哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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おひさジブリです

前座おばさん軍団

寝不足のときに書いたのでふわっとしたミスをしてそうです。バンバン訂正お願いします。


第十五章二節戦闘パート

 何を号令にしてか、呉の兵がにじりにじりと歩みを進める。進みながら事前に組まれた陣形から更に少しずつ拡がって、その横幅は(元々幅を取る布陣ではないとはいえ)数に勝る魏の陣形より大きくなった。

 

「……やっと動き出したか!よし!こちらも全速前s――」

「ま、待ってください春蘭様!」

 

夏候惇がそれを見て嬉々とした表情で号令をかけようとするも、すんでのところで楽進らが止めに入る。

 

「そうなの!待つの!」

「ぬぅ!?『相手が動くまで動くな』という命令で、その後は特に指示が無いかぎり指揮は任されたはずだ。相手は動いたのだぞ?つまり我らも動いて然るべきということだ」

「趣旨は相手の動きを読み取ることだろ。相手のほんの動きはじめでこっちからも喜んで突っ込んで行っちゃったら意味ないだろ!」

「それにあの動き見てみてぇな。明らかになんかアヤシイで」

 

李典が指摘する通り、呉の動きは不自然だ。今までの呉は高速高密度の一点突破を持ち味としていた。……策を弄したとしても、決め手はやはり孫策を主とした速攻。今のような緩やかな動きは警戒すべきシカケ有ってのことに違いない。

 

「しかしだなぁ………」

「分かった春蘭。なら、一つだけ言わせてくれ。……見ろよ。あの華雄でさえ暴発してないんだぞ?」

「ぬぅ……」

 

 一刀の指し示すは右翼。

華雄と流琉が率いる一団は、確かに未だ動いていなかった。

 

「ぬおおおおお!!行ぃぃぃぃぃかぁぁぁぁぁせぇぇぇぇろおおおおお!!!」

「ダーメーでーすッてぇぇええええ!!」

 

流琉の武器である巨大ヨーヨー『伝磁葉々』の紐で繋がれて、だが。

 

「まだ早いですよう!」

「兵は拙速を尊ぶものだ!」

「これは迂闊と言うんです!!」

「なんだとッ!?敵が目に入っているのに迂闊もなにもあるものか!!」

 

 華雄も反董卓連合戦の頃に比べればかなりマシにはなった。事前に作戦をよく説明され、上から命令されれば待つことはできるようになってきていた。

だが、今のように少しずつ展開する、いかにも突撃で蹴散らすと気持ちよさそうな兵を目の前に……しかも明確な合図の取り決めも無い状態ではやはり暴走癖が先に立つ。

 賈詡は魏に移ってから暴発してないらしい華雄に腹を立てていたが、実際のところ魏も苦労はしていた。他国の耳に入らないような国内遠征や賊討伐での突出はしょっちゅう。暴発しないよう再三の注意で胃を痛めた軍師も居るし、初めから暴発してもいいところに配置するという発想の転換もあった。引き入れたヤツは責任を取って、暴発ではなく元からそういう作戦であったかのように取り繕うフォローを行ったりもしていた。

 

「あーもー『進軍開始は各大隊に任せる』って、無茶ですよ華琳様~」

 

そういうわけで思わず不満の声が漏れる。ついでに今からでも中央主導の指揮に切り替えるよう陳情も出した。

 

 

「んー、意外だな。一点じゃなくて面で寄って来てる。もっと孫策中心でガツンと来るって思ってたんだけどなー」

 

 その逆側の左翼はこれまた逆に落ち着いたものだった。

 許緒と文醜の馬が合い言い争いが無いのもそうだが、意外にも突っ込み役ができる二人である。更に言えば、許緒は夏候惇に憧れてはいるが荀彧からも兵法を教わっているし、賊上がりの文醜は機を見ることには長けていた。

 

「どうする?猪っちー」

「何か仕掛けてるってことだよな、これ」

「こっちの方が兵が多いのに……。ばらけさせたら余計に脆くなっちゃうもんね普通」

「本陣から援軍が来やすい距離まで来たら気持ち横から攻めてみるかー」

「兄ちゃんも感づいてるだろうけど、一応連絡出しとくね」

「おう。まぁ、そんでも流れで引き込まれるのが怖いけど、その辺の帳尻合わせは秋蘭たちにまかせるぜ」

 

 そろそろと探るように進軍を開始した魏軍左翼。それを見た中央が突出しないよう続き、さらに右翼が勇んで動き出す。

 

 代わって呉の本陣。孫権は緊張したように、だがそれ以上に凛々しく大将として戦場を仕切っていた。

 

「敵も動き出したか」

「予想よりかなり慎重ですけどね。もっと強引に来るかと思ってたんですけど~。やっぱり、鑑惺さんに何かあったんじゃ……」

「その名を出すな。判断に余計な迷いが生じる」

「ですけど――」

「私が思うに、ヤツはとりあえずおかしなことをして、それで動揺した相手の隙を突くことに長ける。だから考えない方が良い。そうではなくとも、多くの者が思うような恐ろしい策略家ならこちらが頭を捻って考えたところで策は読めない。だから考えるだけ無駄だ」

「……そうですね」

「それで、細かい動きは?」

「向かって右……左翼から順に前進してきてるみたいですねー。遊撃部隊はそのさらに両脇を追従するように」

「左翼から……なるほど、中央での誘引を嫌ったか」

「ひとまず読まれちゃいましたねぇ」

「読まれたら読まれたで良いだろう。元より時間はかけるつもりだ。……ひとまず、中陣を組み替えろ。敵の進度に合わせるよう斜めに。そしてこちらの左翼は二重にしておけ」

「二重……なるほど。分かりました。小蓮様も左翼へ移っていただきますねー」

「そうしてくれ」

 

伝令が走り、呉の陣形が組み変わる。しかしそれは表面からは見えない内部の変化。

 

 

「面白いカタチになったわ」

 

 そして反対側から戦場を眺める曹操。こちらは澄まし顔で軍師と話し合う。

 

「同じ布陣からこうも……敵は今までの呉とは大きく違う。恐らく……こちらが攻めるのを待っているのですね」

「これではっきりと、呉の世代交代が見えたわね」

「この重要な戦……呉が主導できる最後であろう戦で孫権を名実共に主として立てるとは。いよいよもって"本気"のようですね」

「その本気の戦で、こっちは指揮を各隊に任せっきりにしてるんですよねぇ」

「最終決戦ではやむなく各自判断に任せることもあるでしょう。その予行演習よ。この戦も大切だけれど、次が一番だからね」

「危ういようなら指示も出しますし……皆、ここまで戦ってきた歴戦の将。下手な手は打たないでしょう」

「王者に相応しい堂々とした戦いを見せてくれたら尚良いわ」

「既に右翼の琉流さんから泣き言が入ってきてますけど?」

「もう桂花ちゃんが向かったのですよー」

「ああ、そう言えば姿が見えませんね」

「………」

「………」

「……ともかく、呉の世代交代はもっと早くやっておいて欲しかったけれどね」

「でも私が見てた感じ はっきり言って孫権さんじゃ実力不足でしたよ?」

「強い国主、姉としての孫策の存在が成長を阻害していたのでしょう。おそらく無理やりにでも孫権に玉座を譲っておけば、大きな問題が出る前には相応しい器になっていたはずよ。現に、今のところかなり落ち着いた指揮を取れている。……年功序列。妹は姉の下に在るもの。そして娘は母を、妹は姉を手本にしなければならない。そういう考えが孫策を国主に押し込め孫権の頭に蓋を被せた。その点では、実力が伴うまで劉備を神輿に諸葛亮が牛耳っていた蜀の方が上手かったわ」

「前からですけど孫策さんが国主なの、文句言いますねぇ」

「それはそうよ。だってあの娘、明らかに刹那主義の人間よ」

 

 孫策が聞けば『大きなお世話だ』と文句も出ただろうが、曹操はそもそも大陸ごと世話してやろうという大世話焼きであるから結局無駄なことだろう。

 

「やっぱり"猪"ですかー」

「分別は有る方だけれどね。それでも向き不向きは有る。……と言うより、私としては春蘭よりもっと自由な……それこそ霞のような立場が相応しいと思うのだけれど………」

「今ちょうど、その孫策さんと春蘭さんが当たったようなのですよー」

 

 その報告でやっと注意が戦局に戻り、お節介な批評は途切れた。

もう少し早く切り上げられていれば『猪』の不名誉な称号は貰わずに済んだのだが。




孫堅ふつう
孫策すき
孫権ふつう
孫尚香かなりすき

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