そして区切りどころミスった感が漂う滑り回が出来上がってしまいました。聆と祭さんが対峙したとこで終了の方が良かったかもしれないです。候乙。
夜が明け、魏が再度進行を始めたその頃。下流の蜀陣営に入る騎馬が三騎。馬超と馬岱。船を繋ぐ鎖の運搬に際し、黄蓋の兵を魏軍に紛れ込ませた帰りである。
「今帰ったぞ!」
「おかえり♪雛里ちゃんと黄蓋さんの様子はどうだった?」
「それが妙に待遇良かったんだよなー。あたしたちと会ったすぐ後も酒宴に呼ばれてたし。あ、それと、これ。雛里から預かった」
ごそごそと懐を探り、少々シワが寄った紙束を取り出す。
「……宴会というのは、厄介でもありますけどね。監禁や軟禁を受けるのなら文句をつけることができますが、宴の場合は断る方が無粋とされます。それに、酔った拍子に何か喋ってしまうということも………」
言いながら、諸葛亮は鳳統の書簡の冒頭を読み、一先ず策の進行を確認して気を良くした。が、その表情は徐々に険しいものとなる。……報告が終わった途端に延々と泣き言が書き込まれていたら誰でもそうなるというものだ。要約すると、
『初見でボロクソ言われた上にその日の夜から毎日飲めない酒に付き合わされて色々ズタズタ。鑑惺も多重人格臭くて気持ち悪いし、曹操もねっとりした目つきで見てきて怖い。朱里ちゃんのお菓子と八百一本が恋しい』
とのこと。どうにもコメントに困る類の内容だったが、諸葛亮自身も同じ目にあったら同じことをするだろうと思い、文句は言わなかった。
「……雛里は何と?」
「計画の進行は、多少の不安要素こそあるものの概ね順調だと」
「その割に表情が硬かったが?」
「ええ……雛里ちゃんも苦労しているようなので」
「まあ鬼畜の集まりだからな」
「もう翠ちゃん!それは呉の流した風評でしょ。そんなこと言っちゃダメだよ」
「桃花様、お優しいのは結構ですが……曹操の逸話には真実も多いですからな」
「あの舐め廻すような視線は頭から離れるものではないでしょう」
「うん……それはね………」
(曹操は女漁りを控えていればもうとっくに天下を取っているのでは……。孟徳"もうとく"だけに)
「星、何を笑っているのだ?」
「何でもない。昨日食べたメンマの味をふと思い出しただけだ。それより、我らもそろそろ動く頃合いではないか?」
「そうね。孫策と周瑜も黄蓋殿を助けると言って、既に移動を開始したらしいわ」
「戻ってきたばかりの翠と蒲公英には悪いが、我々もすぐに出る。夜までには赤壁に到着するぞ」
「屋敷に忍び込んだり鎖運んだり、最近は面倒な任務ばっかだったからな。一暴れさせてもらうよ」
「うん。頑張って黄蓋さんを助けよう!」
「進軍、開始なのだー!」
――――――――――――――――――――――――――――
「……そろそろか」
日が落ちてしばらくした頃。禀の話の通りならもうすぐ風向きが逆転する。そして、黄蓋が動き出す。
黄蓋の位置は最前線の中央。紛れもない『主力』の席だ。いわゆる慢心采配である。が、同時に余計なことをしたら即座に切り捨てられる位置でもある。そして、その切り捨て役が、我が鑑惺隊。主船を黄蓋の真後ろに取り、他人の隊の船に配置した隊員が黄蓋を取り囲む形となる。
「お前ら、準備は整っとるやろな?」
「抜かりなく。……別働隊からも準備完了との報が」
「良し。……んだらそこのお前。この作戦の心構えを」
「はっ!『焦らんとやることだけやってソッコー退却』です!」
「上出来や。お前らの役割はあくまでも出落ちに過ぎん。もたもたとその場に留まらんように」
船室内の全員が静かに頷く。それを確認し、私は甲板へ出た。
黄巾の時代から選りすぐり続けた自慢の部下たちだ。今回も完璧な仕事をしてくれるだろう。
今回の戦は、戦術的には最早勝利している。上層部の全員が黄蓋の裏切りを想定しているし、火計への対策も立っている。黄蓋本隊以外の場所にも敵方の工作兵が潜んでいるが、凪たちの働きによってほとんど特定されているらしい。放っておけば黄蓋は矢に穿かれて死ぬ。
だが、それでは不完全だ。黄蓋が死んでは私の目指すお気楽なお花畑世界は成り立たない。私の目指すのは、一刀が五十人近い嫁を作り、華琳がカリスマブレイクし、桃香が黒い部分をチラ見せ、雪蓮が何かエロい雰囲気を出し、凪とか愛紗とか蓮華とかが嫉妬し、バカ共が馬鹿騒ぎし、酒飲みが呑み比べで酒蔵を潰すような世界だ。墓参りイベントなんて全く求めていない。故に、黄蓋の討ち死には認められない。自害も却下。
「大丈夫……私は蛇鬼の鑑惺だ。捕獲に定評のある鑑惺だ」
何かRPGのラスボス戦前みたいな気分だ。圧倒的な火力と耐久を恐れつつも、仕込みまくった戦法を試すのは楽しみみたいな。今の私を七ドラに例えるなら、騎(騎盾)盗(剣)平(毒)姫(癒)かな。
……さすがに緊張しているな。思考の方向がおかしい。
「酒、呑まずにはいられない」
別にアル中じゃない。気分転換に一口だけ酒を呑むのが好きなのだ。田舎のおばあちゃんが料理始める前にお腹のとこをスパーンってやるみたいなものだ。……誰に言い訳しているんだ私は。これは本格的に、さっさと気分転換するべきだな。
心の中であれやこれやとつぶやきつつ、腰の瓢箪に手をかけた時だ。
「………風が、変わったな」
ちっちゃいおんなのこすき