メデューサ教団の事件から数日後。キッドは普段の業務に戻りパトロールをしていた。キッドは顔を引き攣らせながら取り締まっていたドワーフ族の男性の話を淡々と聞いていた。
「勘弁しろよ、頼むって!見逃してくれよ!」
「いいえ、見逃しません」
「違反無くしてぇならこんな所に隠れてねぇで堂々と見張ってろよ!」
ドワーフ族の男性が激昂しながらキッドに言い放つ。そして、我慢の限界を迎えたキッドは口を開いた。
「あの、僕は馬のスピード違反を取り締まってたんじゃなくて、貴方が真っ昼間の街中で下半身露出しているので現行犯逮捕しようとしてるだけなんですよ」
「出してねぇよ!」
「出してるじゃないですか!ズボンはどこにやったんですか!?」
両手で股間を隠すドワーフ族の男性。キッドはホルスターのボタンを外して臨戦態勢に入りかける。
「モンスターに破かれちまったんだよ!だから仕方なくこうして歩いてただけじゃねぇか!」
「だったらまず最初に上着で隠すか服屋で新しいの買いなさいよ!」
「うるせぇよ!急いでるんだから罰金の紙出せ!」
「急いでるなら隠して下さいっ!わざとらしいんですよ!公然わいせつ罪で逮捕します!」
その後。キッドが手続きをしていると、グレン連邦保安官に声を掛けられた。
「キッド、今良いか?」
「グレン連邦保安官。どうしたんですか?」
「ギュスターヴの件でお前が射殺した冒険者達の身元が判明してな、★5〜★8の冒険者を確認した」
「えっ、って事は!?」
キッドが目をまん丸にして尋ねる。それはそうだ、金バッジにバッジアップ出来る条件が1つ揃ったのだ。もう1つは筆記試験であるがそこはそんなに問題はない。
「丁度いい時期にもうすぐお前にも後輩が出来る。そこで、試験勉強も兼ねて午後からは俺がパトロールに同行する」
「グレン連邦保安官がですか!?まぁ、試験勉強は滞りなくやってるので問題ありません」
キッドが自信満々の顔で言うと、
「ほう?大した自信だな。なら、クエスト法全書の38ページの濁点は幾つあるか言ってみろ」
そう言われた瞬間、キッドの目が点になる。午後になり、キッドとグレン連邦保安官が街を巡回していると、魔線機に通信が入る。
《コルト地区の3番通りの路上で冒険者同士が口論をしているとの通報。付近の保安官は現場に向かって下さい》
グッドタイミングだと言わんばかりにグレン連邦保安官が魔線機を取る。
「こちらグレン連邦保安官。キッド保安官と共に現場に向かう」
数分後。現場に到着したキッドとグレン連邦保安官は馬を止めた。グレン連邦保安官はすかさずキッドに尋ねる。
「馬を止める位置はここでいいのか?これが正しいのか?」
「えっ?えーっと……少し下がります!」
キッドは慌ててビリーをさがらせると、
「そこまでさがるのか?」
「えっ……んじゃ少し前に」
今度は前に進ませる。歯痒くなったのか声を荒げる。
「さっきと変わらないだろ!」
「そっ、そうですね……。んじゃここで」
「まぁいいだろ。行くぞ」
キッドとグレン連邦保安官は歩いて近付くと、ピットブル系やダルメシアン系様々な犬の獣人族が住民相手に道のど真ん中で暴れていた。
「だから謝れっていってんだろ!俺が誰か知らねぇのか!?」
「すこし肩がぶつかっただけだろ!?」
「骨にヒビが入ったんだってよ!5万ゴールドで勘弁してやるからよ!」
因縁を吹っかけている獣人族達を見たグレン連邦保安官はキッドに声掛ける。
「さぁキッド保安官。見た所相手は武闘家の冒険者らしい。お前ならどうする?訓練所で近接格闘は習得しているよな?」
「えっ?えぇ、まぁはい」
「なら1人で解決してみろ」
グレン連邦保安官から厳しい提案が出された。だがキッドもバッジアップがかかっている為、退くことは出来なかった。キッドは鼻息を荒げながら頷いた。
「分かりました!やります!」
キッドはホルスターのボタンを外しながら犬の獣人族冒険者達に近付いた。
「保安官です。こんな所で何してるんですか?」
「あぁん?邪魔すんじゃねぇよ!」
ダルメシアン系犬の獣人族の男がキッドの肩を掴んで来た。キッドはダルメシアン系犬の獣人族の男の手首を掴み捻り肩固めを繰り出し取り押さえる。手錠をかけようとした瞬間、横からグレート・デン系犬の獣人族の男が殴りかかってきた。キッドは左頬を殴られてバランスを崩し転んでしまった。
「ぐっ……くそっ!お前も逮捕だ!」
「やってみろ保安官!オラァッ!」
「やっちまえ!袋叩きだ!」
ダルメシアン系犬の獣人族の男も自由になり混ざって来た。2人がかりでキッドに襲いかかろうとしたその時。マスティフ系犬の獣人族の男とロットワイラー系犬の獣人の男が吹っ飛ばされて来た。キッドが顔を向けると、そこには鼻息を荒らげているグレン連邦保安官がいた。
「流石に厳しかった様だな。キッド保安官、ここは俺がやるから離れてろ」
「りょ、了解……」
キッドがその場を離れると、ダルメシアン系犬の獣人族の男とグレート・デン系犬の獣人の男がグレン連邦保安官に襲いかかる。グレン連邦保安官はものともせずに拳一発でダルメシアン系犬の獣人族の男を打ちのめした。
「なんだぁ?お前も武闘家かぁ!?」
今度はグレート・デン系犬の獣人族の男が襲いかかった。グレン連邦保安官は右脇腹に拳を一発入れると、体がくの字に曲がる。返す刀で左拳で顎を殴った瞬間に糸が切れた操り人形の様に倒れた。あっという間に冒険者達を制圧してしまった。
「今のうちに逮捕しろ」
「りょ、了解!こちらキッド保安官。牢竜車を要請!」
《了解、直ちに向かわせます》
その後。容疑者達を牢竜車に収容すると、グレン連邦保安官に声を掛けられた。
「まぁ、制圧出来なかったのは置いといて。業務の方は問題なさそうだな。これから事務所に戻って筆記試験を始めるぞ」
「えっ!?これからですか?」
キッドが不安そうな顔つきで言うと、
「お前なら問題ない」
「わ、分かりました!」
事務所に戻り、試験が始まった。キッドは覚えている限りの知識を持って答案用紙に顔を向けて鉛筆を持った。
3時間後。
「よし、それまで!」
グレン連邦保安官の掛け声を聞いた瞬間にキッドは手を止めて両手を上げた。答案用紙を渡すとグレン連邦保安官は舐め回すように見つめて赤ペンで丸を付けていく。キッドは緊張を隠し切れずにブルブルと震えている。そして、赤ペンを置いたグレン連邦保安官はキッドに、顔を向けた。
「キッド保安官」
「はっはいっ!」
キッドは慌てて立ち上がった。グレン連邦保安官はドスンドスンと足音を立てながら近付くと、キッドの胸にある銀のバッジを引きちぎった。キッドは顔を青ざめさせてダメだったか……と落胆する。だが、その時。グレン連邦保安官は顔をニヤリとさせながら、
「良くやった。満点の回答だった!」
それを聞いた途端、キッドの震える体が止めて顔を上げた。
「えっ!?ホントですか!?」
「本当だ。ギルド職員の知識がこんなに役に立つとはな恐れ入った。今日から晴れて金バッジだ!」
グレン連邦保安官はポーチから小さい箱を取り出し、中を開けるとまばゆく煌めく金色のバッジが入っていた。グレン連邦保安官はそれを取り出し、キッドの胸に取り付けた。
「おめでとう、これからも頑張れよ!」
「はいっ!ありがとうございます!」
キッドが敬礼した瞬間。隠れて様子を見ていたジェシカ保安官やロッキー保安官を筆頭に、先輩保安官達が雪崩込んで来た。
「何をやってるんだお前達は!?」
「後輩が金バッジになったんですよ?喜ぶのは当然でしょう!?」
「良くやったな!若いの!今日はみんなで飲むぞ!祝い酒だ!」
キッドは照れくさそうにしながら金バッジを輝かせていた。