仮面ライダージオウIF NEXT TIME~ゲイツマジェスティ~ 作:K/K
銀色のオーロラを抜けると景都は真っ白な空間に一人で立っていた。
「ここは……」
見渡す限り真っ白であり、そのせいか遠近感が狂って広いのか狭いのか分からない空間であった。
ウォズが本性を見せ、景都に襲い掛かって来た所までは覚えているが、その後突然銀色のオーロラにより転移させられてしまった。
「……はっ!? 常磐は!?」
自分一人しか存在しないことに気付く。あの場所にソウゴを置いてきたらウォズが何をするか分かったものではない。
「安心しなよ。あの王様君は一先ずは手の届かない場所に置いてきたから」
「海東……!」
真っ白な空間内に景都と同じく銀色のオーロラを潜り抜けて海東が姿を現す。
「今の僕じゃあ、ここに連れて来るのは君一人が限界だったんでね」
「そんなことよりも常磐は無事なんだろうな!?」
「自分のことよりも彼のことを優先かい? 変わらないねぇ、君は」
まるで過去の景都を知っているような口振りに景都は訝しむ。海東と会ったのはごく最近であり、少なくとも以前に会った記憶は無い。
「記憶が無くてもおかしくないさ。僕が一方的に知っているだけだからね、嘗ての君を」
「さっきから意味の分からないことを……」
「本当に意味が分からないのかい? そのウォッチが覚醒したからには多少は分かっていると思うけど?」
海東の指差すのは景都の握るライドウォッチ。ケイトライドウォッチから進化したゲイツライドウォッチ。
「それは……」
海東の指摘通り、頭の中でざわめくものは感じていた。しかし、ハッキリとはせず気持ち悪いもどかしさを覚える。
「じゃあ、そろそろちゃんと取り戻しに行こうか?」
「何?」
「君の記憶を。付いてきたまえ」
再び銀色のオーロラが発生し、景都と海東を覆った。
◇
2019.8.25
崩壊した都市で行われる熾烈な戦闘。その中で今まさに一つの命が消えようとしていた。
『うわあっ!』
地面が割れ、衝撃波がソウゴを煽る。土煙が消え去った後、砕けた地面の中央に傷だらけのゲイツが血を流しながら横たわっていた。
『ゲイツ……ゲイツ!』
ソウゴは駆け寄りゲイツを抱き起す。
『ゲイツ、しっかりしろ……!』
『ジオウ……」
薄っすら開けられるゲイツの目。焦点が合っておらず目も虚ろであった。ゲイツは震える手を伸ばす。しかし、掴む相手を探して左右にゆらゆらと揺れる。既に目も見えていない状態であった。
『ゲイツ!』
ソウゴはその手をしっかりと握り締め、自分がここにいることを伝える。
『ジオウ……』
その声は細く、掠れていた。
『お前は……お前が選んだ道を……進め……たとえ……それが……奴の計画通りだと……しても……』
ゲイツの一言一言が声ではなく命を吐き出している様に思えてくる。
『でも……!』
『大丈夫、だ……どんな道を選ぼうが……お前が……最高最善の魔王に成れることを……俺は信じて……いる……』
力を恐れるソウゴ。ゲイツは今のソウゴなら決して道を違う事が無いとその背を押す。
『幸せだったぞ……この時代に来て……』
初めは未来を変える為にソウゴを抹殺するのが目的だった。だが、そこで知った常磐ソウゴの人柄に興味を持ち、考えの違いから何度も衝突し、いつの間にか胸を張って仲間と呼び合える仲となった。
最初の自分と今の自分を比べ、ゲイツは微笑を浮かべる。
変わったのは未来では無く自分。しかし、後悔は何一つ無い。
『俺は……ここまでだ……ウォズ……仲間として……頼む……こいつを見守ってやってくれ……』
『ゲイツ君……!』
ゲイツの最期の頼みにウォズは唇を震わせながら『逢魔降臨暦』を強く握り締めた。
『ソウゴ……俺は……お前と……友になれて……』
友たちに最期の言葉を残し、明光院ゲイツの短い生はここで幕を下ろす。戦いだらけの人生の中で最後に見つけることが出来た幸福に見送られて。
そんな自分の最期を景都は見ていた。今の景都は半透明になっており、映像の中に投影されたような存在になっている。
見たこともない着たこともない衣服を纏い、ソウゴとは今以上の強い絆を感じ、景都の知っているウォズとは衣服が異なるウォズに後を託す。
知らない筈なのにどういう訳か景都には既視感がある。ライドウォッチを手に入れてから何度もそれを経験してきたが、今が一番それを強く感じた。
「そうだ……」
景都は頭の中で何かが外れる音を聞いた。その瞬間に既視感は消える。
何故なら全てゲイツの体験して来たこと、経験してきたことなのだから。
ゲイツが全てを思い出した瞬間、目の前の光景が停止する。
「思い出したかい? 明光院
ゲイツをここに連れて来た海東がわざとらしく別の名でゲイツを呼ぶ。
「……俺は明光院ゲイツだ」
「どうやら本当に思い出したみたいだ」
記憶を取り戻したゲイツに海東は微笑を見せる。
「ここまでが今の君の中にある記憶だ。ここから先のことは覚えていないだろう? 死んでしまったから」
「……一言余計だ」
「全ての戦いが終わった後、歴史はリセットされた。他の誰でもないオーマジオウとなった常磐ソウゴの力によってね。本来ならば独立していた筈の仮面ライダーの歴史は一つに統合され、この世界が誕生したんだ」
あの時、数多の世界が引き寄せられ、そのせいで全ての世界が崩壊しようとしていた。そんな中で何とかする為に足搔き続けていたが、今の海東の説明で足搔いた甲斐はあったと知る。
「──流石だな」
「とはいえ代償がなかった訳じゃない。全ての世界を統合しリセットした結果、常磐ソウゴはオーマジオウの力と記憶を失った。君やツクヨミみたいにね」
オーマジオウの力であっても大規模な世界と歴史の改変は代償が必要だったらしい。
「それにこの世界の歴史もかなり歪だ。既に物語を終えた仮面ライダーもいればまだ始まってすらいない仮面ライダーもいる……まさか、ビルドの決着が既についていてクウガの物語が始まってもいないなんてね」
最後の辺りは小声で言っていたのでゲイツには聞き取れなかった。
「仮面ライダーの力に目覚めた者たちはいるが、それでもまだ眠っている者たちもいる。そんな状況は彼らにとっては都合の良いのさ」
「彼ら?」
「ウォズ──白ウォズと同類の連中のことだよ」
「あの白ウォズは一体何なんだ? お前は正体を知っているのか?」
白ウォズとは敵対関係にあったが、所々では助力もしてもらった。しかし、今の白ウォズはゲイツの記憶の中の白ウォズとは異なり、悪意と野心を持って今回の騒動を起こしている。
記憶の中の白ウォズと今の白ウォズ。この差異は何なのか。
「簡単に言えば侵略者だよ。他の世界からのね」
「他の世界の侵略者だと……!?」
海東から告げられた内容にゲイツは衝撃を受ける。
「スウォルツが士──ディケイドから力を奪ってアナザーライダーになったのは君も知っているだろう? 彼はディケイドの力を使って数々のアナザーワールドを生み出した。しかし、それがいけなかった」
海東は溜息を吐く。
「アナザーワールドを創造した影響さ。本来ならば人柱となっている者を取り除けばアナザーワールドは破壊されるが、恐らくはスウォルツ自身も予想外のことだったんだろうね。アナザーワールドを創り出したことでスウォルツも知らない更なるアナザーワールドが派生したんだ」
『もしも』の可能性を実現させたのがアナザーワールド。だが、その世界もまた別の『もしも』の可能性を秘めている。それが繰り返し派生することで大量の並行世界が誕生してしまった。
「殆どのアナザーワールドは無害さ。だけど、稀にこちらの世界を観測し、尚且つ世界を渡れる者が生み出される」
「それがあの白ウォズということか……」
「その通り。まあ、元の白ウォズよりも野心が強いみたいだけどね」
あの時の戦いの影響が今になって出てきていることに頭を抱えそうになる。
(まあ、稀と言っても並行世界の数は膨大だから結構な頻度で侵略者が来ているんだけどね。彼やあの
重要な情報だが、そこまで話す義理はないと思い、胸の中に留めておく。
「……何故この世界を狙う?」
「本気で言ってる? それ?」
ゲイツの疑問に海東は呆れた表情になった。
「この世界には君や常磐ソウゴ、そしてツクヨミ、それだけじゃない凄まじい力と可能性を宿した人間が沢山いる。しかも都合が良いことに多くは記憶や力を封じられている状態なんだ。こんな美味しい獲物を見逃す理由なんてあるのかい?」
白ウォズがゲイツの持つ救世主の力を狙ったように、常磐ソウゴのオーマジオウの力やツクヨミの時を操る力、そしてまだ眠っている未知なる力や技術は他の世界の者たちからすれば垂涎もの。
「こんな事態になるとは……」
「もう少し自分たちの稀少さを自覚したまえ」
あれだけの戦いを経て平穏な世界を創造したというのに、それが原因となって次なる戦いを招いてしまっていることにゲイツはショックを受ける。あの戦いで頑張ったソウゴとツクヨミが報われない。
そこで新たな疑問が湧く。白ウォズたちの正体は知れた。今度はその白ウォズの妨害や回りくどいが裏でサポートをしてくれていた海東の目的は何なのか。
「ならお前の目的は何だ? 何故俺たちを手助けするような真似をする?」
「手助け? ふふっ、違うって。僕としたことが奴に一番大切なお宝を奪われてしまってね」
ぼやかした言い方であったが、これまでのことを思い返して海東が何を奪われたのか察する。
「お前……また白ウォズに仮面ライダーの力を奪われたのか?」
すると、海東は露骨に不機嫌そうな表情になる。
「誤解を招く言い方は止したまえ。一回目のあれは僕の力をコピーしただけに過ぎない」
実際、過去に白ウォズはアナザーディエンドに変身したがあれは条件が整っていなかったせいかディエンドから歴史も変身能力も奪っておらず、結果として本物のディエンドと対峙することとなった。
しかし、今回は直接ディエンドから力を奪ったせいで海東は変身する力を完全に失っている。
「こうなってしまっては僕も誰かに手を貸してもらう必要がある。最初は彼に話し、計画を立てようと思っていたんだけどね」
「彼?」
「君たちの言う黒ウォズさ」
白ウォズとは異なる歴史を歩んだもう一人のウォズ。オーマジオウ兼常磐ソウゴの忠実な僕を自称する男。
「だけど白ウォズに先手を取られてね。お陰で僕が駆けまわることになってしまったよ。そのせいで大事にしていたお宝も幾つか手放すことになって──」
「そんなことよりもウォズはどうなった!? 白ウォズに一体何をされた?」
ゲイツにとって反りの合わない相手であったが、いつしか仲間になれたウォズの安否を問う。
「さあ、そこまでは。ただ、白ウォズがこの世界にやって来た時から黒ウォズとの連絡が取れなくなった。何処かに監禁されているか、或いは──」
「それ以上言うな……!」
「はいはい」
海東の口から最悪の事態を聞きたくなかったゲイツは、凄まじい剣幕で海東の言葉を遮る。
「……白ウォズに訊くことが増えた」
「そうかい。ならそろそろ行こうか」
海東が指を鳴らす。銀色のオーロラが出現し、ゲイツたちを元居た場所へ戻す為に銀色のオーロラが彼らを通過していく。
◇
突然草加が姿を消し、一人になってしまったツクヨミ。しかし、彼女はそこで途方に暮れることはせず無謀を分かっていながらも廃工場周りを一人で探索し始める。
慎重に進みながら周りを警戒するツクヨミ。ソウゴたちの名を呼びたいが、そうなるとバレる危険性があるので出来ない。
「静かね……」
照井が先行しているので何らかの戦闘が行われているかもしれないと予想していたが、廃工場周囲は物音一つ無いぐらいに静かであった。
時折後ろを振り返り誰かつけてきていないか確認するツクヨミ。その時、背中に何かが触れる。
「きゃあっ!」
「いった!?」
驚き、振り向き様に持っていたバッグを振り回すと相手にクリーンヒット。悲鳴を上げながら相手は倒れたので、今度はバッグを両手持ちにして振り下ろそうとした所で気付く。
「常磐君!?」
「ツクヨミ!?」
探していたソウゴが顔を抑えながらそこに居た。
「──あっ! ごめんなさい!」
「大丈夫大丈夫」
ソウゴをバッグで殴り倒してしまったことを知り、謝罪しながら彼を引き起こす。
「無事で良かった……明光院君は?」
「景都は──」
ツクヨミはソウゴから何があったのか聞かされる。
照井と名護とゲイツに助けられたこと。ウォズが黒幕であったこと。照井と名護が何処かへ消えてしまったこと。海東に助けられたが、ゲイツとは引き離され気付いた時には廃工場外に居たこと。
「そんな……明光院君は大丈夫かしら……」
「今は海東のことを信じるしか──」
「その前に自分たちの心配をすることをお薦めするよ」
二人の会話に割って入りながら白ウォズが現れる。
「ウォズ……!?」
全ての元凶を前に二人は後退りするが、運悪く逃げた先には壁しかない。
「彼には逃げられてしまったが、君たちは逃がさない。君たちは私にとって最低最悪の未来を齎すかもしれないからね……ここで始末させてもらう」
本性を露わにし二人を始末すると発言。ソウゴとツクヨミは戦慄する。
「安心してくれ。私は慈悲ある真の救世主──あまり苦しまずに逝かせてあげよう」
白ウォズはそう言い、いつの間にか握っていたアナザーウォッチを起動する。
『ディエンドォ』
起動するアナザーディエンドウォッチ。だが、それだけでは終わらない。
「そして、もう一人の私の力が加われば……!」
『ウォズ!』
アナザーディエンドウォッチとは異なり明るい緑色でテンションの高い音声を鳴らすウォッチ。
起動した二つのウォッチを白ウォズは二人が見ている前で口の中に入れ、呑み込む。
「うぇぇ……」
「何なのあの人……?」
白ウォズの奇行に別の恐怖を覚えるが、すぐにそれも吹き飛ぶ。
『ディエンドコンプリィィィト』
二つの力が一つに合わさり、アナザーディエンドウォッチが白ウォズの体内で進化する。
白ウォズの胸から溢れ出た黒い光が触手のように伸び、白ウォズの体を覆い尽くすと彼の体を異形へと変貌させる。
色褪せたシアンと黒をメインカラーにし手足も同色なのだが、その手足と繋がる胴体に当たる部分はディエンドの持つディエンドライバーを逆さに付けたような造形となっている。右肩からはグリップが上向きに伸び、左肩からは二連の銃身が突き出ており、胸部中央には八つに区切られたモニターらしきものがあり、そこにはソウゴとツクヨミの見覚えのあるアナザーライダーの画像が乱れながら映し出されている。
頭部はプレートが突き刺さり扇形に広がっていく。プレートの隙間からは白眼が見え、プレートの間を絶え間なく動く。プレートは口まで伸びており、格子状のマスクをしているようであった。
頭部の左右からは羊のような捻じれた角が生えており、その角にも何枚ものプレートが突き刺さっている。
右肩の銃身側面に『DIEND-COMPLETE』、左肩のグリップに『2018』の刻印が施されてある。
「光栄に思うといい。私の救世主伝説の最初の礎になることを」
禍々しき姿のアナザーディエンドコンプリートは甚振るように、嬲るようにゆっくりと二人へ近付いていった。