哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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深夜に近所のスーパーに行ったらゴキブリが居ました。そして私の後をついてきました。黒い服を着ていたので、仲間だと思われたのかもしれませんね。

先に何を書こうか決めてから書くとすごくクドい文になってしまうので困っています。


第十三章一節その一 〈α〉

 「何じゃと……!それは本当か!?」

「本当だ。劉備、関羽、張飛を筆頭に、蜀の主力部隊が呉の領内で確認された」

 

黄蓋がやってきてから数日としないうちに、呉に動きがあった。内容は先程秋蘭が言った通り、蜀呉同盟の成立である。実際のところは、孫尚香と戦った時には既に結ばれていたのだろうが。

 

「同盟自体は予想していましたが……」

「呉に入ってるってのが気になるよな。俺達がこっちまで遠征に出てるなら、蜀としたら魏の本国に空き巣に入るのが定石じゃないか?」

「まぁ、そう思てこっちもある程度守り固めてから来とるからなぁ。ほっといたら自分らが攻め落とす前に呉が潰れるって考えたんとちゃう?」

「それに春蘭さんじゃないですけど、相手の最も勢いのあるところを潰すのは重要ですからねぇ」

「巻き返しを掛けにくるってことか」

 

史実でも、呉侵攻作戦が転けたことにより戦況は泥沼化したからな。勢というのは馬鹿にできない。むしろ、私はこの世の中で最も重要なのは勢だとすら思っている。

 

「敵の総兵数は……以前の軍議ではこちらとほぼ同数になるという予想だったわね?」

「はい。ですが、以前より我が国の兵数が増えている上、呉もある程度消耗しています。本国に援軍を要請すれば数の上では優位を取ることはたやすいかと」

「じゃが、それで良しというわけでもないだろう。蜀には優秀な将が多いと聞く。それに因縁も多々あるのじゃろう?厄介な存在だと思うが」

「それに加えて、呉の将もいるのです〜」

「うむ。……孫策か」

「孫策もそうやけど、ウチは周泰と甘寧が気になるなぁ」

「む?以前戦った時はさほど苦労しなかったのではないか?」

「それはそうやねんけど、多分アイツら、野戦向きとちゃうんやろなーって」

「……あぁ。確かに、そう言われれば思い当たるフシがあるな」

「そうなのか?少し急所攻撃にこだわっているような節はあったが、普通の将だったぞ?」

「それが野戦向きではないと言うのだがな。………まぁ、用い方によっては思わぬ強敵になるかもしれんな。測り難い分質が悪い」

 

周泰と甘寧か……。たしか、森の中なら黄蓋を瞬殺できるんだったか。よし。ここからは『森の人作戦』は封印しよう。元々使いどころは無いだろうが。

 

「そして軍師も、周瑜と諸葛亮が……」

「えー、地の利が有る周瑜は分かるけどさー。諸葛亮って、アタイたちがずっと勝ってるし、大したこと無いじゃんか」

「いや、金も土地も兵力も無かった劉備を、大陸三分するまで育て上げたんは諸葛亮やからな……?油断したら殺られるで。私はアレのせいで二回ほど死ぬ目に遭ぉたからな」

「我々は結果的に諸葛亮を下し続けていますが、危うい場面もあったことも事実。侮るべきではありません。ただ、だからと言って勝てないということは決してありません」

「そう。相手が強いなら強い者を倒せる策を。相手が賢いなら賢い者を倒せる策を立てれば良いだけの話よ」

「ま、ソレに従っとけば負けは無いっちゅーこっちゃな。……従っとけばな」

「嵬媼、なぜこちらを凝視する」

「……その点はくれぐれも頼むわね。さて、大分話はずれたけど、その蜀軍はどの辺りで確認されたの?」

 

華琳に尋ねられ、稟は地図を指した。

 

「長江の南……この辺り。そして、北上しており、呉軍の動きと併せて、……合流地点はここと見て間違いはないでしょう」

 

そこは、長江の、夏口と巴丘の中間付近……所謂SEKIHEKI。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「…………なあ」

「なんや、たいちょー」

「これ……川だよな?」

「紛れもなく長江ですが」

 

……対岸が見えない。広い広いとは聞いていたけどどんだけだよ。吉野川より広いぞ?

 

「長江ならこんくらい広いんは当たり前やろ。ウチも初めて見たけど」

「その割に無感動だなぁ……」

「気持ち悪ぅてそれどころやないねん」

「俺は船酔いとかなったことないから分からないけど、辛そうだな……」

「頭の中に握り拳突っ込まれたような感覚なの……。たいちょーも一度味わうべきなの……」

「うわぁ……」

 

例えはよく分からんが苦しいことはよく分かった。凪もさっきから焦点が合ってないし。

 

「これで戦とか、大丈夫か?」

 

まだ赤壁に着いてすらないのに、この疲れようだ。

 

「陸戦やったらどんだけ楽か……ウチら山育ちやのに………」

「はは……。でも、山育ちって言うなら、聆もそうだろ?」

「そうだよ〜」

「割と平気そうだけど?」

 

船主の方に目を向ける。聆はぴんぴんしていて、黄蓋たちとなにやら話し込んでいるみたいだ。

 

「山育ちに対する裏切りや〜……」

「成敗なの……」

 

言葉とは裏腹に、二人ともだら〜んとしたままだ。

 

「ホント元気ないなぁ」

「うう……あとはたいちょーに任せるの……」

「山育ちのオキテを聆に叩き込んだって」

「はぁ……?」

「早く行くのー……」

 

なんだ、いつものボケと酔いからくる混乱のせいで意味が分からないことになってるな。話すのも辛そうだし、大人しく聆のところに行くか。

 

「じゃあ、何というか、お大事にな」

「うぇーい……」

「うう……」

 

 気の抜けた返事に送り出され、俺は聆のもとに向かう。そんな大きな船じゃないから、向かうって言うほど遠くないけど。

 それにしても、短い間に打ち解けたよな。あの二人。……聆って割り切りがすごいからなぁ。それが良いところでもあり怖いところでもある。何かやらかしたら、俺とかでもザックリやられそう。『残念やけど、お前は死ななんならんのや……』って。慈悲を湛えた微笑みのままぶちk――

 

「お、隊長もこっち来たんか」

「うわっ!?」

「……そっちから歩いてきたのに何でそんなビクッとん?」

「い、いや、別に。ちょっとぼーっとしてたんだ。それより、何の話してたんだ?」

「 こ い ば な 」

「えーっと、鳳雛ちゃん、何の話してたの?」

「おう黄蓋見いや。これが曹魏名物『北郷式黙殺』や」

「ほうほう……コヤツもコヤツでなかなかに強かだということじゃな」

「皆が自由すぎて捌ききれないからな」

 

ってそんなこと言ってるから鳳雛が発言のタイミング逃してワタワタしてるじゃないか。

 

「あの、その、あ、アレです!」

「ん……?」

 

鳳雛の指さす先には……漁船かな?でも何か、いくつかの船を鎖でつないだ、見たことない形をしている。

 

「何だ?あれ」

「この辺の漁師に伝わる船の揺れ対策らしいわ」

「この辺りの漁師たちは、船酔い対策や、小さな船を大きく使う技法として、船同士を鎖で繋ぐ方法を使っています」

「え、でもさ……この辺の漁師ってことは小さい頃から船に慣れ親しんで育ってるだろ?酔い対策なんて要るのか?」

「むしろ生活に近いからこそやろ。酔いやすい体質の奴も船使わなならんのやから。それに、寒いとこ住んどるからって雪の中裸で走り回って大丈夫ってこともないやろ?」

「まあ、そうだな」

 

確かに、特殊な環境に住む人って身体能力どうこうよりも、特徴的な道具とかで乗り切ってる気がするな。エスキモーの毛皮服とか。

 

「で、それを私らの船団にも取り入れよかって話しとったん」

「魏の兵たちは、どうも船が苦手と見える。時間があれば儂が教練してやったものを……」

「船同士を繋げは足下が安定して酔いにくくなりますし、兵は陸と同じように動くことができるようになります」

「へぇ……なるほどな」

 

……って、え?赤壁で、鎖で、………ヤバい。

何とかして聆に考え直させないと。でも、どう反論しよう。聆も乗り気だし、何言っても論破されそうだ。いっそのこと『未来の知識が――』って言った方が良いのか……?

 

「あ、隊長」

「ん、お、おう、何だ?」

「この件は私から軍師連中に言っとくから。……そろそろ何か手柄たてとかんとアレされるかも分からん。この前言い合いもしたしな」

「む、儂らから直接言おうと思っていたのだが……」

「いえ、鑑惺さんに頼みましょう。軍師の皆さんには、警戒されていますから……。私たち」

「確かに、取り会ってくれぬやもしれんな」

「頭硬い人も居るからなぁ。怪しいても、良えもんは良えもんとして取り入れたらええのに」

「怪しいとな……いや、仕方ないか」

「実際の働き見てみんことにはなぁ。許すのと信じるのはまた別やし」

「で、では、この件で働かせてもらいます!」

「つってもアレやで?戦場に出る黄蓋さんはともかく、鳳雛は軍議にも出させてもらえんやろし、することなくない?」

「えと、その………、鎖の手配なんかを……。一応地元ですので、鎖の供給網とかは知ってます」

「んー……んだら、頼もかな。クク……何かホンマの部下みたいやな」

「えへへ……」

「待たぬか!鳳雛は儂の弟子じゃろう」

「年甲斐もなく嫉妬かな?」

「お前は本当に容赦なく歳をイジるのぅ……」

 

 また他愛もない談笑を始めた聆たち。ついさっき『この件には関わるな』と釘を刺された身としては、なんともほの恐ろしい光景だった。




『察する』能力がもてはやされ気味ですが、作者は『察させる』能力こそ重要だと思います。何かを言うと、それについて自分の発言としての責任が発生しますから。

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