哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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お久しブリリアント(激眩)。
ゆるふわファンタジーな雰囲気に釣られ、中古で『新・ロロナのアトリエ』を買いました。日程を気にするあまりチャートを作成しました。完全に牧場物語の二の舞いでした。

さて、作品は魏VS蜀呉の第二段階(?)。深読みしすぎたり大失敗やらかしたり、誰も彼もがそれっぽいこと言う割に誰も戦況を握れてません。
作者もちょっと頭の容量ギリギリです(超小声)。


第十二章X節その十八 〈β〉

「北郷隊、聆ちゃんと交戦開始しました〜。……他の隊も次々に衝突しているのですよ〜」

 

魏本陣。程昱の間延びした、しかし普段と違ってどこかはっきりとした声が戦況を告げる。

 

「華雄、文醜が少し離れたところに居るのが……いや、鑑惺勢で前線の四分の一を守らされているから、そこに均等に配置しただけとも取れる……か?」

「そもそもそんなに広範囲やらせてるのが妙な話よ。露骨に捨て駒にしてるじゃない。こっちにとっちゃ裏切り者だから別にいいけど、大徳が聞いて呆れるわね」

 

非効率な布陣に、荀彧は敵ながら歯痒さを感じている様子。

 

「大方、諸葛亮が考えたことでしょう。それに、アレももともと魏の兵よ。練度を考えればあの配分も失敗ではないでしょうよ。……でも、連携の面から見ればあそこは確かに穴ね」

「そうでしょうか?そのすぐ近くに関羽はじめ蜀古参の武将がわざとらしい程に勢揃いしていますが……。第二波を仕掛けるなら、中央……蜀と呉の陣営の丁度接合面――」

「その付近には黄忠やら厳顔やら……目立った活躍や大戦も記憶に無いけれど、息の長い将が居るわ。蜀呉の隔たりを超えて兵を上手く動かしてくるはずよ。容易くはないでしょう」

「しかし鑑惺以後の敵右翼は明らかに硬いですが……」

「でも袁家の布陣まで勘定に入れれば、その包囲網より後ろまで届いているのですよ〜」

「捨て駒にすることが決まって無言の圧力をかけられる中精一杯駄々をこねたんでしょうね」

「……できる限りの戦力で一刀たちを掩護し、鑑惺を叩き潰す。それで現金な張勲は再びこちらに寝返るでしょう。華雄はこの布陣にされた時点でそもそも向こうに不満を持っているはず」

「袁紹は……?」

「さすがに顔良がなんとか説得するでしょ。少なくともアイツ"は"バカじゃないから。身の振り方は分かるはずよ」

「……そうですか。そう言えば桂花殿は以前は袁紹の下にいたのでしたね」

「そ。不本意ながら、あいつらのことはよく知ってるわ」

「……じゃあ、皆、いいわね?――まず本陣を左翼寄りに移すこと。そして、春蘭、秋蘭……黄蓋に伝令を。突出し迫る呂布の相手をしてもらう。"二人"には『虫身中の獅子』……そう伝えなさい。季衣、流琉、霞、そして私自身が鑑惺討伐に向かう。呉と対する右翼は劣勢になるでしょうけれど……黄蓋がこちらに居る今、特筆すべき殲滅力を持つ将は孫策しか居ない。十分間に合うでしょう。……異論は?」

「………」

「………」

「………」

「無いようね。では、各自行動開始。……役割分担なんかは言わずとも上手くできるでしょう?」

 

 総大将による指示はいい加減にも思えるセリフで締め括られた。しかし、実際に数分も掛からず曹操の思う通りに軍勢は動き出す。ザリザリと地を揺らし、黒い巨人が攻撃の構えをとった。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 ふわり、ふわり。

限界まで研ぎ澄まされた脱力。

軽やかな身のこなしはよく蝶や羽毛に例えられるが、今の聆を言い表すには……その二つじゃ"硬すぎる"。

 

「ハァッッ!!」

 

最小の動きで……しかし最大限の威力で打ち出される拳に、聆の体がまるで土煙のように舞い上がる。

 

「……」

 

舞い上がり、渦巻き、結局は体に纏わりつくまで土煙と同じ。

 

「クソッ……」

 

 まるでそれぞれ意思を持った別々の生き物のように四肢がのたうち、俺と凪の体には少しずつだけど確実にダメージが蓄積されていく。

 必要なら俺が『調整』しなきゃいけないかも、なんて思ってたのは完全に余計なことにだったようだ。

 

「随分と……真剣なようだな。聆」

「そう見えるか?」

「お前がそうやってつまらなさそうな顔をしてるときは、一番注意が必要だ」

「そうか?自分じゃ分からんなぁ……。どない思う?隊長」

「ハァ……答える、余裕が………ハァ、有ると思うか?」

「無さそうやな。……実を言うと、確かに私にもこんな話しとる余裕は無い」

 

視線を俺達の背後 遠くに向ける。それに続いて目を向けた真桜の顔が引き攣る。

 

「なんや、なぁ?思たよりガチらしいで」

 

背後の人垣の厚みが何倍にもなり、将軍や副将の旗が密集している。その中には、当然のように大将 華琳の曹の旗も有った。

 

「……再開や」

 

どうやら戦は次の場面に進むらしい。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「敵戦力、左翼に集中しています!」

 

蜀呉連合本陣、方々から飛び交う報せの特に大きな一つ。それに諸葛亮が応える。

 

「予想通りです。相手もここにきて作戦を変えるワケには行かなかったのでしょう。引き続き、鑑惺と袁家の寝返りに注意しておいてください」

「はっ」

「で、でも朱里ちゃん?あれ、聆さんと曹操さんの軍……本当に戦ってるように見えるけど……?」

「動じるな劉備よ。あやつがこれまで勝利を重ねてきた背景にはその演技力が有るわ。多少は戦闘する様子を見せてこちらを油断させる腹づもりだろう」

「そうでしょうね。愛紗さんたちには、指示が有るまで決して陣形を崩さないよう重ねて言っておいてください」

「了解しました!」

 

諸葛亮の命を受け伝令が走る。周瑜は苦々しげな表情でその背を見送って、呟いた。

 

「それにしても舐めたマネを……我が呉軍には将を充てる必要は無いと」

「蜀側は元々魏軍であり打ち合わせも有るでしょう鑑惺隊と、説明不要の戦闘軍団呂布隊が前線を張っていますから〜……。私達の方は雪蓮様たちこちらの将がたくさん倒した分を雑兵同士の戦いで取り返されちゃってます〜……」

「くそ……」

「ある程度予想していましたが、まさかこれ程とは……」

「しかしそれも鑑惺さんが動くまでです。あの人が仕掛けた策を消化したら、こちらも全ての将を前線に投入できます」

 

 あの蛇鬼のこと。どこに何を仕掛けているか分からない。迂闊に動くのは危険と判断した。

武術でもそう。正に"今動いた"その瞬間を刺してこそ、最大の攻撃となる。そして、それ以外では恐らく勝てない。

『後の先』……鑑惺によって成され、幾度も翻弄されたこの戦法。本人は気付いていない無意識での思考であるが、諸葛亮はこれを返すことによってこれまでの負けを精算しようとしていた。

 

「……もしや、それを分かっていて勿体ぶっているのか………?」

 

答えられる者はそこに居ない。

 

 ちなみに、マジレスすると完全な深読みのしすぎである。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 魏軍中央。対呂布のための布陣を済ませた夏侯姉妹と黄蓋が先頭に立ち『その時』を待つ。

 

「呂布か……腕が鳴るな!秋蘭。……しかし、どういうことだ?この『虫身中の獅子』とは」

「……っ姉者……」

 

 伝令の書簡、その隅に書かれた『虫身中の獅子』……これは夏侯姉妹に向けたものと注意が入っており、つまり黄蓋には知られないようにするべきものだ。それをなんの気も無しにいつもの大声で口に出した夏侯惇にこれまたいつものことながら少し驚き、同じく少し呆れる。

 

「ふむ……本来は『獅子身中の虫』じゃが。何じゃ?」

 

案の定黄蓋がそれに反応し、書簡を覗き込む。

 

「ああ。本陣からの伝令と一緒に伝えられたものだ」

「………」

「ふむ、よく分からんのう。あの曹操に限って書き損じではあるまいし」

 

 そう、書き損じではないだろう。ましてや言葉を間違って覚えているわけでもあるまい。曹操は『虫』の身中にそれに仇為す『獅子』が居ると言っているのだ。夏侯淵は初めこそ素直に『黄蓋の裏切りに注意せよ』と読み取ったが、もう一度考えるうちにそれでは納得行かなくなってきた。曹操が、自身の誇る魏軍をワザワザ『虫』と表すだろうか?

 

「……来るぞ」

 

疑問は晴れぬまま、飛びきりデカい闘氣の渦が接近してくる。飛将軍呂布。この者を表すには『獅子』すら生温いか、などという思考を端に弓を引き絞る。

 

「…………っ!!」

「………」

 

一閃。夏侯惇が受ける。馬鹿力で通っている彼女ですら、呂布の膂力に押し負けそうになる。

 

「クッ……、ハァッ!!!」

 

声をあげ、氣と精神を奮い立たせ、膠着を断ち切る。しかし、二手を待たず再び劣勢。

その背後から放たれる矢。ほぼ射線上に重なった二人を、夏侯惇はハズし呂布にだけ当たるギリギリの狙い。

 

「……」

 

しかし、まるで来るのが分かっていたようなスムーズな動きで躱す。

 そんな呂布に次に差し向けられたのは、言葉だった。

 

「聞け!呂布!!」

「!」

「……?」

「貴様は何故戦う。劉備への義……ではないはずだ」

 

 魏のこれまでの歩みで最大の危機……対蜀 荊州防衛戦。その時、呂布は鑑惺の交渉により退いたと聞いた。そして『虫身中の獅子』とは蜀の中の呂布のこと。

曹操の真意は呂布を説き伏せ、蜀から離反させよということとだ。

 

「………」

「秋蘭……」

 

訝し気な黄蓋。何をやっているのか分からないという顔の夏侯惇。当の呂布は眉一つ動かさず無表情。そんな中、夏侯淵は言葉を続ける。

 

「魏は強く豊かだ。蜀と呉を併せたよりも。貴様が利のために動くなら、我らはその欲を蜀より確実に満たす!しかも、だ。我が魏はこの戦で負けたとしてもあと何年でも粘れる力が有る。しかしここで魏が勝てばすぐにでもこの大陸に平穏が訪れる。地力の差は分かっているだろう!」

「………」

 

 単純な人口の差、技術力の差、練度の差、文化レベルの差。そして整えられた補給線により、さらに魏が優勢となる。魏の手は既に蜀呉の喉元まで伸びているのだ。今、魏が攻められる立場に有るのは負け惜しみ無しで『何かの間違い』だというのは少し考えれば分かること。

 

「政治屋でない貴様も、この戦いに関わるものである限り知っているだろう!華琳様こそ、この大陸を治めるに相応しい力を持っておられることを!魏の治世は蜀呉の流す悪評とは無縁のものであることを!!」

 

 話す動機は呂布を誑かすための邪なものだが、その内容は夏侯淵の本心だ。

夏侯淵はずっと苛立っていた。曹操は誰よりも……私情抜きにして客観的に見ても誰よりも優れた為政者である。それは国の豊かさと国民からの信頼を見れば明らかだ。新しく傘下に加わった者に対しても敬意を払う。そうして増えた人材を正しく振り分け、さらに豊かで強い国を作り上げる。損をするのは暴力を振りまき、他人を喰い物にして法外に富を集める者だけだ。

なのに蜀呉はまるで曹操が極悪人であるかのように拒絶し、黒く歪曲した噂を流して覇道を妨害する。

侵略者に立ち向かう勇士のフリをしているが、劉備と孫策の方がよほど権力に対する執着に塗れた餓鬼ではないか。

 

「……………」

「勝利を求めるなら、利を求めるなら、争いを終わらせたいなら我が魏につけ!」

 

簡潔な要求で締め括られた言葉。

 まるで聞いていないように無反応だった呂布が初めて口を開いたのは、それから嫌に永い数秒が過ぎた後だった。

 

「諸葛亮は……嫌なヤツ」

「なら――」

「でも、月と詠が死んじゃうのは……もっと嫌」

「なに……?」

 

意図の分からぬ言葉に疑問を返した瞬間。地に亀裂が走った。

 

「………っ」

「ガ……ッ!?」

 

呂布を中心に崩れた地面に足を取られた次の瞬間には、夏侯惇の体は吹き飛ばされていた。

 

「姉者っ!」

「………いく」

「クソッ……させるか――――っ!?」

 

なんとか立ち上がった夏侯惇の頭めがけて放たれた矢。それを放ったのはもちろん、黄蓋。

 

「……残念じゃったな。大層な演説が空振りに終って」

「………やはり、な」

 

 むしろ話の途中に割り込まずに今まで大人しくしていたことが、夏侯淵には意外に思えた。

いや、黄蓋も本当はそうしたかったのだが……藪蛇という言葉もある。呂布からの『邪魔をするな』という威圧感に逆らわないことを優先したのだった。

 

「秋蘭!!呂布をっ」

「バカかお主は。夏侯淵一人で呂布を引き止める……手負いのお主一人でワシを喰い止める………どちらも数瞬も保つまいに」

「………老害が…………ッ!!」

「――まぁそうなると天下の夏侯姉妹を揃って相手にすることになるが……片方……それも前衛が手負いでは儂が半人分勝るかのぅ。この戦では哀れな道化に終わると覚悟しておったが……さァ、儂にも手柄を挙げる機会が廻ってきたらしい」




今回のブレインたち

華琳→大筋は成功するも対呂布の策が大コケ。
聆→時間調整。予想より楽だった。
冥琳&はわわ→深読みでストレスを貯めるも、当初の作戦はしっかり維持(それで正解とは言ってない)。呂布の寝返り防止のためになにかしたようだ(すっとぼけ)。

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