──────2週間後、キッドがいつも通りに朝礼に参加しようとミーティングルームの席に座るとグレン連邦保安官が緊張しながら入って来た。
「おはよう。今日は朝礼の前に紹介したい人がいる」
「紹介?まさか新人ですか?」
ジェシカ保安官が首を傾げながらグレン連邦保安官に尋ねると、グレン連邦保安官はニヤリと笑った。
「新人だったらこんなにかしこまる必要ないだろ?」
「それじゃ誰なんです?グレン連邦保安官がそんなに緊張するなんて珍しいですよ?」
ロッキー保安官がそう言うと、
「まぁ実際見れば分かる。どうぞ、お入り下さい」
グレン連邦保安官が促すと、ミーティングルームに軽装の鎧にマントを靡かせ、歳は20代後半くらいで黒髪の男が入って来た。男を見たキッドを含め保安官達がざわめきだした。グレン連邦保安官が男の隣に立ちながら口を開く。
「この方はかつて世界征服を目論んでいた魔王を打ち倒した伝説の勇者……デイビッド・ライトニング氏だ」
勇者と紹介すると、保安官達は驚きを隠せなかった。そんな中ジェシカ保安官が手を挙げた。
「その伝説の勇者がなぜウェスタン国に?」
「ジェシカ保安官、質問は───────」
「良いんです。疑うのも仕方ありません」
グレン連邦保安官を勇者ライトニングが止めに入る。
「確かにここに来た理由はあります。確かに、僕は魔王を打ち倒しました。だが、魔王が倒された後にある【犯罪組織】が現れました」
勇者ライトニングの話によると、魔王が倒された翌年に【七つの大罪】と名乗る犯罪組織が現れたという。勇者ライトニングが調べた情報だと主犯格を混じえた7人がその犯罪組織のトップで、グレン連邦保安官は険しい顔をしながら尋ねた。
「その7人に心当たりはあるんですか?」
「いえ、まだそこまでは……今、僕の仲間達が懸命に探っています」
「その、七つの大罪というやつらは何をしたんですか?」
キッドが手を挙げて尋ねると、勇者ライトニングは腰に付けたポーチから血のように真っ赤な花と鋭い刺がある果実を付けた禍々しい色の植物をテーブルに置いた。
「この植物は【魔薬草】と呼ばれる魔王が根城にしていた地域にしか生えていない植物です。この魔薬草は摂取すると急激な酩酊状態となり、大量摂取で呼吸困難から死に至り、依存性も強く、情緒不安定、無気力、精神異常などを起こす恐ろしい植物です。これがこのフロンティア大陸やロンドール大陸の闇市場で流れている情報を掴みました。闇売人の情報だとそのリーダー格が七つの大罪と名乗っているそうです」
「魔薬草は所持、売買、使用等は、フロンティア大陸やロンドール大陸では制限が掛けられており、それを扱う組織は非合法な存在だ」
「そんな物が……一体そいつら何者なんだよ!?」
ピリピリとした空気の中、ウィストン保安官が声を挙げた。
「あれ?そう言えば、キッドとジェシカ。この前魔王って名乗ってた奴逮捕したよな?もしかして、アイツじゃないのか?」
「まさかそんな訳ねぇだろ」
ジェシカ保安官があしらうと、勇者ライトニングが言い放つ。
「それは有り得ない。あの時に僕と仲間達が確実に倒したんだ。生きてる訳が無い」
「奇跡的に生き延びたという可能性は?」
グレン連邦保安官が前回逮捕した酔っ払いの魔族の男の書類を見せながら勇者ライトニングに言うと、勇者ライトニングは腰に差していた剣を抜いた。
「いえ、この方は魔族の様ですが魔王ではありませんね。この世界で唯一魔王を倒せる伝説武器『聖剣アロンダイト』で確かに倒したんです。魔王が奇跡的に生き延びている筈がない。恐らく大陸中に逃げ延びた魔王軍の残党が集まり、七つの大罪と名乗っているんでしょう」
「姿形も分からない組織か……。なら魔王軍の残党を逮捕して情報を聞き出す必要があるのでは?」
ロッキー保安官がグレン連邦保安官に言うと、勇者ライトニングが口を開く。
「僕に心当たりがあります。最近、【ナイトホーク地区】という所で冒険者が首に噛まれた様な傷を残して殺害されているという噂を聞きました。僕はこれからそこへ行って調べて見ようと思います」
ナイトホーク地区とは、ハイセンスなショップ溢れ、サンセット・ストリップはウェスタンきっての繁華街。クラブやライブハウスは、毎晩のように★5以上の冒険者達で賑わっている。
「1人では危険なので保安官2人同行させましょう。キッド、ロッキー、今日は勇者ライトニング共にナイトホーク地区を巡回してくれ」
「分かりました」
「伝説の勇者と同行出来るなんて光栄だねぇ」
「今日のミーティングは以上だ。気を付けていけ」
朝礼が終わると、キッドとロッキー保安官は勇者ライトニングに近付き、声を掛ける。
「では、馬を用意しますのでこちらへ」
「僕は装備品保管室で装備品を取ってきますね」
キッドが駆け足で装備品を取りに行くのを目の当たりにし、事務所内の慌ただしい風景を見て勇者ライトニングは呟いた。
「うわぁ、保安官は冒険者と違って忙しそうですね……」
「えぇ、魔王が倒されても犯罪は消えませんからね、それらを取り締まるのが我々の仕事です」
「僕達は世界を駆け回るので余裕がないのでとても助かります」
勇者ライトニングとロッキー保安官が話しながら馬に跨ると、2人分の装備品を担いで来たキッドが戻って来た。
「お待たせしました、行きましょう!」
3人は馬で駆けて行き、目的のナイトホーク地区に入った。繁華街だからかあまり人は出歩いて居なかった。居たとしても娼婦や酔っ払った冒険者しか確認出来なかった。
「夜だと活気に溢れてるんだけど、昼間だとバカに静かだな」
「えぇ、夕方になれば人が集まると思うんですけど」
辺りを見渡していたその時。
「きゃぁぁぁっ!!」
静まり返った街に悲鳴が響くと、3人は後ろを振り向く。
「今のは!?」
「喧嘩では無さそうだな、行くぞ」
3人が慌ててその場に行くと、悲鳴を挙げたと思われる娼婦の近くには人間族の男の冒険者が地面に倒れていた。キッドとロッキー保安官は銃を抜いて辺りを警戒しながら冒険者に近付き、脈を取ろうとするが既に事切れていた。首を確認すると、何かに噛まれた様な傷が見えた。
「こちらキッド、ナイトホーク地区3番通りの路地で冒険者の死体を発見。グレン連邦保安官に報告をお願いします」
《了解。グレン連邦保安官に報告します》
キッドが魔線機で報告していると、ロッキー保安官は第一発見者の娼婦に声を掛けた。
「保安官ですが、第一発見者ですね?何か他に見た物や不審な人は居ませんでしたか?」
ロッキー保安官が優しく尋ねると、娼婦は体を震わせながら答えた。
「い、いや……あたしが家に帰る途中にたまたまこの人を見かけたの。最初はただの酔っ払いかと思ったんだけど、体が冷たかったから」
その話を聞いた勇者ライトニングが冒険者の死体を確認すると、
「この傷……間違いありません」
「勇者ライトニング。どうかしたんですか?」
キッドが勇者ライトニングに尋ねると、剣の柄を握りながら答える。
「こいつの犯人は【ヴァンパイア】です」
ヴァンパイアとは、生き血を好むアンデッドモンスター。太陽が苦手で日に当たると体が燃えてしまう為、夜にしか活動出来ない。その中でもヴァンパイア王は魔王軍の幹部の1人とされている。
───────数分後、グレン連邦保安官が現場に到着した。勇者ライトニングはグレン連邦保安官に声を掛ける。
「ヴァンパイアに間違いありません」
「勇者が言うなら確かだろう。キッド、ロッキーは悪いがそのまま勇者ライトニングに同行してくれ。勇者ライトニングは【バウンティクエスト】の手続きをして貰うのでこちらへ」
グレン連邦保安官が勇者ライトニングと共にその場を離れると、キッドはロッキー保安官に声を掛ける。
「バウンティクエストって何ですか?初めて聞くクエストなんですが?」
「なんだ知らなかったのか?バウンティクエストってのは逮捕や捕獲が困難と判断された時の討伐クエストだ。簡単に言えば『賞金首の討伐クエスト』ってとこだな」
ロッキー保安官は説明しながらサドルバックから木のケースから銀色の弾薬を取り出し、ピースメーカーやレバーアクションライフルに装填した。