ちなみに、※――――※は少し過去の話を書くときの目印です。
あと、関係ないですが作者は最近階段登るのが辛いです。息切れがすごい。
「第一戦域、突破された模様!」
「戦域の移行状況を確認しなさい!あと、後衛が暴発しないように釘を指すのも忘れないでちょうだい」
「張遼様より報告!『敵軍背後より増援と見られる集団が接近』とのこと!」
「どんなに援軍が来ようとこちらの方が多いんです。そのことを各隊によく言い聞かせてくださいね〜」
「伝令!『敵左右両翼に不審な動き有り。甘寧、周泰の横撃に注意されたし』」
「どこからの伝令かまず言いなさいよこのポンコツ野朗!」
「郭嘉様です!」
「秋蘭に『孤立しないように注意せよ』と伝えなさい。そのあとお前は最前線に突撃して死んできなさい!」
「ブヒぃ!ありがとうございます!」
戦場で、ある意味 最も混沌とした場所…それが本陣。
前線は前線でデンジャーゾーンだが、『とにかく敵を斬ればいい』と割り切ってしまうこともできる。対して本陣は戦場のありとあらゆるところから情報が集まり、また、それに対する指示が出される場だ。
この情報の扱いが非常に難しい。まず、その量がとんでもなく多い上、真偽も判断せねばならない。敵によって虚言が流されることもあれば単なる勘違いのこともある。それに、その情報がいつ発せられたものか……つまり、タイムラグの問題も有る。
それをサクサク裁いているのだから、軍師というのは侮れない存在だ。桂花なんか普段の残念っぷりがまるで嘘のように活躍している。
逆に私の中で株が下がっているのが……
「華琳さんはさっきから嬉しそーな顔して……」
さっきからニタニタ笑ってるばかりで働いてない人が一人。ここまで本陣に近いところで構えるのは初めてなんだが、いつもこんな感じなのか?
「あら、悪い?呉の民が思い描いていた以上に強かなのが嬉しいのよ。……見なさい」
華琳の指さす先……今まさに両軍が刃を交える最前線。
そこから、何やらオーラ的なものが立ち昇っている。……またか。
「氣……」
「そう。氣。本来、視認できるほど強力な氣なんて極めて限られた者しか発することはできない」
「呉の兵はそれを発しとるな」
「そう。すべての兵が死を覚悟し、戦うことを決意した結果、魂魄が共鳴した。『孫呉』が一つの存在として氣を産み出しているのよ」
「残念ながらアレって孫家のための想いの力やからなぁ。華琳さんが呉を手に入れてもアレは手に入らんで」
「それなら孫家を手に入れれば良いだけの話よ」
あんなものを見ても余裕で勝つ気なのがなんとも華琳らしい。
まぁ私も、負けるなどとは微塵も思っていないがな。
―――――――――――――――――――――――――――
圧倒的物量を跳ね返さんとする想いの力。それはなにも前線に限った話ではなく、ここ、孫呉本陣も同じ。強く、深く、叫びたくなるような力で満たされている。
「すごいですねぇ……」
「ああ……」
武や氣の力は認識している。が、それは然るべき策の中でこそ力を持つものであり、それら単体では何の意味もない。――それがこれまでの周瑜の持論だ。
だが、この戦はどうか。周瑜が言ったことはたったの一つ。
『曹操を倒せ』
「これが、我が孫呉の力か……」
兵力が無くても、策が無くても、我らにはこの力が有る。
勝てる。
敵はあろうことか誘引計を実行しようとしている。普段は前衛に居る将を後方に控えさせ、前線に夏侯淵と張遼。敵の進行に合わせて引きながら戦い、息切れを起こしたところを一気に叩いて討ち取る策。
「だが、それは失策」
ただの突撃ならそれで対処できるだろう。だが、今の孫呉にそれは通用しない。息切れなんて起こさない。孫呉の兵は最初から曹操の首を取ることしか考えていない。よって、どんなに走らされようが粘られようが、そんなことは意識すらしていない。
曹魏は無駄に兵を減らし、本陣に敵を近づけ、そのまま喰い破られて潰える。
「あと、少しだ」
期待が確信に変わろうとしたその時。
孫呉の雄叫びは一瞬にして掻き消された。
※――――――――――――――――――――――――――※
「――やはり気になるのが相手の士気ですね……」
部隊の展開が終わってすぐ。孫呉との決戦を前に軽い軍議が開かれた。もちろん連絡は行われるが、聆や桂花、華琳もいないほとんど打ち合わせというか最終確認のようなものだ。
「敵はおそらく、いや、確実に直線的な突撃をしてくるでしょう。戦術面で有利な城を出てきたということは、重要なのは勝ち負けではなく誇り。孫策は舌戦の後本陣に下がることすらしないはず」
「なら、問題ないんじゃないか?今やってるのは誘引計の布陣だろ?」
相手が籠城してくるというのが大半の予想だったけど、今みたいに野戦になることも考えてなかったわけじゃない。『相手を誘い込んで握りつぶす』っていう作戦は元から考えてあったもので、現に何の戸惑いも無く布陣が終わっている。
「確かに、大まかに言えばそうなのですが〜、問題はさっき禀ちゃんが言った通り相手の士気が高すぎることなのですよー……」
「今の呉は強気弱気っていう次元じゃなくて『死んでも敵を倒す』って感じですからねー。強いですよー」
「そのまま押し切られるかもしれないってことか。じゃあいっそこっちも突撃……う〜ん、難しいかなぁ」
正面衝突なんて、それこそ向こうが望んでる展開に違いない。それに、下手をするとこっちの士気がただ下がりになる。一番辛いのは攻められることじゃなくて攻め切れないことだ。
「早い段階で全軍を密集させちゃって、こちらも孫策のみに的を絞らせますか?」
「あまり使いたくない手ですが〜、それも念頭に置いておくべきなのですよ〜」
背水の陣、か。
……そっか。向こうはもう後が無いから、不利だろうが有利だろうが関係なくただ全力を出してくるんだ。
覚悟の力。
こっちの世界に来てから、想いとか信念とか、そういうの心がすごく重要なんだってことを見てきた。
……だったら、
「だったら、相手の頭を真っ白にしてやれば勝てるんじゃないか……?」
「……?」
「ほら、みんな、相手の士気が高いのは仕方ないと思って話してるだろ?でも、相手の士気が高い限りこっちが苦戦するのは決まってる」
「…………」
「は、はぁ……」
「それはそうでしょう。相手の士気が高いのも、それが孫呉を攻める限り避けられないことなのも事実なのですから」
「孫呉を守るっていう意思がそうさせるからだね。でも、想いってのは、つまり頭の働きだろ?それでさっきの話なんだけど、相手の脳味噌止めちゃえば良いんじゃないかなって」
「それはつまり……危ないお薬的なものを………?」
「いや、そうじゃなくてさ。……びっくりさせたらどうかな」
「それは……いや、確かに予想外のことが突然起こればその一瞬は思考が止まりますが………」
「かと言って何をどうすれば向こうが驚くか分からないのですよ〜。奇策というのは、相手が予想していないところを突くものなのです。まず相手が"何の予想も立てていない"なら、"予想の外を行く"ことはできず、驚かせられないのですよー」
「その点で孫呉はどうしようもないんですよねー。相手のことなんて知るかー!俺たちは曹操を倒すんだー!って思ってるでしょうし」
「いや、大丈夫。俺が思いついた」
「………」
「それは……」
「ぜひ聞かせてもらいたいですね」
「うん。もとから隠す気もないしな。難しく考えるからダメなんだ。……単純な相手には単純な方法を使えば良いんだよ――」
正直に言いますと、
SEKIHEKI書き終わる直前までこの戦いがあることすっかり忘れてたんですよね。
だからちょっと因果がおかしくなってるかも。