仮面ライダージオウIF NEXT TIME~ゲイツマジェスティ~ 作:K/K
アナザーブラッドたちの襲撃を受けた翌日、景都は学校に来ていた。当然その右足にギブスを付けたまま。
知人たちは景都が登校してきたことに喜んでくれたが、彼の右足のギブスを見るとよそよそしくなり腫れ物でも扱うような態度になる。
景都は知人たちのその態度を内心では少々鬱陶しく思っていたが、気遣い故の態度なのはちゃんと理解している。もしも、自分が逆の立場だったのなら似たような事をしていたかもしれないと思っていた。
昼休みになり景都は持参していた弁当をちびちびと食べ始める。景都の両隣の席にはソウゴとツクヨミが座っている。
「あれ? お弁当の量がいつもよりも少なくない?」
何気なく出たソウゴの疑問。見たままの事をそのまま口に出してしまった。
「常磐君!」
「──あっ……ごめん」
ツクヨミの鋭い声が飛ぶ。ソウゴはその声にどうしてそうなったのかを察して慌てて謝罪する。
景都は毎日激しい朝練を行っていた。その為、体力と筋力を維持するのに多くの食事を必要としており、今の弁当の量の約三倍は食べていた。しかし、右足を負傷して柔道が出来なくなった今ではそのような食事は必要ない──
「……気遣ってくれるのは有り難いが、お前たちは勘違いをしている。弁当の量が少ないのは……ただの胃もたれた」
万丈に連れられて肉を食べに行き、そこで腹がはち切れそうになるぐらいの肉を奢られた。結果、胃もたれを起こしてしまいそれが現在まで続いている。
「何で胃もたれ?」
「……色々あったんだ。それで流れだ」
「どういう流れ……?」
話が結びつかないのでソウゴは怪訝な表情になる。
「……ねぇ、明光院君。色々ってもしかしてまた襲われたの?」
「……ああ」
景都の言葉と態度から何があったのかを予想し、景都へ問うツクヨミ。景都はそれが事実であると認める。
「え? 襲われた? 景都が? ……誰に?」
景都が襲われたということが聞き捨てならず二人に詳細を問う。この時のソウゴは普段の能天気さはなく妙な圧があった。
ツクヨミは景都に視線を送る。話していいのか目で確認してきた。景都は少し間を置いてから無言で頷く。景都も景都なりにソウゴのことを信頼しているからこそ話す。また、ウォズが言っていた魔王のことについても話しておくべきだと思った。
そして、景都とツクヨミはこの間あったことを話す。
「景都がロボットに襲われた? ……え? どういうこと? ロボット? ロボットって何?」
ソウゴは至極真っ当な反応をする。
「ロボットは……ロボット」
「そうとしか言いようがない」
「──何でロボットが景都を襲うの?」
「ウォズっていう変な男の人が言うに明光院君は救世主になるんだって」
「救世主? 景都が?」
「──で、常磐君は未来で最低最悪の魔王になるんだって」
「へぇ……はぁ!? 俺が!?」
景都の話かと思っていた所にいきなり自分にも関わりある話になり驚く。そして、示された未来に二度驚く羽目になる。
「ちょっと待って! 俺がなりたいのは人を助ける王様だよ!? 魔王になるつもりなんてないって! 何で!? 何でそんなことになってるの!?」
「俺が知るか……そもそもあのロボットも未来のお前が送り込んだらしい」
「ロボットも俺が!? ロボットの家来なんていないって!」
次々と聞かされる身に覚えの全くない話にソウゴはひたすら戸惑うしかない。
景都もツクヨミもソウゴの慌てふためく姿に彼が未来で最低最悪の魔王になる話の信憑性が薄れていく。
「……お前、アナザーライダーって聞いたことがあるか?」
「アナザーライダー? それも知らない」
ついでにこの間襲ってきたアナザーライダーという存在についてもダメもとで聞いてみるが予想通りの反応であった。
カッシーンとは違って目的を一切話さなかった──そもそも会話する能力があるのかも疑わしいが──アナザーライダーという不気味な存在。その名を教えてくれたウォズに訊くのが一番なのだが、ウォズはアナザーブラッドたちの襲撃のタイミングで何処かに行方をくらませてしまっていた。
カッシーンが救世主になる景都を倒すことが目的だが、アナザーライダーは何が目的なのか全く分からない。そもそも名前だけしか知らないのでどういう存在なのかも景都は知らない。
「はぁ……」
問題の中心にはいるが、何が起こっているのか無知なので蚊帳の外居るような感覚。景都はそれをもどかしく思いながら弁当に箸を伸ばす──と前から伸びて来た指がおかずを一つ摘まみ上げる。
おかずの行方を追うと目の前に茶髪の青年が居り、摘まみ上げたおかずを食べてしまう。
「俺の!」
「中々美味しいじゃないか」
人の弁当のおかずを横取りしておいて悪びれもせずに味の感想まで言う。
「……誰だ?」
「僕? 転校生の海東大樹。よろしくね」
青年こと海東が言うように景都たちと同じ制服を着ている。しかし、転校生が来ているなど景都たちは初耳である。
「転校生?」
「そんな話あったっけ?」
ツクヨミとソウゴはひそひそと話す。そこまでクラスの数は多くないので転校生が来たのならそこそこ噂になっていてもおかしくないのだが、二人には全くそんな情報など入ってきていない。勿論、景都も初めて知った。
しかし、転校生であったとしても海東という人物の第一印象はあまり良いものではない。初対面の筈なのに馴れ馴れしいというか、人との距離の詰め方がおかしい。
「君たちが何を考えているのか凡そ察せるよ。でも、これが僕の良い所さ」
三人の内心を読んで堂々と言う海東。本人も他人との距離感の詰め方が普通じゃない自覚はあるらしい。それとは別としてさも当然のように人の心を読むのは気持ち悪いが。
「──それで明光院景都。やりたい事、もしくはやるべき事は決まったかな?」
「……はぁ?」
初対面の人間からそんな事を訊かれた景都の当然の反応。
「はぁ? じゃないだろ。君の進路だよ」
「……人の弁当のおかずは盗るわ、いきなり進路の事について訊いてくるわ、何なんだお前は?」
すると、いきなり海東は景都の傍によりその耳元で小声で囁く。
「ただ確認したいだけさ……仮面ライダーや救世主としての道を進むのかどうか」
「お前っ!?」
何か事情を知っていると判断した景都は、海東の胸倉を掴む。
「何か知っているのか!? 知っているのなら言え!」
「やれやれ怖いなぁ」
全く怖がっていない態度で言いながらあっさりと景都の手を引き剥がす。
あっさりと引き下がる海東の態度を不審に思う景都。彼は気付いていなかったが、引き下がる理由を見ていた者が居た。
「ねぇ。景都のポケットから何か抜いたよ?」
ソウゴが指摘すると景都は慌てて自分のポケットをまさぐる。
「無い!」
入れてある筈のライドウォッチが無い。慌てて海東を見る。目を離した隙に海東は教室の外に移動していた。
「折角心配してあげているのにつれないな」
景都に見せびらかすように海東は手の中にあるケイトライドウォッチを翳す。
「返せ!」
「返して欲しいなら追いかけてきたまえ」
そう言い海東は教室から離れていく。景都は急いで松葉杖を掴むと、片足が不自由とは思えない速度で飛び出していった。
「景都!」
「明光院君!」
海東を追っていった景都を追おうとするソウゴとツクヨミ。彼らを追って教室の外に出ようとするが突如として現れた壁が彼らを阻む。
「うおっ!」
「きゃっ!」
急停止するソウゴ。そんな彼に追突するツクヨミ。彼らの前に現れた壁は大柄な男性であり、スーツ姿で髪をキッチリと後ろに撫で付けてある。
厳つい顔付きをしギョロリとした目で二人を見下ろす。
「しぇ、しぇんしぇい!」
ソウゴは驚きと畏怖で声を裏返ってしまう。
「ス、スウォルツ先生!」
いきなり現れたのは彼らの進路指導を担当している教師──スウォルツ。
「明光院を探している。明光院は何処だ?」
別に怒っている訳ではないのだが、威圧感があり過ぎるせいで教室内が委縮する。
「常磐。明光院は何処へ行った?」
「ひゃ、ひゃい!?」
ソウゴに関しては完全にスウォルツを恐れている。スウォルツは生徒の進路指導を担当しており、当然ながらソウゴもスウォルツに進路指導について面談をしていた。
『王様になる』という高校生とは思えないソウゴの夢。スウォルツはそれ自体を否定している訳ではないのだが──
『具体的にどんな王になる?』
『王になるちゃんとしたプランは出来ているのか?』
『王になる為に明確な進路を示せ』
『俺の意見を聞け。まずは──』
理詰めで曖昧な夢や目標をそぎ落として現実的な方法を出してくるスウォルツ。親身になって話してくれる良い先生なのだが、面談の度に一対一でスウォルツの強烈な威圧を浴びせられるのでソウゴは苦手意識をしっかりと刻み込まれていた。
「明光院君はさっき教室を出ていきました」
「──そうか。入れ違いになったか」
ソウゴに代わってツクヨミが答える。教室内で、そもそも学校内でスウォルツに物怖じせずに話せるのはツクヨミぐらいである。
「なら明光院に伝えておいてくれ。話がある、放課後に進路指導室に来るように、と」
「分かりました。伝えておきます」
「任せた」
それだけ伝えるとスウォルツは教室から去っていく。緊張感に満ちた教室の空気が弛緩した。
「あっ! 景都!」
スウォルツの登場により出遅れてしまったソウゴとツクヨミ。急いで教室の外に出るが景都も海東の姿も見当たらなかった。
「どうしよう……」
「探しましょう!」
二人は急いで景都を探す。
ソウゴとツクヨミが景都を探し始めた時、景都はまだ海東を追い掛けていた。
「待て!」
わざとなのか海東は景都から付かず離れずの距離を保って移動しており、景都の視界から姿が途切れることがない。
松葉杖で走りながら何とか追い付こうとする景都。そんな彼を見てしまった者たちが居る。
勝気な印象を受ける綺麗な少女と中性的な容姿の少年の組み合わせ。
「あれって景都?」
「何で走ってんだろ?」
景都の同級生であるオーラと彼女によく顎で使われることが多い後輩のウール。オーラは景都に気があるのか景都のことをよく気にしており、景都が入院した病院を手配してくれたのもオーラである。
「誰かを追い掛けてる?」
「怪我しているのに?」
激しい運動を禁手されている筈なのにあの必死さ。余程のことが起こっているに違いない。
「追い掛けるわよ」
「え!? 僕も!?」
「つべこべ言わない!」
オーラの圧に負け、渋々彼女と共に景都を追い掛けるウールであった。
◇
気付けば学校の外にまで移動しており、何かの跡地であった人気の無い場所に来ていた。
「流石、鍛えていただけのことはあるね」
そこで海東は足を止めて振り返る。景都は汗をかいているものの海東が言うように息切れをしていない。
「それを返せ!」
「それってこれ?」
海東はケイトライドウォッチを見せる。
「そうだ! 泥棒め!」
「人聞きの悪い。怪盗って言いたまえ」
「どっちでもいい! 早く返せ!」
泥棒呼ばわりに少しムッとした表情で訂正してくるが、景都からすれば盗っ人であることに変わりない。
「──本当に返して欲しいのかい?」
「何?」
「これがあったら君はまた襲われることになるんじゃないかな?」
「それは……」
無い、とは言い切れなかった。事実、ライドウォッチを手にして仮面ライダーに変身出来るようになった時からカッシーンやアナザーライダーに襲われている。
「君は仮面ライダーになることへの覚悟は出来ているのかい?」
景都を試すような海東の問い。景都はすぐには答えられない。
「そこまでにしろ」
海東の質問を切り捨てる鋭い声。景都の後ろにスーツ姿の男性が立っている。
「やあ。来たのかい?」
「この間の意趣返しか? 私に勝手な真似をするなと言った本人が独断で動くとはな」
「僕には僕のプランがあるということさ。理解したまえ」
両者の間にひりついた空気が流れる。事情も知らないままその間に挟まれている景都は堪ったものではない。
「誰だあんたは!? あいつの仲間か!?」
「混乱させたようで済まない。私の名は呉島貴虎。この男とは……協力関係にある」
仲間という程の関係ではないことをアピールする貴虎。海東を睨み付けている辺り噓には聞こえなかった。
「そこは仲間って言ってくれないと景都君も安心出来ないじゃないか」
「貴様の言動はいちいち虫酸が走る」
本心を見せずに独自に動く海東と堅物で真面目な貴虎との反りは全く合わない。敵対していないことが不思議なくらいに。
「酷いなー。まあ、僕の予想通り来てくれたことだけは感謝するよ」
「──何?」
その時、場に満ちる香り。本来ならば甘い香りなのだろうが香りが濃すぎるせいで不愉快なものになっており、熟し過ぎて腐っている果実のニオイによく似ていた。
「早速おでましだ」
海東の声を合図にしたかのようにそれは現れた。
最初の印象は枯れ木。胸に乾いた果実のような茶色の装甲を左右に付け、右肩から実も葉も生えていない枝を伸ばしている。左肩も同じように枝が伸びているが、こちらには萎れた赤茶色の果実が一つだけ生っており、腹部には種類の異なる果実の断面らしきものが二つ並んで埋め込まれている。
頭部は赤茶色の装甲だが全身の装甲のように血管を彷彿とさせる根が巡らされてある。額には枯れた蔦を巻きつけており、その下の両眼は赤いゴーグルで覆われている。口部にも同じような蔦が巻かれているが、雑に巻かれているので歯牙を覗かせていた。
両肩のアーマーに『SAVIOR』『2015』と刻印されている。
現れる怪人──アナザーセイヴァーは右手に刃が付いた弓、左手に大木から削り出したような大太刀を構え、その殺気を全員に向ける。
「貴様……彼を出しに使って呼び寄せたのか!」
「邪魔な存在はなるべく排除した方がいいだろ?」
自分も利用されたことよりも景都を危険な目に晒したことに怒る貴虎。そんな貴虎の怒りを向けられても海東の態度は変わらない。
「貴様も──」
「きゃあ! 何あれ!」
「うわっ! 化物!」
貴虎の声を遮る悲鳴。
「オーラ!? ウール!?」
知人が何故かここに居ることに驚く景都。
「はぁ……やれやれ」
海東にとってもオーラたちが来たのは予想外だったのか面倒くさそうに溜息を吐く。
「彼女たちは僕に任せたまえ」
そう言うと海東の周囲に銀色のオーロラが出現。それを潜ると海東の姿が消え、次に現れたのはオーラたちの背後であった。
「行くよ」
『誰!?』
海東はオーラとウールの肩を掴んでオーロラの中に引きずり込む。
「──あぁ。余裕があったら助っ人を呼んであげるよ」
そう言い残して二人を連れてオーロラごと消えてしまう。
「……あっ! 返してもらってない!」
ケイトライドウォッチを取り返していないことに気付く。このままでは景都は変身出来ない。
「──助っ人を呼ぶと言っていたが」
景都の隣に貴虎が来ていた。
「待つよりも倒した方が早い」
貴虎の腹部にはいつの間にかドライバーが装着されていた。ドライバーの右側に刀型のレバーが付いた、名を戦極ドライバー。
貴虎の右手に握られるのはメロンの意匠が施された錠前。
「変身」
『メロン!』
メロンの錠前──メロンロックシードが解錠されると貴虎はそれを頭上に投げ上げる。
宙を舞うメロンロックシード。更にその上にチャックのようなものが出現し、チャックが動いて空間に穴を開けるとそこから巨大なメロンが出て来る。
「メ、メロン!?」
本当にメロンが出て来たことに驚愕する景都。
貴虎は落ちて来たメロンロックシードを掴み、戦極ドライバー中央へセット。
『ロックオン!』
メロンロックシードを施錠し、刀型レバー──カッティングブレードを持ち上げる。
『ソイヤッ!』
メロンロックシードが上下に割れ、断面が露わになると頭上のメロンが貴虎へと落ちて来た。
貴虎がそれを頭に被ると白いアンダースーツが貴虎に装着される。
『メロンアームズ!』
被さっていたメロンが展開され、両肩と胸部を覆うアーマーへ変化。
『天・下・御・免!』
メロンの下から現れる仮面。前部はアンダーアーマーと同じ白、後部及び肩と胸部はメロンの網目が付いた黄緑色。額には兜の前立てのような深く湾曲した金色の半月。
変身完了と共に左手に装着された大型の盾を見て景都は『あっ』と声を上げる。
「その盾! あんたが俺たちを──」
「話は後だ。安心しろ。君に指一本触れさせない」
景都を守る為に景都の前に出る。
異邦の果実が変化した錠前を掴んで変身するアーマードライダー──改め戦えない者たちの代わりに戦う仮面ライダー、その名は斬月。
斬月相手にアナザーセイヴァーがどれだけ戦えるのかご期待ください。