成都決戦を明日に控えて、俺は凪たちの天幕を訪ねた。始めは華琳のとこに行ったんだけど「もっと貴方を必要としてる娘たちが居るでしょうよ。私のところには、全て終わってから来なさい」と。そもそも俺自身が落ち着かなくて話しに来たんだけど、なんて情けないことも言えず。俺の部下にして同じく緊張してる仲間のあいつらに会いに行くことにした。
「入るぞー……って、何だこの状況!?」
真桜は螺旋槍を分解し、沙和は化粧用品をそこら中に散らかし、聆は首に刃物をあて、凪はベッドに半裸で腰かけて俯いたまま石像のようにじっとしている。
「あ、たいちょーいらっしゃいなのー」
「お、おう。一体何やってるんだ?」
沙和の呑気な態度から、差し迫った状況じゃないというのは分かるんだが。
「ウチは見ての通り武器の手入れやでー。最後の最後にちゃんと動かんかったらエライこっちゃからなー」
「そない言うてこの夕方から四回もバラしては組み立てバラしては組み立てしとるよな」
「うっ……せやかて何か落ち着かんねんもん」
真桜はカッと赤くなった。
「はは、俺も落ち着かなくてフラフラしてるとこだから……。それで、聆は何を?」
「首の傷をな」
「いかにも首を斬られたみたいにしたいんだってー」
「そう。一回、もうバッサリ一刀両断されたみたいにな」
「私はそのお手伝いなの」
「ああ、だから化粧品か」
「普通と真逆の使い方だけど、面白いの!」
「ちょーどええ作業もらえて良かったなー、沙和。ほんのちょっと前までうろうろソワソワしとってからに」
「眼鏡拭いたり掛けなおしたりめっちゃしとったな」
「それはもうおわったことなの☤」
「あとよく分からないのが凪なんだよな。凪、なにやってんだ?」
「………」
「無駄やで。緊張で固まってしもとる。ウチらが話しかけてもうんともすんとも言わへん」
「傷跡の観察させてもらうにはちょーど良えんやけどな」
ああ、それで半裸なのか。勝手に脱がせた、と。いや、これで納得するのもよく考えればおかしいけど、今更かな。
「でも明日のことを考えるとなんとかしなきゃならないよなぁ」
緊張しやすくて、それでいてなんだかんだで当日にはキッチリ集中してくる凪だけど、今回は流石に放っておけない。あがり症より恥ずかしがり屋なはずだから、脱がされもすれば普通は反応が有るはずだ。
「おーい」
顔のすぐ前で手を振ってみる。無反応。
「大丈夫かー」
肩を叩いてみる。これもダメ。つぎは頬を引っ張ってみる。
「起きろー……っうわ!」
顔のすぐ前を裏拳が通り過ぎた。
「おお、避けれたか。なかなかやるなー」
「私の指導の賜物やな」
「なんだ?罠なのか?」
「反射や反射」
確かに、凪ほどの武術の達人ともなれば、無意識に危険排除してもおかしくない。むしろ、肩ポンポンの時点でやられなかっただけラッキーなのかも。さっきみたいに痛みを与えたりしたら完全にアウトだ。
「触るならもっとやさしくしなきゃだめなのー」
「と、ちょっと前に眼鏡ぶっ飛ばされた先達が申しております」
「ウチの優秀な部下が作った高強度眼鏡やなかったら大変やったで」
「それももうおわったことなの☠」
「なるほど。やさしく、か」
「今絶対いやらしいこと考えてるの」
「断言かよ」
否定できないけど。
「隊長、どこから触るの~?」
「ぴっちり張った太もも?ぷりぷりのお尻?それともいきなり本丸に攻め込んでみるか~?」
「私はお腹や背中なんかもしなやかで魅力的なんちゃうか思うけどなぁ?」
ゴクリ
「いやいや、なんでそういう方向でいくみたいな感じになってるんだ」
「せやかて叩いたりつねったりしたら危ないで」
「じゃあ、くすぐってみよう」
「ふーん、ま、ええんとちゃう?」
「な、なんか含みのある言い方だな」
「さあさあ、するなら早くするの」
「お、おう」
じゃあ、まずは脇腹から。
「まぁ基本やな」
五本の指を軽くあて、掴むような動きで爪を滑らせる。すべすべとした肌の下に、筋肉の段が有るのが分かる。
「反応無しかな」
「ちょっとぴくぴくしとる感は有った」
「次は足裏とか」
そう言いながら、聆が凪をゆっくりと寝かせ、靴を脱がせた。自然と脚を開く形になって、つい視線が……。
「この格好なんかえっちなの~」
「すごくえっちや……w」
「俺には散々いやらしいいやらしい言ってきたくせに……」
「それを悪いことだとは言ってないの~♬」
「ほれ早よし」
ムニ。
聆が俺の顔に凪の足を押し付けてきた。少し湿った感触と、汗の臭い。
「今絶対グラッときたの」
「やめなさい。心を読むのはやめなさい」
理性をフル稼働させ、顔から足を遠ざける。
今度は指の甲で上から下まで……。
「ほーさすが技巧派(意味深)やなぁ」
「凪ちゃんちょっと赤くなってなーい?」
「そう言われればそんな気が」
「もうちょいかな」
「さあたいちょー!お次はどこにしますか!なの!」
「脇、かな……」
「言い方よ」
「なんだよ、自信満々に言いきったらそれはそれでなんか言って来るんだろ!いいよもうオラさっさと手を上げろォ!」
「おお、ついにノってったな」
「仰せのままに~♪」
沙和が凪の腕をグイッと引き上げて頭の後ろで組んだ。肩の筋肉から胸へのラインが……。
「これはもう言い逃れできひんな」
聆の無責任な言葉を無視し、脇の薄いところで五本の指をくねらせる。
「ンッ……アッ…あ………」
「おお、ついに声の反応が」
「たいちょーがんばれー」
少しずつ速くしていく毎に、凪の呼吸が乱れ始める。
「そう言えばなー、隊長は胸とか避けたけど、胸とかもこそばいトコやんな」
「まぁ、せやな」
「でもちょっと別な感じだと思うのー」
「いやでも子供ん頃は単純にこそばいだけやったやん?」
「……うーん、いつの間に感じるようになったんやろね」
「性の目覚め、ってやつなの♥」
「『くすぐったい』って『きもちいい』の種って話どっかで聞いたことある気ぃするんや」
「何で今そんな話を」
「いや、手つきいやらしいな、って」
「……確かに、これ実質強姦ちゃうか?」
「そもそも凪ちゃんって脇とか背中とかで気持ちよくなっちゃう娘だったと思うの」
「…………」
「んっ……あ……あっ…………あっ」
「…………」
「嵬媼ー、明日の策のk――」
「あ、華y――」
ドゴォ
スイーツ(笑)