キッドが店内に案内されると、熱せられた鉄と焦げた炭の匂い、急冷のときに立ち込める水蒸気と独特の金気の匂いが入り交じっていた。壁にはレバーアクションライフルやピースメーカーが飾られていた。
「まず初めに言っておくが、そいつじゃこの先無理だな」
サミュエルがカウンターに寄りかかりながら言う。突然言われたキッドは顔を青ざめさせる。
「えっ、どうしてですか!?」
「鉄製じゃ冒険者の剣を防ぐのが無理なんだよ。★3程度の奴なら大した事はねぇが、上級者になるとミスリルやオリハルコンが主流になる。鉄じゃ切り落とされるのがオチだ。現に今回は相手のたった1回の攻撃を受けた衝撃でここまでされたんだ。もう限界なんだよ」
淡々とサミュエルは現実味のある言い方でキッドに説明した。それを聞いたキッドは今にも泣きそうになる。
「そ、そんな……教官と約束したんです!この銃で1人前になるって!」
現実を受け入れられないキッドはサミュエルに言い返すが、
「保安官の金バッジはもう1人前って事じゃねぇのか?いい加減諦めろ」
「…………はい」
ぐうの音も出なくなったキッドは銃をホルスターに仕舞おうとした、その時。
「修理は出来ねぇが、そいつを参考にした銃なら用意できるぜ?」
「え?それって……?」
キッドが首を傾げると、サミュエルはカウンターの引き出しから1枚の紙を取り出し、広げた。そこには、一丁のピースメーカーの設計図が描かれていた。
「サミュエルさん、これは?」
「これは俺が今開発しようとしている新型の【
「ダブルアクション?」
ダブルアクションとは引き金を引くだけで撃鉄を起こす動作と撃鉄を落として弾を発射する動作の2つを同時に行う機構である。
キッドはまじまじと設計図を見つめ、ふと気になった事を尋ねた。
「見た目はピースメーカーと似てますけど?」
「そりゃピースメーカーをモデルにしてるからな。装填方法もピースメーカーと同じだ。細かい所は設計図では分かりにくいと思うが、実物はピースメーカーより一回り小さく、軽量になっている計算だ。グリップもピースメーカーは一般的なストレート形状しているが、コイツのグリップは鳥人族の頭の様に形にした事により、握りやすくて抜きやすい」
「なるほど……素材は何を使うんですか?」
興味が湧いてきたキッドが更に尋ねると、サミュエルは振り返って棚に手を伸ばして拳くらいの大きさの鉱石をカウンターに置いた。
「コイツを使おうと思ってる」
「えっ、これって!?」
キッドの目の前にはギルド職員時代に図鑑でしか見た事のない鉱石があった。
「表面が黒褐色でゴツゴツとしていて手触りはザラザラしている……まさかこれ、【メテオタイト】ですか!?」
メテオタイトとは、世界で最高硬度を誇る鉱石である。希少な鉱石の為、高額な値段で取り引きされている。
「サミュエルさんがどうしてメテオタイトを!?」
「なぁに、冒険者をやってた時に運良く拾ったもんだ。最初はアダマンタイトだと思っていざとなったら売るつもりで置いてたらよ、引退して鍛冶屋の勉強してたらメテオタイトって分かったんだ」
「そうだったんですか、ちなみにいくらですか?」
キッドが尋ねると、サミュエルは鼻で笑う。
「ふん、まだ作ってもいねぇのに金なんか分かんねぇよ」
「そ、そうですよね……まいったな。ピースメーカーがないと仕事にならないんですよ」
キッドが困った顔をすると、
「なら、コイツ使ってみろ」
サミュエルは壁にかけられていた一丁のオリハルコン製のレバーアクションライフルに手を伸ばした。だが、そのレバーアクションライフルは、銃身と肩撃ち用の銃床が大幅に短縮され、片手でも扱えるコンパクトなサイズになっていた。
「俺が考案して作成したレバーアクションライフルだ。狭いダンジョンや屋内、はたまた船内でも扱える。金具もレバーもオリハルコンを使ってるからスピンコックで装填しても壊れない。試してみろ」
「はい」
キッドは受け取ると、腰だめ撃ちの体勢をとったり、右手でスピンコックをしてから片手で構えてみる。様になってる姿を見たサミュエルは手応えを感じたのか、ニヤリと笑う。
「どうだ?なかなか使えるだろ?銃が出来上がるまでそいつで我慢してくれ」
「十分です、分かりました。そういえば、さっき僕と同じくらいの冒険者が凄い剣幕で出て行きましたけど、どうかしたんですか?」
「あいつか?あいつは駆け出しの癖に名剣を作れって言うから追い出してやったんだ。良いか?俺は鍛冶屋も出来るが、作るからには一級品を作りてぇ。それなのに、剣の振り方も知らねぇガキだってのに偉そうに言いやがって」
サミュエルはブツブツ文句を垂れながら煙草に火をつけふうっと煙を吐いた。
「確かに、剣次第で命に関わりますからね」
「お前もそう思うだろ?さて、俺は早速銃作りに入るから出て行きな」
「分かりました。後はよろしくお願いします」
「おう、1週間したらまた来い」
そう言われながら店から出ると、
「よぉ、キッド。こんな暑苦しい所で何やってんだ?」
目の前には白いシャツにフリンジ付きのボトムス、ウエスタンブーツを履きカウボーイハット。整った顔立ちをしており、黒と白の毛色の尻尾を伸ばし凶暴で荒々しい雰囲気を漂わせているのは、エマ保安官の姉であるジェシカ保安官だった。キッドは余りの威圧感に背筋を凍らせる。
「おっ?妙な短さのライフルじゃねぇか」
「あっはい。ピースメーカーが壊れてしまったので代用品です」
「ふーん、ここがお前のガンスミスの店か?」
「ええまあ。ジェシカ保安官はどうしてここに?グレン連邦保安官からはジェシカ保安官が後で合流すると聞いてましたが?」
妹とは天と地の差で性格が違うのを肌で感じ取るキッドが恐る恐る尋ねると、
「おう、ワルサー地区の保安官事務所ならこっちから来た方がはえーからな」
「なら僕と一緒に事務所に行きますか?」
「はぁ?寝言は寝て言えよボケナス」
気を使ったつもりが逆に冷たくあしらわれた。キッドは面白くなかったのか、不満そうな顔つきになる。
「そんな風に言わなくてもいいじゃないですか」
「むくれるなよ、冗談だよ。ほら、行くぞ」
「…………はぁ」
キッドは溜息を吐きながら事務所へ向かって行った。その間、キッドは一言も喋らなかった。事務所に辿り着くと、事務所の入り口でエマ保安官が今か今かと待っていた。ジェシカ保安官はエマ保安官を見つけると、尻尾を振りながら、
「おーい、エマー!」
呼ばれたエマ保安官は耳をピコピコさせながら振り向いた。ジェシカ保安官とキッドが入り口に辿り着いた途端、エマ保安官はジェシカ保安官を呼ぶ。
「姉さん!それにキッド君!」
「よぉー、来てやったぜ」
「もう、今日来るなら教えておいてよ!突然やって来るなんて!」
エマ保安官は腰に手を当てながらプンプン怒り出すと、
「あー、わりわり。実はあたしのタレコミ屋から情報が入ってよ」
「タレコミ屋?どうしたの?」
エマ保安官が首を傾げると、ジェシカ保安官はニヤリと笑い始めた。
「実は、【クイーンホーネット】が魔薬草の裏取引をやるって情報が入ったんだ」
「クイーンホーネットが!?」
クイーンホーネットとは、蟲人族の女性だけで構成された女ギャングで、構成員の数はウェスタンで1番多い組織だという。
エマ保安官は打って変わって真剣な顔になる。
「なら、直接オルカ連邦保安官に説明してくれない?」
「あ?おめぇが行けばいいだろ」
ジェシカ保安官は姉妹にしか分からない姉の圧力を行使してエマ保安官に言い放つ。それを感じ取ったエマ保安官は顔を引き攣らせながら、
「私だって別件の捜査があるから忙しいのよ。それじゃ、私は行くから後は自分でやってよ?」
「へいへい、わーったよ」
エマ保安官は近くに繋いでいたライダーラプトルに跨り、忙しそうに何処かへと向かって行った。ジェシカ保安官は見送ると、キッドに顔を向ける。
「オルカ連邦保安官はいるのか?」
「いると思います」
「エマがいねぇなら、お前が付いてこい」
「分かりました」
キッドはジェシカ保安官と共にオルカ連邦保安官の元へ向かった。キッドはオルカ連邦保安官の部屋のドアをノックする。
「キッド・ウォーカーです」
「入りなさい」
「失礼します」
ジェシカ保安官と共に中へ入ると、オルカ連邦保安官は様々な書類に目を通していた。オルカ連邦保安官はジェシカ保安官にチラッと目を向けると、
「確かにエマとは大違いだな。良い目をしている」
「どーも。ジェシカ・レジーナ、到着しました。挨拶代わりと言っちゃなんですが、あたしのタレコミ屋がクイーンホーネットが今夜に魔薬草の裏取引をするって情報が入りました」
「クイーンホーネットか、相手が相手だ。王国騎士団にも声をかけよう」
「了解」
「ジェシカ保安官とキッド保安官で先に現場に向かってくれ、応援を直ぐに向かわせる」
「了解しました」
2人は部屋から出て直ぐに顔を見合わせる。
「どれどけ上達したかあたしに見せてみな」
「勿論です、がっかりさせませんよ」
キッド保安官とジェシカ保安官は装備保管室に向かい、装備を受け取とる。ジェシカ保安官にライダーラプトルを渡し、直ぐにライダーラプトルに跨り、ジェシカ保安官を先頭に現場に向かって行った。