哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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最近聞いた悲しい言葉ワーストスリー
1:もう不倫は諦めるから托卵だけは勘弁してほしい。
2:何で俺らって淫夢の話題で一番盛り上がるんやろなぁ?
3:子供の面倒見る自信も無いけど年取った自分の面倒見る自信も無いから子供欲しい。早くアシモくん進化せぇへんかなぁ。

そして今回は聆渾身のチャンスをドブに捨て回。
β√は作者にとってのハードモードと言ってましたけだ、やっぱりキャラにとってもハードモードでした。


第十二章X節その十一 〈β〉

 案内に従い中庭の四阿へ向う。

 既に席について待っていたのは諸葛亮と孫策。……大方、万一の場合に私を止められるようにという人選。若い将は力不足、或いは懐柔の心配があるし、厳顔は謀を嫌う。黄忠も私に苦手意識が有るの。となれば孫策が適任。

……そういう判断をしたのだろう。

 

「待たせたか?」

「いえ。急に呼びつけたのはこちらですし。……どうぞ」

 

軽く挨拶をして席につく。

 孫策の睨みつけるような視線が刺さる中、卓上に料理が並べられていく。

……そんな嫌われるようなことしたか?孔明に嫌われるのはまぁ分かるが、呉にはそんなに何もしてないはずだ。あるいは孫策の直勘が私の異質さを見抜いているのかもしれないが……。

 そしてもう一つ気になるのが、その孔明の表情がやたらと穏やかなことだ。私ってもしかして対峙したときこんな顔してるんだろうか。

そりゃ気味悪いわ。

 

「――では……」

 

料理が出揃い、各々が杯に手をかける。

 毒とか入ってるんだろうか……。こっちに来てから命の危険だらけだ。昨日から、今を入れて四度も。

 そうは言ってもこの料理を食べるしかない。

何らかの言いがかりをつけて机をひっくり返すことも考えてはいたがその理由が思いつかなかった。暗殺されかけたことは十分な理由になりそうなものだが、それだけに尚の事使えない。もっともな理由であるということは向こうが納得も予想もできるということ。つまりは相手の手の平の上であり、ここを乗り切っても今後のイニシアチブを取り辛くなる。

 ……飲むか。

私は超人でないが故に超人然としていなければならない。格の違いを見せな(アカン)。

 

「………」

 

 うっ!?毒だ。

 

なんてことも無く。いや、もしかしたらお茶に毒が入ってなかっただけであそこの茹で蟹に仕込んであるかもしれん。案外、今朝の暗殺未遂はこのための前フリだったのかもしれない。明確な殺意を示すことによって私に不安を懐かせ優位に立とうという……考え過ぎか。

 だが、とにかくこの会の主導権を向こうが持っていることに変わりは無い。そしてそんな状態で何か話しても良い事はない。かと言ってこっちから逃げ出すのはマズい。何とかしてこの状況を打破できないだろうか……。こんな時に限ってバカ共は現れないし。

 

「どうですか?こちらの料理は」

「んぅ?……あぁ、言うても魏にも結構入ってきとるしなぁ。拒否反応みたいなんは無いで」

「……そうですか」

 

そういうことを聞きたいんじゃないんだ的な顔されてもなぁ。もしかして、料理の質→国の豊かさ→政治論みたいな流れにしたかったのか?

 まあ、もう言ってしまったことは仕方ないし、諸葛亮の思う通りに話を運んでやる義理も無い。既に呉蜀同盟に割り込むという目標は達成しているのだ。今更こちらから政治的な話をする利点は無い。私は適当に世間話でもしながら昼飯を食べて帰ればいい。

 

「あぁ、そー言えばさっき孟獲に会ぉたんやけど周泰大丈夫なん?」

「えっ?」

「は……?」

「いや、周泰って猫めっちゃ好きやん」

 

小動物とか好きでも嫌いでもない私でもちょっとグラッときたほどだ。猫スキーの周泰はよほど荒ぶっt……あ。

 

「………」

「………」

 

うわーお。

 二人がクッソ不審なモノを見る顔してるんだが。

魏から来たばかりの私がこっちの武将の好みを知っているのはおかしいのだ。それが昨日の宴会で全く絡んでない呉メンバーのこととなればなおさら。

 何も考えなくても良いと思ったらとたんに何も考えなさすぎた。

どうしたものか。この空気。

 ……うーん、どうもせんで良えわ。このまま話してまえ。原作知識の使いどころとしては上手い部類に入るはずだ。

 

「お猫様お猫様言うて狂喜乱舞してそうやけどどうなん?」

「……そうね。最初会った時なんか凄いはしゃぎ様だったわ。今でも割と頻繁に話しかけたりしてるわよ。そのせいでちょっと引かれてるみたいだけど」

「猫ってだいたいちょい素っ気ないくらいの人のんが気に入るもんなぁ」

 

良かった。孫策のプライドが『何でそんなこと知ってるの』と言うのを許さなかったようで、話を合わせてくれた。

 

「そう言う貴女こそ大丈夫なの?蜀には可愛い女の子がいっぱい居るけど」

「ン……何が?」

 

ちょっと本当に何のことか分からない。蟹を剥く作業のせいで何か聞き落としたか?

 

「魏じゃ女同士の夜伽が常習なんでしょう?襲っちゃいたくならないの?」

 

あぁなるほど。

……いや、なるほどちゃうわ。昼飯喰ってるのに急に何言い出すんだコイツ。

 

「あー、まぁ、割とそういう関係も多いけどなぁ。私はどっちかっちゅーたら軽い触れ合い……じゃれ合いとか頭撫でるとかその辺やし。そんで他の人らも強姦魔とちゃうからな。本気で嫌がる娘にはなんもせぇへんし、基本、襲うとかは無いわ」

「あら、貴女も曹操と目合ったんでしょう?しかも無理やりっていう噂だけれど。……嫌がる娘にはしないっていう話からすると、実は貴女もまんざらじゃなかったのかしら?」

 

 ……?………あぁ、関羽欲しいとかあの辺のゴタゴタのときのことか。華琳の怒りを躱すために適当に工作したことがここまで伝わってるもんなんだなぁ、と、少し感慨深い感じがする。

 そしてコレはチャンスである。

 

「戦で人斬る感覚と性的快感をごっちゃにして交わる伽の感想聞かせてくれるんやったらこっちも詳しぃ教えたるわ」

「……ッ!?」

 

あの設定は予想外だったなぁ。いや、ジャンル全体としては割とソフトな方なんだが、恋姫という作品の中じゃ何か呉だけエッチが重い。

 

「何なんお前。何思ぅて昼飯時に急に夜伽がなんたらとか言い出しやがって挙句他人の恥掘り返そうとしてくれとんじゃ。しょーもない対抗意識出しやがってこの雌ガキが。そんなんやから『"小"覇王』で『虎"の娘"』なんどいや。お前これでワシがキレてこの城ワヤにしたら責任取れるんけ?……オイ、何か言わんかい。ワシが何か間違ぉたこと言っとるか?なぁ」

 

 孫策困惑、孔明ドン引き。

そりゃそうだ。軽い嫌味のつもりがまさかのブチギレ。

しかも、不評を買うので自粛していたがこの世界に来てすぐのころはこのキレ芸であの曹操をも絶句させていたのだから。

 

「そもそも何で大陸の三分の一みたいな面しとん?お前孫家とその縁の家しか眼中に無いやろが。思想としても格落ちやしまた漢以前と同じことの繰り返しになるからな?しかも呉の全員束にしても正味ウチの張勲以下って実績が証明しとるから」

 

七乃さんもこうやって揚げ足取って押さえつけてたんだろうなぁ。

 

「チッ……けったくそ悪い。おい、何ボサーっとしとんどいや。酒持って来んかい」

 

その辺にいた侍女に言いつける。

 

「あ、あのっ、お酒はもう残量が少なくて……ですね、えっと、グスッ」

 

うわぁ……泣いちゃったよ。

 すまぬ。名も知らぬ侍女よ。

 

「少ないっちゅーことはちょっとはあるんやろボケ。ほんで足りんのやったらさっさと作らんかいマヌケェ」

「ひぃっ、すみません!すみません!」

 

逃げるように走っていく侍女。……マジでごめん。その『ちょっと』が大問題なことも、一朝一夕で酒ができるわけがないことも分かっているのだ。ただ、キレ終わるのに切りのいい所が軽く他人に当たった後なのだ。

 

「……さて、何の話やったか。南蛮兵かわいいって話やったかな」

 

ほら、キレイに切り替えられた。テンションの落差を付ける時に、物理的に顔の向きを変えるのは有効。

 ありがとう。名も知らぬ侍女よ。

おかげで二人はさっき以上のドン引きだ。

 もはやこの会に何ら価値は無い。私の茶番によって孔明の思惑ごと全て混沌に沈んだだろう。

 

「え、えぇ、そうですね」

 

孔明は身なりの悪い常連クレーマーがやってきたときのお客様相談窓口職員みたいなビミョーな顔をしつつ応えた。

 

「あーゆう小さい子 見とったら娘欲しくなってくるよなぁ」

 

孫策が塀の上の猫を睨みつける犬みたいな顔をしているが、そんなことは承知の上だ。こっちは何度も殺されかけたのだから、向こうにも苦行を強いたところで何ら問題は有るまい。

 お前らは問答には慣れているだろう。……なら、"喋らせてくれない"相手にはどう対処する?

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「………」

「………」

「……封殺、ですね」

 

 結局、鑑惺はあれからひたすら一方的に『もしも娘ができたら』の話をした。よく食べよく話し、四杯めの蟹に手を伸ばした時 部下に声をかけられ、これまた一方的に話を切り上げて去っていった。

 

「悪いわね………迂闊だったわ」

「いえ……。鑑惺さんはここに来た瞬間からこの会合を潰す算段をしていました。遅かれ早かれ何らかの手段で同じようなことを起こしたでしょう。最悪、部下に合図でも送って用事をでっち上げれば良い。ただ、今回の場合に痛かったのは、逆上されて自分たちも納得してしまったこと」

 

 口論や舌戦等、言葉を使った駆け引きで『怒鳴る』というのは戦術と意識しないほど初歩的な戦術だ。ただし、相手も同じように語調を強めれば無意味となるし、そもそも恐れられていなければ意味がない。むしろ高度なやりとりでは『人間性の底』を露呈することになりかねないため下策とも言える。

今だって孫策という、気の強さに関しては十分な備えを用意していた

はずだった。

 では、何故あっさりと主導権を潰されたか。

 それは、怒られて当然のことをしたから……自分自身が失敗をしてしまったと思ったからである。

 孫策がネタにしたのは『曹操による虐待』という話題。内容は『鑑惺の働きに危機感を覚えた曹操が鑑惺に対して性的暴力を加えた』というもの。孔明らにはその真偽は分からないが、情報の通りなら『臣として、そして女性としての尊厳の両方を他ならぬ主によって壊された』という、文字通り冗談にならない出来事だ。

更に、その発言の理由も『前日からの敵対心と呉の孤立感に加え予想より遥かに高い諜報能力を見せられ焦った』というもの。

 それらのことを孫策は発言した瞬間に自分で理解した。

 キレられて、素直に反省してしまったのだ。

 

「そもそも孫策さんを呼んだのが間違いでした」

「……何?追い打ち?」

「……語弊がありますね。二人目に孫策さんを呼んだのが間違い、なのではなく、二人目を呼んだこと自体が間違い、です。周瑜さんを呼ぼうと呂布さんを呼ぼうと、極端な話では孔子を呼ぼうとも……『二対一』の構図を確認した瞬間に鑑惺さんは不利を感じたのでしょう。だからそもそも私達と『会話』すること自体を不可とした………」

 

 今から思えば狙い撃ちで孫策を煽ったようにも見える。

 

「結果、たっぷりと料理を食べて言いたいこと言って悠々帰還、ってワケ………」

「………そもそも、今更怖気付いて和睦を交わそうとしたことが無理な話でした。私はこれからも今までと同じく、何倍にも膨れ上がった鑑惺さんの影に怯えながら過ごす……ただそれだけです。孫策さんにはご迷惑をおかけしました」

「やぁねぇ。『呉蜀同盟』でしょ。同盟国の筆頭軍師の悩みくらい協力してあげるのが当たり前よ。……ま、失敗しちゃったけどね」

「……それに、『"蜀"呉同盟』です」

 

 二人は穏やかな談笑をして終了。




「はい論破www」とドヤ顔で貴重なはわわの降参宣言をスルーする主人公です。
はわわも聆もお互いに相手を恐れて根本的な考えが読めてません。
しかもお互いに細部はきっちり当ててる上に自業自得なのでどうしようもないですね。

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