哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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誤字注意
郭嘉と賈詡の間違い注意

上手い文章でリメイクしてくれる人募集中です。


第十五章二節その二

「戻ったぞ」

「あら、素直に退いてきたのね」

 

 私が本陣に戻ってすぐ、若干不機嫌そうな顔をした先鋒の面々も戻ってきた。

 

「誘てるて分かったからなぁ」

 

 この山間の平地は確かに防衛に優れている。だが、まさかそれだけで魏軍の……それも、まだ疲労もしていない初戦を破れるとは敵も思ってはいないだろう。なればこその、山馬超(造語)である。落とし穴やら周泰の襲撃やらがあったが、基本的に相手は最初から"ここでは"負けるつもりだったのだ。

 少し戦って相手の闘争心を煽り、相手を速い者から順に奥に控える本当の本隊に誘い込み、倒す。馬超を使ったのは、どんな将にも追いつかれずに本隊まで逃げ切ることができるからだ。

 広場での待ち伏せの定石を使うと見せかけ、実は路地での戦いのテクニックを使った術だったのだ。しかし、風が見破った。敗因は、露骨過ぎる人選。私的には、馬超の代わりに星を入れるのが丁度良かったと思う。

 

「いやぁ、誘っとるように見せかけて安全に逃げるための策かもしれんで?」

 

まぁそういう考察は置いといてとりあえず適当なことを言っておく。最近真面目にやりすぎて魏のお母さん枠とか言われだしている(気がする)からな。私が目指しているのはちょい悪お姉さん枠なのだ。

 

「一理ある」

「聆……引っ掻き回すのはやめなさい。何人か本気にしてるわ」

「そんなやつおらんやろ」

 

『一理ある』というかゆうまの声はきっと幻聴だ。

 

「……さて、それでは宿営の準備にかかるわよ」

「もう宿営に入るのですか?」

「引けばまたこの平地に陣を張られるし、先に進めばまた隘路よ。せっかく比較的守り易い地形を獲ったのだから、ここで一度ゆったりと英気を養いましょう」

「ゆったり……ですか」

「そう。出発前も言ったことだけれど、"普通に"やれば魏の負けは無いわ。では、その"普通"をどう作り出すか……それは、普段通りの、魏での生活と同じ環境でしょう。できるだけ普段と同じ水準の豊かな食事を摂り、安心して眠る」

「せっかく皆士気が高いというのに、落ち着けてどうするのだ」

「こっから成都まで距離も難所もまだまだ有るやろ。士気やら戦の高揚感やらなんぞ捨てるほど押し付けられるわ」

「それに、高すぎる士気もまた厄介なのよ。本当はとっくに限界なのに、本人すらもそれに気付かず気合でどんどん進軍していざ戦うと全然ダメ、或いは、ふと気が削がれた瞬間に再起不能……なんてことになったら笑えないわ」

「今日なんか特にだよな。国境越えて、初戦闘を乗り切ってしかも一つ難関を押さえた。言葉で簡単に表したらもう既にかなり働いてるのが分かるよ」

「それに、自信がつきますしねぇ。敵国に入っても実際余裕が有るっていう。反対に、そんなわたし達の姿を見て相手はイライラしちゃいますよねぇ」

「それも有るわね。……さて、この場での宿営、一石で何羽の鳥を墜とせるかしら?」

「…………」

「まぁ、納得いかないというのも分かるわ。常識的ではないし、なにより先程の戦で不完全燃焼だったものね。……そうね、狩りにでも出てきなさい。多少の憂さ晴らしにはなるでしょう。それに何より食糧がより豊かになるわ。動き足りない者は一般兵にも居るでしょうから、食料調達部隊として隊を組んで出ると良いわ」

「ふむ。戦の足しにもなるならば行くか」

「ボクも行きたい!春蘭様も、行きますよね?」

「ああ、もちろんだ!」

「この時期なら獲物には困らないぜ。鹿に猪……何から狩ってやろうかな」

「熊や虎も合わせて目に入り次第片っ端や!行くで!」

 

と、先鋒隊は戦闘結果の報告もせずにUターンで出かけていった。報告の方は他のルートから入ってくるから別に良いと言えば良いのだが……なんとも血気盛んなものだ。

 

「……ここら一帯の動物根こそぎ狩っちゃいそうだな」

「そこは季衣と……あと意外に猪々子辺りが調節するんじゃないかしら?」

「それより華琳様――」

「分かっているわ。確かに、他に比べてかなり安全な地形を取ったけれど、危険なことには変わりない。警備は普段の三倍とする。でも、さっきも言ったように休憩時間は十分に取るつもりよ。だから、全軍での持ち回り方式をとるわ」

「これだけ数が居れば普段の三倍でも軽いか」

「では、そのように人員の割り振り案を作成しておきます」

「あとの皆は宿営の準備に取りかかりなさい」

「「はっ!」」

「……あ、聆はすこし待って」

「ん、なんや?」

「貴女、また誰かしら捕まえたそうじゃない」

「うん、まぁ……」

「単刀直入に訊くわ。またバカ?」

「バカ」

「そう………」

 

その目は哀しかった。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「――結局、追撃は無し……か」

 

 同じ頃、宿営地の更に少し先に構えられた蜀の陣では孫権が悔しげにため息をついた。

 

「は。敵の先鋒は相当の突撃思考だったのですが……申し訳ありません」

「構わない。相手は突撃思考の将も多いが、その分搦手を得意とする将や軍師も揃っている。そ奴らが動いた結果なのだろう」

 

 猪武者たちの枷役となる夏侯淵、典韋。兵器開発や工作に強い李典。そして、こと敵の策への対処に関しては右に出る者の無い鑑惺。于禁という将は特に目立ったところは無い……と見くびっていると高い統率力に痛い目を見ることになる。更に軍師も多く、それぞれに特色を持つ。荀彧は基本の政略や軍略、物資と人員の管理に圧倒的な素早さと正確さを発揮し、郭嘉は批判役をしつつ、その広い見聞で議論に深みを出すと聞く。そこに程昱の奇想が加わり、張勲が精神的圧迫を付け足して敵を嵌め倒す策が完成する。船頭多くして船 山を登ると言うが、曹操という絶対的船頭の存在によって迷走や停滞は無い。

 

「曹操……やはり、強大だな……」

「とうする?この間合いなら夜襲もかけられると思うけど……」

「誘いに乗らなかったということは、相当慎重になっているはず。夜襲への対策は当然の如く万全を期しているだろう。逆に待ち伏せている可能性もあるわ」

「事実、鑑惺さんは南蛮の皆さんを釣ってきましたしねぇ」

 

 陸遜は周泰の報告を思い出す。

 獣の姿に化けて南蛮兵の狩猟本能を煽り誘い出し、続く援軍での襲撃。なんとか逃げ出したが、無傷ではなかったと。

 

「深読みのしすぎは毒だ」

 

 しかし陸遜の思考はあまりにも鑑惺を神格化しすぎではないか。獣の被り物だって、相手にしてはとりあえず見つかりにくくするためのものに偶然南蛮兵が反応しただけかもしれないし、援軍も、あの奇声が聞こえれば、それは近くの兵が駆けつけるだろうというものだ。

 孫権は建業防衛戦にて鑑惺と直接刃を交えた。そのときの、あの人を喰ったような戦い……陸遜の言うことも解る。だが、同時に、陸遜の考えるほど直接的な強さを持つのだろうか?という疑問も浮かぶ。鑑惺はとにかく前へ出て、自分で動く。それはつまり、事前に読むことが得意なのではなく、その場の機を見て『始めから知っていた』ように取り繕うことしかできないということではないのか?長物から毒薬まで様々な武器が仕込まれた鎧は、実は本人の自信の無さの現れではないのか。

 

「……が、無茶な突撃をしてこちらが消耗しては更に危険。夜襲はほどほどに、掠る程度で良い」

 

 もちろんこの考えは陸遜の"悲観的"な思考に対して、反対に酷く"楽観的"過ぎる予測。

 そしてそもそも敵は鑑惺だけではない。敵には軍師が四人も居るのだ。鑑惺が読んでいなくてもそいつらが読んでいるということは十分に有る。例を挙げれば赤壁の戦い。鑑惺が、鎖で繋ぐという罠に乗ったと安心していたら李典がしっかりと対策を施していたらしいというのが黄蓋の談だ。

 結局、大きく動くことはできない。

 

「……蓮華様。偵察からの報告で、曹操が周囲に大量の兵を放ったそうです」

「大量の兵を?野営地の設営に入ったのではなかったのか。……それは確かなのか?」

「はっ。皆それぞれに武器を持ち、完全武装で山の中に広がって行ったと。それに、夏侯惇や張遼、文醜など攻撃的な将も多く出ていたとのこと」

「こちらの偵察を潰す気か?……にしては、戦力が過剰な気もするが」

「しかし、こちらも明命ちゃんや美以ちゃんを出して、山での強さを見せちゃいましたから……妥当な戦力かもしれません」

「それか、警戒してるって見せつけてるのかもな」

「晩御飯のために猪でも狩りに行ったんじゃないのかなぁ?曹操って猪好きみたいだし」

「猪はむしろ鑑惺が集めたようだがな。ともかく、敵国の山中で狩りというのは非常識に過ぎないだろうか」

「真意は曹操に聞いてみなければ分からないわね。いずれにしても、ここは慎重に行動しましょう。あくまでも相手を"削る"ことが目的よ」

「……だな。ぶつかり合いは次に持ち越しか」




(戦術をAAで説明しようとして挫折)

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