本気だよ。ジャンヌちゃんは道をちょっと踏み外しただけだし、これからやり直せるからね。口止めされてたけど、最近じゃジェシーがカエデちゃんと契約したし」
「ジェシカ保安官とカエデさんが!?いつの間に!?」
「ジェシーには内緒だよ?ぶっ飛ばされるから」
「オースティン保安官やジャンゴ保安官もいるんですか?」
「さぁな、前にも教えたけどお互いの手の内は教えなないって暗黙のルールがあるの。いると考えてた方が良い」
「そうでしたね。了解しました」
「お前も金バッジになったら考えればいい」
ジャックポット保安官がキッドに教えていると、オリビア連邦保安官は深く息を吸い、フンと鼻で吹いた。
「まぁ、問題はないでしょ。手続き方法は知ってるわね?」
「はい。という訳でジャンヌ、宗教を立ち上げるまで手伝ってもらう」
突然言われたジャンヌは目を点にしながら驚くが、直ぐに我に返り慌てながら言い放つ。
「なっ、何を勝手な!?私はまだやるとは言ってないぞ!?」
「そうですよ!ジャンヌさんの意見も聞いてあげて下さいっ!」
「まぁまぁ、最後までよく聞け。今回の騒動で他の宗教団体は白い目で見られるだろうし、ジャンヌは今後宗教を立ち上げる為に闇雲に活動したって世間の目に止まらない。だから保安官と協力して奉仕活動をしているという事にすれば少しずつ認められると思ったんだよ」
ジャンヌの事を考えての提案だった。話を聞いたジャンヌですら顎に手を添えながら考え始めた。
「なるほど……確かに、一理ある」
「えっ、良いんですか!?」
「君達保安官と行動していれば、効率がいいからな。分かった」
ジャンヌが了承すると、ジャックポット保安官は右手を差し伸べた。
「なら、改めて、ルーク・ジャックポット保安官だ。ジャックポットと呼んでくれ」
ジャンヌも左手を出して握手を交わした。
「ジャンヌ・メイデンだ。ジャンヌと呼んでくれ」
「契約書とか色々書く事があるからこのままウェスタンまで同行して貰うよ」
「ああ、分かった」
そして、ドワーフ族の保安官が牢竜車の収容を終えてオリビア連邦保安官に声をかけて来た。
「全員収容しました」
「了解したわ。さっ、もうひとふんばりよ!」
牢竜車の行列は列をなしてモンスター着陸場を後にした。キッド達も護衛つき御者席に座る。スカイフィッシュ刑務所に到着すると、休む事なく容疑者達を牢屋へ収容して行く。全てが終わった頃には朝を迎えていた。激務を終えると、クラシス連邦保安官はキッド達に声を掛ける。
「夜通し働かせて本当に申し訳ない。これで全ての業務と任務を完了した。後は残った我々が引き継ぐ」
「やっと終わった、これで帰れる……」
キッドとヴィクター保安官がへたり込むと、リディ保安官とジェシカ保安官に蹴りを入れられた。
「他所の国の保安官達の前で情けない姿を出すな」
「徹夜ごときで泣き事言いうんじゃねぇよ。ボケナス、ウェスタンに戻って報告書書くのが残ってんだろ」
「そうでした……っし!」
キッドとヴィクター保安官は頬を両手で叩いて気を引き締める。そして、別れの時がやって来た。ブラッド保安官は明るくなる前にクリス保安官と共に先に帰った。オリビア連邦保安官率いるウェスタン国の保安官達は復旧した魔導列車の前に並んでいた。クラシス連邦保安官はグッディ保安官達と共に見送りに来ていた。
「長い間、ご協力ありがとうございました。この御恩は忘れない」
クラシス連邦保安官はキッド達に向けて敬礼をする。
「気にする事はないわ。こっちに凶悪犯が逃げて来たら連絡して頂戴。力になるわ」
「なるべくこっちで片付ける様に心掛けるよ。今回で懲りたからね」
「まもなく出発します、ご乗車の方はお急ぎ下さーい」
魔導列車の車掌が声を掛ける。カウボーイハットを被り直すオリビア連邦保安官。
「さっ、帰るわよ!」
キッド達は魔導列車に乗り込んで車両に入った途端、キッド達は緊張の糸が切れたのか、席に倒れ込む様に眠りについた。
同時刻
ウェスタン国から南に位置するとある国の海岸に不穏の影が動き始めていた。巨大なガレオン船の中で左手にカタツムリの刺青が入ったパラポネラ系蟲人族の男が椅子に座ってテーブルに並んだ宝石を気だるそうに指で転がしながらグンタイアリ系蟲人族の男と話し始めた。
「もう2時間も荷物が届かないというのはどういう事だ?」
「はい。2日前は連絡取れたのですが、連絡取れません。保安官に捕まった可能性があります」
グンタイアリ系の蟲人族の男が言った途端、パラポネラ系の蟲人族はテーブルを叩き、拳ほどの大きいルビーを砕いた。
「言い訳は聞きたくねぇ。ギュスターヴからの荷物が来ないと俺達の仕事に支障が出るって分かってるよな?」
「はっはい……では、いかが致します?」
グンタイアリ系蟲人族が尋ねると、
「まぁいい。精製所はスカイフィッシュだけじゃない。他の精製所に連絡して用意して貰え」
「それは無理ですよ!2日で用意出来ません!エルフの年寄りがなんと言うか」
「遅らせろ。保安官達を惑わせるんだ」
パラポネラ系蟲人族の男が言うと、グンタイアリ系蟲人族は頭を下げながら部屋から出て行った。残されたパラポネラ系蟲人族の男は小さく呟いた。
「保安官……鬱陶しいな……」