仮面ライダージオウIF NEXT TIME~ゲイツマジェスティ~   作:K/K

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数少ない既婚者ライダー。


アナザーレイ2008

 二人の自己紹介の後、喫茶店内に起こったのは重苦しい沈黙である。雰囲気からして只者ではない二人が同席する。それだけで相乗効果で息苦しくなってくる。

 

「あ、あの! 彼が明光院景都です!」

 

 その沈黙を破るように代表してソウゴが景都を照井の前に出す。本人らは意図していないのだろうが、これだけ重苦しい空気の中で率先して行動するのは中々の胆力である。

 

「お、おい!」

 

 ソウゴに半ば強引に着席させられる景都。その隣には名護が座っており、景都の顔をジッと見ている。

 

「君が明光院景都君か。今日から君のボディーガードを務めることとなった。よろしく」

 

 名護はそう言い、握手を求める。

 

「あ、どうも……」

 

 景都も差し出された手を握り返した。

 

「──こちらの話を進めてもいいか?」

 

 景都と名護の握手が終わったタイミングで照井が会話に入ってくる。

 

「好きにしなさい。俺はあくまで彼のボディーガードに過ぎない」

「お前には聞いていない」

 

 景都の代わりに名護が答えるが、照井はにべもない態度で一蹴する。傍から見ていた景都たちは胃が締め付けられるように気分になる。他の客も同じように感じたのか、大事になる前に何人か逃げるように喫茶店を去っていった。

 しかし、周りの予想とは違って名護は若干不機嫌そうに表情を険しくするだけでそれ以上の反応はせず、置かれてある珈琲を無駄の無い動きで飲み始める。景都と照井の話し合いが終えるまで邪魔をしないことをアピールする。

 

「警察官になりたいそうだな?」

 

 いきなり本題に入る照井。景都はいつの間にか決定事項になってしまったことに動揺を隠せず照井から目を逸らし且つ目が右へ左へ泳ぐ。

 

「いや……」

 

 折角来てくれたのにハッキリと断るのは失礼かと思い言葉を濁す。

 

「なりたくないのか?」

 

 これまた直球な照井の質問に景都は口を閉ざしてしまう。言葉にしなくとも景都の態度が殆ど答えているようなものだが──

 

「どっちなのかちゃんと答えなさい」

 

 ──景都の煮え切らない態度に業を煮やしたのか名護が口を挟んでくる。

 

「お前は黙っていろ。これは俺と彼の話だ」

「俺は彼のボディーガード。何も守るだけがボディーガードの仕事ではない。時には対象を導くのも役目。さあ、ハッキリと声を大きくして言いなさい。安心しなさい、万が一のことが起きても俺がしっかりと君を守ろう」

 

 独自の理屈で話に介入してくる名護。景都の背を押す為に言っているのかもしれないが、照井にとって聞き捨てならない台詞があった。

 

「……ここで俺が断られたら彼に危害を加えると思っているのか?」

「万が一と言った。ちゃんと、正しく、人の話は聞きなさい」

 

 圧を込めて言う照井。名護は一言、二言余計な言葉を付けて言い返す。

 景都は畏怖しながら照井と名護の顔を交互に見る。雰囲気からして分かっていたが、どちらも我が強く、簡単に自分から折れるタイプではない。そんな二人が向かい合えば当然のように衝突は発生する。

 

「あ、あの!」

 

 空気がこれ以上張り詰める前にソウゴが勇気を出して声を上げる。当然ながらそんなソウゴに照井と名護の視線が突き刺さる。

 その視線の鋭さに一瞬怯みそうになるが、ソウゴは堪えた。

 

「あぁぁ、あの! じゃあ! 照井さんはどうして警察に」

 

 景都が警察官に前向きでないのなら、照井の方から警察官に興味を抱くような話をしてもらえばいいと思い、無難な質問をする。

 

「俺に質問をするな」

「ご、ごめんなさい……」

 

 返って来たのは照井の容赦の無い一言。まさかの返答拒否にソウゴも意気消沈になるかと思いきや──

 

「折角、勇気を出して質問したというのにその態度……恥を知りなさい」

 

 ──名護の方から助け舟が出される。

 

「君、名は?」

「は、はい! 常磐ソウゴです!」

「では常磐君。失礼なこの男に代わって俺が君の質問に答えよう。さぁ、何でも訊いてみなさい」

「えぇ……?」

 

 話が変な方向に進んだことにソウゴは困惑してしまう。質問したいのは照井であって名護ではない。

 

「さぁ!」

 

 名護に気圧されてソウゴは仕方なく質問する。

 

「あの……名護さんは何でボディーガードの仕事を?」

「一つ訂正しよう。俺の本職はボディーガードではない。あくまでそれは頼まれたからしているだけに過ぎない」

「え? じゃあ名護さんは何をしている人なんですか?」

「俺はバウンティハンターだ」

 

 バウンティハンターと聞いてツクヨミと景都は目を丸くし、ソウゴは首を傾げ、照井元々寄っていた眉間に皺を更に深くする。

 

「ねぇ? バウンティハンターって?」

 

 バウンティハンターという仕事を知らないソウゴは、小声でツクヨミに訊く。

 

「簡単に言えば懸賞金がかけられている犯罪者を捕まえる人のこと。賞金稼ぎって言えば分かる?」

「すごっ! そんな人が実際に居るんだ! しかも日本で!」

「おい。あまりはしゃぐな」

 

 映画や漫画の中の職業が現実に現れたことにソウゴは興奮を隠せない。かくいう景都もまたバウンティハンターを職としている名護に興味を惹かれる。

 ソウゴからの羨望の眼差しを向けられ、名護は満更でもない表情になる。しかし、そんな名護に冷水を浴びせるのは照井の言葉。

 

「言っておくがバウンティハンターは海外では認められているが、日本では認められていない職業だ。憧れるのは結構だが、目指すなら止せ」

 

 照井の指摘は間違っていないが、憧憬により自尊心が大いに満たされていた名護にとっては傍迷惑なノイズである。

 

「……先程も言ったが君たち警察の手が届かない所を探し、見つけ、捕まえる。取りこぼされた世に潜む悪を捕まえる正義ある仕事だ」

「俺が言うことは変わらない。一般人が犯罪者に積極的に関わることを俺は勧めん」

 

 彼らが景都たちが来る前から険悪な雰囲気だったのは、互いの職業を明かしたせいであった。名護からすれば犯罪者を見つけ警察官らの手助けをしてあげている、という考えだが、照井は警察官という立場から一般人が犯罪者を捕まえるというのは危険行動であり肯定出来ない、という考え。

 どちらも自身の中にある正義、信念に基づいての行動であり、故にお互いに一歩も引かない。景都たちが来たことで一旦収まったが、今の会話で再燃し始める。

 喫茶店内の空気が更に重くなり、逃げるように喫茶店を出ていく客が増え出す。とんでもない営業妨害に喫茶店の店主など泣きそうな顔でこちらを見てくるので景都たちはとても気まずい。

 

「あ、あの!」

 

 この空気に待ったを掛けたのは景都。そもそも景都がこの場に於いて主役になる筈であったのだが、照井と名護のせいで完全に放置されてしまっていた。

 

「……来てくれたことは感謝しますが、俺は警察官になるとかそういうんじゃないので」

 

 外野の話の流れでこうなってしまったが、景都自身に警察官になる意思はない。

 わざわざ出向いたのに警察官になる意思はないと伝えられた照井。しかし、照井は気分を害した様子は無く真っ直ぐ景都の目を見つめる。

 

「迷っているな。──いや、進むべき道を見失っているだけか」

 

 景都の心情を見抜いた照井の発言に景都は心臓が跳ね上がる。

 

「俺も最初は目的もそこに至る道も人に誇れるようなものではなかった。だが、仲間との出会いが俺を変え、町を守る警察官にしてくれた」

「守る……」

「目標はある。だが、そこに至る道が見つからない。そうだろ?」

 

 景都の表情が歪む。景都の中にある目標。それを思い出そうとすると右足の傷が痛み出す。

 

「……失礼します」

 

 景都は逃げるように喫茶店を去ってしまう。

 

「ちょっと待って! 景都!」

 

 ソウゴも慌てて景都を追う。

 名護は何も言わず席から立ち上がった。

 

「おい」

 

 照井の声に名護の足が止まる。

 

「──彼を頼んだ」

「誰にものを言っている? 俺は名護啓介だ」

 

 その名こそが証明と言わんばかりの言葉を残し、名護は景都たちの許へ行く。

 ツクヨミも景都らを追おうとするが、その前に照井の前に立つ。

 

「すいません……折角来てもらったのに」

 

 景都の代わりにツクヨミが謝罪をする。警察官という忙しい仕事の間に時間を作ってもらったが、結局碌に話をせずに一方的に終わってしまった。照井を怒らせても仕方のない態度である。

 

「彼、目指していた夢を見失っなっちゃって……それに最近色々と周りで起こってて……」

 

 言い訳のように聞こえてしまうかもしれないが、景都という人物が誤解されないように精一杯彼をフォローしようとする。

 

「分かっている」

 

 照井は怒ることはせず、全てを理解しているような微笑をツクヨミに見せる。

 

「助けになってやれ。今の彼奴には支える仲間が必要だ」

「──はい。ありがとうございます!」

 

 ツクヨミは照井にお辞儀をし、喫茶店を出て行った。

 残った照井はテーブルに置かれてある珈琲を手に取る。すっかり冷めていたが、残すのは店に忍びない。

 すると、誰かが向かい側に座った。照井は動じることなく珈琲を飲み干し、空になったコーヒーカップを置いて向かい側の人物を睨む。

 

「照井竜だね?」

 

 相手に考えを読ませない微笑を向ける海東。

 

「俺に質問するな」

 

 照井はその笑みも問いも冷徹な言葉で切り捨てた。

 

 

 ◇

 

 

 喫茶店を逃げるように出た景都の心の中にあるのは自己嫌悪。乗り気ではなかったとはいえかなり失礼な態度をとってしまった。

 

「……いつまで付いて来る気だ?」

 

 景都の少し後ろにはソウゴが付いて来ている。

 

「だって今の景都は放っておけないし……」

 

 右足を怪我している上に悩みを抱えている。肉体的にも精神面にも不安定。しかも、変な怪物やロボットに狙われているとまで言われている。心配しない理由がない。

 

「放っておいてくれ」

「放っておけないよ……友達だし」

 

 いっそのこと心にもない言葉でソウゴを突き放せばいいのだろうが、景都はソウゴの方を向いて苦い表情をするだけで何も言わない。噓を言ってもソウゴはすぐに見破るだろうし、景都も思ってもいないことを発言出来ない。景都の態度そのものがソウゴの発言を事実と認めているようなものであった。

 

「あのさ……照井さんの話を聞いて思い出したんだ」

「……何をだ?」

「昔、景都が言っていたこと」

「俺が?」

 

 ソウゴに言われても景都はパッと思いつかない。

 

「守るって台詞。景都も柔道を始める前に言ってたよね? 人を守る為に強くなりたいって」

 

 ソウゴの言葉で嘗ての決意が掘り起こされる。だが、同時に右足に痛みが走った。痛みが在りし日の夢を否定しようとする。

 

「やめろ」

 

 柔道のチャンピオンになることは、その夢に繋がる為の大事な一歩だったのかもしれない。しかし、景都はその一歩を踏み外した。夢破れたと思っている景都にとって嘗ての夢を聞かされることは傷を開くような痛みを伴う。

 

「それを聞いて俺は凄いって思った。その為にずっと柔道をやって来た景都のこともカッコいいって思ってた」

「やめろっ!」

 

 景都はソウゴの胸倉を掴む。言われる度に今の自分が惨めに思えてくる。

 

「やめない! 俺も王様の夢が叶わないってなったら凄く落ち込むよ! でもいつまでも立ち止まっていない! 今の景都はカッコ悪いよ!」

「お前っ……!」

 

 カッコ悪い。それは景都自身も分かっていた。だが、ソウゴに図星を突かれ景都はついカッとなってしまい、胸倉を掴む手に力が籠る。

 

「そこまでにしなさい」

 

 突然現れた名護が二人の間に割って入り、あっさりと二人を引き剥がす。

 

「血気盛んなのは結構だが、暴力は止めなさい」

 

 激昂していた景都を窘める。

 

「俺は……! ッ……」

 

 頭に昇っていた血が一気に下がって行くと後に残るのは罪悪感。自分を心配してくれた相手に八つ当たりをしてしまったことが心を蝕む。

 

「落ち着いたか?」

「……すみませんでした」

 

 景都は名護に謝罪する。

 

「ボディーガードとして当然のことをしただけだ」

 

 名護はさも当然のように言う。

 

「君も大丈夫か?」

「ありがとうございます……」

 

 ソウゴは礼を言うが元気はない。友達と衝突してしまったことに凹んでいる様子。どちらも自分のしたことで気まずさを抱いている。

 名護は二人の態度に溜息を吐き、何か言おうとしたがその時異変を感じ取った。

 

「寒っ!?」

 

 風が吹き抜けるとソウゴは自分の肩を抱き寄せる程の寒気を覚える。続いて景都もまた驚愕する。吐く息がハッキリと白く見えたからだ。

 

「何だこの寒さは!? まだ九月だぞ!?」

 

 夏のピークは過ぎたが、それでも冬どころか秋にもなっていない。だというのに今、景都たちが居る場所の気温は急激に下がっていく真冬のような寒さになっている。

 

「まさか!?」

 

 異常気象。その原因は一つしか思いつかない。その瞬間、一陣の風──というよりも吹雪が吹き付けられ、景都たちの体に氷が張り付く。

 凍りそうになる瞼を開きながら吹雪が吹いて来る方向に目を向ける。景都の予想通り、そこには水色の目を光らせたアナザーライダーが吹雪を起こしている。

 全身を覆う白く長い体毛。両肩からは氷柱が不規則な並びで生えている。一見すると口が縦に開いているように見えるが、それは頭部に付けた獣の頭蓋骨を加工したサークレットの頬当ての部分であり縦に連ねられている牙がそう見えるだけで、その下には乱杭歯を生やした本来の口が見える。

 両腕にも獣の骨を加工した手甲を付けており、その骨には赤い石が埋め込まれている。腹部には蝙蝠の頭蓋骨をアクセサリーのように装着していた。

 文明を一切拒絶したの如きアナザーライダーの手甲に刻まれている『REY』と『2008』。

 全てを凍てつかせる冷気を放つアナザーレイ。

 

「ぐうぅぅ!」

「うぅぅ!」

 

 急速に冷やされていく体。目を開けていられることも出来ず、体が凍り付いていく。

 その時、景都たちの耳にその音声は届いた。

 

『R・E・A・D・Y』

「変身」

 

 名護と思わしき声が吹雪の中でも何故かハッキリと聞こえる。

 

『フィ・ス・ト・オ・ン』

 

 次の瞬間、凍てつくような猛吹雪が消えた。

 閉じていた目を開くと二人を守るようにして立つ白い戦士。

 

「貴様が何者かは知らないが、彼らを傷付けるのであれば──」

 

 何処までも広がっていく素晴らしき青空の下、太陽をその胸に宿した仮面ライダー。

 

「その命、神に返しなさい」

 

 イクサが降臨する。

 

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