─────その後。キッドは事務所の机に置いて壊れたピースメーカーを分解して見ると、引き金を引く金具や細かい部品が粉々になっていた。キッドが渋い顔をしていると、
「うわぁ〜こりゃ酷いね。オニヒトデ系魚人族の仕業ね?」
エマ保安官がひょっこり顔を覗かせて来た。
「あっ、エマ保安官。はい、さっき落とした部品も集めてもこのザマで」
「これ鉄製よね?よく手入れされてるけど?」
キッドは壊れたピースメーカーを見下ろし、
「はい。訓練所で教官から譲り受けたんです」
「……噂は聞いてるわ。猟奇的犯罪者が訓練所に侵入して来たのよね?訓練生のほとんどが殺されたと」
キッドの胸の奥が冷たい小石を飲み込んだように重く沈む。エマ保安官は不味いと思い、話題を変えた。
「まだ諦めるのは早いわよ。君にだって【ガンスミス】はいるでしょ?」
ガンスミス。銃器の製造、改造、分解、修理、メンテナンスなどを行う銃の専門の鍛治職人である。
キッドはエマ保安官と視線が交差した瞬間、慌ててそっぽを向いた。
「い、いやぁ、お恥ずかしい話なんですが、まだ見つけて無いんですよ」
「ええっ!?金バッジなのにまだいないの!?不味いわよそれは!今まで専門家に見てもらってないなら急に壊れても仕方ないわよ……」
エマ保安官は呆れた様子でキッドに言い放つ。言われたキッドはしゅんとした表情をした。
「休日に探してはいたんですが、なかなか見付からなくて……」
「言い訳になってないわよ……困ったわねぇ。誰か名の通った冒険者とかに知り合いいないの?」
「それなら、居ますよ。勇者ライトニングなら」
勇者ライトニングの名前を出した瞬間。エマ保安官は新鮮な驚きが身体じゅうを駆け抜けたのか、キッドを二度見する。
「勇者ライトニング!?伝説の勇者と知り合いなの!?」
「まぁ、はい。ヴァンパイアの花嫁を一緒に討伐しました」
「一緒に討伐したとか、余計リアルね。姉さんはそんな事言ってなかったから」
「その時担当だったのは別の保安官でしたからね。多少なら聞いてるかと」
「なにも聞いてないわよ。なら、連絡が取れるなら相談してみたら?優秀なガンスミスや鍛治職人を知ってるかもよ?」
「分かりました。聞いてみます」
エマ保安官が帰った後。キッドはメモ帳を取り出して勇者ライトニングの連絡先を確認し、受話器を手に取った。呼び出し音が数回鳴ったその時。
《もしもし?》
「もしもし、お久しぶりです。キッド・ウォーカーです!」
キッドの名前を聞いた途端、思い出したかのような声が聞こえて来た。
《あー!キッド君。久しぶりだね。元気してた?》
「はい、お陰様で金バッジまで昇格出来ました!」
《本当かい!?そりゃすごいじゃないか!おめでとう!》
「いえいえ、ありがとうございます」
《それで?今日はどうしたの?》
勇者ライトニングに尋ねられると、キッドは申し訳なさそうにその場でペコペコと頭を下げる。
「はい、お忙しい中大変申し訳ないんですけど、ちょっと相談したい事がありまして」
《相談?僕に出来る範囲ならお安い御用さ!》
受話器からは頼もしい言葉が返ってくる。その言葉にキッドも甘えた。
「はい、実は僕の愛銃が壊れてしまいまして、ガンスミスか鍛治職人を探しているんですけど誰か心当たりありませんか?」
キッドがライトニングに尋ねると、
《ガンスミスか、確か保安官専門の鍛治職人だよね?いやぁ、フロンティア大陸に入ってからはまだ知り合ってないなぁ》
「そうですか……」
キッドがため息を吐くと、
《でも、噂でウェスタンに腕のいい鍛治職人がいるって聞いた事があるよ?》
「本当ですか!?」
《うん。なんでもかなりの頑固者で変わり者って聞いたよ?》
「なるほど、どこの地区にいるかご存知ですか?」
《どうだったかなぁ……、確か【ヘッケラー】地区だったかな?》
ヘッケラー地区とは、多くの鍛治職人や魔導具を生産している工業地区で、冒険者が武器の手入れや新調しにやって来る。職人同士の喧嘩や冒険者と職人の喧嘩で通報が頻繁に来る。
キッドはその手があったかと言わんばかりに自分の太ももを叩いた。
「そうかヘッケラー地区かっ!なんで今まで気付かなかったんだろう!」
《ど、どう?役に立てたかな?あんまりいい助言出来てないと思うんだけど?》
「そんな事ありません!お陰様で活路が見い出せましたよ!ありがとうございました!」
《そ、そう?なら良かったよ。ごめん、この後調査があるから》
「お忙しい中すいませんでした、失礼します」
キッドが受話器を置いて椅子から立ち上がると、向かいに座って書類整理をしていたエマ保安官が顔を上げる。
「その様子だと見つかりそうね。手伝う?」
「いえ、大丈夫です。明日休みですし、行ってみます」
─────翌日。キッドは休日を利用してヘッケラー地区にやって来ていた。街に入ると、カンカンと金属を打つリズミカルな鍛冶の音。キーキーと研磨をする音。肌を焦がすような炉の熱気に迎えられた。
「この地区のどこかに勇者ライトニングが言っていた鍛治職人がいるんだ。あちこち聞いてみよう」
キッドは目に入った鍛冶屋に入ると、屈強なドワーフ族の男が炉の熱で真っ赤になった剣をカンカンと打っていた。
「おはようございます、お尋ねしたいんですが良いですか?」
「あいよー、ちょっと待ってくれ」
キリのいいところでドワーフ族の男が立ち上がってキッドの元へやって来た。キッドは胸の金バッジを見せる。
「実は、僕の銃が壊れてしまって修理をお願いしようと思ってるんですが」
「保安官の武器か……ちょっと見せてみな」
キッドは鞄から壊れたピースメーカーを取り出し、カウンターに置いた。ドワーフ族の男は手に取り、シリンダーを耳元で回し、撃鉄を起こしてみた。
「コイツは酷いな……鉄製でよく使い込まれてる。あんた、早撃ちキッドさんだろ?」
名前を名乗ってないのにも関わらず言い当てられ、思わず驚いた。
「なんで僕の名前を!?」
「知らないのか?あんたは今冒険者やゴロツキ共から【早撃ちキッド】って呼ばれてるぜ?」
「そ、そうなんですか……知らなかった」
「それに、この銃は変わり者【サミュエル・ロン】が作った銃だ」
「えっ、分かるんですか!?」
キッドが尋ねると、ドワーフ族の男はピースメーカーのグリップの低面を見せる。
「ほらここ、製作者の名前が掘られてあるだろ?これで分かるんだよ」
「気付かなかったな……まさかヒントがもうあったのか」
「サミュエルの店なら街の外れにある。尋ねてみてなよ」
「はい、分かりました。ありがとうございます!」
キッドが頭を下げると、ドワーフ族の男が口を開く。
「ただ、かなり頑固者だから断わられるかも知れねぇからな」
「はっはい……」
念を押されたキッドは街外れに向かった。
「えーっと、確かこの辺りかと思うんだけど……」
辺りを見渡すと、1件の鍛冶屋が目に入った。店のドアに近付こうとしたその時。
「くそがっ!もう頼まねぇよ!クソ親父!」
「うるせぇっ!クソガキ!とっとも失せろ!」
怒鳴り声が聞こえてきた。思わずキッドはビクッと体を揺らすと、扉が激しく開いた。中からは、人間族の冒険者と思われる青年が怒りをあらわにしながら現れた。
「ったく、苦労して手に入れた鉱石なのによぉっ!別の店に行けばよかったぜ!」
ブツブツ文句をたれながら去って行く。キッドは恐る恐る店の中に入ると、髭を生やし顔や身体に幾多の傷が残っている厳格な雰囲気の男がタバコを咥え、脚を組みながら座っていた。
「こ、こんにちは……サミュエルさんですか?」
「あぁ……?今日はもう店仕舞いだ……、消えろ保安官のガキ」
初っ端から帰れと言われるキッド。だが、キッドは負けじと言い返す。
「そこをなんとか、サミュエルさんに銃の修理をお願いしたいのですが」
キッドの言葉にサミュエルの眉間にシワが寄った。
「銃……だと?」
「はい、見て貰えますか?」
キッドは再び布に包まれている壊れたピースメーカーを手に乗せて見せた。ピースメーカーを見たサミュエルは突然。
「このクソガキがぁっ!」
丸太のような太い腕で殴って来た。数メートル殴り飛ばされたキッドは思い切り顔面を殴られたのにも関わらず、唖然としていた。
「……えっ?何をされた?えっ、何?」
「テメェ、なんで俺のダチ為に作った銃をテメェ見てぇなクソガキが持ってやがる!?」
倒れたキッドにサミュエルは怒鳴り散らす。キッドは上半身を起こして口から流れた血を拭う。
「これは、僕の教官から譲り受けたんです!サミュエルさんなら直して貰えるかも知れないと聞いてここへやって来たんです!」
キッドが必死に言い放つと、サミュエルは耳をピクピクさせた。
「教官?なんだ、アイツ教官になったのか?」
「え、ええ。サミュエルさんのダチというのは、【メイソン・スパーク教官】ですか?」
キッドが尋ねると、
「お、おお。確かにダチの名前だ。ガキ、確かにメイソンの教え子見てぇだな」
「はい。訓練所を卒業する前に譲り受けたのです!消して盗んだり奪い取った訳じゃありません!」
キッドが真剣な眼差しで訴えると、サミュエルは睨むように見つめる。沈黙が続くと、ニヤリと笑う。
「そうか、この銃は俺が若い頃に初めてメイソンに作ってやった銃でな……そうか、アイツは元気にしてんのか?」
サミュエルの顔をが緩んだが、キッドの顔は曇ったままだった。
「実は、訓練途中に猟奇的犯罪者が入り込んで来て仲間に襲いかかりました。教官は生き残った僕達を先導してくれました。その時、瀕死の状態なのにも関わらず、僕にこの銃を渡してくれたお陰で猟奇的犯罪者を倒す事が出来ました。教官がいなかったら僕も死んでいた所です」
キッドが俯いたまま話すと、サミュエルは椅子に座り始める。
「そうか……アイツらしいな……。殴って悪かった」
「い、いえ……大丈夫です。事前に知っておけば連絡したのですが……」
「気にすんな、早速見てみるから中に入りな」
キッドはサミュエルに促され、店の中へと入って行った。