仮面ライダージオウIF NEXT TIME~ゲイツマジェスティ~ 作:K/K
アナザーオーガの襲撃から辛くも逃れることが出来たツクヨミは、サイドバッシャーの後部座席に乗りながら流れる風にその長い髪を揺らしていた。
彼女がしがみついているのはカイザ──ではなく生身の人間。離れる最中に仮面ライダーの姿は目立つと判断してベルトからカイザフォンを抜き、生身へ戻っていた。
正直、カイザの変身者がどんな人かはツクヨミは分からない。走行中故にしがみついてはいるが内心では若干恐怖を感じていた。
助けてもらったが、アナザーオーガとの戦闘はかなり危険なものであり危うく巻き込まれかけた。尤も、アナザーオーガのような巨人を撃退するにはカイザもなりふり構わなかったのかもしれない。
側車には海東も乗っているが、気まずい様子のツクヨミに助け舟を出す様子もなく流れていく景色を眺めている。
会話一つないまま三人は走り続け、やがて人気の無い場所でサイドバッシャーは止まる。
「ここまで来れば一先ず大丈夫な筈だ」
そう言い振り返る。この時、ツクヨミは初めてカイザの変身者の顔を見た。
精悍な顔付きをしている男性。表情を柔らげれば好青年に見えるだろう顔立ちをしている。しかし、雰囲気が刺々しいものがあり気安く話し掛けられないオーラを纏っている。
「ありがとう。助かったよ」
海東がニコリと笑い礼を言う。男はその礼を無視して懐からウェットティッシュを取り出し、手を拭き始めた。
(潔癖症なのかな?)
ツクヨミが見ていると男と目が合う。
「あ、あの! 助けてくれてありがとうございます!」
言い忘れていた礼を男に言う。男は手を拭くのを止め、少しの間ツクヨミを見ていたが、やがて視線を逸らす。
「──まだ奴が襲ってくるかもしれない。しばらくの間は俺たちと一緒に行動した方がいい」
ツクヨミの身の安全を考えて共に行動することを提案する。
「は、はい! でも、私の友達も同じような怪物に襲われたことがあって……」
「……分かった。取り敢えず君の友達とも合流しよう」
威圧感のある顔だが、拍子抜けするぐらいにツクヨミの話を聞いてくれる。
「ありがとうございます! あの、私は月読有日菜といいます。良かったらお名前を伺いってもいいですか?」
「……草加雅人だ」
「草加さんですね」
互いに自己紹介を済ますと海東が話し掛けて来る。
「あれ? 君にしては随分と優しいねぇ。もしかして、彼女みたいのがタイプだった?」
その途端、ツクヨミに対しては友好的であった草加の雰囲気が反転する。
「馴れ馴れしいなぁ……」
草加が海東を見る目は部屋に湧いた害虫を見るかのような侮蔑と嫌悪に満ちている。もしかしたら、それ以下の対象として見ているのかもしれない。
「君と俺がそんな会話をする仲だと勘違いしているのかな? もう少し客観的に物事を見た方がいい」
(絶対友達でも仲間でもないわ、この二人……)
今の会話だけで両者の関係性を確信してしまう。恐らくは共通の目的の為に協力しているだけの関係なのだろう。
蔑む草加に対し、海東の方は全く効いていない様子。草加の嫌味も聞き流している。
「それはそれとして随分と苦戦していたじゃないか。僕が折角用意してあげた
「君が用意した物だから使わなかっただけだ」
『お前を信用していない』と草加の目が語っている。
「宝の持ち腐れだね。そう言うなら返したまえ」
「人にあげた物を簡単に返せって言うから君は友達がいないんじゃないかなぁ?」
「友達ぐらいは──いるさ」
海東の台詞は少しだけ歯切れが悪かった。
両者の間で険悪な空気が流れる。間に挟まれているツクヨミは生きた心地がしない。
その時、ツクヨミのスマートフォンが鳴り出す。
「ご、ごめんなさい」
空気を壊す着信音にツクヨミは謝るが、結果として険悪な空気が霧散した。
目を合わせようともしない二人の間で着信相手の名を見る。
「明光院君!?」
只事ではない予感がし、ツクヨミは急いで通話状態にする。海東と草加も景都からの連絡が気になったのか耳だけは傾けていた。
「明光院君!? 何かあったの!?」
『良かった、繋がったか! ……さっきアナザーライダーに襲われた』
「明光院君も?」
『明光院君もだと……まさか、お前も襲われたのか!? ツクヨミ!?』
中々合流しないことを懸念しての通話であったが、繋がった時は景都は安堵していたが、一転して動揺からか声を荒げる。
「私は無事よ。海東君と草加さんに助けてもらったから」
『何? 海東だと……。それと誰だ草加という奴は?』
知っている名と知らない名を出されてスマートフォンの向こう側の景都は混乱している様子。
「明光院君と同じで変身出来る人」
『仮面ライダー……という訳か』
「明光院君の方は大丈夫なの?」
『ああ。名護さんが助けてくれた』
「そう。良かった……」
ツクヨミは安堵の息を吐くが、次に齎された報せに息が止まる。
『だが……常磐がアナザーライダーに攫われた……』
「常磐君が!?」
ツクヨミは眩暈のような感覚に襲われ、足から力が抜ける。膝から崩れ落ちそうな所を草加に腕を掴まれて支えられる。
「あ、ありがとうございます……」
声に力の無いツクヨミの礼。草加は彼女を引っ張り上げて何とか自力で立たせる。
「常磐君が……どうしよう!? 明光院君!」
『落ち着け、ツクヨミ。安心しろ、行く先は知っている』
「本当!?」
『ああ。ウォズが教えてくれた』
「ウォズさんが?」
ウォズという言葉に海東が微かに反応し、横目でツクヨミを見る。
「……信用してもいいの?」
思わず出てしまった言葉がそれであった。ウォズは景都に仮面ライダーとして戦う力をくれた。だが、ウォズが現れてから景都の人生は一変してしまった。また自分の詳細について全く語ろうとしない。ツクヨミは今一歩ウォズを信じ切ることが出来なかった。
『言いたいことは分かる……しかし、今はそれしか手掛かりがない』
景都もまたウォズを信用し切れていないが、手掛かりは一切無い現状ではウォズの言うことを信じるしかなかった。
『大丈夫だ。名護さんも付いてきてくれる。俺のボディーガードだからな。それにウォズも付いてくるらしい。──不審な行動をしないか俺と名護さんが目を光らせておく』
景都が一人ではないことが数少ない安心材料であった。
『俺は常磐を助けに行く。ツクヨミ、お前は安全な場所を探してそこで待っていてくれ』
「明光院君……」
景都はそう言い残し、通話を切る。
丁度そのタイミングでツクヨミたちの傍に一台の赤いバイクが停車した。ヘルメットを被っているので搭乗者の顔は見えないが、バイクと同じ赤いレザージャケットには見覚えがある。
「ここに居たか」
ヘルメットのバイザーが上がる。バイクの搭乗者は喫茶店で会った照井であった。
「照井さん!?」
何故ここに、と言う前に照井の視線が海東に向けられる。
「お前の予想が当たったな」
「まあね。でも、常磐君が攫われたのは少し予想外だったかな」
「どういうこと? もしかして明光院君たちが襲われるのを知っていたの!?」
海東の口振りにツクヨミは詰め寄るが、海東は悪びれた様子はなかった。
「あくまで予想さ。照井刑事に頼んで遠くから張り込んでもらっていたんだよ」
「……民間人からの通報だ。警察としては動かざるを得ない」
そう言う割には照井の表情は若干不服そうに見える。
「言ってくれれば……!」
「事前に防げたと言うのかい? 都合のいいことを言うのは止したまえ。そもそも君たちは僕のことを簡単に信じていたかい?」
『それは貴方の態度のせいでしょうが!』と怒鳴りつけてやりたかったが、海東の言っていることも事実なのでツクヨミは冷静になるために一度深呼吸をして間を置く。
「……それで、常磐君は何処に連れて行かれたんですか!? 照井さん!?」
気持ちを切り替え、ソウゴの心配だけする。
「少し待て」
焦るツクヨミを宥める照井。その言葉の後、電子音声のようなものが空から聞こえて来た。
ツクヨミが空を見上げると何かがこちらへ飛んで来る。照井がそれに向かって手を伸ばすと、それは照井の手の中に降りた。
「ご苦労だった」
「カ、カブトムシ?」
ツクヨミの言う通り見た目はカブトムシ。だが、メタリックブルーの外装や角張った角や手足はどう見ても人工物。機械で出来たカブトムシである。
ツクヨミが外見に驚くそれはメモリガジェットというデバイスであり、名前はビートルフォン。その名通りカブトムシに変形出来る携帯電話である。
「尾行させておいた。常磐ソウゴの居場所はこいつが案内してくれる」
ビートルフォンは照井の手から飛び立ち、肯定するように角を上げ下げする。
「今から俺が常磐ソウゴの救助に向かう」
「じゃあ、私も──」
「ダメだ」
同行を希望するツクヨミを、照井はきっぱりと拒否した。
「警察官として民間人を危険な場所に連れて行く訳にはいかない。安心してくれ。常磐ソウゴは俺が必ず救い出す」
照井は警察官としての矜持を述べ、バイクを走らせて去ってしまう。ツクヨミはその背中を見送ることしか出来なかった。
照井はああ言っていたが、だからといってツクヨミも黙って待っていられない。折角の手掛かりは照井と共に行ってしまった。残された可能性は──
「海東君! 貴方なら──」
何か方法があるんじゃないの、と言おうとしたがその言葉は途中で呑み込まれる。側車に乗っていた筈の海東はいつの間にか姿を消していた。
「──ああもう! そういうことばっかしていると本当に友達出来ないよっ!」
半ば八つ当たりでツクヨミは空に向かって怒声を上げる。
「海東大樹は信用出来ない。奴はそうやって楽しんでいるんだ」
草加の方も海東に対して不機嫌そうであった。いつの間にかツクヨミの護衛を押し付けられていたのだからそうなるのも無理はない。
ツクヨミの怒声が空にこだました後、彼女は萎れたように肩を落とす。
「これからどうすればいいの……?」
大人しく待っていることしか出来ないという現実。友達の心配をしても何も出来ない無力感。怒りの後には哀しみが湧いてくる。
沈黙が訪れる。
「はぁ……出来ることなら使いたくなかったが」
すると、草加は溜息を吐き、小声で何かを呟くと懐からある物を取り出す。カイザフォンではない。スマートフォンの形に似ており、草加はその画面を指で触れ、何かを入力している。
「それでどうするんだい?」
「え?」
「居場所は分かったけど行くのかい? 行かないのかい?」
「居場所が分かったって……ええ!?」
普通に言うので思わず聞き流してしまいそうになる。
「そんなこと出来たんですか?」
「……奴に借りを作るような形になるから出来ればやりたくはなかった」
草加は手の中のそれを忌々しそうに見下ろしている。
「……いいんですか? 私を連れて行って?」
「俺は警察官じゃない」
照井とは考え方が違うとはっきり宣言する。
「──お願いします! 私を常磐君の所へ連れて行って下さい!」
ツクヨミは迷うことなく草加にお願いした。
◇
とある廃工場。そこでソウゴは拘束されていた。
「我が魔王よ。無礼をお許しを。全てが片付けばすぐにでも解放しますのでもう少し辛抱していただきたい」
別固体のカッシーンがソウゴに丁寧に頭を下げる。
「もうそんなのいいから解放してよー!」
ソウゴがうんざりしながら言うが、カッシーンは聞く耳を持たない。
「我が魔王よ。貴方は覇道を進む御方。その自覚を持っていただきたい」
「俺がなりたいのは魔王じゃない。皆を幸せにする王様だっ!」
「──その御考え、正しく矯正するのも臣下の務め」
カッシーンがソウゴに手を伸ばそうする。だが、触れる直前に飛翔してきたビートルフォンがカッシーンの手を弾く。
「何奴!?」
「俺に質問するな」
何かを引き摺るような音と共に照井が姿を現した。現れた照井は複雑な機械機構が仕込まれた大型剣を握っており、かなりの重量があるのか構えて運ばずに引き摺って運んでいる。引き摺る音の正体は剣先が地面を擦る音であった。
「照井さん!?」
「助けに来た」
照井は大型剣──エンジンブレードを地面に突き立て、ジャケットの内側からバイクのハンドルの形をした物を取り出す。
それを腹部に当てるとベルトによって固定される。
『アクセル!』
赤いメモリスティックに似た物のスイッチを押す。それはアクセルメモリと呼ばれるものであり、中には地球から取り出した『加速』の記憶が宿っている。
起動状態になったアクセルメモリを装着しているアクセルドライバー中央に挿し込んだ。
「変……身!」
アクセルドライバーのスロットを回す。
『アクセル!』
アクセルドライバーからタコメーターが投影され、針が動き『A』の文字を表す。
エンジンの始動音が唸り、アクセルメモリから放たれたエネルギーが物体化して照井を覆っていく。
全身を覆う赤い装甲はバイクをモチーフにしており、ヘルメットを意識した頭部。仮面奥には複眼状の青い円形のカメラアイがあり、青く発光する。
「仮面ライダー……!」
カッシーンはその姿を忌々し気に言う。
「ならこいつが貴様の相手をしよう!」
廃工場の隅から沸くようにして現れるアナザースカルクリスタル。ソウゴを誘拐して廃工場に連れ去った後、姿が見えなくなっていたが不定形な体を生かして廃工場内に潜んでいた。
「……随分と不愉快な見た目をしているな」
照井が変身した姿──仮面ライダーアクセルは突き刺していたエンジンブレードを軽々と抜く。
「さぁ──振り切るぜ」
Q草加がツクヨミに優し過ぎない?
Aツクヨミに真理と似た雰囲気を感じたので