哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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エロCG集はエロゲエロ漫画の下位交換
そう思っていた時期が私にも有りました


第十五章最終決戦Round5

 私の剣と黄忠の弓が競り合う。背後から顔良の刃が迫る。このままでは首を取られるだろうが、かといって目の前の敵が情けをかけてくれるとも思えない。三国平定を目前にして、潔く死ぬ覚悟など到底できない。

 ジレンマの中で無意味に引き延ばされた一瞬がゆっくりと過ぎていく。

 

「……っ!」

 

 しかし、予見した痛みはついに訪れず。一撃は背に振り落とされ、血ではなく破片が飛び散るに留まる。なぜ首ではなく背中?背中にしても、なぜ鎧を貫通しない?

 だがそうして考えている間も無い。ともかく、時間は進む。華琳が孟獲を二撃の内に下す。黄忠との打ち合いの間に退路を見出す。足並み揃って、二対二。こうなれば"比較的"容易い。

 

「中々良い奇襲だったわ」

 

 華琳が鎌を構えなおした。左肩と右膝をやられ、孟獲はしばらく動けまい。シカケが破られて、黄忠の顔もいよいよ余裕が無くなった。そして顔良、なぜお前がそんな困惑の表情なんだ。色々訊きたいのはこっちの方だ。

 

「でも、相手が悪かったわね」

 

 微妙な語気の変化を合図に、私が黄忠へ一歩滑り出し、華琳がドンっと一気に踏み込む。そして顔良の目前、大きく鎌を振るう。と同時に、百合覇王華琳様らしからぬ捻り無いヤクザキックを突き刺した。

 今度こそ本当に二対一。

 

「さすが、覇王と蛇鬼というところね……」

「後になってさすがと言うよりは先にもっと良い案を考えておくべきだったわね」

 

 しかも私の方は何もしとらんしな。

 

「さあ、道を開けなさい、黄忠。無用な怪我をしたくなければ」

「無用ではないわ。例え、命を取られても」

「そう。しかたないわね」

 

 低く地を這う私の上を華琳が跳び、天と地からの牙が黄忠へ止めを刺す。見事、双方第一の刃は受け流すものの、第二撃、鎌の石突が鎖骨を砕き細剣が腿を裂いた。

 

「ならばそこで寝ていなさい」

 

 そうして二対零。勝負は決し、私たちは動けず弓も引けなくなった弓兵を跨いで最後の一陣へ飛び込んだ。

 

「にしても儲けもんやったな、さっきのは」

「そうかしら。今思えば必然だったわ……」

「いや、顔良が」

「……首を取らなかったって?」

「それ。なんで狙わんかったんやろ」

「……狙っていたわ。始めはね。貴女の背後に跳び出して、視線は首に集中していた」

「ほなやっぱなんか手が滑ったとか?」

「一手で決めたいとき、効果が無いところは避けるわ」

 

 死にもの狂いで向かって来る兵を払いのけながら、華琳が私の首をちらりと見た。

 ああ、そうか。今の私は「呂布に首を飛ばされても蘇った」という設定で動き、話し、首に傷跡を付けてもいる。後方に控えていた顔良にどの段階で私の復活が知れていたかは分からないし、不死身なんて恋姫でも禁じ手なオカルトを信じていたというのも考えにくいが、少なくとも、死んだんじゃないかと言われていた奴が現れた。そしていざ飛びかかると、首に大きく傷跡が見えた。本当に不死身……首を斬り込んでも無意味だと思ったのか、或いはそうまで思わずとも別の場所を狙うべきだと思い直したのか、ここで混乱したのだろう。私が焦っている間、顔良も動転していた。そして中途半端な形で、背中に一発。これが、顔良の刃が首から逸れ、(真桜謹製とはいえ)鎧を貫かなかった理由、そしてあの表情のワケだろう。

 

「ひえ~、まさかそうなるとは」

 

 愛紗辺りをドン引きさせてやろうくらいの軽い気持ちだったのに……。手の打ちようが無いと思っていたら、既に打っていたとは。本物の儲けものだ。

 

「貴女のことだから狙っていたものと思っていたのだけれど」

「そんで『相手が悪かったわね』か。そう考えたらホンマ相手が悪いな」

 

 ハハと小さく笑い、そのあとは口元を引き締める。

 最後の一列を抜け、ついに桃香の前に辿り着いた。

 

「勝負有り、ね。劉備」

「穏さん、亞莎ちゃん」

 

 もう終わったとばかりに静かな足取りで近付く華琳に対し、桃香は陸遜と呂蒙を差し向けた。華琳が軽く手を上げる。私は大きく一歩前に出て、投具と多節棍を掃う。さらに一歩駆け、二人同時に相手取る。

 

「この二人はもう少し前に出ていると思っていたのだけれど」

「護衛に戻ってきてもらいました」

「そう。こんなことしなくても、聆を貴女にけしかけたりしないものを。望むのは、王として、一対一で、よ」

「私は曹操さんと一対一でやり合おうとは思いませんから」

「……なら気の毒ね。そもそもこの二人は戦力として不十分だわ」

 

 私におっ被せといて涼しい顔だ。まぁ、元からそういう役目なんだが。

 

「そして、そちらの駒は、貴女と、強いて言えば他の武器を持たない軍師たちしか残っていない……と言うのは分かっているみたいね」

 

 華琳の一歩一歩に怯むことなく、桃香は静かに剣を握って立っている。

 

「強くなったわね、劉備」

「桃香、って呼んでください」

「私のものになったらそう呼んであげるわ」

「意地悪ですね、華琳さんは」

「……ふふ、まったく、貴女の聞き分けの無さには呆れるわ」

 

 互いに見つめ合ったまま、一瞬も逸らさず近付いていく。

 視界の端から一騎近付いて来る。一刀だ。方向から考えると、右翼の更に外回りから上がって、中央の騒ぎに乗じ横側の薄いところを破ってきたというところか。間の良いことだが、珍しい。一刀がこうして突進してくるなんて。しかしこの最終決戦、劉備と曹操の一騎打ちが起こるともなれば事情も変わるか。

 

「余所見してる場合ですか」

 

 ヒュッと棍の端が過ぎる。二人とも手練れではあるが、氣による非現実的な動きや威力を出してこない分かなりマシだ。

 

「場合やろ。ってかむしろこないな打ち合いしとるんがもったいない。この戦乱最後の一騎打ちの横で」

「私たちは、最後まで、全員が、全力で戦うつもりですから」

 

 ついにあと一歩のところ。

 

「さあ、王として、貴女の意思を示す瞬間よ。桃香」

「華琳さんと私、斬り合ったって……いえ、斬り合いになんてならずに私が負ける」

「………」

「だから、一撃。この一振りに私たちの夢を込めます。受け止めてくれますか?」

 

 鎌を腰に引き付けるように構えた華琳の前で、桃香が肩に担ぐように剣を引く。このまま真っすぐ、袈裟に振りぬくつもりだろう。刀身が太陽の光で煌めいた。

 

「もちろん。全て私が受け止めてあげる。それが覇王だと思わない?」

 

「違う」

 

 桃香の刃は華琳に届かなかった。鎌を折り、刀に止められて。

 

「……何故かしら、一刀」

「もし本人にその気がなくても、臣が自ずと尽くすからだよ。華琳。……本当に全部一人で背負っちゃったらただの鉄砲玉だ」

「……ふん、知らない言葉ね」

 

 華琳はきまり悪そうにため息をついた。

 

「やっぱり、魏は強いですね」

「大事なところで命令してくれないんだけどね。頼ってもらえることに関してだけは、蜀の将が羨ましいよ。皆の力を込めた一撃なんてロマンが有るじゃないか」

「二人で止められちゃいましたけどね」

「ま、そうは言ったって華琳は一人でもかなり強いし、俺も俺一人分だとは思ってない」

 

 桃香の頬に刀を当て、一刀は戦の終わりを告げた。




もう一つ考えていた回避案
三課長「鑑惺様在るところに私在り ですッッ!!」

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