哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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ああ^〜場面がぴょんぴょんするんじゃ^〜♨
勢いで書いたので勢いで読んでもらえると嬉しいです。

陣形参考(一部省略)
   ■■■ ■■
  ■■■■■→↓■
 ■■■■■■■本■   ■■■■■↓■■■
■■■■■■■■陣■   ■■■■■曹↓■■
■■■■■呂■■↓■\  ■■↓■■■典■↓
■■孫■■↑■■曹■ 拡 ■■張■■北■■許
■□孫周□□関□鑑□ 大→□□華□□鑑□□文
 孫□□□□馬□袁□/  □◇□□□□□□□
 □□□□厳□張□□   関□◇□□□□□□
 □□□□黄□趙□□   □馬□◇□袁□□□
  □□本陣□□袁    


第十二章X節その十九 〈β〉

「援軍は……来ぬ、か」

 

 この日何十人目かの敵を跳ね飛ばし、華雄が呟く。蜀最右翼にして鑑惺勢最左翼。最も『温度差』を感じる位置に居た。それまで戦っていた軍勢のその更に後ろから土煙と雄叫びの波が迫る。しかし蜀は動かない。すぐにでも関羽らを怒鳴りつけてやりたいし、曹操自らが迫る鑑惺の掩護に行きたかったが……そうはできない。

 自分のところにもしっかり大物が来ているし。

 

「華雄ーーーッ!!!」

「文遠……!」

 

張遼……その騎馬の腕のせいか、"追い打ち"の中では最も早い前線への到着。

 

「ハァァァッ!!!」

「フンッ!」

 

跳びかかりざまに放たれた袈裟斬りを長斧の柄で受け、石突からかえす。

続けて突き、袈裟斬り。張遼はこれらを飛び退いて躱す。対して華雄は距離を詰めず、そのまま構えに戻る。

 

「なんや……知らん間にえらい落ち着いた戦するようになっとるやん」

「……日々嵬媼と手合わせしていれば慎重にもなる」

 

再び張遼から一手。その切り上げの初動を穂先で制し、そこから撥ね上げる。今度は張遼が柄で受け、すぐさま身を翻し横凪ぎ。華雄は最小の動きで防御し、同じく最小の経路で刃を振るう。張遼はこれをギリギリで躱し、再びもとの位置に退いた。

 

「ふーん………華雄らしないなぁ」

 

 さっきの最後の一手も取り敢えず避けたが、なんとも言えない微妙な威力のものだった。受ければ身体が半分に、とか、頭がとぶ腕がとぶとか……決してそんな攻撃ではない。投げやりとか二の次とか、そんな言葉が似合う"偽物"の攻撃だ。

 

「私らしくはないが……やりやすい。本来、我が家に伝わる流派はこのような戦いをするものだったらしい」

 

 重心を極端なまでに固定し、足運びは細かいすり足。流麗でも派手でもない、堅苦しくて小さくまとまった武術。特別派手で大げさな動きをする張遼と比べればそれが余計に際立つ。

 

「でもそれあいでんてぃてぃの危機ってやつちゃうん?」

「その言葉はよく分からんが……何だ、そう言われるとこの状況がものすごくマズいものに感じられるな………」

「『マズい』…? 今更か?」

 

『もっと他にもマズいことは有るだろ』と言葉にする必要もない。

 

「……戦況は問題ではない。私は人並み外れて馬鹿かもしれんが人並み外れて無知だったことはない。蜀に潜む疑念の波……それに気付くのはそう難しいことではない。こうなることは分かっていた」

 

 華雄とて漢末期の腐敗した治世で将軍となった身である。張遼のように人当たりの良い立ち回りはできずひたすら戦一辺倒の武人として振る舞うことで政略から離れたが、"こういう雰囲気なら次はこうなる"という経験はしっかりと積んでいた。

 

「それは嵬媼も同じ。その上でヤツは"このように"した」

 

キッパリと言い放つ。『勝ちを確信している』のではない。『この結果を自らの正解とする』……そんな表情。

 

「……あははっ。恋は盲目、か」

「今まで経験がないからこれが恋かどうかは分からん。ただ、盲目でないとは言える。私はこれまでに無い程"目を見開いている"ぞ」

「………」

「嵬媼曰く『最後の策』……その顛末に、柄にもなく興味が湧いた」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 激戦の前線の後ろ。中陣と言うには少々前すぎる辺り。鑑惺派の形式上の本丸とされる袁術の陣はそこにあった。『形式上』とはいえしっかりと司令塔の役割も果たせるようになっているが……今の展開はほとんど開戦前からの予定通りであり、前線への指示は行われていない。

 

「さてさて〜いよいよ厳しくなってきましたねぇ」

 

厳しくなるのも含めて予定通り。強いて言えば、ここからが司令部の仕事の始まり。

 

「の、のう七乃や……大丈夫なのかや?なんとも……妾の軍が孤立しておる気がするのじゃが」

「あーあ、まさかうちの娘がこうも薄情だとはよォ。アタシが向こう側に入れてればなぁ」

「それは諸葛亮さんのせいですよ」

 

 馬騰は、機が来れば馬超を説得するなりなんなりして動かせるようにするためにしれっと馬家の陣に居た。しかし、布陣の最終確認に来た諸葛亮の使いに『あれ?なんで馬騰さんこんなとこにいるんですか(威圧)』と突っ込まれてしまったのだ。

 

「そうだけどなァ……まぁ、いざ手が足りなくなればアタシも出るか」

「大丈夫なんですか?」

「一呼吸の間だけなら、まだ一流だと自負してる」

「へぇ……。でも、そうなるかも諸葛亮さん次第ですねぇ」

「言っちまうとそうなんだがな。……どうもこう骰子を他人に振らせる策は苦手だなァ」

「そうじゃぞ!さっきから諸葛亮次第諸葛亮次第と……ヒト任せにせずになんとかせんか!」

「もちろん私たちもそろそろ動きますよ。伝令さん、至急本陣へ掩護要請を。かなり逼迫した状況だと伝えてください」

「はっ!」

「要求が容れられなかった場合は……周辺の将へ直接援軍要請を。なりふりかまって居られません」

「了解しました!」

 

 その命令とは裏腹に、張勲は毛の先ほども援軍を期待していない。

 諸葛亮は動くまい。周辺も……関羽、趙雲、張飛、馬超だが、これらもよく言い聞かされているはずだ。張飛辺りは怪しいが、恐らくは兵を動かすことはないだろう。……いや、そう考えるのは余りに極端か。張勲が数日の間に見た各人の様子から予測に修正を加えるなら『命令に逆らい動いたが既に手遅れ』ということになるだろう。

 それを分かっていてのこの伝令。

 

「結局ヒト任せじゃのう……」

「ふふん。自分で道を開くのが将軍、ヒトに道を開かせるのが大将軍です」

(ま、それなら私や聆さんは大将軍ではないですけどね〜)

 

 ヒトの妨害すら道に変える者はどう呼称するべきだろうか?

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「ムッキィィ〜〜ッ!あのちんちくりんったらここぞとばかりにこちらばかり攻めて来てぇ……!」

「聆さんは向こうにしてみれば裏切り者ですから……。それより、蜀側から掩護の動きが全く無いことが問題ですよ……(大嘘)」

「むぅ……まったく、桃香さんは何をやってらっしゃるのやr――」

「ギャァァァッ!!」

「な、何ですの!?」

「そんな!ほ、ほらあそこ!……こんなところまで敵兵が!?いつの間に……!」

「え!?前線はなにやってますの!?」

 

ちゃんと戦っている。

敵の魏兵は鑑惺の配下。悲鳴も血も偽物だ。

 

「敵本隊がここに押し寄せて来るのも時間の問題です!……麗羽様、逃げてください」

「何をおっしゃいますの!この私があのちんちくりんなんかに二度も背を見せるなど有り得ませんわ!!」

「麗羽様ッ!!!」

 

 今回の作戦が知らされてから練習してきた迫真の『麗羽様ッ!!』だ。実際、ここでちゃんと動いてもらないとあとで悲惨なことになるのだから半分以上は本気であるけれども。

 

「………っ」

「少数の兵だけ連れ、隠れてお逃げください。退いたことがバレなければその分だけ時間が稼げます」

「斗詩さんは……まさか――」

「私はその間の指揮を取らなければなりません。それに、前線で戦ってる文ちゃんを待っててあげなくちゃ……」

「斗詩さん……」

「さ、行ってください。大丈夫です。官渡で一度離れ離れになりましたけど、また会えたじゃないですか。……再後陣のできるだけ中央へ。戦線が広がったとき、その喧騒に乗じて――」

 

 顔良の目配せで数人の兵が集まる。袁紹配下に化けた、鑑惺隊一〜七課長だ。これだけの戦力があれば、よほど本気で殺しにかかられない限りは死なないだろう。

 

「必ず……!必ずですわよ!!」

「はい。約束します」

 

いつもと違い地味な兜や鎧を着せられた袁紹が雑兵の中に消える。

 こう言ってはなんだか、これで後陣がスムーズに動くようになった。

 

「旗を」

 

黄金の袁の旗が少し傾けられ、すぐに立て直される。事前に決めていた袁紹退避の合図だ。

 

(文ちゃんも……上手く演じてよね)

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「斗詩……上手く動かしてくれたみたいだな」

「余所見してると危ないよッ、と」

 

ひょいと避けた背のすぐ後ろに特大の鉄球が小さなクレーターを作る。

 再び前線。文醜対許緒。

 

「そっちこそヘタに手加減してるとケガするぜ。余所見してる相手は黙って討たねーとな」

 

 口ぶりと同じく軽いステップ。しかし、その真逆の信じられないスピードで許緒に迫る。

 

「……当たり前だよ。ボク、猪っちーを殺したくないもん。猪っちーも、そうでしょ?」

 

あやとりでもするように複雑に動かされる許緒の手に合わせ、鎖がのたうち文醜の行く手を阻む。

 

「そうかー?」

 

斬山刀の一振りで払いのけ、更に駆ける。ついに間合いに入り大きく弧を描いて叩き込まれた一撃は、許緒の手元で束ねられた鎖に防がれた。

 

「本気出してないってバレバレだよ」

 

寸前まで文醜の胴があったところを風切り音とともに回し蹴りが通り過ぎる。

 

「やっぱバレてたかー。あたい、演技って苦手なんだよね」

「やっぱり――」

 

斬山刀をだらりと下げて言うその姿に安堵したのも束の間。

許緒の言葉を遮って、あっけらかんとした声が和解の可能性を否定する。

 

「じゃあ今から本気な」

「……!!」

 

切っ先を天に掲げた瞬間、空気がヒリつくような攻撃性を孕む。

 

「斬山刀……『斬山陣』」

 

眩い輝きを放つ氣の刃が地から伸びる。その数は定かではないが『陣』と言うには十分だろう。

 

「死なせる気でいくから……死なねーよーに死ぬ気で演ってくれよな」

 

『気の抜けた戦いはせんで。嘘臭なるんはあかん。部下も向こうの兵も蜀の将軍やら軍師やらも見とるからな。んで一つ。死ぬな。も一つ。殺すな。……これで、私の死が特別なモノになる。一生……いや、古今東西でも最大の舞台……成否はお前らにかかっとるぞ』

 

 




長かったβ√もそろそろ終わり。ここから一気にたたみに入ります(希望的観測)。

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