仮面ライダージオウIF NEXT TIME~ゲイツマジェスティ~ 作:K/K
ハンドルを回す万丈。その前後に小型ファクトリーが展開され、小型ファクトリーから伸びるチューブ内にグレートドラゴンエボルボトル内の成分が液体となって流れていく。
前後のチューブは人型を形成し、側面に流れるチューブは翼を広げたドラゴンを形作る。
液体が固体となり装甲となって万丈を前後から挟む。また成形されたドラゴンは万丈の背後に回り、翼を装甲の上に重ねて胸部と肩を守るプロテクターと化した。
万丈の変身プロセスが完了するタイミングで景都の変身も完了する。
『仮面ライダーケイト!』
『ウェイクアップ! クローズ! ゲット! グレートドラゴン! イェェェ!』
景都は仮面ライダーケイトに。そして、万丈もまた仮面ライダーへと変身する。
万丈の変身した仮面ライダーはその名の通りドラゴンをモチーフとした姿をしており、仮面の複眼は向き合うドラゴンの横顔、額中央には正面から見たドラゴンの顔がある。
胸部中央にも金色のドラゴンの紋章が描かれており金と赤茶と青で彩られた上半身のアーマーがその姿の凛々しさを立たせる。
仮面ライダーグレートクローズ。仮面ライダーバース、プロトバースとは姿も変身システムも異なる新たな仮面ライダーがケイトの隣に立つ。
「戦う覚悟は決まってんだな?」
グレートクローズがケイトに真っ先に問うのは覚悟。正直に言えばケイトは自身の中の怪我に対する不安やトラウマを拭いきれた訳ではない。だが、何も分からないまま理不尽に終わるのだけは我慢ならない。
「いきなり襲われて抵抗しないような腰抜けじゃない」
せめて襲い掛かってきた理不尽を跳ね返すぐらいはしたい。
ケイトはさりげなく右足の状態を確認する。不思議なことに右足の痛みはなかった。さっきまで松葉杖を突いていたというのに。アーマーそのものがギブスのような役割を果たしているのかもしれない。
「──無理すんなよ」
ケイトの右足の怪我を気遣うグレートクローズ。覚悟を問うが決して無理をしろという意味ではない。
「ウォラウォラウォラウォラッ!」
アナザーグレートクローズが不気味な掛け声と共に駆け出す。アナザーグレートクローズの走る先に立つのはケイト。アナザーグレートクローズは最初からケイト狙いであった。
「させるか!」
敵の狙いが分かった瞬間にグレートクローズは前に出てアナザーグレートクローズの前に立ち塞がる。
アナザーグレートクローズは叫び声と共に蒼く燃える拳を突き出す。グレートクローズはそれを左肘で弾き、拳によるカウンターを繰り出す。グレートクローズの蒼炎の拳がアナザーグレートクローズに炸裂する──かと思われたが、グレートクローズの拳もまた肘打ちにより弾かれた。
「この野郎……!」
体勢を立て直すと同時にグレートクローズは回し蹴りを出す。すると、アナザーグレートクローズも回し蹴りを出しており、二人の脇腹に同時に命中する。
「ぐっ!」
「ウォォォ!」
声を揃えて呻きながらもダメージなど関係ないかのように至近距離での殴り合いが始まる。
拳、肘、膝。五体を武器にあるいは盾にして繰り広げる近接戦闘。グレートクローズの攻撃が入ればアナザーグレートクローズの攻撃が入り、グレートクローズが防げばアナザーグレートクローズも攻撃を防ぐ。
(こいつ!)
ここまで戦うと嫌でも気付いてしまう。アナザーグレートクローズはグレートクローズの格闘技術を模倣──というよりも完全にそのままであった。
アナザーグレートクローズの上段蹴りがグレートクローズの側頭部に迫る。それをしゃがんで回避する。
(アッパーが来る!)
グレートクローズの予想通り下を向いたグレートクローズの顔面に突き上げられた拳が来ていた。
それを掌で受け止めながら突き上げられる力を利用して上体を起こし、反撃のフックをアナザーグレートクローズのこめかみに叩きつけようとする。だが、その反撃もアナザーグレートクローズは上体を反らすことで簡単に避けてしまう。
格闘技術どころか戦いの思考までも同じせいで相手の動きの先を読めるが、逆に向こうにも動きが読まれてしまっている。
相手が思う通りに動く気持ち良さと相手の思った通りに動かされる気持ちの悪さ。グレートクローズはその二つを感じながらアナザーグレートクローズと拮抗状態に入ってしまう。
激しい拳打の音と飛び散る蒼炎。それを眺めていることしか出来ないケイト。
(手が出せん……!)
見ていることしか出来ない自分を情けなく思いながらも今のケイトではグレートクローズたちの戦いに介入することが出来ないと分かってしまっていた。
スポーツではあるが戦いの心得があるケイトにもグレートクローズとアナザーグレートクローズが良くも悪くも互角なのが分かる。そのせいで戦いが均衡になってしまっており、下手に参戦しようものならばグレートクローズの足を引っ張ることになってしまうことを恐れた。
グレートクローズは力の限り戦っているのは気迫からも伝わってくるが、アナザーグレートクローズの方は全く分からない。戦闘技術はグレートクローズと同じだが、唸るか獣染みた声を上げるだけで、その内面もグレートクローズと似ているのかも伝わってこない。
ケイトはこの均衡に嫌な感じがしていた。いつバランスが崩れるのか。そのバランスを崩すのは誰なのか。そもそもこんな状態になったことに何かの意図があるように思えてしまう。
素手での戦いでは埒が明かない。
「だったら!」
そう判断したグレートクローズは素手以外の攻撃方法に移る。
ビルドドライバーからチューブが伸び、剣を形作ると液体が流れ込んで一本の剣を創り出す。銀色の刃の両刃剣。剣の中央にはメーターがあり、鍔の中心には挿し込む為のスロットがある。
『ビートクローザー!』
グレートクローズが創造した専用武器ビートクローザーを握り、すかさずグリップの端を引っ張る。
『ヒッパレー!』
ビートクローザー中央のメーターが光り、緑の光が一定値まで溜まる。
『スマッシュヒット!』
刀身から蒼い炎が噴き出し、グレートクローズはそれをアナザーグレートクローズへ叩きつける。
だが、その一撃はアナザーグレートクローズへ届かなかった。アナザーグレートクローズもまた剣の形をした蒼く燃える炎を握っており、それでグレートクローズの斬撃を防いだのだ。
「これもかよ! なら!」
武器まで模倣していることに驚きつつ、グレートクローズを鍔迫り合いの状態で更にグリップを二度引く。
『ヒッパレー! ヒッパレー! ミリオンヒット!』
中央のメーターが緑を超えて赤く輝く。
振り抜かれるビートクローザー。その軌跡にメーターと同じく赤と緑が混じった光の帯が残る。
先程よりも一段階上げた攻撃。だが、アナザーグレートクローズはグレートクローズと鏡合わせのような寸分違わぬ動作で同じ斬撃を繰り出す。
緑と赤の斬撃とより激しくなった蒼炎の斬撃が衝突し、両者の間で爆発を引き起こす。
この攻撃も相殺され、互いに届かず爆発の衝撃により二人は吹き飛ばされる。
衝撃で飛ばされたグレートクローズは、地面を削るように急停止し一息入れ間もなく前に走り出す。
「こいつはどうだ!」
『ヒッパレー! ヒッパレー! ヒッパレー!』
三度引かれるグリップ。ゲージが振り切る勢いで赤まで到達する。
『メガヒット!』
両手で握り締められたビートクローザーから出される渾身の一撃。赤く光る斬撃の軌跡がアナザーグレートクローズに吸い込まれるように迫る。
しかし、その一撃もまたアナザーグレートクローズに届くことはなかった。全く同じ速度、力、威力で出されたアナザーグレートクローズの斬撃により受け止められてしまったからだ。
必殺技を三度相殺されてしまうグレートクローズ。見ていたケイトですら何も通じないのではないか、と思えてしまう絶望を覚えてしまう。
だが──
「何度も何度も俺の真似かよ……だったらとことんやってやる!」
グレートクローズ自身に絶望も不安も全く無く。己を信じて最後まで突き進もうとする。
鍔迫り合いの体勢を維持しながらグレートクローズはビルドドライバーのハンドルを掴む。そのままハンドルを回そうとした時──
「ウォラァァァァ!」
「うおっ!?」
──アナザーグレートクローズの口から吐かれた蒼炎を顔面に浴びせられてしまう。
「うおおおおっ!?」
グレートクローズにはないアナザーグレートクローズのみの能力に避けることが出来なかった。
グレートクローズはアナザーグレートクローズから離れ、顔の蒼炎を消そうとする。しかし、蒼炎は中々消えず粘液の如くグレートクローズの顔に纏わりつく。
「しまった……!」
アナザーグレートクローズの狙いが最初からこれであったことにケイトはようやく気付く。
敢えてグレートクローズと同じ動きをすることでたった一つの違いを隠す。全ては今のブレスを確実にグレートクローズに当て、仕留める好機を作り出す為に。
獣のような声しか発してないのに妙に知恵の回る相手である。
蒼炎に覆われていることで視界を封じられてしまいアナザーグレートクローズに致命的な隙を晒してしまうグレートクローズ。アナザーグレートクローズは手にしている蒼炎の剣を振り上げ、処刑人のようにその首を狙う。
このままではグレートクローズがやられる。そう思ったケイトは、何とかしなければと動こうとした。
「っ!?」
踏み出す筈の右足が動かない。それどころか体が無意識に震えていることに気付く。
(怯えているのか! 俺は!)
成り行きでカッシーンとの戦いは、本人も知らぬ内に戦いに対する恐怖をケイトの中に深く刻み込んでいた。
殴る感触と殴られる感触。即ち暴力の感触。命のやりとりとは無縁の人生を送って来た明光院景都にとって初めて向けられた殺意。あれから時間が経ってそれらは薄れていったのだと思っていたが、実際は違っていた。
(俺は……見て見ぬふりをしていただけだ……)
戦いへの恐怖から目を逸らしただけ。グレートクローズとアナザーグレートクローズとの戦いを目の当たりにしてそれが蘇ってしまった。
(俺に何が出来る? 震えている俺に何が?)
変身し、仮面ライダーになっても心が強くなった訳ではない。仮面ライダーケイトになっても中身は普通の高校生明光院景都。いや、普通どころか夢破れて自分の道を見失っている普通以下の高校生。
「俺は……俺は……!」
『お前は……お前が選んだ道を……進め……たとえ……それが……奴の計画通りだと……しても……』
頭の中に過る記憶にない記憶。初めてケイトライドウォッチを手にした時と同じ現象がケイトに再び起こる。
「これは……!?」
『幸せだったぞ……この時代に来て……』
瀕死の重傷の自分とそれに涙を流すソウゴ。
『ソウゴ……俺は……お前と……友になれて……』
事切れる瞬間に感じたのは死への恐怖ではない。親友を守ることが出来たことへの安堵。
「──あ?」
気付けばケイトはグレートクローズとアナザーグレートクローズの間に割り込んでいた。グレートクローズを守る為に。
(何故俺は……?)
自分で自分の行動を信じられない。さっきまで恐怖に震えていた筈なのに。だが、いつの間にか震えは消えていた。今にもアナザーグレートクローズが振り下ろされようとしているのに。
「俺は……俺はっ!」
次の瞬間、ジクウドライバーから飛び出した光がアナザーグレートクローズを斬り裂き、跳ね返ってケイトの手の中に収まる。
『ジカンザックス! Oh! No!』
ケイトが握り締めているのは赤と黒の金属で作り出された片刃の斧。側面には何かを填め込むスロットと『おの』と丁寧に描かれてある。
「これは!?」
飛び出した専用武器──ジカンザックスを握りながらケイトの体は自然と動き、予期せぬ攻撃で怯んでいるアナザーグレートクローズに追撃を叩き込む。
「ウォラァァァァ!」
最初に受けた傷をなぞるようにして加えられたジカンザックスの斬撃にアナザーグレートクローズは悲鳴を上げる。
ダメージで動きが硬直している間にケイトはジカンザックスを休むことなく振るい、アナザーグレートクローズに傷とダメージを与える。
だが、アナザーグレートクローズもやられてばかりではない。蒼炎の剣でジカンザックスを防ぎ、ケイトの連撃を止める。
互いの武器を押し当て合う鍔迫り合いとなるが、アナザーグレートクローズの方が力では上回っており、じりじりとケイトのジカンザックスを押し返していく。
しかし、ケイトはこれを狙っていた。
『You! Me!』
ジカンザックスの刃が広げられ、弓のリムの形になる。『おの』という文字は『ゆみ』へと変わり、文字通りジカンザックスは斧から弓に変形した。
ジカンザックスの後部になるグリップを引き、放すことでジカンザックスから光矢が射られ、アナザーグレートクローズの肩に命中する。
再び悲鳴を上げるアナザーグレートクローズ。矢が突き刺さったことでその手から蒼炎の剣を落とす。
ケイトはジカンザックスが斧から弓になることなど知らなかった。なのに体が自然と動いて変形させた。
そして、またも体が勝手に動き、ジクウドライバーからケイトライドウォッチを外す。
弓モードから斧モードに戻したジカンザックスのスロットにケイトライドウォッチを填める。
『フィニッシュタァァイム!』
ジカンザックスがライドウォッチの力を取り込み、刃が薄赤色に輝く。
「おおおおおおおっ!」
ケイトはジカンザックスを振り上げ、アナザーグレートクローズの鎖骨付近に叩き込む。
『ケイト! ザックリカッティング!』
刃から噴き出す光がアナザーグレートクローズの体に深く食い込む。
「ウォラァァァァ!」
「うおおおおおおおっ!」
ケイトはジカンザックスの後部に掌を当て、更に押し込む。このまま一気に決着を付けるつもりであった。
ジカンザックスはアナザーグレートクローズの胸に沈み込みこんでいく。そのまま斬り抜ける──と思われたがそこで止まってしまう。
「くぅぅ!」
アナザーグレートクローズの手がジカンザックスを掴み、それ以上刃が進まないようにしていた。ケイトは力を込めるがビクともしない。アナザーグレートクローズに地力で完全に負けていた。
「あと一歩……! あと一歩のところで……!」
仕留めきれなかったことを悔やむケイト。
「景都ぉぉぉ! 伏せろぉぉ!」
背中から叩きつけられるように聞こえる声。その声に言われるがままケイトは身を低くする。
『Ready Go!』
ケイトの背後。そこには復帰したグレートクローズの姿。背後には蒼と赤が交わって燃えるドラゴンのエネルギー体──グレートクローズドラゴン・ブレイズを従えて。
『グレェェトドラゴニックフィニッシュ!』
グレートクローズドラゴン・ブレイズが吐き出す炎を背に受けてグレートクローズは空中を疾走。ケイトの頭上を飛び越えてアナザーグレートクローズに突き刺さっているジカンザックス目掛けて蒼と赤で燃える飛び回し蹴りを打ち込んだ。
アナザーグレートクローズの腕力でもグレートクローズのキックを止めることは出来ず、ザックリカッティングとグレートドラゴニックフィニッシュを掛け合わせた一撃により体を袈裟斬りで分断される。
一拍置いた後、アナザーグレートクローズの体は赤い液体となって地面に広がった。
「ふぅ……助かったぜ! 景都!」
グレートクローズは快活に言う。
「いや、俺は殆ど何も……」
戦いの殆どはグレートクローズに任せ、ケイトは最後に少しだけ戦っただけ。礼を言われるようなことはしていないと謙遜する。
「お前が居なかったら俺は危なかったぞ?」
ケイトが謙遜する意味が分からずグレートクローズは首を傾げる。良くも悪くもグレートクローズは鈍かった。
「その──危ない!?」
グレートクローズの奮戦あってこそと言おうとした時、風切り音と共に巨大な何かが飛んで来るのが見え、ケイトは叫ぶ。
「うおっ!?」
グレートクローズが体を低くするとその頭上を通過し、近くの電信柱に突き刺さり、そのまま両断した。
「何だあれ……?」
「ハサミ?」
ケイトが言うようにそれは巨大なハサミそのもの。握り手の部分に手のようなものが付き、下半身は一対の刃。上半身と下半身の境目に右側を向く蛇のような黒い仮面が付いておりハサミを中途半端に擬人化したような姿であった。
「──後ろだ!」
今度はグレートクローズが叫び、ケイトは咄嗟に横へ飛ぶ。衝撃の後、ケイトが居た地面が粉砕された。
顔と首までが筒状になっており、両腕は先端が蹄の形をした手甲で覆われて、全身が縞模様で統一されたシマウマの怪人が立っている。このシマウマの怪人は左側を向く蛇の仮面を付けていた。
「次から次へと!」
その時、倒されたアナザーグレートクローズの赤い液体が波打つ。逆再生のように赤い液体が盛り上がっていき、あっという間に無傷のアナザーグレートクローズへ戻ってしまう。
「おいおいおい……」
「馬鹿な! 倒した筈なのに! ……うん?」
復活したアナザーグレートクローズ。その体に描かれていた『GREATCROSS―Z』の文字が剥がれ落ち、その下から新たな文字が出て来る。
浮かび上がる文字は『BLOOD─DRAGON』。ハサミの怪人の刃にも『BLOOD─SCISSORS』、シマウマの怪人の腕にも『BLOOD─ZEBRA』と共通した文字があった。
「まさか、こいつら……!?」
ある予測がケイトの中に過る。だが、その一瞬の考えが致命的な隙を生み出してしまう。
「──!? 景都っ! 逃げろっ!」
ケイトの背後、そこに音もなく忍び寄っていた巨大なコブラ。赤い液体のような体を持つその怪物に描かれる名は『BLOOD─COBRA』。
四位一体のアナザーライダーの牙が容赦なくケイトへ襲い掛かる。
どうしてアナザーグレートクローズを出したのかという答えになります。