仮面ライダージオウIF NEXT TIME~ゲイツマジェスティ~ 作:K/K
それは景都たちがアナザーレイの猛吹雪により視界を閉ざされていた時に起きていた。
景都とソウゴと同じく吹雪により体表に氷が張り付いていく中、名護はその目を閉じることなく元凶であるアナザーレイを睨みながらジャケットの中に隠しておいたベルトを腹部へ巻き付ける。
イクサベルトと名付けられているそれには赤い宝玉のようなジェネレーターが埋め込まれ、金のラインがジェネレーターを囲う。
続いて懐から取り出すナックルガード。武器であると同時にジェネレーター発動キーであるイクサナックルに名護は左掌を押し当てる。
『R・E・A・D・Y』
イクサナックルが起動すると名護は右腕を水平に伸ばし──
「変身」
掛け声の後にイクサナックルをイクサベルトにセットする。
『フィ・ス・ト・オ・ン』
イクサナックルと一つとなったイクサベルトから金の十字架が出現し、名護の顔正面に十字架が移動するとそれを起点にして装甲を展開。物体化した装甲が名護に装着される。
黒いスリットが入った金十字架の仮面。白を基調とした装甲とその下に着用される黒のインナースーツ。胸部には動力源となるエンジンが入っているので他よりの装甲の厚みがあり、胸部中央には太陽を連想させる赤のインジケーターがある。
仮面ライダーイクサ・セーブモード。それが今の名護の姿の名。
顔面中央の十字架が展開され、その下の赤い目が露出。パワーを抑えていたセーブモードから性能を完全開放したバーストモードへ移行。同時にモードチェンジの余波で発生した熱風が吹雪を打ち消し、一瞬にして身を凍らす冷気は消え、後に残るは爽やかな風のみ。
ただの風が吹き抜けていく中で景都たちは目を開き、イクサの姿をようやく見る。
「貴様が何者かは知らないが、彼らを傷付けるのであれば──その命、神に返しなさい」
イクサから発せられた声に二人はそれが名護の変身した姿だということに気付いた。
「名護さんか!?」
「何それ!? カッコイイ……」
景都は名護もまた仮面ライダーであることに驚き、ソウゴは仮面ライダーというものは初めて目撃し、その造形に子供のように見惚れる。だが、ソウゴはすぐにアナザーレイの存在にも気が付いた。
「うおあっ!? か、怪物!?」
アナザーライダーの悍ましい姿にソウゴは恐怖する。平凡な高校生として今まで生きてきたソウゴにとっては衝撃的であった。
「あ、あれがアナザーライダーなの!? 景都!?」
話に聞いていたアナザーライダー。景都の話を疑っていた訳ではないが、いざ目の前に現れたらパニックになってしまう。尤も、それは人として当たり前の反応であるが。
「──そうだ」
「だったら早く逃げて! 狙われているんでしょ!」
「お前……」
この期に及んで自分の身よりも景都の安全を優先するソウゴ。口に出すのが恥ずかしくて言えないが、景都はソウゴとの友情を強く感じた。
「安心しなさい」
イクサが背中越しに二人に声を掛ける。
「君たちは俺が守る。ボディーガードとして」
二人の目には純白の背中が頼もしく映る。
吹雪による牽制が無効化されたアナザーレイは、自分の顎下まで両手を持ち上げる。その手に向けてアナザーレイは口から白い吐息を吐き出す。すると、白い吐息を吹き掛けられた手の中に硬球サイズの氷の塊が作られていく。アナザーレイの口から吐かれたのは見た目通り冷気であった。
アナザーレイは出来上がった氷の塊を握り締めるとイクサ目掛けて投擲。滅茶苦茶なフォームで投げられているが、人外の腕力から繰り出される投擲はプロの投手を遥かに上回る速度を出す。
命中すれば人体など軽々と粉砕するであろう氷の塊。だが、それがイクサたちに届く前に氷の塊は空中で粉砕された。
氷の塊を粉砕したのはイクサが握っている銃。側面にイクサベルトと同じ赤いコアを付け、金色の翼の装飾がされておりグリップ底からはマガジンが延長している。
アナザーレイはもう一度氷の塊を投げようとする。発砲音の後、今度は投げられる前に氷の塊は砕け散った。
イクサ専用武器であるイクサカリバーによる銃撃。注目すべきは弾丸の威力ではなく射撃の精密さ。投げられた氷の塊も投げられようとしている氷の塊も正確に撃ち抜いたのは、イクサの性能だけでなく名護自身の技量によるもの。
氷の塊を失ったアナザーレイは、怒りを表す唸り声を上げながら投擲を止め、接近戦を仕掛けようとしてくる。
アナザーレイが駆けだすと同時にイクサはイクサカリバーを発砲。撃ち出された弾丸はアナザーレイの両肩、両膝、両脚に着弾した。
一発命中するだけでも転倒してもおかしくない威力。だが、アナザーレイは着弾の衝撃の際に一瞬だけ体を震わせるだけで足を止めることはなかった。
イクサは続けて銃撃を行うが、今度は体を震わせることもせず弾丸を浴びながらも走り続ける。
アナザーレイの全身から生える白い体毛。衝撃に強い性質が備わっているらしく弾丸を受けても体毛で弾丸は止まってしまい、その下まで届かない。また着弾の衝撃も体毛が分散してしまい、衝撃は大幅に削られてしまって足止めすることも出来なかった。
弾丸では止めることが出来ないと判断したイクサは、イクサカリバーのマガジン底に手を当てる。
マガジンをグリップ内に押し込むと、イクサカリバー中央部から赤い刀身の刃が伸びる。
これがイクサカリバーのもう一つの姿。ガンモードからカリバーモードへと切り替わった。
イクサは接近してきたアナザーレイの肩にイクサカリバーを振り下ろした。
「くっ!」
イクサが唸る。イクサカリバーの刃はアナザーレイの体毛に防がれている。ガンモード時の銃撃でダメならカリバーモードでの斬撃と思ったが、アナザーレイの防御力はイクサの想像を超えていた。
アナザーレイは肩で受け止めているイクサカリバーの刃を素手で握る。イクサは咄嗟にイクサカリバーを引くが、アナザーレイの握力がそれを阻む。
アナザーレイの大振りの拳がイクサの顔面を叩き砕く為に迫るが、イクサは頭を下げてそれを躱し、イクサカリバーのトリガーを引く。
ガンモード時にチャージされたエネルギー弾がイクサカリバーから吐かれ、近距離からアナザーレイを撃つ。しかし、距離が近くともアナザーレイの体毛は弾を貫くことを許さない。
しかし、着弾の衝撃は完全に殺せないらしくアナザーレイの握力が僅かに緩む。その瞬間、イクサは手首を捻ってイクサカリバーの向きを変え、アナザーレイの顔面目掛けて銃撃を行った。
顔面への着弾にアナザーレイも流石に怯む。その一瞬の隙を突いてイクサはアナザーレイの鳩尾を膝で突き上げた。
アナザーレイは膝蹴りにより大きく後退するが、さほどダメージを受けた様子はない。覆っている白い体毛は銃撃、斬撃、打撃を全て軽減してしまう。
「厄介だな」
イクサカリバーを封じられたに等しい状況にイクサは小さく零す。戦う手段はまだあるが、イクサとしてはここで確実に仕留めておきたい。
アナザーレイは距離が開くとすぐには詰めず、氷の塊を作った時のように自分の両手を口の所まで持ち上げ、両手に白い冷気を吐きかける。
今度は氷の塊を作るのではなく、冷気により骨の手甲を氷で覆わせていく。すると、鋭く伸びた氷が形成されていき、最終的には両手甲から爪のような三本の氷柱が生える。
氷で出来た爪を構えるアナザーレイ。様子見は終え、本気でイクサを倒すつもりらしい。
イクサとてアナザーレイに負けるつもりはない。イクサの頭の中には既にアナザーレイを倒す為の算段が出来上がっている。後はそれを実行するだけなのだが、ここでイクサの集中を乱す事態が起きる。
「うわっ!」
ソウゴの悲鳴が聞こえる。イクサが景都とソウゴの方を見るとカッシーンが彼らに迫っているのが見えた。
「くっ! もう一体いたか!」
アナザーレイを止める筈が自分の方が足止めをされている事実にイクサは焦りを覚える。
「これがツクヨミが言っていたロボット!」
「やっぱりこいつもグルか!」
カッシーンがアナザーライダーたちと繋がっていることを確信する景都。
「我が魔王よ」
すると、カッシーンがソウゴへ話し掛けてきた。いきなりカッシーンに魔王と呼ばれ、ソウゴは驚く。
「魔王? ……俺が?」
「貴方様以外に誰が居られるか」
カッシーンはそう言いながらソウゴへ一礼する。
「貴方様の命により救世主の命を頂く──ですのでその男から離れて下さい」
カッシーンの言葉に衝撃を受けるソウゴ。だが、すぐにその目に強い意志を宿す。
「──違う」
「何ですと?」
「違う! 俺だったらそんな命令なんてしない!」
魔王となったソウゴに命令された、そう主張するカッシーンをソウゴ自身が否定する。
「俺は皆を守る王様になるんだ! 誰かの命を奪えなんて言わない! ましてや友達の景都の命を奪えなんて絶対に言わない!」
「常磐……」
カッシーンに怯え、震えながらも強く言い放つソウゴ。王様になるという夢が決して口先だけではないと行動で示している。
「──やれやれ。どうやら少し混乱をなさっているようですね」
ソウゴを無視して景都に近寄ろうとするが、その前にソウゴが立ち塞がる。
「や、やめろ!」
ソウゴが体を張って景都を守ろうとする。
「常磐!」
「逃げろ! 景都!」
震えながらも精一杯の勇気を出して景都を守ろうとするソウゴ。
「我が魔王よ。そこをお退き下さい」
カッシーンはいとも容易くソウゴを押し退ける。
『ライダーターイム!』
「むっ!」
飛来してきた『らいだー』の文字が次々とカッシーンに当たり、カッシーンを弾き飛ばす。
『仮面ライダーケイト!』
カッシーンに当たって跳ね返った文字は、仮面ライダーへと変身したケイトの仮面に収まった。
「景都も……変身した!?」
景都が変身した姿を初めて目撃したソウゴは驚きと困惑を混ぜた声を上げる。
「名護さん! 自分の身は自分で守れる! だからそいつに集中してくれ!」
ケイトはアナザーレイと戦っているイクサを安心させようとする。
「──五分以内に決着をつける。それまで持ち堪えなさい」
イクサはケイトの意思を受け取り、五分間だけはアナザーレイのみに集中して戦う決断をした。
『ジカンザックス! Oh! No!』
ジクウドライバーからジカンザックスを召喚して構えるケイト。カッシーンも三叉槍を取り出し、その矛先をケイトに向ける。
ケイトとカッシーンが相対する中、それを高見で見物する人物が居た。
「少しは救世主らしくなってきたじゃないか」
ウォズがジカンザックスを持つケイトを見ながら口角を上げる。
「彼を守れるのは君だけだよ? そして、
◇
「はぁ……! はぁ……!」
ツクヨミは息を切らしながらも全力疾走を続けていた。走り続けて肺も痛いし、足の筋肉も限界を超えようとしている。だが、それでも走る速度を緩めることは出来ない。
聞こえて来る地響き。ツクヨミはひたすらそれから逃げていた。
振り返る余裕すらなく逃げ続けているが、地響きが聞こえなくなることはない。
景都たちを追い掛ける為に喫茶店の外に出たが、そこでアレに遭遇してしまった。
遭遇、というのは正しくないかもしれない。何故ならアレはずっとツクヨミのことを追っている。最初から自分が狙いだったのかもしれない。
何処へ逃げればいいのかツクヨミ自身も分からない。助けを求めようにもさっきから不自然なくらいに人に遭わない。
助けを求められないならせめて何処かに身を隠さなければと思った時、横から伸びてきた手がツクヨミの腕を掴み、壁の陰に引きずり込む
「きゃっ──」
悲鳴を上げそうになるがその口を手で覆われてしまう。
「しー」
人差し指を立てて静かにするよう促すのは、教室で出会った妙に馴れ馴れしい転校生である海東。
一応知っている人だったのでツクヨミは悲鳴を止め、静かにする意思を伝える為に首を縦に振る。
ツクヨミの反応を見て海東は手を離し、二人は揃って息を潜めた。
地響きが近付いてきて、やがてツクヨミたちの居る辺りで止まる。暫くの間、地響きは止まっていたが、やがて離れていった。どうやらツクヨミたちを見失ったらしい。
「はぁ……」
追い掛け回されるプレッシャーから解放されたツクヨミは溜息を吐く。
「大丈夫?」
「……ありがとう」
海東のことはまだ得体が知れない相手だが、助けられたのは事実なので礼を言う。
「向こうもなりふり構わなくなってきたね。本人だけじゃなく周りの人たちも巻き添えにするつもりだ」
「もしかして……明光院君と関係あるの?」
「まあね」
海東は何かを知っている口振りであった。
「教えて! 明光院君は一体何に巻き込まれているの!?」
「──知らない方が君の為だと思うよ? 今の日常を大切にしたいのなら詮索は止めたまえ」
深入りさせないようにしているのか突き放すように言う海東。ツクヨミは不満気であったが、海東はそんな彼女を無視してこの場から離脱しようとする。
海東が棒立ちのまま数秒過ぎる。何も変化はない。
「どうしたの?」
海東の態度を訝しんでツクヨミが訊く。
「……やられた」
海東は悔しそうに呟く。
「どういう意味?」
「どうやら向こうは僕が来ることを予想していたらしい」
海東はオーラとウールを移動させた時に見せた銀色のオーロラを出現させるつもりだったが、どれだけやっても発生しない。外からの力により発生を押さえつけられてしまっている。
「それって……まだピンチってこと!?」
「ああ。どうやらそう──」
そこまで言い掛けて海東の言葉が止まり、一点を凝視する。ツクヨミは海東の視線を辿り、彼と同じように固まった。
壁の陰を覗き込む大きな赤い目。彼らは見つかってしまっていた。
「逃げるよ!」
海東はツクヨミの手を引いて走り出す。地響きはすぐ背後から聞こえて来る。
「何か方法はないの!?」
「今の僕には無理だ! 諦めたまえ!」
海東はそう言い兎に角逃げることしか出来ないことをツクヨミに告げる。
必死になって走るが距離は開かない。それどころか地響きが近くなってきている。
海東とツクヨミの周囲が暗くなった。それは二人を掴まえる為に伸びてきた巨大な手の影。
万事休す、と思われた瞬間横から飛んで来た黄色の光弾が手に着弾した。
手を撃たれたソレは呻くが、白煙が少し上がっているだけで傷は無い。
「君はトラブルしか起こせないのかなぁ?」
光弾を放った人物が嫌味を発する。
サイドカーに跨る仮面ライダー。紫の複眼を区切る顔のχのマーク。銀色の装甲に中央も黄色のラインでχが描かれ、黒のアンダーアーマーには黄色の二本線が伸びている。
ツクヨミは知らないが、海東はその仮面ライダーの名を知っている。
仮面ライダーカイザ。それが二人に危機に現れたライダーの名である。
「──助けに来てくれたことには素直に感謝するよ。でも──」
海東の見上げる先にあるのは自分たちを追い掛けていた巨体。
扇型の黒い兜を被り、そこから覗かせる赤の単眼。眼が大き過ぎて眼球そのものが兜を被っているように見える。
全身には皮製の黒い装甲を装着──というよりも骨のような灰色の体に鋲で打ち込まれており、腰には獣の皮を巻き付けている。胸には単眼を模した装飾があり、まるで生きているかのように生々しい。
先端が二叉に分かれた剣か鈍器か分からない円筒状の黒い武器を肩に担いでいる。巨体に合わせた大きさであり柱を担いでいるような迫力がある。
右肩には『ORGA』、左肩には『2003』
前傾姿勢になっていても海東たちが見上げてしまう大きさ。アナザーライダーの中でも一、二を争う巨体を持つアナザーオーガに──
「流石に相手が悪いんじゃないかな?」
──海東は珍しくカイザの身を案じるような忠告をした。
アナザーオーガの身長はエラスモテリウムオルフェノク激情態の全高と同じという設定です。