どうも『ハーメルンのウッドブロック叩き』こと作者です(意味不明)。
ステーキって美味しいですね。やっぱり若者は肉食べないと。ってことで肉をムシャムシャしてたら友人に『雌コヨーテ』って言われました。せめてハイエナって言って。
さて話は変わりますが、物語で何か大きな仕掛けを書くとして、上手い物書きは伏線を張りほんの少しだけその存在を匂わせ、後になってから『ああ、アレはそういうことだったのか!』と読み手を感動させてくれます。
下手な物書きの例は……この作品を読めばだいたい分かっていただけるかと(自虐で予防線を張る底辺作者の屑)。
援軍の足音が近づくなか、聆との戦いは続く。殆ど自分の力で動いてない聆に対し、ずっと精神力と筋力をすり減らせてフルで戦ってきた凪には色濃く疲労の色が見える。
「氣の力は精神の力……そう乱れとったら勝てるもんも勝てんぞ」
聆の言う通り。凪の精神は今、かなり複雑で劣悪な状態だろう。だから氣による恩恵も普段よりずっと弱い。しかも、それなのに普段以上に強引な戦いをするからスタミナ切れの速さは見ての通りだ。
「クっ………。聆……っ、だが、すぐに華琳様たちが来る。もう時間切れだ!これ以上抗ったところで意味は無い!」
「『意味は無い』……そんなことは無い。むしろ今から意味が出てくる」
「何を……!」
説得を続けようとする凪。でも、再び強められた聆の敵意から言葉を途切れさせる。
「クソッ」
斜めに斬りつけた聆の裏を取るように躱す、が、そこは聆の策中だった。
凪の近接戦闘での『クセ』……氣を特に重視するその戦闘技術のため、呼吸に特徴が出る。そのかたちは場合によって色々だけど、この場合……突然の攻撃に対する防御では特に多くの息を吐き、そして攻めに転じる瞬間はもっと顕著に大きく息を吸う。
聆はその瞬間を突いた。
「!? ゴホッ……ぐ……ゲホッッ!!」
人間の身体構造の限界を超えて背面から振るわれたもう片方の手から、何かの粉末が撒き散らされる。凪はそれを思いっきり吸い込んでしまったらしく、激しく咳き込みはじめた。
「ラ゛ァッ!!」
「ガッ……!」
その鳩尾に聆の後ろ蹴りがめり込んで、大きく吹き飛ぶ。
「凪ちゃんっ!」
「凪!」
呼ぶ声とは反対に、俺はあまり心配していない。聆のことだ。死ぬようなものは使ってない……よな?
「相変わらず回りくどい戦いをしてるのね。聆」
「兄様!みなさん!」
「華琳様!」
もともと俺の理解を超えた部分が多い作戦だから何とも言い難いけど、俺たちにやらせるつもりなんじゃなかったのか?
俺が華琳の顔を伺うのと同時に、向こうもこっちに目を合わせてきた。『予定が変わったのよ。ま、上手く合わせなさい』って感じか?
「………」
そして、聆と華琳の間でも、一瞬、意図的に目を合わせたように見えた。こっちも、そうか。聆も筋を意識して動いてる。華琳と相対する準備のために、凪との戦闘を終わらせた。
華琳が言った『戦舞台』という言葉。そして今、事情を全く知らない凪が"退場"させられた意味。二人が何を考えているのかまだ掴みきれないけど……ただ、"分かっている"者だけでしかできないような、かなり難易度が高いことをしようとしているはずだ。
「蜀はどうだった?」
「どないもこないも。見たら分かるやろけど諸葛亮は利口やわ」
「他は?」
「この前会うたとき思い浮かべたらそのまんまやと思うで。……ってか呉の方は聞かんのやな」
「あそこはもう対策が済んでいるもの。強いて言えば、諸葛亮と同じ……でしょう?」
「まぁな」
この会話はきっと、いわゆる答え合わせ。今回の作戦は、聆と華琳っていう仕掛け人が離れ離れになってしまうし、蜀の状態に大きく左右される。最後の仕上げにかかる前に『どんな状態なのか』と『何をしようとしているのか』をすり合わせておくつもりなんだろう。そして、それを理解しておかなきゃならないのは俺もだ。華琳ともけっこうな付き合いだ。無茶振りされそうな空気は分かる。
そしてその内容。『諸葛亮は利口』……利口ってのは、『打算的』の皮肉として使われる言葉。この場合の打算的な行動は、つまり聆を冷遇したってことに違いない。さらに『諸葛亮は』とワザワザ言うってことは、逆に諸葛亮以外は聆に対して好意的だったってことになる。そして、『呉と諸葛亮が同じようなもの』……つまり、呉+諸葛亮(と一部の蜀の将?)と劉備+彼女に近しい(古参の)将の間に溝ができているって話だ。
「それで……貴女はまだ戦うわけ?」
「まぁな」
「一応理由を訊いておこうかしら」
「桃香にな……ちょっと頑張ってもらいたい」
この発言の意味は………。
――――理解した。この作戦の目的。それは、今、ここで蜀を破壊することだったんだ。
「なるほど。……一刀、流琉!」
「華琳……。…………分かった」
「隊長………」
「多勢に無勢で悪いわね、聆。……貴女に裏切られて私も少し思い返したのよ。危険には全力で対処させてもらうわ」
「くくっ……意外と素直」
操り手である聆に華琳と、駒二人。事前に"する"ってこととその方向性を知らされた俺、そして、流琉。流琉も事情を聞かされているのか、それとも何も知らないのか。……あの無理に感情を殺してるような表情は、きっと何も知らないんだろう。でも、流琉に限ってはそれでも良い。外道な話だけど、たぶん流琉の天秤じゃ華琳≫聆だ。"聆のピンチだから"って華琳の制御を外れて衝動的に動くことは無いはず。
「華琳様、私もまだ、戦います。幼馴染として、聆を止めないと」
「とても貴女の実力を出せそうに見えないのは、敢えて言わないとして。……それで、しっかりと"息の根を"止められるの?妙な気を起こされては困るのよ」
「………っ……」
そう。突然間に割って入って聆の身代わりになるとか……"始まって"からそうやって動かれちゃ困る。今の内に蚊帳の外に出てもらわないと。華琳がわざと物騒な言葉を使ったのも同じ。爆弾処理みたいなものだ。
「そんな……隊長!たいちょーはそれでいいの!?」
うまい返しが思いつかない。嘘くさくなるのはダメだし、かと言って踏み込みすぎる内容も良くない。
その沈黙が、沙和にとってはまた別の意味に取れたらしいけど。
「うそ……そんな………こんなの……」
「聆!もう止めようや!良えやんもう。明らかに捨て駒にされとんのに、なんでワザワザ……華琳様も、いま降参したら――」
「ええ。優秀な人材を減らすのは惜しいもの。ちょーっと厳しいおしおきくらいで勘弁してあげるわよ。ま、その様子じゃ降参なんて――」
「無いな」
「ふふっ……でしょうね」
「なに…………何を笑とんねんッ!!仲間やった奴と殺し合うねんで!?聆も、華琳様も、そんな風に話せるんやったら……」
「それについては残念なんだけどね。この娘が従わないから」
「すまんな」
「"ええんやで"」
謝罪と思えないくらい軽い謝罪に、華琳も聆の口調を真似て戯けて見せる。
「おかしい……狂っとる………」
半ば呆然とした声。
感情の風船はへなへなと萎んだ。もう、破裂することはないだろう。
「……やるか」
「そうね」
準備は整ったみたいだ。二人が高めた緊張感……正にこれからクライマックスをつくろうとしている。俺はそのサインを見逃さないようにしなきゃならない。
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同じ頃。再び、魏軍中央最前線。大将が悠長に問答をしていた頃、こちらでは黄蓋と夏候姉妹の激しい攻防が続いていた。
「ほれほれ!いつもの馬鹿力はどうした」
弓による速射と体術、技と力が組み合わされた、呉随一の武が猛威を振るう。いつもなら夏候姉妹こそ姉の力と妹の技の連携で他を圧倒するのだが……
「ぐぬぬぅッ!それは貴様もその場で見ていただろうに。それに馬鹿と言うな!」
今は事情が違う。先程の呂布との戦闘で夏侯惇が負傷していた。負傷していればもちろん本人の力が下がるし、怪我による痛みや身体の可動域の変化より動きが崩れて連携も感触が変わってしまう。その実力を出せずにいたのだ。
が、流石は魏武の大剣と言うべきか。相手の軽口に反論しつつ無理にでも攻勢に出る。
しかし、これはマズかった。
「姉者!挑発に乗っては……っ!」
「ぬぉっ!?」
待ってましたとばかりにいなされる。夏侯惇は体勢を崩すも、そのまま地を転げ何とか黄蓋からの殴打を躱した。
「む、惜しいのぅ――おっと」
更なる追撃を防ぐため、また、あわ良くば仕留めてしまおうと夏侯淵により胸のど真ん中へ放たれた矢。しかしこれも軽く弓で弾く。
「チィッ……!」
「今更じゃが二人がかりとはのぅ。卑怯なのは感心せんな」
「詐欺師が何を……!」
「秋蘭!後ろだ!!」
「!?」
背後からの矢が夏侯淵の首筋を掠め飛ぶ。……伏兵ではない。黄蓋が放っていた矢だ。"当てる"ことに特化した氣の力が、放たれ通り過ぎた後の矢の起動を捻じ曲げたのだ。
「ほう……そうか、視界が狭い分勘が鋭くなったか」
「さっきからニタニタと……余裕ぶるのもいい加減に――」
「実際に余裕があるのだからそう見えるのもやむなしじゃな」
「確かにそれは正論だ。だが、お前は一つ勘違いをしている!」
歯噛みする夏候姉妹の背後から張りのある声で反論が。
「何だ……?」
目を細めた黄蓋。その視界の奥から雑兵を跳び越え白い騎馬が颯爽と現れる。
「もはやお前に余裕は無い!白馬仮面、参上!!」
やがて白馬は黄蓋の前に躍り出る。純白のマントを翻し、赤髪の仮面剣士が高らかに参戦を宣言した。
「…………誰だ?」
しかしこの加勢は魏の二人にとっても全くの予想外、しかも心当たりを考えてみても把握できないことだったようで。夏侯惇は思わず疑問を口にした。
「いや、だから『白馬仮面』だって。……それに、『誰だ』って訊くにしてももっとこう、『誰だッ!?』とか『何者なんだ……!?』みたいなさ、有るだろ?そんな久々に会った知り合いの顔が思い出せなくてその場は適当に談笑して誤魔化したかけど後々考えてもやっぱり分からなくて思わず呟いたみたいな『……誰だ?』はやめてくれよ」
「それで結局誰なんじゃ?お主らの知り合いか?」
「それはこっちが訊きたい」
「そもそもさっき私が訊いたしな」
「……誰とかもういいだろっ!『白馬仮面』だよっ!それ以上でも以下でも無いぞ!」
「吐く馬鹿麺?」
「おい、その感じは何か勘違いしてるだろ!『はく ばか めん』じゃなくて『はくば かめん』だ」
「どうでも良いが何しに来たんだ馬鹿麺」
「助太刀に来たんだよ!お前らの!……あと馬鹿麺言うな!」
「おお、それはありがたい!では頼んだぞ馬仮面」
「ただの馬じゃなくて白馬だ。……あと、おい、待て、待て待て。どこ行くんだお前ら」
「私たちは呂布の後を追わねばならん」
「何故か奴は乗り気ではなさそうだったが……それでも十二分に危険だからな」
「待って」
「何だ」
「『助太刀』って言ったよね?『ここは任せて行け』とは言ってないよね」
「はぁ……つまり一人で黄蓋を相手取る実力は無いと?」
「ため息つくな!怪我してたとは言えお前らも二人がかりで押されてたろ!とにかく、私も前衛に立つ。二人は今までと同じノリで戦ってくれればいい」
そう言って夏侯惇に並び立ち、黄蓋と対峙する。これに夏侯淵は眉をひそめる。
「それだと私はお前の動きまで読み切らねばならぬが……?」
夏侯惇のすぐ隣に立つということは、即ち姉妹の連携にも影響する。長年共に戦ってきた姉妹ですら、今回は厳しいのだ。それにこの得体の知れぬ者が入れば、更に連携が取れなくなるだろう。
しかし、当の剣士は全く動じない。
「大丈夫。簡単さ」
黄蓋に目を向けたままそう言って、真っ直ぐ中段に剣を構える。
「………」
ともあれ、元々絶望的だった戦いだ。コイツに合わせてみても良いかもしれない……そう思い直し弓を引く。
準備は整った。黄蓋も同じ。あとは前衛が動き出せば再開となる。
(まず姉者が真っ直ぐ突っ込む。……仮面は………一歩遅れて少し横に回り込むような動きで追撃、くらいか?)
「……っ!」
何をきっかけにしたのか、夏侯惇が真っ直ぐ踏み込む。
(!)
仮面は、それに一歩遅れて追撃。黄蓋の視線を撹乱するため少しズレた位置から斬撃を放つ。
(次……次…………次……………)
切り返し、夏侯惇の振りを少し待って横薙――――
その後も夏侯淵の予測は次々と的中する。
(なんと読みやすい剣技だ!……合わせられる。これなら、勝てる)
そのふざけた見た目に反して教本を擬人化したような無味な剣術。百戦錬磨の夏侯淵にとっては次の動きを読むことは容易い。それは本来黄蓋からも言えることなのだが、今は三対一。とても『本来』の結果が出る環境ではない。
そんな中、白馬仮面の剣術は理論通りの鋭い攻撃を放つ。読みやすいだけで、決して弱くは無い。容易に読めない状況にありさえすれば、その強さはそれこそ武術を志す者が学ぶべき理想形だ。
この戦において曹操の唯一明らかな誤算であった、呂布説得の失敗による夏候姉妹の危機――しかし、戦況は一転した。
※※※【別パターン】もしも、白馬仮面じゃなくていつぞやの侍女モードだったら※※※
「余裕ぶるのもいい加減に――」
「実際に余裕があるのだからそう見えるのは――ッ!?」
黄蓋のセリフを断ち切るが如く その足元に切っ先が突き刺さる。直感で後退らなければ黄蓋そのものを断ち切っていただろう。
「………っ」
一瞬にして現れたこの"誰か"。恐らく、夏候姉妹の背後から何らかの勢いをつけて跳んだのだろうが……黄蓋ほどの将が、それに全く気付かなかった。
「一つ、勘違いをしてらっしゃるようですね」
鮮やかな衣装を揺らめかせ、赤髪の侍女が顔を上げる。
「貴女に、余裕は有りませんよ」
「何者だ……?」
「私は魏に仕える使用人。それ以上でも以下でもありません」
誰がどう見てもその範疇は確実に超えている。が、武将の猛々しさとは無縁の落ち着いた仕草からか確かに使用人だという説得力も感じる。
「………」
この奇妙な参戦者に、三人はおろか遠巻きの雑兵たちでさえ妙な緊張を覚える。
「さぁ、早く倒してしまいましょう。呂布も放っておけないでしょう?」
しかし当の本人は至って"普通"。当たり前のように夏侯惇の隣に並び立ち剣を構える。
「だが……連携は――」
「簡単です。私は、貴女の予想を超えるような動きはしない」
決して大きくはないが、ハッキリとした言葉。夏侯淵には『この者は自分の予想の傾向を完全に把握している』と思うだけの材料は全く無い。しかし、またしてもこの"普通"な態度。
考えでも仕方ない。もとよりこの者が来なければ競り負けていただろう戦いだ。夏侯淵は自分を納得させるように頷く。
「では、始めましょうか」
「応っ!」
開口一番、夏侯惇の突撃。
赤髪の侍女はその背を夏侯淵の思う通りの動きで補っていった。
内容が時間かかってても思いついちゃったものは積極的に書いていくスタイル。