私、リーフはタマムシジムのジムリーダーに拾われたので、ポケモンリーグを目指します。   作:エリカ大好きクラブ

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3話.囚われの孤児

 囚われの身となる私にエリカが先ず、したのはジムに敷設したシャワールームで全身を隈なく洗われる事だった。

 敢え無く衣服を脱がされた私は、お湯を掛けられて「あーっ!」って悲鳴を上げて暴れたけど、シャツとパンツだけの姿になったエリカは「風呂嫌いのガーディですか」と手持ちのモンジャラで裸になった私を容赦なく蔦で縛り上げた。先ずは洗剤を眩した手で頭を洗われるけど、全く泡が立たず、真っ黒になった水が排水口から流れていくだけだった。

 エリカは少し顔を引き攣らせた後、キュッと顔を引き締めて長く伸びた私の髪に何度も洗剤を眩しては水で流した。何度も繰り返している内に、なんとか髪に泡立つ泡が白くなった事にエリカは笑みを浮かべる。

 だけど私の腕にタオルを当てた時、一吹きで真っ黒に染まり、白く変色した私の腕を見てエリカは再び身を強張らせる。そしてモンジャラに四肢を広げるように拘束を受けた私は、全身を隈なく磨き上げられた。もう、お湯を掛けられるのに慣れた私は、何時もとは違う自分の白い肌に違和感を覚える。

 タオルで水気を拭き取り、丁寧に髪を乾かされる。

 適当で良いのに、と思うのだけど、エリカは許してくれなかった。何時もと違う自分の臭いに落ち着かない。髪の手入れをされている間、何度も自分の腕を嗅ぎ続ける。最後の仕上げにと小瓶に入った液体をシュッシュッと振り掛ける。花の香りがする、落ち着かない臭いだ。

 徹底的に磨き上げられた私が、トレーニングウェアを着て皆の前に戻ると懐柔したはずのポケモン達は私の姿を見ても何の反応も見せなかった。無言でブラシを取り出すと、それで私だと気付いたのか一斉に飛び掛かってくる。

 この子達は私の事をブラシで認識していたようだ。

 

 兎も角、ひと仕事を終えたエリカもまた良い汗を流したとシャワーを浴びて、ホカホカの姿でみんなの前に戻って来た。

 私と同じシルフカンパニーのロゴの入ったトレーニングウェア、ジムに所属するトレーナーの皆が、何故か一斉に居た状の携帯端末を取り出し、連打をするようにパシャパシャと音を鳴らす。「もう、困りましたね」とエリカは少し気恥ずかしくしながらも周りの皆を止めることはしなかった。

 エリカは、トレーナーの皆に私を預けると彼女は、建物の奥に姿を消してしまった。取り残された私に、ジムトレーナーの皆が忍び寄る。

 

「名前は?」

「何処から来たの?」

「今日まで、どうやって生活してたの?」

 

 唐突な質問攻めに萎縮する。

 また会話する事に慣れてない事もあり、私が質問の波に困り果てると人見知りだと判断されたのか「可愛いねえ」「柔らか〜い」「これってエリカ様の香水?」と反応を必要としない言葉で頭を撫でられたり、頬をぷにぷにと突かれる。

 正直、反応に困る。

 結局、固まり続ける事しか出来なかった私は「御飯の準備が出来ました」と庭園の奥から現れたエリカの姿を見て飛び付いた。

 あらあら、とエリカは私を優しく抱き止めて、彼女と一緒に庭園の奥へ足を運んだ。

 

 エリカが用意してくれたのは、カレーだった。

 私の適当に焼いたり、炒めるだけの料理とは大違いだ。慣れないスプーンを握り締めて、一口を咥えて、その余りの美味しさに周りが汚れるのも気にせずガツガツとカレーを食べ切った。まんぷくまんぷくとお腹を撫でれば、エリカが私の汚れた口周りをティッシュで拭き取ってくれる。

 エリカの事を面倒見の良い人と認識した私は、もう警戒心なんて雀の涙ほどしかなかった。森の皆の事も気になるけど、なんとなく、私が森で生活をするのは無理が生じていたのだと感じる。

 森の皆は大好きだけど、やっぱり私は人の中で生きるようだ。

 

「貴女の名前を教えて頂けませんか?」

 

 満腹感で満たされた私の前に座ったエリカが問い掛ける。

 

「リーフです」

「良い名前ですね、両親はいらっしゃいますか?」

「ん〜?」

 

 私が首を傾げるとエリカは質問を変える。

 

「年齢は?」

「たぶん九つ、十かも知れない」

「何処の町に住んでいたかは分かりますか?」

「ん〜?」

 

 その後も質問は続いたけど、私の身元に関する事は名前以外でほとんど答えられなかった。

 だけど森のポケモン達が助けてくれた事を話すとエリカは一瞬、渋い顔を見せた後で「良い出会いがあったのですね」と笑い返してくれた。なので、この人は本気で私の事を心配してくれてるし、信頼出来る人でもあるのだと感じた。

 その後の数日間、私は色んな場所に連れ回される事になる。

 私の身元を見つける為のものだけど、結局、なんの手掛かりも得られなかった。深刻な顔をするエリカとは裏腹に私は素知らぬ顔。というよりも両親の記憶がない私に故郷の未練なんてなかった。家族と呼べる存在も居た訳ですし、だけど、私に家族が居ないという事は、社会的には問題があるようだ。

 今のままだと里親が見つかるまで孤児院と呼ばれる場所で暮らす事になるらしい。そこでの生活は、約束事が多く、前みたいに森の中に入ることも許されないようだ。今も一人で入るのは許して貰えてないけど。里親の話で「エリカはなってくれないの?」と聞くと「私は、まだ未成年ですので」と彼女は、困ったように笑った。

 暫くした後で私は、彼女の知り合いであるオーキドって人が私を養子に迎え入れてくれるという話を聞いた。「少し変わっていますけど、良い人です」とエリカは教えてくれるけど、いまいち話に付いて行けなかった。

 よく分からないまま、パソコンのある席に座らされる。

 そして目の前にあるモニターに白衣を着た年配の男性が映し出される。高齢の割に良いガタイをしてると思った。

 

 流されるがまま、席に座る私の前に映し出される年配の男性、「おー、君がエリカ君の言っていたリーフ君じゃな」と嫌味のない笑顔で私を迎え入れる。

 

「ワシが君の里親になりたいと申し出たオーキドじゃ。君の事はエリカ君から話を聞いている」

「ん〜?」と私は首を傾げる。私の隣で見守るエリカを見つめて、里親の話が出た時から抱いていた疑問を口にする。

 

「エリカは、私と一緒に暮らしてくれないの?」

 

 途端にエリカは何度もモニターに映るオーキドと名乗る年配の事をチラ見しながら狼狽えた。聞いちゃいけない事だったのかな、と思った時、「あっはっはっはっ!」とオーキドが高笑いを上げる。

 

「エリカ君、随分と慕われておるじゃないか」

「申し訳ありません」

「いいや、謝ることじゃない。彼女には、正直に伝えた方が良いじゃろう」

 

 オーキドは、笑みを浮かべたまま、真剣な目付きで私の事を見据える。

 

「今回の話はな、全て君を守る為にエリカ君が考えた事なんじゃよ」

「⋯⋯守る?」

「リーフ君は、少々生い立ちが特殊じゃからな。孤児院での暮らしは馴染めないじゃろうという判断じゃ」

「ん〜?」

「孤児院には、世話をしてくれるポケモンは居るが、基本的に危ないから他のポケモンと接する事は禁止されておる」

「あー⋯⋯」

「その点、ワシはポケモンの研究をしているポケモン博士。研究所には、研究用の⋯⋯あー、ポケモンの生態。どんな生活をして、どんな事が出来るのか調べる研究をしとるから多くのポケモンがおる。それとワシが暮らしているマサラタウンは、エリカ君のおるタマムシシティと違って田舎じゃが、その分、自然は豊富じゃし、野生のポケモン達も生き生きと暮らしておる」

 

 自然が豊か過ぎて、滅多な事で縄張り争いも起きん。とオーキドは快活に笑ってみせた。

 縄張り争いを何度も間近で見て来た身としては、平和なんだろうなと漠然と思った。だけど私には、タマムシシティに心残りがある。厳密には、森のポケモン達だ。私が心配する程、野生のポケモン達は弱くないのだけど、急に居なくなった私の事は心配してるかも知れない。

「あんまり遠くに行きたくないなあ」と私が零せば「それなら定期的にタマムシジムに帰れば良い」とオーキドが間髪入れずに答える。

 

「ワシはポケモン博士、移動用の手段など幾らでも持っておる」と彼は腰のモンスターボールからポケモンを放り投げる。モンスターボールから放たれる光の中から甲高い鳴き声と共に姿を現したのは、大きな翼に細長い嘴を持ったオニドリルだった。

 

「研究者になる前のオーキド博士は、ポケモンリーグのチャンピオンですよ」

 

 もう何十年も前の話じゃよ。と彼は苦笑する。

 

「今となってはエリカ君の足元にも及ばんわい」

「そうでしょうか?」

「頭と目がもう若者に、追い付かんからの」

 

 まあ、とオーキドは改めて私を見据える。

 

「毎日は送り迎えをする事は無理じゃが、君と君の紡いだ絆を引き離すつもりがない事は信じて欲しい」

 

 じっとたっぷり十数秒、私を見つめるオーキドの瞳を見つめ返した私は、おずおずと首を縦に振る。

 森の皆に挨拶はしておきたいと思うのだけど、何度かエリカと一緒に何度か森の入り口まで行った時、皆、私の事を避けるように遠ざかって行く気配を感じた。

 だから、まあ、私は、さよならも言えないまま、マサラタウンに行く事になった。

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