哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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読者様に看破されていた伏線なので初投稿です


第十五章二節その四

 蜀領に入って数日。依然士気は高いまま進軍は続く。予想通り、いや、予想以上に激しい奇襲攻勢を受けるもさして問題にはならなかった。成果を挙げた隊は夜間哨戒免除であったり食事が豪華になったりと、むしろ奇襲に遭遇することに価値をつけることにより精神的負担を軽減しているのだ。私自身はそんなことで誤魔化せるものかと訝しんだりもした(冷静に軍全体を基準に考えれば奇襲されて得するはずはない)が、それはそれ。皆上手く部下をノせている。もしかしたら兵たちも分かっていてワザと盛り上げてくれているのかもしれない。

 そんな中、である。

 

「……ガフッ………」

 

 私はまたもや死にかけていた。

何故か。

 

「鑑惺、殺す」

 

呂布だ。

 突風に吹かれたと思ったら視界がぶっ飛んで地面にうつ伏せになっていた。

 たぶん、首に一撃やられたと思う。しかし幸いにも軟弱な私は刃が触れる前にその一振りが纏う氣に弾き飛ばされた。そしてもう一つ幸いなことに、その衝撃で死なない程度には頑強であった。私があともう少し強ければ、頭と胴体がおさらば。もう少し弱ければそのまま煎餅みたいに平らにのびていただろう。実際、近くに居た兵二人ほどの息遣いが消え、代わりに血と糞尿の混ざった匂いが。まぁ、私も幸運であったとは言えそれはあくまで『即死に比べて』である。何を痛めたか分からんが、全身が一瞬でガタガタ。前もこんな感じだったな。……いや起き上がれるかも怪しい分今回の方がひどいかもしれん。このままでは二人と同じ末路になりかねない。

 

「待て。呂布。なんでや」

 

来ないって予想だっただろ(これはこっちの勝手だが)とか、なんでこんなに強いのかとか、なんで私名指しで殺害宣言してるのかとか。

 

「ウソつきは死ね」

「なにが?」

 

まるで意味が分からんぞ。確かに私はどちらかと言うと嘘つきな人間だが、呂布に殺意を待たれるような嘘をついた覚えはない。

 

「話さなくていい。はわわもそう言ってた」

「クッソまた孔明かっ!!」

 

あのミラクル腹黒クソ幼女め。三国平定の暁には八百一本コレクションを皆の前で強制的に音読させてやる。

 

「とにかくワケを聞かせてくれや」

「ダメ。むずかしいこといってまたダマそうとする」

 

そう言って、私の首に冷たい感覚が。いや、熱い。もう、少し斬られた。

 

「騙さんって!そうや、なんかおかしい思たらすぐその刃押し込んだらええ話やん。な?」

「………」

 

しばらく沈黙。

 

「メンマだった」

「は?」

「星はメンマしかくれなかった」

 

星?趙雲がメンマをくれた話が何故私を殺す話につながるのか?

 

「それがなんで私に?」

「おまえが、肉まんよりいいものくれるって言った」

「あっ」

 

……あのときの命乞いか!

 対蜀防衛戦で呂布は肉まんのために私の命を狙い、私は『趙雲に渡せば肉まんよりいいものと取り換えてもらえる』と酒を差し出し生き残った。

 そしてその言葉通り呂布は酒を星に渡したのだろう。そして、おそらく星は何の悪意も無く、むしろ喜びを表して自分の好物であるメンマを呂布に譲った。しかし、それは呂布には伝わらなかった。呂布が納得するにはメンマは低カロリーすぎたのだ。

 

「わかった?」

 

不幸な行き違いがあったのは分かった。だが、だからといってはいそうですかと斬られる私ではない。

武力では確かに呂布に敵わない。だが、私は『蛇鬼』鑑惺。曹操曰く神代の伝説。がんばれ、私。今こそ振るい立て。

 

「謝れ!!!」

「!?」

 

突然の怒号に、呂布の檄がより強く押し当てられる。もう脈動の衝撃でさえ致命傷を招きかねない。それほど刃が血管に迫っているのを感じる。だが、退かない。ここで失敗すれば死ぬが、何もしなくても間違いなく死ぬのだ。

 

「メンマはなぁ!タケノコを乳酸発酵させて作られた星の大好物なんや!これを気に入らん、無価値やと言うことがどんだけ罰当たりなことか分かるかァ!!?」

「……?」

「タケノコとタケノコを育んだ地や空とタケノコ収穫した人と乳酸菌とメンマ漬け職人と流通に携わった人とメンマ入れる壺作った人と星に悪いと思わんのか!!!??」

「おいしくない」

「いーやメンマは美味しい。美味しいから売れる」

「だって、好きじゃない」

「好きやないんはお前の勝手やろが!!!お前にメンマを価値あるものとする感性が無いだけやろ!!!!目ぇ瞑ったまま暗い暗い言うようなもんやぞ!!!」

「分からないこと言った」

 

更に少し檄が押し込まれる。落ち葉の地面に顔を沈み込ませ、なんとか傷が深まるのを避ける。

 

「眼鏡頭に乗せて『眼鏡どこ?』言うようなもんやぞ」

「それは詠がたまにやってる」

「そう。つまりお前はなぁ、ホンマは美味しいものを、お前が『美味しい』と思うだけで美味しく感じられるはずのものを、美味しく感じる努力を怠って不味く食べただけなんや。メンマやのぉてお前の心がマズかったんや。私は正直者で、お前は確かに良えもんを貰っとったんや」

「………」

「それをお前なぁ、美味しくないやら好きじゃないやら言うて。……お前が嘘つきなんちゃうんか?」

「!!」

「ホンマは美味しいのに、お前は美味しくない言うたんや。これ、どないすんじゃ。嘘つきは……何やったけなァ?」

「……前言撤回」

「やったら私は死なんでええな」

「それとは別。敵を倒すのは任務だから」

 

糞がッ。

孔明マジ覚えとけよ。

 

「お前、任務達成なんかおめおめとできる身分やと思っとるんか?」

「なにが?」

「『嘘つきは死ね』これはお前が言い出したことで、お前が撤回したから確かにチャラや。でも、お前まだタケノコとタケノコを育んだ地や空とタケノコ収穫した人と乳酸菌とメンマ漬け職人と流通に携わった人とメンマ入れる壺作った人と星への詫びが済んどらんよな。メンマの悪口言ったその罪は消えとらんよな」

「……それも撤回」

「いーやこれは無理!だって皆の心に傷をつけたから!!もうお前だけで済む問題やないから!!!」

「……」

「そんなな、謝罪もろくにしとらんやつがな、自分の都合進めて、ましてそれで報酬貰お思とんちゃうやろな?……そんなもん白紙や白紙!!任務は失敗!!なんでって?お前が悪いやつやから!!!」

 

我ながらめちゃくちゃだ。だが、刃は離れる。呂布……いや、恋が素直な性格で良かった。史実の勝ち馬乗りまくり野心有りまくりの呂布だったら100%死んでた。

 

「……どうすればいい?」

「謝れ。タケノコとタケノコを育んだ地や空とタケノコ収穫した人と乳酸菌とメンマ漬け職人と流通に携わった人とメンマ入れる壺作った人と星に謝れ」

「謝ったら、許してもらえる?」

「いーや分からん。もう向こうもお前の顔なんか見とぉないかもしれんしな。謝りにいくだけ余計に迷惑かもしれん」

「………」

 

困り果てたような表情。私は一つ悪いことを思いついた。

 

「お前、私の髪の毛切れ」

「?」

「お前だけで謝ってもしゃーないからな。私からも許してもらえるようにってことや。髪はその印。帰ったら星にそれ渡して、一言『ごめん』とだけ言い。長ったらしいこと言うても迷惑やからな。その後は星から、お前の反省は皆に伝えてもらえるはずや」

「ありがとう」

「困ったときはお互い様や」

 

ザリッと音がして、首回りが涼しくなる。呂布め、遠慮無くガッツリ行きやがった。ゆらゆらと伸びて我ながら非常識なほどだったロングヘアが、この一瞬でショートカットだ。まぁ、その方が都合が良いんだが。

 

「じゃあ、行く」

「おう」

 

もう二度と来んな。




聆は三課長が回収しました

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