翌日。前代未聞に新人との顔合わせが今日になった。昨日の一件で新人達はグレン連邦保安官から大目玉をくらいその日は帰されて今に至る。キッドが出勤して更衣室に入ると、アマガエル系魚人族の男がロッキー保安官に声を掛けていた。
「いやぁ、昨日は大変失礼しました!」
「あぁ」
「いやしかし、先輩はエルフ族だからか美形ですなぁ!惚れ惚れしちゃいますよ!」
鬱陶しそうにしているロッキー保安官の顔色を窺うように、チラチラと上目遣いにする。それを見たキッドは気付かれ無いように早々と自分のロッカーに向かった。新たな金バッジを胸に付けて後ろを振り返ると、ニンマリと笑顔のアマガエル系魚人族の男が軽装の服の上に銅のバッジを付けて立っていた。
「おはようございます!昨日は大変失礼しました!」
「あっ……はい」
「申し遅れました。私、【ジョン・アームストロング】と言います。今日からバリバリ働きますから期待してて下さいねっ!所で、見た所キッド保安官らお若い様ですが、歳はいくつですか?」
アームストロングはキッドと初対面なのにも関わらず聞いて来た。キッドも若干顔を曇らせるが、持ち直した。
「僕ですか?僕は去年の11月で19になりました」
キッドの歳を聞いた途端、目付きを変えた。
「なんだ私より遥かに年下じゃないか。これだから近頃の若い人間族は困るなぁ。大丈夫、私がちゃんとフォロー入れてあげますからね!大舟に乗ったつもりでいたまえよ!ハハハハ!」
アームストロングは手のひらを返して嘲笑うが、キッドは終始真顔で言い放つ。
「はぁ……そうですか。まず今日を乗り越えて下さいね?色んな意味で」
「余裕だよ。なんてたって私はとびっきり優秀ですからね!金バッジなんて余裕だよ余裕!」
「余裕ですか……そうですか……」
今にもキッドは苦労してようやく手に入れた金バッジを軽く見られたのに腹を立てたのか、ムッとした表情になる。すると、更衣室のドアが勢い良く開くと、グレン連邦保安官が顔を出した。
「お前達は一体どこのお嬢様のつもりだ!?朝礼10分前だぞ!?」
「はいっ、今行きます!」
「あれがグレン連邦保安官ですね、これは覚えて置かねば」
キッド達は急いでミーティングルームに行くと、既に大きな目と愛らしく中性的な顔立ちの小人族の男性が座っており、隣には昨日のドレスとは違って王国騎士団を思わせる気品のある軍服に身を包み、ロングブーツを履いたアンナが座っていた。アームストロングも急ぎ足でアンナの隣に座った。
「おはよう」
キッド達も席に付くと、挨拶と共にグレン連邦保安官が入って来た。
「今日こそ新人の紹介をする、今年の新人は3名だ。3人とも立って自己紹介しろ」
グレン連邦保安官が言うと我先にアームストロングが立ち上がってキッド達の方を向いて自己紹介を始めた。
「ジョン・アームストロングです!今日からバリバリ働きますので皆さんよろしくお願いします!」
アームストロングが終えると、今度はアンナが足を少し引いてスカートの裾を軽くつまむ様な仕草をしながら膝を曲げてお辞儀した。
「お初にお目にかかります。【アンナ・ローランド】と申します。右も左も分からなぬ若輩者ですが、よろしくお願い致します」
そして最後に、シンプルなジャケットにジーンズの服装をした小人族が立ち上がった。
「【ローガン・ダルトン】です!狭い路地や人混みの中でも走り抜ける自信があるので追跡の時は頼って下さいっ!よろしくお願いします!こう見えて20歳です!」
ローガンは街を走り回る少年の様な声で自己紹介をした。保安官達はヒソヒソと話し出す。
「20歳!?嘘だろ!?」
「年齢確認した方が良くねぇか?」
そんな言葉が飛び交った。アームストロングも釣られてクスクスと笑うが、ローガンは気にもとめずに前を向いていた。
「先輩方の言い分も分かります。小人族の見た目は人間族の子供に見えると思いますが裏を返せば、その中に潜り込めるという事です」
「へぇ、言うじゃん」
「潜入捜査とか向いてそうですね。張り込みとか」
「悪くないね。俺が育てようかなぁ?」
ジェシカ、キッド、ロッキーの3人がいい人材を見付けたと言わんばかりに頷く。
「その辺でいいだろう。半年間の訓練を経てこのウェスタン保安官事務所にやって来た。保安官としてやって行きたいなら結果を出す事と、正しいやり方を頭に叩き込むんだ」
「「「はいっ!」」」
3人は背筋を伸ばして返事をする。
「では、今日の新人の世話はオースティンはアームストロングと組め。ロッキーとローガン。そして、栄えあるお嬢様のお相手は……キッド、お前に任せる」
グレン連邦保安官に命令されたキッドは唖然としていた。唖然としているのを見たジェシカ保安官はクスクスと笑いながらキッドに話しかける。
「ちゃんとエスコートしろよ?」
「分かってます。僕も金バッジなんですから、ちゃんと教えますよ!」
「まぁ、成果は夕方に分かるだろうな」
ジェシカ保安官は意味深な事を言いながらジャックポット保安官の元へ向かって言った。キッドもアンナの元へ行き、挨拶をする。
「キッド・ウォーカーです。今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いしますわ。キッド保安官」
「ではまず、装備保管室に行って装備を受け取ります」
「わかりましたわ」
キッドとアンナは装備保管室に向かい、列に並んだ。先に受け取ったローガンやアームストロングの姿も見える。ローガンは重そうに鞍などを持ってヨタヨタと歩いているが、アームストロングは重さに耐えきれず盛大に転んで弾薬や弾帯を床にぶちまける。
「なっさけねぇな、そんなんで保安官務まるのかぁ?」
「ほらほら、体格に負けないで頑張れ頑張れ!」
ロッキー保安官とオースティン保安官はそれぞれ檄を飛ばしている。そして、アンナの番になる。受け取ったアンナは軽々と鞍を肩に担ぎ、涼しい顔をしながらアームストロングを見下ろした。
「軟弱ですわね。それでも男ですの?行きましょう、キッド保安官」
「あっ、はい……。では、次に厩舎に行って馬を連れて来ます」
キッドはアンナと共にこれからアンナが管理する黒毛の馬の前に立たせた。
「まぁ。綺麗な毛色ですわね」
「今日からこの馬がアンナさんのパートナーです。名前は無いので好きに呼んで下さい」
「わかりましたわ」
「馬が負傷していないか確認して下さい。もししてたら記録を忘れないようにして下さい」
「わかりましたわ」
「その次は銃に弾を込めてホルスターに収めます」
「はい」
アンナは指示通りに銃に弾薬を装填させる。
アンナは銀と金の装飾が施されたアダマンタイト製のピースメーカーを見たキッドは驚いた。
「アダマンタイト製ですね、高かったでしょう?」
「ええ、父上にお祝いのプレゼントですの」
「ちゃんと手入れを怠らない様に。では最後に、弾が入った銃を持って走り回るので、細心の注意をして下さい」
「ええ、勿論ですわ!」
キッドとアンナは愛馬に跨りコルト地区を巡回し始めた。アンナはお嬢様とは思えない程馬の乗り方が様になっており、すれ違う人々は驚いていた。すると、ガラの悪いエルフの冒険者らしき男とカラス系鳥人族の男がアンナを見上げながら、
「へぇ〜べっぴんさんが馬に乗ってらぁ」
「今度俺に乗っかって見ねぇか?ギャハハ!」
悪態を付けてきた。すると、アンナはピタリと止めて振り返る。
「今、なんとおっしゃいました?」
「聞こえなかったか?俺に乗れって言ったんだよ」
アンナはカチンと来たのか、馬から降りた。キッドは慌てて声を掛ける。
「アンナさん、あの程度の戯言はこれから日常茶飯事に聞くことになります。聴き逃して下さい!」
「いいえ、聴き逃しできませんわ。明らかに街の巡回を妨害されています。これも保安官に対する犯罪ですわ?クエスト法5条【公務執行妨害】が適応。そうでなくて?」
キッドは確かにその通りと思わず感心してしまう。だが、そんな事をしていては埒が明かない為、今まで聴き流していたのが本音だ。
「初逮捕がそんなんで良いですか?」
「罪に大きさは関係なくてよ。さぁ、殿方は手を差し出しなさい。逮捕ですわ」
「さっきからですわですわってうるせぇっ!やれるもんならやってみろ」
エルフの冒険者の男はショートソードを抜いた。キッドも仕方ないと腹を括ってホルスターのボタンを外した。だがアンナは刃物を突き付けられても顔色一つ変えずに言い放つ。
「武器を捨てなさいな。差もなくば殺人未遂も追加されることになりましてよ?」
「うるせぇっ!俺は貴族が大っ嫌いなんだよ!死ねやゴミ!」
エルフの冒険者の男は斬り掛かるが、アンナは振り下ろされた剣を華麗に躱した瞬間、渾身の右ストレートをお見舞いした。エルフの冒険者の男は一撃で意識が飛んでしまい、失神した。
「なんだコイツ!?番犬ジェシーよりタチがわりぃ!あんた、飲み屋で暴れた【喧嘩番長】じゃねぇか!?」
カラス系の鳥人族の男は尻尾を巻いて逃げていった。アンナは淡々とエルフの冒険者に手錠をかけて魔線機で連絡をとる。
「こちらアンナ保安官、容疑者を逮捕しましたわ。至急、牢竜車を寄越して下さいまし」
《了解、直ちに向かわせます》
キッドは何も教える事はないと思ってしまい、目がハイライトオフになった。