哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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アヘ顔好き。

アヘ顔ダブルピース嫌い。




第十二章拠点フェイズ :【北郷隊伝】特訓のご褒美は…… その三

 「おー、頑張んりょるなぁ」

「結果はともかくとしてな」

「言ってやるな。真桜」

 

沙和への指導が一段落するまで、私達三人は川岸で休憩ということになっている。とは言え、沙和に求められているのは『とりあえず泳げる』レベルなのでそう時間もかかるまい……と思っていたがそんなことは無かった。

 

「何でたいちょーに手ぇ持ってもらっとるのに沈むんやろ」

「鉄でも仕込んどんとちゃうのん?」

「……さすがにアレは………」

 

まず、浮いていられないらしい。一刀に手を引いてもらっているのだが、足が沈み……腰が沈み……と、どんどん沈んでいってバタ足にすらならない。

 

「余計なとこに力入れ過ぎなんや」

「水に対する恐怖心から、脱力するのが難しいんじゃないか?」

「そんなことァないやろ。さっきも平気で水遊びしとったし。何というか、ホンマに『泳ぐんと相性が悪い』って感じ?」

「自己暗示のようなものか?」

「近いっちゃ近いんちゃう?」

 

「きゃぁああああああ!た、隊長!沙和のお尻を勝手に触っちゃダメ〜〜〜〜!」

 

突然、沙和の素っ頓狂な悲鳴が。一刀が指導の為に(?)尻付近を触ったのだ。

 

「!?……隊長………!!!」

 

まぁ、その辺を好意的に理解出来ないのが約一名。

 

「わー!わー!ちょっと待ちぃや凪!そのいつぞやの紅い氣は隊長には強過ぎる!」

「おうよ、それに身体の動かし方を指導しとんやから、尻……つまり脚を動かすに当たって最も基礎的な筋肉が付いとる部分に触れるんは当たり前や。大方いつもの誇大反応やろしそないに怒ることないやろ」

「む……うむ、そうだな。そうかもしれないな………」

 

 凪が再び腰を落ち着かせるのを確認してから、一刀と沙和に目を戻す。こちらは一刀さんの有り難いお話の最中のようだ。口説いているとも言う。

そしてその結果、沙和のやる気が更に上昇すると伴に、目標が『何とか泳げる』から『助けが来るまで溺れない』に下方修正された。沙和には珍しく割と真面目にやっていたというのに残念なことだ。

 

――――

―――

――

 

 「沙和はまだやれるのっ!」

 

「うわっ!?何やびっくりしたー」

「おー、なんや隊長が止めたっぽいなぁ」

「あの沙和が休憩を拒むなんて……。これは負けていられないな」

「どんな対抗意識よ。……でも今は素直に休んどいた方が良えなぁ。あ、転けた。……もうへろへろやん」

 

あれから懸命に水面に浮く……あわよくば泳ぐ訓練を続けていた沙和だったが、とうとうストップが入ってしまった。

 

「ちょっと無理させ過ぎちゃったな……」

「うぅ……ごめんなさいなの」

 

歩くのも辛いようで、一刀に抱きかかえられて川岸まで戻ってきた。

 

「沙和……頑張ったんやな」

「うん。沙和にしてはかなり珍しく頑張っとった」

「ちょっと……聆ちゃん、今は、ツッコむ元気ないから………、ね?」

「隊長!次は自分をお願いします!」

「ん、凪もやる気になってくれたみたいだな。よし、じゃあ行こうか。聆、真桜。沙和を頼んだぞ」

「うぇーい」

「任せとき」

 

 

 そして今度は凪と一刀が水の中へ。

 

「うーん、やっぱ動き硬いな」

「その辺は隊長にも言われとるっぽいな」

 

凪の場合は動きに無駄が多いことに問題が有る。掻いた手を戻すときに水の抵抗を受け、後ろに下がる力を生み出してしまっているのだ。バタ足の方も、脚を滑らかに動かせていないせいで上手く水を捉えらず、思ったように進んでいないように見える。水中で無理な動きをしようとすれば、引っかかるような感覚があるものだが、凪の場合はなまじ力がある分、強引に動かして何とか泳げて(しまって)いるということだ。

 

「お、あの泳ぎ方は何や……?」

「珍しい型やな」

 

珍しいのはこっちの世界での話。現世では一般的な、腕を回し左右交互に掻く泳法……つまるところクロールである。

「へー、腕が水の上を回るから抵抗が少ないってことか」

「なかなか的確に泳ぎ方選んどるなぁ」

「せやな。あの泳ぎ方って消耗大きそうやけど、凪の体力なら十分やろし」

 

しかも、普通のクロールではなく、頭出しクロールのようだ。これなら視認性も高く、実践でも十分に使えるだろう。私や真桜には、武装の関係上、腕を大きく動かす泳法は適さない。対して凪は武器を持たない。となれば現代で最も早いと思われるクロールは恐らく最適解だろう。凪がその気になれば水面走りとかできそうだが……さすがにロマン過ぎるか。

 

「泳ぎ方は良えなぁ。……泳ぎ方は良えねんけどな」

「うん」

「ヒャンとかアンとか聞こえてくるんは何やねんっ!」

「凪ェは敏感やからな。仕方ないな」

 

より効率的な指導のために(?)一刀は凪の体に割と密着した体勢なのだが、そのせいでふとした拍子に凪が嬌声あげる。凪の顔は見る見る赤くなってくるし、一刀もちょっと意識しているようだ。流石魏ルートの正妻ポジというところか。私も周りから正妻とか言われているが、やっぱり原作からのキャラは直球でかわいいな。

 

「凪ちゃん・・・いやらしい娘!」

「あ、沙和。もぉええんか?」

「うん。まだちょっとふらふらするけど大丈夫なの。それよりも凪ちゃんとたいちょーがいい雰囲気すぎるの!」

 

腰周りに触れられて、一段と高い声が出る。

 

「……せやんな。あんなん、ウチらが後に控えてなかったら絶対ズッコンバッコンする流れやんな」

「真桜ちゃん……下品」

「雄蕊と雌蕊が……」

「それはそれで違うと思うなー」

 

――――

―――

――

 

「私らが隠語について語り合いよる内に大分形になってったな」

「あ、ホンマや。エラい長いこと話とってんなー」

 

凪はもう既に、一刀の手から離れてスイスイと泳いでいる

 

「凪ちゃん、運動神経良いもんねー。羨ましいのー」

「でも沙和は隊長に助けてもらえんねんやろ?」

「ふふん。まぁねー、なの!」

 

「おーい、次、真桜と聆、どっちにするー?」

 

と、凪は自主練に入ったようで、一刀がこちらに訊いてくる。

 

「んじゃあ、真桜先行き」

「まぁ、聆が一番上手いし、そーなるな。別に下手な順ってこともないやろけど。……たいちょー!じゃあウチが先でー!」

 

返事をして、一刀のいる川の中ほどまでザブザブと入っていった。

 

「思ったんだけどさ、真桜ちゃんって練習する意味あるのー?」

「んー、普通に泳ぐ分にはそうやけど、真桜の武器ってアレやしなぁ。濡らしたらオジャンちゃうっけ、アレ」

「あ、じゃあ今の泳ぎ方じゃダメなの」

 

もともとの真桜の泳ぎ方は平泳ぎの腕にバタ足を組み合わせたものだが、それだともちろんあのドリルは持てない。もし無理やり持っていても、防水でもない限りダメになる。今のところ防水加工の技術は持っていないようだから、武器を濡らさない泳法が必要になるわけだ。

 

「って、あれ?たいちょーどっか行っちゃったの」

「ん、荷物置いとる辺りやな」

 

しばらくして戻ってきた一刀の手には、何か、棒の先に大きめの石を括りつけたものがあった。

 

「なんなの?アレ」

「……アレを螺旋槍に見立てるんか」

「あ!なるほどー!」

 

……思ってたよりガチなんだが。原作では真桜は背泳ぎだったと思うが、何かこっちでは半身になって片手で槍を鉛直に保持しつつの、古式泳法臭い泳ぎを教えている。……何であんな泳ぎ方知ってるんだ?一刀の祖父が剣術家か何かだったような気がするから、その繋がりだろうか。

 

「うぇう……やっぱり沙和、落ちこぼれっぽいのー」

「せやな」

 

真桜も、新しい泳ぎ方に最初こそ戸惑っていたがもう既にコツを掴んだようだし。

 

「うっ、そこは否定してほしかったのー」

「実際そうなんやからしゃーないわ。でも、真面目にやったんやから良えやん。それに、ちょっとは進歩しとんやろ?泳ぎに関しては」

「最後だけ余計なの」

 

真面目にやってダメだというのは一番救いがない、というのは言わずにおいた。

 

「聆ー!」

 

「お、私の番か」

「沙和も自主練習しよーかな」

「それは……もうちょい休んだ方が良えんちゃう?危ないし」

「……そーだよね。じゃ、聆ちゃん、頑張ってなの!」

「おうよ」

 

 「さて、聆の水練だけど……」

「うん」

「……あの泳ぎ方って、どうやってるんだ?」

「まず、脚を揃えるやん?」

 

と、近くの岩に腰掛け、一刀に見えやすいように脚を揃える。

 

「んで、足首をひねって――」

 

イルカの尾ビレをイメージしつつ、足首から先を変形させる。

 

「あ、やっぱ常人には無理な感じだったのか。はは、膝とか逆に曲がったりしてる気がしたからそうなんじゃないかなーとは思ってたんだ。動きだけじゃなくて準備段階からダメだったんだな」

「何や失礼な。十年くらいかけて関節ぶっ壊したらできるわ。多分」

「はぁ……つまり無理ってことだろ。他の泳ぎ方は出来るか?行く行くは新兵訓練にも水練が取り入れられるだろうから、一般人にも出来るようなのを……」

「うん。できるで」

「あ、やっぱり?」

「うん」

 

軽く平泳ぎをして見せる。

 

「………」

「………」

「……終〜了〜〜」

「うん」

「はい。終了」

「……何か残念そうやな?」

「い、いや、そんなことないさ。それより、聆、ヒマになっちゃうな」

「それやったら、沙和の練習見たることにするわ」

「うーん、でも、沙和も大分疲れてたしな……。沙和がしたいって言ってたのか?」

「おう。何や知らんけどやる気になっとるらしぃてな。注意して見とくし、浅いとこにしとくから」

「……うん、聆なら安心だな。分かった。頼んだぞ」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 パチパチと焚き火の炎が夕暮れに溶け込んでいる。四人は寄り添うようにその炎に当たっている。

 

「これで訓練は終わり」

 

その一言で四人は一気に緊張が解けたようにへたり込んだ。

 

「ふぃ〜〜〜」

「あ、ありがとう……ございました」

「凪、よく頑張ったな」

「たいちょ〜〜、沙和も頑張ったの〜」

「ああ。思った以上に真面目にやってくれて嬉しいよ。でも、ちょっと無理させちゃったかな……?」

「えへへ……たいちょー、すっごく優しい……。ますます好きになっちゃうの」

「なんてちょろい……。疲れすぎて脳味噌までとろけとるなぁ」

「えー、じゃあ聆ちゃんはたいちょーのこと好きじゃないの?」

「……本人前にして言うことちゃうやろ」

「あー!聆ちゃん照れてるのー?かーわーいーいーー!」

「うわぁ面倒くさっ★」

「あ、あのっ……自分も、隊長のことが好きです!」

「な ぜ 今 そ の 宣 言 し た し」

 

ワイワイと軽口を言い合う三人に、自然と笑みがこぼれる。

 

「真桜もご苦労さま」

「なんや、ウチの場合は『も』が付くんかいな」

「私はまだ労いの言葉貰ってすらおらんのやけど?」

「あぁ、ごめん。聆も、今日は苦労かけたな。二人とも機嫌なおしてくれよ……、頼りにしてるんだから」

「もー、しゃーないなー」

「はぁ……惚れたウチの負けなんかな」

「隊長、自分は聆や真桜より……その……頼りにならないのでしょうか?」

「そういう意味じゃないよ。凪には凪の、沙和には沙和の、真桜には真桜の、聆には聆の……一人一人、それぞれにしかない、いいとこがある。誰が誰より劣ってるとか優れてるとか、そんなことは無いんだよ。……こんな言い方はずるいけど、みんな頼りにしてるし、好きだ。可愛い部下だと思ってる。今日は柄にもなく厳しくしたけど、四人のことを思ってなんだ」

「隊長の気持ち……ちゃんと受け取ったで」

「うん、沙和も」

「隊長、今日はありがとうごさいました」

「明日からもたのむな」

 

俺が四人を信頼していて、四人もきっと俺のことを信頼していてくれている。こんな部下を持つことができて、俺は本当に幸せだ。

 

「さてと、ええ話も終わったところでご褒美貰おかな」

「ぐっじょぶ真桜ちゃん!忘れるところだったの」

「実際、隊長も忘れとったくさいしな」

「まぁ、ははは……」

「ご褒美………」

「いや、分かってるよ。みんな頑張ってくれたしな。……でも、今から街に行っても夜になっちゃうし……。ご褒美は明日にするか?」

「いーや、そんなの待てへん」

「今すぐが良いのっ!」

「私も……その、待てません…………」

「待てないっていわれてもなぁ……、そもそも何が良いんだ?」

「そんなん決まってるやん。なぁ」

「そーそー、決まってるもんねー」

「………………」

 

真桜と沙和が目配せをしあい、凪も無言で近づいてくる。

 

「なんや、やっぱりおんなじこと考えとってんな」

「えへへー、だってご褒美なんて一つしかないもん」

「…………」ゴクリ

 

こ、これは……もしかしてそういうことなのか……!?

 

「え、えっと、お手柔らかに(?)」

「まぁちょい待てやお前ら」

 

もう少しでゼロ距離になるというところで静止の声がかかった。聆だ。

 

「もー、なんやねん聆」

「何か奢ってもらいたいんだったら聆ちゃんだけ別に頼めばいいの」

「やから、やめろとは言っとらんやろ。ただな?よぉ考えぇよ。普通にするんやったらいつでもできるやん」

「おい何だその言い草は。俺が軽い男みたいじゃないか」

「軽いとは思とらんで。女の子からの誘いを断れんだけやんな」

 

……否定できないのが辛い。

 

「……まぁ、そ~ゆーワケで、私はいつもと趣向の違うのんを提案する」

「それは……どういう………」

「………」

 

聆はいたって静かにソレを取り出した。赤黒く、巨大で、凶悪なカタチをしたソレは―――

 

「……お菊ちゃん肆式改弐」

 

 

 それからしばらくの間、真ん中が空いた丸い座布団のお世話になった。




カットシーンはそのうちあっちに出します。
……需要無いな。多分。

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