仮面ライダージオウIF NEXT TIME~ゲイツマジェスティ~ 作:K/K
カッシーンとの初戦闘の後、景都は再び病室で寝たきりになっていた。右足の怪我は問題無かったのだが、初戦闘の際に使用したビビルアーマーのせいで精神力の消耗が激しく暫く間は人と会話することすらままならない程に気力が失われていた。
それでもツクヨミやソウゴは献身的にお見舞いに来てくれ、伊達も担当医という立場から頻繫に容態を確認しに来てくれた。後藤の方は仕事が忙しく、偶々非番であったあの日以降景都とは顔を合わせていない。ただ、伊達を通じて景都の様子を確認しているらしく後藤なりに景都の心配をしてくれていた。
周りの助力もあって景都の方も怪我の具合や精神力が日に日に良くなってきていた。
そんなある日のこと。
「順調に行けば近いうちに退院出来るな」
景都の病室に来ていた伊達は景都の怪我の状態を確認し、前向きな診断を下す。
「……そうか」
人と普通に喋られるぐらいまで精神力が回復した景都だが、その表情に明るさはなく陰が差している。
「あんまり嬉しそうじゃないな」
「……日常生活に戻るのは良い。だけどもう柔道は出来ない。そうだろ? 先生?」
「──そうだな」
生活に支障がないレベルまで治るが、柔道のような激しい競技への復帰は難しい。そう診断したのは伊達自身であり、残酷な現実を突き付けると分かっていながらも『大丈夫』『きっと復帰出来る』というような無責任な発言はしない。
「これから先どうすればいいのか分からない。というか考えることが出来ない……今まで柔道に専念してきたからな。そこに加えて──」
「面倒なことに巻き込まれちまったからな」
景都は傍にある机の上に置かれたライドウォッチを見る。あの戦い以降景都はライドウォッチに触れることをしなかった。
「救世主に仮面ライダーだ。正直、頭がパンクしそうだ」
普通の高校生として過ごして来た景都の人生に突然起きた非日常。自分のことでも精一杯だというのにこれ以上何をすればいいというのか。景都はこれから歩もうとしている自分の人生に恐れを抱いてしまっていた。
「ま、そうなるよな。ましてや自分の人生の転機にそんなことが起きたんじゃ頭も抱えたくなる」
ナイーブになっている景都。伊達はそんな彼の苦悩を否定せず、寄り添う。
「俺はな国際的な医師団で世界中を飛び回ってたんだ。でも、大怪我して帰ってきちまった」
「大怪我? どんな?」
自分も怪我を負っているせいかその部分が気になる。また、伊達自身に目立った外傷や後遺症が無かったからこそ景都の気を惹く為の出鱈目なのではないかと穿った見方をしてしまった。
すると、伊達は自分の左後頭部を指で叩く。
「ここに銃弾が残っちまった」
伊達はジョークでも言うように軽く言ったが、聞かされた景都は臓腑が一気に冷える感覚を味わう。伊達の言葉は経験者しか語れないような強い説得力があった。
「……すまない」
「気にすんな。もうとっくに摘出した」
過去の話と爽やかに笑う伊達。治療済みだからといってここまで明るく話せるものなのかと思ってしまう。
「……そうなった時、絶望はしなかったのか?」
「まあ、何も思わなかったと言えば嘘になるな。世界中で医者として働いていた時、色んな出会いも会った。それが無くなると思うと、な」
伊達は遠い目をする。当時のことを思い返しているのかもしれない。
「それでもなぁ、その後も意外と面白い奴らとも出会って面白い人生が待ってた」
「……あんたが仮面ライダーになったのも面白いことの一つだったのか?」
「まあな。それなりに経験してきたつもりだったが、人生って奴は何が起こるか分からんってのを改めて実感した──こういうのがあるから人生ってのは面白い」
伊達の表情は晴れやかなものであり何一つ後悔が無い。仮面ライダーというものがどういうものか未だに分からない景都からするとそんな表情が出来る伊達を羨ましく思う。
「まあ、どういう人生をお前が歩むにせよ人生の先輩且つ仮面ライダーの先輩として一つだけ忠告しておいてやる──自分を泣かせることだけはするなよ?」
人として仮面ライダーとして景都よりも長く生きてきた伊達からの言葉。それは景都に生き方を強制するのではなく先輩として後輩を想ってのアドバイス。
「……その言葉、覚えておく」
答えも道も決まった訳ではないが、無下に出来ない言葉として胸の中に刻んでおく。
「──よし! じゃあ気分転換に中庭でも行くか? そろそろ太陽が恋しくなってきただろ?」
伊達が言うように精神面が回復するまで病室で寝たきりであった。窓から入って来る光ではなく太陽の下で日光を浴びたくなる。
「確かに」
「じゃあ行くか! 連れてってやる!」
「看護師を呼べばいいだろ?」
「担当医直々に運んでやる。感謝しろよー?」
伊達はてきぱきとした動きで車椅子を用意し、景都を抱きかかえてそれに乗せようとする。伊達にお姫様抱っこされている間、景都は終始顔を顰めていた。
伊達に車椅子を押されて病院の通路を進む景都。その間、何人か患者とすれ違ったが全員伊達に笑顔を見せた後頭を下げて挨拶してくる。伊達もそれに爽やかに返す。病院内で伊達が如何に医者として信頼されているのか見て伝わってくる。
「慕われているな」
「ま、日頃の行いの成果ってやつ?」
照れ隠しのようにわざと自慢している風に言う伊達。その態度に景都も自然と微笑を浮かべる。
「おー! 伊達先生!」
その時、通路内に男の声が響き渡る。進路方向の先に髪を逆立て、ファーが付いたジャケットを来た野性味ある男性がこちらへと向かって来ている。
「仁藤か! お前、日本に帰って来てたのか?」
「久しぶりー! 伊達先生!」
伊達と仁藤と呼ばれた男性が再会を喜びながら固い握手を交わす。
「知り合いか?」
「ああ。昔俺が戦場で医師団として働いているって言ったよな? その時に会ったんだ」
「伊達先生の患者か? 俺の名は仁藤攻介! よろしく!」
快活な挨拶をしてくる仁藤。陽の気質に当てられながら景都も礼儀として自己紹介をする。
「明光院景都だ」
「見た感じ学生だな? エネルギーが有り余っている時に怪我なんて大変だな」
心配してくれているが、景都としてはあまり同情をされたくないので話題を変える。
「医師団の時に会ったと聞いたが、あんたも医者なのか?」
正直、あまり医者というイメージを仁藤からは感じられない。尤も、伊達もあまり医者っぽくは見えないが。
「うん? 違う違う。俺は考古学者だ」
「考古学者!?」
それはそれでイメージとはかけ離れている。景都の驚きを他所に『まだ駆け出しだけどな』と付け加える。
「世界中の色んな遺跡を発掘している時に伊達先生と会ったんだよ。その時にちょっと怪我しちゃってな」
「俺がその怪我を治療した。説教付きでな。ロマンを追い求めるのは否定しないが自分の命は大切にしろ、ってな。──お前、まだ無茶を──」
「あーあー分かってる! 皆まで言わないでくれ」
問い詰めそうになる伊達を仁藤は遮り、景都の方を見て強引に話し掛ける。
「まあ、そん時のことがあったし同じ日本人同士だから意気投合した訳」
「──成程。その恩がきっかけということか」
「それもあるけどさー。伊達先生には良いスポンサーを紹介してもらったっていう恩もあるだよなー」
「スポンサー?」
考古学者は博物館の学芸員だったり大学の教員だったりと専業にしているのは稀であるが、もしかしたら仁藤はフリーランスの考古学者なのかもしれない。個人ではどうしても金銭的な問題が出て来るが、スポンサー次第ではそれも解決する。
「鴻上ファウンデーションって知ってるか?」
「鴻上ファウンデーションだと!? 知っているに決まっているだろ! スマートブレインとユグドラシルコーポレーションに並ぶ日本の三大企業だぞ!」
予想以上の大企業の名を出され、景都は驚愕する。そして、伊達を凝視してしまう。
「あんたそんな大企業とのコネがあるのか?」
「まあな。会長とちょっと知り合いでな。仁藤と話してたら会長の好きそうなタイプだったから日本で再会した時に紹介したんだよ」
「いやー。すげぇインパクトのある人だったなー鴻上会長は。会っていきなり『ハッピィバースデイッ!』って言われて手作りケーキ手渡されて驚いたぜ」
「向こうもその手作りケーキにマヨネーズをかけて食べ出すお前に絶句してたけどな」
「何だそれは……」
聞くだけだと理解不能な状況。景都も理解出来ないといった感想を洩らす。
「っといつまでも立ち話をしてちゃいけねぇ。まだこいつを運んでいる途中だった」
「いや、ここまででいい。後は一人で行ける」
景都は久しぶりに再会した二人に気を利かせ、車椅子を回して本当に一人で行ってしまった。
「……仁藤。今晩空いてるか? 飯のついでに話したいことがある」
「込み入った話か? いいぜ。久しぶりにあの屋台のおでんも食べたいしな」
二つ返事で了承する仁藤に伊達は微笑を見せるが、すぐに真面目な表情になる。
「一つお前に言っておくことがある」
「何だよ?」
「あの屋台ではおでんにマヨネーズは禁止だ」
「えぇー! 何でだよ! マヨネーズは何にでも合う魔法の調味料だぞ!」
生粋のマヨラーである仁藤は抗議するが、伊達の意見は変わらない。
「店主が嫌がるんだよ! 紹介した俺まで出禁にされる! 後おでんに付けていいのはからしだけだ! マヨネーズなんて邪道だ邪道!」
「じゃあ間を取ってからしマヨネーズは!?」
「マヨネーズから離れろ!」
気の置けない仲間として二人は久しぶりに会話に花を咲かせる。
◇
数日後無事に退院した景都。とはいえまだまだ通院をしなければならないので伊達からも退院する際はちゃんと病院に通え、と念を押された。
両親に迎えに来てもらったが、家に帰ってもやることはない。学校に復帰するのも明日以降なので今日一日は暇であった。
家に一日中居ても心身ともに腐るだけ。活力を失った状態の苦しさを身をもって知っている景都は、気分を変える為に散歩に出かけようとする。
両親はまだ怪我をしている景都を出歩かせたくないので難しい表情をしていたが、リハビリも兼ねてという景都の表情に渋々了承する。
そこで両親の内の一人が付き添うことを提案され、今度は景都の方が先程の両親と同じ表情になった。
色々と考えたいのでなるべく一人で行動したかったのだ。
そこで思わぬ人物の助け舟が入る。
「彼のことは私に任せてくれないかな?」
景都の初戦闘以降何処かへ行ってしまったウォズが突然景都たちの前に現れたのだ。景都は現れたウォズに驚き、景都の両親も驚きながらウォズに不審者でも見るような眼差しを向けていた。
「明光院景都君とは病院で知り合ってね」
ペラペラと出任せを言うウォズ。喋り方や出で立ちからは胡散臭さしか感じられず、景都の両親もウォズのことを終始疑っていた。
だが、ウォズが喋りながらノート型のタブレットに何かを書き込むと、さっきまであった両親の不信感が嘘のように消え、あっさりと景都のことをウォズに任せてしまう。
そして、結局景都はウォズと共に行動することとなった。
「……貴様、何のつもりだ?」
景都は松葉杖を突きながらウォズと少し距離を取りながら歩く。
「何のつもりだって? 君が困っているから助けに来ただけじゃないか」
微笑を見せるウォズ。ウォズが心の距離を詰めようとする度に景都の中の不信感が積もっていく。腹の底を見えないせいで行動の一つ一つが嘘くさく見えてしまう。
ウォズを警戒しながら景都は何も考えずに慣れた道を歩いていく。
どれだけ歩いただろうか。慣れない松葉杖での歩行に疲れ、景都は足を止めた。
すると──
「やれやれ。こういう時でも君はトレーニングのことを考えているのかい?」
ウォズが呆れたように声を掛けてくる。
「何? ……あっ」
景都がふと横を見るとそこには景都が通っているスポーツジムがある。家から比較的に近く、学生でも財布に優しい値段で最新のトレーニングマシンが使用出来るので景都も週に何回かそこへ通っていた。
「まさか無意識で来るとは……」
伊達からは安静にしていろと言われたが、体がそれに慣れていないのかトレーニングを求めてここに足を運ばせたのかもしれない。
自分の事ながら何とも落ち着きがない、と呆れてしまった。
しばらくの間、否もう利用しないかもしれないスポーツジム。多少の未練を感じながらも離れようとした時であった。
「おっ! 景都じゃねぇーか!」
明るく大きな声で名を呼ばれ、景都の足が止まった。
声の主は龍の刺繍が入った青いスカジャンを着た青年。景都も彼のことを知っている。
「万丈……さん」
万丈龍我。格闘家でありスポーツジムで知り合った。景都とは比較的に年齢が近く、また万丈は明るく行動的な性格なこともあって景都とはすぐに打ち解けた。少々バカ──知識不足や語彙が乏しい面もあるが頼りになる人物である。
「よお! 最近見ねぇと思ったけど……」
そこで万丈は景都の足の怪我に気付き、明るかった表情を一変させ、深刻な表情となる。
「怪我、したのか?」
「……日常生活を送るだけなら問題は無い、らしい」
言外にもう柔道は無理であることを告げる。万丈はそれを察して何も言えなくなってしまった。
気まずい沈黙が両者の間に流れる。万丈は何か話題を変えようとし、そこでウォズの存在に気付いた。
「誰?」
「こいつは──」
「私の名はウォズ。未来の救世主に仕える忠実な僕さ」
「──はぁ?」
ウォズの言っている内容が分からず万丈は困惑した声を出してしまう。
「救世主? 僕? 何言ってんだ? お前?」
「万丈さん。こいつの話は無視してくれ」
万丈に真剣に取り合わないように言いながら、ウォズを睨む。『余計な事を言うな!』とその目が語っている。
ウォズは肩を竦め、景都から視線を逸らす。
「おや? どうやらまた救世主の試練がやって来たみたいだ」
「何?」
ウォズの視線の先を見る。そこには異形の怪人がこちらへ向かって来ている。
向き合うドラゴンを模した青い半透明のバイザー。その下から白眼が透けて見える。青と黒が混じったような体色。上半身には繋ぎ目のないプロテクターを纏っており、赤茶色のペンキで乱暴に塗ったような染色がされている。腹部には小型のドラゴンらしき生物が埋め込まれており、その口からハンドルレバーが飛び出していた。
異形の怪人の体には白い文字で『GREATCROSS―Z』『2018』と刻印されている。
「何だあれは!?」
「アナザーライダー。それがあの怪人の名さ」
「アナザーライダー!? 一体何者なんだ!?」
「一言で言えば──君の敵さ」
アナザーグレートクローズが唸り声を出しながら景都を標的にし迫って来ている。
こうなれば戦うしかないが、残念ながら今の景都はライドウォッチもジクウドライバーも持っていない。
「これから肌身離さず持っていたまえ」
「お前、これ!」
そんな景都にウォズが差し出してくるケイトライドウォッチとジクウドライバー。まるでこうなることを予期していたかのように。
「──くそっ!」
迷いはある。恐怖もある。しかし、戦わなければならないことは景都にも分かっていた。
伊達の言葉が頭の中を過る。
『自分を泣かせることだけはするなよ?』
少なくともここで戦うことは自分を泣かせない為のもの。
『ジクウドライバー!』
「え?」
景都がジクウドライバーを装着した瞬間に万丈が驚いた声を上げる。見ると万丈の腹部にも形は異なるがドライバーが装着されている。
中央に何かを差し込む凹みがあり、右側面にハンドルレバーが付けられたドライバー。
「万丈さん……あんたもまさか……!」
「お前も仮面ライダーだったのか!?」
衝撃の事実に二人が驚いている隙にアナザーグレートクローズが叫びながら走り寄ってくる。すると、その顔面に蒼炎が吹きかけられ、アナザーグレートクローズは堪らず立ち止まった。
蒼炎を吐いたのは赤茶色ボディーのドラゴンと思わしき小型メカであり、それが万丈の許へ飛んで行く。
万丈はそれを掴むと中央部分に金色のボトルを差し込み、首と尾を九十度折り畳む。
『覚醒!』
「──話は後だ! 今はあいつをぶっ飛ばすぞ!」
「……ああ! 分かった!」
景都はケイトライドウォッチを起動させ、ジクウドライバーにセット。万丈もまた金色のボトル──グレートドラゴンエボルボトルが装填されたグレートクローズドラゴンを自身のドライバーに挿す。
『グレェェトクロォォォズドラゴン!』
癖のある音声の後、万丈はハンドルレバーを回し、景都もまた両手で挟んでいたジクウドライバーを回転させる。
『Are You Ready?』
『変身!』
『ライダーターイム!』
仮面ライダーたちの戦いの時間が始まる。
何でアナザーグレートクローズ?と思われるかもしれませんが、その理由はちゃんとあります。