私、リーフはタマムシジムのジムリーダーに拾われたので、ポケモンリーグを目指します。 作:エリカ大好きクラブ
私、リーフには幼少期の記憶がない。
物心があって覚えているのは森の中で周りに親もなく、雨風が凌げる場所を求めて彷徨い歩いていた。右も左も分からず、道なき道を歩いていると次第に私の周りにポケモン達が集まって来る。若干、警戒するように私の前に姿を現したのはロコンだった。恐る恐る、ゆっくりと近寄って来る。周囲からの視線も感じた。気付いた時には、もう、目の前まで歩み寄って来たロコンは、鼻先を近付けて、私のスンスンと嗅いだ。少し擽ったい。どうすれば、良いのか分からなくて、なんとなしにロコンの頭をそっと手を乗せる。ロコンは、ビクリと身を震わせた。その日は、肌寒かった。ロコンの身体は温かくて、その温もりを手放したくなくて、手を離すことが出来なかった。なんとなく頭を撫でていると、ロコンは私に身を寄せて来た。温かかったので思わずギュッとロコンの身体を抱き締めたけど、ロコンは特に嫌がったりしなかったので暫く暖を取った。周りに集まっていた気配も散り散りとなり、子供心ながら直近の危機を脱した事を察した。
翌日、ロコンの事を抱き締めながら眠る私の目の前に果物が置いてある。
何処かより視線が向けられているのを感じ取り、私は両手を合わせて「どこのだれだかぞんじませんが」と畏まった物言いで「なむなむ」と頭を深々と下げる。困った時は、お互い様とでも言うかのように気配が消える。
果物は、少し渋かった。
ロコンと一緒に、心配性なポケモン達に導かれるがまま辿り着いたのは、体育館のような大きな建物だった。だけど草木が覆い茂っており、中に誰かが居る気配もない。入れ替わり立ち替わり、私達の様子を見守っていたポケモン達も当てが外れたといった感じで困り果てていた。
此処に居る誰かと私を引き合わせたかったのかも知れない。
だけど誰も住んでいないのであれば、それはそれで好都合というものである。少なくとも此処でなら雨風を凌げる。
「ここを、かくれがにします!」
私の宣言に、周りのポケモン達は酷く心配する表情を見せた。心配性な野生のポケモン達である。
私は人である。当然だが、ポケモンではない。
自然の中で生きるには、余りにもか弱い存在だ。
だけど何時までも野生のポケモン達におんぶに抱っこで生きていく訳にはいかない。
ポケモンと同じ事は出来ないけど手先の器用さには自信がある。
建物の中を探検している時にポケモンフードの缶詰を見つける。ヤミガラスが懸命に嘴で缶詰を叩く姿を見た私は、傍にあった缶切りを使って缶詰の蓋を開けてあげると、とっても喜んで貰えて、私も皆の役に立てるんだって嬉しくなった。
また別の部屋を探索してる時、一緒に居たロコンが何処かで見つけたブラッシングブラシを口に咥えて目を輝かせる。押し付けられるようにブラシを受け取るとロコンは、無言で私に背を向けて床に伏せる。少し薄汚れた彼の毛並みにブラシを当てる。するとロコンは「こ~ん♪」と甘い鳴き声を上げて、身を震わせる。そんなロコンの様子を見た他のポケモン達、コラッタやガーディもブラシを当てると同様に甘い鳴き声を上げてみせた。
翌日、目を覚ました私の事を大量の野生のポケモンが取り囲んでいた。
ニャースとか、デルビルとか、プリンとかは分かるけど、ケーシィとマダツボミは意味がないんじゃないかな?
まあ喜んでるなら別に良いんだけど。
流石に全てのポケモンを相手にするのは腕が疲れる、ので時間を決めて打ち切る事にした。
他にも皆が持ち寄った道具の使い道を皆で考えてみたりもする。
フライパンを見つけた時はロコンに熾して貰った火で簡単な料理をしてみたり、焦がしてしまったり、釣りをする私の前でオニスズメが嘴で魚を捕まえてみせたり、そんな事を続けている内に皆から果物を中心に色んな食べ物を分け与えてくれる。一匹のヤミカラスが私にモンスターボールを持たせて、自分に投げるようにボディーランゲージで訴えて来た事もある。何時も隣に居るロコンが、口から放った火の粉で追い払う。他のポケモン達の不評も買ったようで狡賢いヤミカラスは一斉に技を受けて、お仕置きを受けている。
そんな毎日を送っている内に皆が分け与えてくれる食べ物の量も増えていった。
あんまりにも量が多かったので、貰い過ぎた分は皆に配って返す。途中から料理目的で食べ物をくれる子も居たみたいだけど、これでお腹いっぱいになれるならと快く受け入れる。偶に怪我をしたポケモンに簡単な処置もすれば、普段は姿を見せないペルシアンやラッタが怪我の治療して欲しくて私の前に姿を見せる。
時折、余所から来たポケモンが私を威圧する事もある。
普段は縄張りを決めているポケモン達が一斉に私の前に立ち塞がり、一丸となって余所者を追い立てる。
気付いた時には、私は野生のポケモン達の中心になっていた。
順風満帆に見えた私のサバイバル生活にも危機が訪れる。
くさタイプのポケモンを連れた和服衣装の綺麗なお姉さんが建物の中に足を踏み入れて来たのだ。彼女は植物に浸食された建物の中を見渡すと、手持ちのポケモン達に覆い茂る草木の除去を指示したのだ。
此処は私達にとっての楽園だ。
野生のポケモン達は皆、私を守る為に綺麗なお姉さんを相手に徹底抗戦の姿勢を見せた。群れの長であるペルシアンとラッタ、そして森の強者として知られるユンゲラーまでもが私の為に戦うと決意してくれる。だけど私は、彼女が持っているポケモンの実力が、この森に居る誰よりも強い事が分かってしまった。言い訳だ。私はポケモン同士が縄張り争いなんかで喧嘩をする分には気にしないけど、同じ人間である彼女を襲う事に忌避感を覚えていた。
皆は私の為に戦おうとしている。
だけど、守る対象である私に戦う意思がない事を伝えれば、渋々と私の意思を尊重してくれた。
私は一度、皆と一緒に建物の外に出る。
だけど、私は、頑丈なポケモンとは違って人の子だ。雨風から守られる建物の中に居る時はまだ我慢も出来たけど、外で生きるのはまだ子供の私には酷く堪えた。結局、私は一週間も経たない内に建物の中に戻って夜を明かすようになる。植物が刈り取られて、日に日に姿を変える屋内。隠れられる場所が少なくなり、息を潜めるように毎日を過ごす。雨の日は、寒さも相まって身を震わせる。
姿を見せる事はしない。勝手に居着いて、怒られるのも怖かった。
ロコンだけは、私の側から離れなかった。
建物を侵食する植物を除去し、劣化したコンクリート壁を補強する。そして建物の中は乱雑に覆い繁る森とは違って、綺麗に整備される庭園に生まれ変わる。見晴らしの良い空間に打って変わり、隠れ忍ぶ毎日を送る、ある日の事だ。
建物の中に見知らぬポケモンが徘徊する。
誰かに捕獲されたポケモンだと思うのだけど、おやとなるトレーナーの姿が見当たらなかった。この事を私は好機と捉える。トレーナーとの信頼関係を築いたポケモンを懐柔する事は難しい。だけどトレーナーが側に居なければ話は別だ。
私は森の皆をメロメロにする魔法のブラシを片手に、おやのいないポケモンに抜き足差し足で忍び寄った。
私のブラッシング技術は犬猿の仲であるペルシアンとラッタですらも不戦条約を結ばせる。
瞬く間に建物内のポケモン達を懐柔した私は、私の近くに誰かが来た時に報せて貰えるように頼み込んだ。そして実際に報せてくれる事が分かったので、幾分か私の気も楽になる。
張っていた緊張の糸がプツンと切れる音が鳴った。
安心出来る見張りを立てた私は、まだ昼間であるにも関わらず熟睡してしまった。森の皆が助けてくれるからって命の危険がない訳ではない。まだ昼間であるにも関わらず、ぐーすかぴーと熟睡してしまった。
ロコンもずっと私の傍に居る訳ではない、他に私の事を守ってくれるポケモンが居る時は羽根を伸ばしに何処かに行く。
見張りを頼んだポケモン達が、必死に、だけど控えめに私の事を必死に起こしている事にも気付かず、眠り続けた結果、私は、私の気付かない内に連れ去られる。何度か見た部屋の天井、長椅子の上で目覚めた私に「随分と気持ちよさそうでしたね」と声を掛けられる。
顔を横に向けてみると何時か見た着物姿のお姉さんが本を片手に椅子に座っている。
「私は、タマムシジムのジムリーダー、エリカです。勝手ながら、此処まで貴女を運ばせて頂きました」
大きな怪我も病気もないようで何よりです、と彼女は優しく微笑んでみせた。