私、リーフはタマムシジムのジムリーダーに拾われたので、ポケモンリーグを目指します。   作:エリカ大好きクラブ

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4話.年の差、五十歳?

 オニドリルが大きな翼を広げて、青空を勢い良く翔け抜ける。

 私、リーフは今、書類の上での義父に当たるオーキドの懐に収まっている。両目には、シルフカンパニー印の子供向けのライド用ゴーグル。テレビ電話から丁度、一週間。タマムシジムまで迎えに来てくれたオーキドと一緒に今、マサラタウンに向かっている最中である。

 歩くと何日も掛かりそうな距離も、あっという間のひとっ飛び。気付いた時には、もうマサラタウンに着いていた。

 

 オニドリルが私達を気遣いながら、ゆっくりと降下してくれたので、私は、オニドリルから降りる前に、オニドリルの首の根元をギュッと抱き締めて御礼をした。

 地面に降り立つと「おっとっと」とオーキドは少しふらついていた。

 

「もう少し若い頃は大丈夫だったんじゃがな。リーフは酔っておらんかの?」

「うん、大丈夫だよ」

「強い子じゃな」

 

 初めて降り立ったマサラタウン。周囲をぐるりと見渡せば、タマムシシティと比べて少し淋しく感じられる。

 何処に居ても人ばかりだったのに、此処は探さないと人を見つけられない。それに建物が貧相だ。

 

「タマムシシティと比べると淋しいかも知れんな」

 

 オーキドは高笑いを上げて「此処には、此処の良い所がある。不便という程でもないしの」と私の頭を撫でた。

 

「先ずはワシの家族を紹介しよう。とは言っても娘夫婦なんじゃがな」

 

 彼は私の手を握り、手を引いた。

 少しゴツゴツとした感触、オーキドは子供の私から見ても体格が良かった。タマムシジムで待っていた時、彼の若い頃の活躍を見せて貰った事がある。今よりも幾分か肌黒い彼は、筋肉ムキムキのマッチョマンだった。勝利した時、ガッツポーズをした時の彼の腕が丸太のように太かったのが強く印象に残っている。

 兎も角、彼の娘夫婦が居るという家に訪れる。

 

 オーキドは、ピンポーンとチャイムを鳴らす。その様子に違和感を覚えた私が、彼の横顔を見上げれば「ワシは普段、研究所の近くにある団地で暮らしておる。合鍵はあるんじゃがな」と言った。

 

「⋯⋯一緒に暮らすんじゃなかったの?」

「ん〜、ワシは寝る時以外で家に帰る事は、ほとんどないからのお。研究所のポケモン達を見る為に寝泊まりする方が多いし⋯⋯」

「ふ〜ん?」

 

 なんか思ってたのと違うな。と考える私に「はいは〜い」と玄関扉の鍵が開けられる。

 

「あら、お父さん⋯⋯と?」

 

 エリカとは、また違った意味で美人さんが姿を見せる。オーキドの事を快く迎えた彼女は、私を見て、驚愕に目を見開く。

 

「か⋯⋯」

「おー、折り入って頼みがあってなあ」

「⋯⋯隠し子っ!?」

 

 恐らく事前に何も聞かされて居なかったオーキドの娘さんは下唇を噛んだ物凄い形相で、彼の左頬を振り被った右手でスパーンと打ち払った。

 

「な、何を⋯⋯!?」

「お母さんは、優しかったけど、私は許さないんだから!!」

「い、いや、違う。違うんじゃ、話を聞いてくれ」

「何が違うの!? 裏でキクコと2人で食事してたの私、知っているんだからね!?」

「な、何を⋯⋯あっ! あの日の事か!? あれはヤナギの奴が急に来れなくなってだな!!」

「他にもいっぱい、証拠写真だってあるんだから! もしもお父さんが浮気をして、貴方達を捨てるような事があればって遺しておいた写真がたくさん!!」

「はあっ!? あいつ、そんな事をしておったのか!!」

「そんな事は私の台詞よ! 結婚した後も女の人と一緒に居て、デレデレする写真を大量に渡された娘の気持ちも考えてよ!!」

「違う! ワシは一度も関係を持った事はない!!」

「デレデレはしてたよね!?」

「⋯⋯男には、逆らえん事もあるんじゃ」

「ほらあっ!」

 

 娘さんが、悲鳴を上げるように叫ぶ。オーキドのタジタジする姿を見て、私はタマムシジムのジムトレーナー達が言っていた修羅場が起きている事を察する。今朝のドラマだとか、なんだとか、そんな話。エリカは、そんな話を私に聞かせるなって怒っていた。私も詳しい訳ではない。だからオーキドの白衣の袖を引いて、聞いてみる。

 

「ねえ」

「ん? どうしたんじゃ?」

「⋯⋯不倫、してたの?」

「な、ちが⋯⋯!!」

 

 私が、不倫という聞き齧った言葉を口にした瞬間、オーキドの娘さんが途端に満面の笑顔を浮かべたのを見た。先程まで喚き散らしていたのも打って変わり、笑顔の裏に凄味のようなものを感じ取る。思わず、私はオーキドの背中に隠れた。だけど、オーキド自身も頼りなく、彼女の怒りが彼の身体を貫通して感じ取る。

 

「お父さんは何時もそう、お母さんは何時も一人で私の事を育ててくれました。文句も言わず、お父さんが知らない女の人と鼻を伸ばしてる間も。お母さんが倒れた時も帰って来なくて⋯⋯」

「それは⋯⋯ッ!」

「暫く、家に来ないでください」

 

 オーキドが言い繕う暇もなく、バタンと玄関扉が閉じられる。外に残される即席親子、ポケッとした顔を浮かべる私にオーキドは後頭部をガシガシと掻いた後、背中に隠れる私を見てポツリと零す。

 

「とりあえずワシの家に行くかのう?」

 

 私に問う、その姿は随分と小さく見えた。

 オーキドが借りている研究所近くの部屋は、寝泊まりするだけと言うだけあって物が少ない。そして部屋が汚かった。脱ぎ散らかした衣服が部屋の至る所に散乱しており、入り口横にある洗濯籠には下着類が放り込まれている。

 とりあえず、私はタマムシシティのお姉さん達に聞いた定番の言葉を口にしてみた。

 

「えっと⋯⋯お父さん、洗濯は別にしてください?」

「⋯⋯聞かれても困るんじゃが?」

「とりあえず、言ってみるのが親子だって聞いたので」

「うむ、誰かは知らんが、その人から聞いた事は、忘れてもしまっても良いぞ」

 

 自称、大人のお姉さん。貴女が言っていた親子像は世間一般から随分と離れてしまっているようです。

 

「とりあえず、シャワーでも浴びてくると良い。その間にワシは部屋の中を簡単に片付けておくからな」

 

 と、彼は腰を折って床に脱ぎ捨てられたシャツを手に取り、そして何故か表紙に水着姿のお姉さんが載った雑誌の上に落とす。ハナダジムと書かれていたので、別の町のタマムシジムなのかな? エリカは、くさポケモンのエキスパートだけど、ハナダジムは、みずポケモン? まあいっか、と私は洗濯機の置いてある更衣室で服を脱いで、浴室でシャワーを浴びる。そういえば、一人でシャワーを浴びるのは初めてだ。風呂に浸かった事もある、エリカと一緒に百秒も数えた。着替えもちゃんと持って来た、必要になる物はエリカがバッグに詰め込んでくれた。

 

 ホクホクで浴室を出てみるとオーキドはまだ部屋の中を片付けている。私は部屋の隅で腰を下ろし、慌てふためくオーキドの背中を見つめながらエリカの所に帰りたいなあ、としみじみ思いました。

 

 その日、私はソファで寝た。

 オーキドは、自分の方がソファで寝ると言い張っていたけど、臭いからやだ。って言ったら快くソファを譲ってくれました。どのくらい臭いのかと何度も聞かれたので、少し面倒になってテケトーにクサイハナと同じくらいって言っておく。

 浴室に足を運ぶ、オーキドの背中は煤けてるように見えた。 

 

 翌日、オーキドは朝早くに家を出る。

 私を一人にしておく訳にはいかないと私を連れ出し、研究所まで一緒に歩いて行った。

 そして研究所では「暫くウチで預かる事になった」と説明の仕方を変えていた。少しした後、白衣の皆にオーキドとの関係を聞かれたので「おやこのかんけい?」と言ったら、皆、物凄い形相でオーキドの事を睨み付けた。オーキドは「養父と養子の関係じゃ!」と必死なって訴える。

 白衣の眼鏡の女の人が「本当なの?」と聞いていたので「親と思わなくても良いって言ってたよ」と私は頷き返す。眼鏡の女の人はオーキドの襟を掴んで「親が認知しなくてどうすんだ、ゴラァ!」と怒鳴り付ける。

 オーキドは助けを求めるように私を見た。

 私も誤解をされてると思ったので、オーキドを庇うつもりで口を開く。

 

「オーキドとは、しょめんのうえだけのかんけいなんだよ?」

 

 言葉の意味は、よく分からない。

 だけど、オーキドは私を守る為の手段に過ぎず、私の人生を縛るものではないと言っていた。

 眼鏡の女性は、まるで魚のように口をパクパクと開閉させた後、まだ無傷だったオーキドの右頬を目掛けて左手が振り被られる。

 小気味良い音が研究所に響き渡り、何故か、より一層に激しくオーキドの事を罵り始めた。

 

 その人が申すにオーキドは甲斐性なしであるようだ。

 両頬を赤く腫らした彼は、まだ明るい内の帰り道で消臭剤を買い込んでいた。そして真っ暗闇になるまで洗濯機はゴウンゴウンと懸命に働き続ける事になる。溜まりに溜まったゴミを捨て、掃除機を掛ける。

 部屋は見違える程に綺麗になったけど、私が寝るのはソファーです。譲れないのです。

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