哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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ループを体験した気になってみようと思い、まどマギのBADENDssばかり連続で読む遊びをしてみました。
杏子ちゃん以外全員嫌いになってしまいました。やらなきゃよかった。

そして恋姫凡夫名物、妙に長い問答パート。
β√のテーマは『現金を懐に仕舞うまで信用するな』です。
そのことをしっかり意識してないと凄く混乱します。
作者ですら何書いてんのか分からなくなりかけましたから。


第十二章X節その六 〈β〉

 「我は鑑嵬媼!曹操を倒さんと、呉と結ぶべく参った!貴公らに交渉の意思があるならば、どうかこの門を開けられよ!!」

 

夏口近辺の出城。呉、そして密かに同盟を組んでいた蜀の面々が待機している城だ。その門を前に、鑑惺が声を張り上げている。

 

「……やっぱり、分からないわね」

 

 予想より遥かに早い魏の出撃の報から数日。そして、その数が予想の四分の一以下であると分かったのが一昨日。そして、その実 鑑惺による反乱だと伝えられたのが昨日。

 そして今、実際にその一団を前にしている。

が、孫策にはイマイチ納得がいかない。

 

「……なぜこの時期になって反乱を………?」

「それは本人に訊いてみるしかないでしょう」

「門を開けろっての?」

「そうです」

「涼しい顔して言ってくれるわねぇ。他人の城だと思って」

「……いや、雪蓮。ここは諸葛亮の言う通りにするわよ。魏軍はあの数でも十分に脅威。そりゃ負けることはないでしょうけど戦えば余計な被害が出るわ。向こうが下手に出ているところにワザワザ喧嘩を売るのは避けるべきよ。……そして、放っておくなど以ての外」

「一度話を聞いてみるのが無難でしょう。…………話を聞くと言って内に招いてしまえばこちらの将で囲むこともできますし」

「はいはい分かったわよ。孔明ちゃんのそのわっる〜い顔に免じて言うこと聞いてあげる。開門よ、開門。さっさと開けちゃって」

「はっ!開門ッッ!!」

 

孫策の軽い言葉と対照的なハキハキとした門番長の声を合図に、門が重々しい音をたてながら開いていく。

 

「じゃあ、玉座の間に通すからみんなを集めてちょうだい。向こうには上から三人だけ連れてくるように言っておいて」

「人選には気をつけてくださいね。孫策さん」

「分かってるわよ」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 蛇鬼鑑惺をむかえるべく集まったのは孫策、周瑜、陸遜、諸葛亮、黄忠、厳顔そして劉備の七人。玉座の間がこれまでに無い張り詰めた雰囲気で満たされる。如何に経験と知識の豊富な者達といえど、相手は得体の知れない存在。嫌でも表情が硬くなるというものだ(一名除く)。

 短いながらも極端に永く感じる時間の後、扉が開き、訪問者が招き入れられる。

 誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「仲帝国成就のために!江東よ!!妾は帰ってきたッッ!!!」

 

 むせた。

 

「え、袁術!?」

「うむ、久しいの。そ、そんしゃく」

「お嬢様ぁ……ここは自信満々にキメようって言ってたじゃないですかぁ」

「さっそくブルってますよお嬢」

 

黒い鬼の巨体が入ってくるかと予想していた蜀呉の面々は、突然のお気楽三人組の登場に一瞬呆気に取られる。

 

「……えっと……聆さんは?」

「聆さんならそちらの言いつけ通り、門の前の広場で待機してますよ。……それより、劉備さんって聆さんのこと真名で呼ぶんですねぇ」

「はい……。私達がまだ小さな軍だったとき、お話ししたんです。お酒の席だったんですけどね」

「ああ、そう言えばそんなこと言ってましたねぇ。会うのが楽しみだって言ってましたよ」

「そうですか……。私もあれから色々経験して、思うこともありましたから、ぜひ」

「劉備」

 

至って和やかに話しはじめた劉備を、孫策が窘める。

 

「あ、……すみません。張勲さん?……ですよね。あの、今は蜀呉で同盟を組んでいるので孫策さんの話も聞かないとです……」

「それより桃香様……こちらもちゃんと話を聞かないうちから友好を結ぶ前提で話をするのはちょっと」

「え、そんな風になってた……?」

「なってましたよ……」

「でも確かに"鑑惺さんと話す"流れにはなってたけど、それが同盟と直接つながるワケじゃないよね?そこには気をつけて話してたから大丈夫だよ」

 

主の予想外の返答に、諸葛亮は次の言葉が出ない。

 

「「……つまりどういうことなのじゃ(んだぜ)?」」

 

言葉を発することができたのは、そもそも何を言っているのか分からなかった二人だけだ。

 

「………お茶だけしてソッコー帰らせることも、あの人の頭にあったってコトです。……あーあ、取っ付きやすそうな人からさっさとおとしちゃおうと思ってたのに……意外と厄介な娘みたいですねぇ」

「また騙す気だったのね。張勲」

「騙すなんて人聞きの悪いこと言わないでくださいよぉ。ただの省略ですよ。省略。どーせ一緒になって曹操さんを潰すだけなのに長ったらしい質疑応答なんてお互いに損なだけじゃないですかぁ」

 

射抜くような孫策の視線をお得意の慇懃無礼な笑顔であしらう。

 

「ちゃんと一緒になれるかの確認のための質問なんだけど?」

「今更質問することなんて有ります?」

「こっちとしては納得行かないことだらけなのよね。まずなんで上から三人と言われて貴女たちがここに?」

「その前に聞きますけど、上から三人って、団体での階級とか権威の話ですよね?上から三人って言われてこちらもちょっと悩んだんですけど」

「ええ。そうよ。それで何で鑑惺が入ってないの?」

「いえ、最初にお嬢様が仰った通り私達の最終目的はお嬢様を主とする仲王朝の成立ですから〜、お嬢様と袁家縁の者である我々が妥当かな〜って。それに、魏軍での聆さんの立場も部隊長でしかありませんでしたし」

 

イマイチ納得がいかないというか、モヤモヤする返答だが何も文句がつけられないのも事実。

 厳顔から新たな質問がなされる。

 

「何故に反逆を企てたのだ」

「曹操さんが勝ちを確信してゆるゆるになってたからですよ。そっちの仕掛けた策にも平気で自分から掛かりにいきましたし」

「しかし離反するには他にも時期があった筈。桃香様が蜀を建ててすぐの戦では、鑑惺は敵中の曹操のすぐ隣に居たそうではないか。曹操を倒すのであればその時の方が楽だったろう」

「あの時は聆さんと連携してませんでしたもん」

「そもそも何故鑑惺がお前たちと共に?」

「お嬢様が可愛いからじゃないですかね?って言うかさっきから鑑惺鑑惺って、そんなに聆さんが好きなら本人から聞けばいいじゃないですか!」

 

 

「……えーっと、上から三人って言ったんはそっちやったと思うんやけど?」

 

 代わって呼び出された鑑惺は、親しみ易い砕けた口調で話しはじめた。

……光の無い濁った瞳との対比でこの上なく不気味だが。

 

「悪いわね。こちらとしては貴女が首領だと思っていたから」

「はぁ、こんな小物相手に買いかぶりすぎやなぁ」

「よく言うわ……」

「それで、訊きたいことってのは?事情説明やったら七乃さんがちゃんと一通りやってくれたやろ?」

「はい。鑑惺さんには、鑑惺さん個人の動機を説明してもらいます」

 

むしろ鑑惺個人の動機が、反乱の本来の目的だと踏んでいる。

 

「真実でも説明すればするほど嘘臭なるから嫌なんやけどなぁ」

「裏切る機会ならこれ以前にも多々有ったはず。それを、なぜ曹魏による統一目前のこの時期に起こしたのか……。気まぐれで反逆を起こすような人物ではこちらとしても対処しかねますから」

「……説明するんはええけどその『裏切る』っちゅーん止めてくれん?私は裏切ったつもりなんかさらさら無いし」

「はぁ?現に主である曹操を倒そうとしてるじゃない」

「元々、華琳だけのために戦っとったんとちゃう。私が戦うんは一重に天のため。民がただ生きることにすら苦心する世を終わらせるため。私が魏軍に居ったんは魏が一番強なりそうやったから。とにもかくにもまず統一するなりして落ち着けんと政策作れもせんからな」

「ふむ……。民は救わねばならんと言いながら、戦友は『元より目的が違う』と切り捨てられるその根性が信用できん」

「対峙することが則ち切り捨てることだとは思わんが?」

「………」

「共に在ることが即ち仲間であることではない。……友と一度も喧嘩したこと無いか?子を一度も叱らんと育てるか?」

「……曹操のために曹操を倒すと?」

「適切な表現を見つけるのは難しいんやけど……厳密には、"華琳も含めた"皆のため、かな。華琳はもはや世の要。しかし、元の信念……『最も効率の良い方法で乱世を終わらせ、次の時代を創る』という思想を忘れた……。威を示すことにより安定させ、最終的な被害を少なくするために派手な戦をしとったんが、今ではただ愉しむために危険な賭けを繰り返しとる。それが世の新たな淀みになる。……勝ちにのぼせて歪んだアイツを叩き直すんは天下を正すに等しい」

「叩き"直す"……ねぇ。じゃあ何?貴女は曹操を殺さないことを前提にしてるってこと?」

「アイツほど有能な者を失うんは明らかな損失。然るべき戦場で誰の目にも明らかな敗北を経験すれば、華琳もこっちの話を聞かざるを得ん」

「……それが、奇襲をかけて、病身の寿成殿を殺した者が言う台詞?」

 

黄忠の顔が険しくなる。

『そうなりたい』という希望ですらなく、まるで元から全くの正義の味方"である"ことを自認するかのような傲慢な言葉が、神経に障ったのだ。

しかし、当の本人は尚 涼しい顔で応える。

 

「あぁ、世間ではそうなっとるんやったな。アレは嘘。馬騰は生きとる」

「!?」

「一度戦った後、魏の他の面子も交えて話し合ってな。結果、馬騰も魏の一員になった」

「嘘……!?」

「詳しい説明は冗長になるから省くが……、端的に言えば西涼と魏が争ったのは流言のせいであって、本来の目的は同じ……つまり魏も在りし日の漢と同じく大陸の安寧を目指しているということを馬騰が悟った、っつーワケ。………それも今は状況が変わったんやけどな」

「そんな話、信じられると――」

「信じられんなら信じんでええ。なんなら別にこの同盟自体も信用してくれんでええ。私が野に消えて終わりってだけの話。できるだけ犠牲の少ない戦を望むけど、別に何も言わんし、兵は好きに使ってくれて構わん」

 

 まるで報告書類のような抑揚の無い声。

 鑑嵬媼という人物がこれまでどれほど壮絶……言えば異常な道を歩んで来たかは誰もが知っていることだ。だが、それをさも当然のように、どうでもいいと言わんばかりに自ら切り捨てた。

 コイツが理解できない。返す言葉が浮かばない。

 

「そんな顔すんなや。私も実際にここに来る前は意地でも食い込んだろ思とったんや。………でも、蜀にも任せられるな、って。桃香がこの場に居るってことは、つまり、そういうことやろ?」

 

『危険な存在』である鑑惺の真意を問う場に、『神輿』であるはずの劉備が居るという、そのことの意味。

 

「………私は、もうみんなに担ぎ上げられて夢を見ているだけの女の子じゃありません。みんなに支えられた分、みんなを引っ張っていけるように……現実を見て、それでも……いいえ、"そこから"理想を描ける王になりたい。まだまだ未熟ですけど、でも、変わろうとしなければ変われないから……」

「……蜀には良い将、良い臣が居る。良い王が生まれた今、もう恐れることはない」

 

鑑惺が初めて見せる人間的な表情。それが、諸葛亮には師である司馬徽と重なって見えたのだった。

墜ちたな(確信)。

 

「ちょっと、いい話風になってるとこ悪いけど、こっちはまだ納得してないから」

 

そこで不満の声を上げたのは孫策だ。

 さっきから聞いていれば、鑑惺が興味を持っているのは蜀ばかり。そしてその蜀も、呉の意見を聞くとは言っていたが実際は鑑惺の方を優先しているように見える。

 

「……できる限り質問に答えたつもりやけど、何がアカンのや?」

 

何がアカンかと言えば……自分も尊重してほしいという子供じみつつも切実な願望なのだが、そんなことを面と向かって口に出すのは恥ずかしすぎる。

張勲のときみたいに一言で察してもらえれば良いが、今回は明確に質問されてしまっているのだ。

 何か他の質問を考えなければ。

 

「……あー、やっぱり形だけでも袁術を頭にしてるのが、呉としては受け入れ難いのよね。なんであんな子供を……」

「かわいいからやが?」

 

本日一番の真顔で返された。




「アンタさっきの話じゃ形だけの王を否定してたじゃない!」
「それを補って余りあるかわいさやから無問題」

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