──────1週間後、キッドは朝礼後にグレン連邦保安官から声を掛けられた。
「キッド保安官」
「はい、グレン連邦保安官。なんでしょうか?」
「まだ牢竜車の御者は経験ないよな?」
「はい、まだありません」
キッドがそう答えるとグレン連邦保安官は不敵な笑みを浮かべながらキッドの肩に手を置く。
「それは丁度良かった。今日はロッキー保安官と共に牢竜車の御者に就いて貰う」
「分かりました。いつもの馬房に行けば良いんですか?」
「そこからはロッキー保安官から教わるといい。頼んだぞ」
「はい、分かりました」
グレン連邦保安官と別れ、装備品保管室の前でバラの香りを楽しみながら待っていたロッキー保安官に声を掛ける。
「すいません、遅くなりました」
「遅かったな。何かあったのか?」
「いえ、今日はロッキー保安官と共に牢竜車の御者に就けとグレン連邦保安官から指示されました」
「牢竜車か、ならまず馬房に行って牢竜車を取りに行かなきゃな」
キッドはロッキー保安官と共に馬房に向かう途中に、ロッキー保安官に尋ねた。
「そういえば魔線機で牢竜車を要請しますけど、牢竜車はここから出動するんですか?」
「そんな訳ないだろ。ウェスタンは広いんだから牢竜車は街を巡回しながら魔線機からの連絡を待つんだ。少しでも早く現場に到着しなきゃ行けないからな」
「なるほど。確かにその方が早いですね」
キッドは納得してうんうんと頷く。馬房に着くと牢竜車は既に準備されていた。ロッキー保安官は灰色の鱗を纏い、鉤爪のような形状の手足と細長い頭をした竜を撫でながらキッドに説明する。
「知ってると思うがこの竜は【ライダーラプトル】馬よりも早くタフだから運搬作業には欠かせない竜なんだ」
キッドが住んでいたロンドール大陸では翼が生えた【飛竜】と【翼竜】が存在したが、ここフロンティア大陸では広大な荒野に適応して二足歩行に特化した【獣脚竜】が存在する。ライダーラプトルもその一種である。ロッキー保安官とキッドは牢竜車に乗り込み、手網を握り外に出た。
「とりあえずウェスタン国の中心部のコルト地区を巡回してよう」
「はい、分かりました」
手網を持ったままキッドはロッキー保安官にダンジョン時の事を尋ね始めた。
「そういえばこの前の女剣士とはどうなったんですか?」
「どうって普通に飯食って酒飲んだだけだよ?」
「またまたぁ、それだけじゃ済まないですよね?」
キッドが怪しむ様に尋ねると、ロッキー保安官は何食わぬ顔で答えた。
「悪いけど、いきなり宿に連れ込む程俺は腐っちゃいないよ。冒険者を味方に付けていると後々楽なんだよ」
「それはどういう意味─────」
《コルト地区16番通りの酒場で冒険者2名を逮捕し、牢竜車の要請。直ちに急行して下さい》
突然、魔線機に通信が入った。ロッキー保安官は魔線機を取り応答する。
「了解、直ちに向かいます。君にもそのうち分かるさ」
意味深な言葉を言いながら現場に急行すると、ジェシカ保安官がイノシシ系獣人族の冒険者とカラス系鳥人族の冒険者が拘束されていた。牢竜車から降りたロッキー保安官はジェシカ保安官に声を掛ける。
「よぉ、ジェシー。また1人で捕まえたのか?」
「うるせぇよ。お前こそ女のケツばっかり追っかけ回してたんじゃねぇのか?」
「おいおい、冷たいなぁジェシーは」
「ったくよぉ、今日に限って”ジャックポット”の野郎が休みやがるし、ついてねぇぜ」
「誰ですか?そのジャックポットって?」
キッドが不貞腐れているジェシカ保安官に尋ねると、露骨に嫌な顔をしながら答える。
「蜥蜴人族の保安官だよ。あんたもそのうち組む事になるさ」
「それでジェシー。この2人は何をしたんだ?」
「道具屋強盗だよ。あたしがたまたま通りかかったら店から出てきたのさ」
「運が悪かったな。お前らも番犬ジェシーに捕まるなんて」
被疑者達はロッキー保安官に皮肉を言われながら牢竜車の中に入って行った。扉の鍵を閉めたロッキー保安官はジェシカ保安官に声を掛ける。
「んじゃ、俺らは行くぜ。気をつけろよジェシー」
「あぁ。あんたらもな」
「はい。はっ!」
キッドは手綱を叩いて牢竜車を動かし、保安官事務所に戻って行った。保安官事務所1階の奥にある留置場に竜車を止めた。留置場の中は手錠が備えられている長椅子の前に20部屋の牢屋が備えられており、魔導具で指紋、掌紋、人相を記録する場所があった。牢竜車から降りたロッキー保安官がキッドに声を掛ける。
「よし、新人。これからの手順を教えよう。1、被疑者を牢から降ろす」
キッドはロッキー保安官の指示通りに被疑者を下ろした。
「2、牢の座席に証拠品が落ちてないか確認する」
被疑者達をロッキー保安官に任せ、キッドは牢の中を確認する。
「3、被疑者の靴と靴下を脱がせる」
キッドが脱がせようとしたが、被疑者達は触れられたくなかったのか大人しく靴と靴下を脱いだ。
「4、鎧や装備品を回収する」
被疑者は手錠をされている為キッドが全て外す事になる。キッドが被疑者達の皮鎧を外すと、被疑者2人は肌着状態になった。
「5、移動させて指紋、掌紋、人相を記録する」
被疑者を移動させると、机に石版がありその石版には手の平くらいの大きさの魔法陣が書かれていた。キッドは被疑者の手を取り、魔法陣の上に乗せると、魔法陣が光り始めた。
「初めて見る魔導具なんですけど、これで記録出来るんですか?」
「まさか、手を退かして隣にある紙を置くんだ」
キッドは言われた通りに石版の隣にある真っ白な紙を石版に置くと、不思議な事に被疑者の指紋と掌紋が黒いインクで塗り付けた様に浮かび出て来た。ロッキー保安官は出来上がった紙を取ってキッドに見せた。
「6、この用紙に被疑者の名前を記録する」
被疑者の名前を記録すると、ロッキー保安官は小さい木箱に望遠鏡の様なレンズが付いた魔導具に指を差す。
「7、この魔導具で被疑者の人相を記録する」
キッドはここでも初めて見る魔導具に驚いていた。
「こんな魔導具もあったんですね!知りませんでした。どんな構造になってるんですか?」
「俺も詳しくは知らないけど、中に入ってる魔石が肝らしいぞ。そこに立たせてここを押してみろ」
キッドは被疑者を立たせて魔導具の一部押せる所を指で押すと、「カシャッ」っと音がした。すると、木箱から被疑者が写し出された紙が出て来た。それにキッドと被疑者が驚く。
「うわっ、なんか俺が写った紙が出て来たぞ!?」
「こんなに魔導具が発展してたなんて知らなかったぞ!」
「凄い……」
「最初はみんな驚くよな、これから嫌でも見慣れてくるぞ。記録がおわったら8、牢に収監する」
未だに興奮している被疑者達をキッドは牢に収監した。鍵を施錠し、牢の鍵をロッキー保安官に手渡すと、
「そして一番の難所でもある9、上司に承認を貰う」
キッドは先程記録した書類を手に、ロッキー保安官と共にグレン連邦保安官の所へやって来た。グレン連邦保安官は大きく鼻息して腕組みをしながら待ち構えていた。
「待ってたぞキッド保安官。書類を見せてみろ」
「はいっ!どうぞ!」
キッドは緊張しながらグレン連邦保安官に書類を手渡した。グレン連邦保安官は書類をじっくり見て、キッドの顔を見た。キッドに緊張が走ると、グレン連邦保安官が声を掛けた。
「うむ、誤字脱字もない。初めてにしてはいい出来だ。ロッキーやジェシカは2度も失敗してるから心配だったんだ。お前のギルド職員の経験が役に立ったな。ご苦労」
「ありがとうございます」
グレン連邦保安官がその場を立ち去り、キッドが後ろを振り向くとロッキー保安官が顔を真っ赤にしながら恨めしそうに口を開いた。
「調子に乗るなよ!?」
「えぇ!?はい、気を付けます!」
「なぁ、ギルド職員ってモテるのか?」
「モテませんよ!?それより書類仕事が多かったので大変でしたよ!誤字脱字もその時の先輩に叩き込まれて直しましたから」
「どこも一緒か……。よし、街に戻るぞ」
「はいっ!」
キッドとロッキー保安官は再び牢竜車に乗り込んで街へと向かって行った。