哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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文才が足りない。
これまで出た戦術とか戦運びとか戦闘シーンとか、頭に描いたものはたぶんかなり面白いんですけどいざ文章にするとこれ絶対伝わらないなもっと面白く書けるはずなのになって。
かといって今なら展開を変えずに違う文章で表現できるとかいう自信もないので、いつかちゃんと書き直せたらいいなぁ。


α√終章

 日が沈んで、永い戦いが終わった成都。見下ろす城壁の外や内に、いくつもの灯りが揺れてどこからともなく唄や笑い声が聞こえる。大陸の覇者、魏の軍勢の宴。将から負傷者まで、……もしかしたら平安を目前に命を落とした英霊もその輪に居るかもしれない。

 

「……ようやく、終わっ――」

「ようやく始まったな、華琳さん」

 

 階段を昇ってくる小さな足音。覇王は、私の言葉に少し呆れたように二の足を踏んだ。

 

「そのくらい分かっているけれど、ひと段落という意味で言ってもいいでしょうよ」

「被害確認終わったその足で『宴会の監督』なんつう仕事することになった身としたら、段落なんか知ったこっちゃないけどな」

「それはお互い様よ。それに、その仕事ももういいって遣いを出したはずなのだけれど。……貴女も分かっている通り」

 

 華琳は城壁の縁に置かれていた盃を取り上げ、じろりと私を睨んだ。

 

「それとも職務中に呑んでいるのかしら?こんなにキツイ酒を」

 

 盃は空になって帰って来た。悲劇。空気に浸りながら(珍しく)丁寧にゆっくり時間をかけて呑んでいた祝酒の一杯目の残り半分を持っていかれてしまった。

 

「分かった。意地悪の言い合いはやめよ」

「この私に意地悪なんて言わないのは当たり前として、宴にも出てあげた方が良いと思うわよ。貴女と話したい娘は大勢いるでしょう」

「まあ私が今話したいんは華琳さんやから」

「残念ながら、ここに来たのはちょっとの気分転換よ。この夜から文官たちと一緒に査定しなきゃならないのよねぇ。この国のあらゆるモノを」

 

 宴には全軍が参加しているワケではなかった。重傷者はさすがに治療中。華琳や文官たちはそれぞれの将や部隊長らから上がった報告の整理と蜀の情報の吸い上げ作業。そして、一部の戦闘員。……まぁこれは普段の警邏と変わらないものだが。

 何より華琳の言うように、この後からは蜀の情報と人材の整理が有る。しがらみや恩の無い侵略者の立場から、適正に役職を裁くというのは華琳の信念で、どうあっても退けないところ。

 

「……誘たんとちゃうで」

「分かってるわよ」

 

 改めて一杯注ぐ。今度は「職務に障るから」と、接収されなかった。

 

「大変なもんや」

「それこそ、これからが始まりだもの」

「どう治めるつもりなん?」

「戦後処理や五胡対策は当然として……。街道と宿場町の整備。それにこれからは誰の目にもハッキリとした成功――外との戦での勝利という威を示すことができなくなる分、内への対話がこれまで以上に必要になる。それに、成長と人口増加に領土拡大や開墾で対処するにも限界が来る。となれば、早い段階から人口管理の方策を練ることが不可欠でしょう。そのためには、まず前段階として人の生死に直結する医療技術も。もっと進めば、そうして満たされた世の中での新たな問題への思索……この辺りは一刀の天の国が直面していたらしいわ。また、よく話を聞くことになるでしょう」

 

 華琳は眼下に揺れる宴の火の、もう少し先を眺めながら薄く笑った。

 

「――というのが、桃香との話し合いの一部よ」

「早速か」

「……はぁ、だって、あらゆるモノを下し背負う覇王はあの娘に負けてしまったんですもの」

 

 決着のあの時。華琳は覇王として一人で挑み、そして、その鎌は桃香の一撃で折れた。一刀によって魏は勝利したが、曹操個人としては負けなのだろう。……ただ、あまり悔しそうには見えない。

 

「もちろん、周りに任せて力を借りるつもりでいる王になる気も無いわ。皆の力も求める。自分にも妥協しない。その上いつも笑っている。……高望みかしら?」

「いや。現実的な将来像や」

「でしょうね」

 

 華琳は、またふらりと縁から離れた。いよいよ激務へ挑む時間のようだ。

 

「んだらまぁ頑張って」

「明後日にもなれば貴女も頑張ることになるだろうから覚悟しておくことね」

 

 不穏な一言に思わず盃を取り落としそうになる。どういう話か訊こうと振り返ったときにはもう階段を下り終えた後のようだった。何だろうか。撤収作業なんて今更だし。

 

「そういうワケでなんか心当たりない?隊長」

「どういうワケだ」

 

 知っているとも思わないが、入れ替わりでやって来た一刀に話を振った。案の定、よく分からないという態度。その上、下でけっこう呑んでいたのか顔がかなり赤い。

 

「いや華琳さんが『明後日は忙しいぞ』言うて」

「お、華琳に会ったのか。乾杯の音頭とったきり見かけないからさ。探してたんだ。桂花たちも」

「私は?それと今更?」

「もちろん聆も。抜け出すのにも苦労したし……むしろ二人はどうやって抜けたんだ?」

「私は元から。華琳さんに絡めるヤツなんか居らん」

「なるほどな。それにしても、仕事か何か?……って、戦の直後が主戦場な奴らも居るもんなぁ」

「気の毒にな。私はこの灯を肴にやっとっただけやけど」

 

 一刀は城壁の下に目をやりながら「華雄なんかめちゃくちゃ探し回ってたぞ」と苦笑した。

 

「でもまぁ、大宴会の機会はまたすぐに来るだろうし、その時は皆も参加しないワケにはいかないだろ。あ、それこそ明後日にも有るんじゃないか?」

「落ち着いてから、もう一回みたいな?」

「そうじゃなくて、新しい国の歩みと新しい仲間を祝って、だよ」

「……そーか」

 

 もう既に、少しの話し合いにしろ桃香との協力は始まっている。それを、その臣や呉のメンバーにどう広げていくか。もちろん、勝ったからと一方的に仕えるよう命令するのではならないが、かと言ってあまりに配慮しすぎて二国への影響が無いと何のために戦ったのかという話になる。

 

「もちろん、向こうの皆が二つ返事で首を縦に振るワケじゃないだろうけど……」

「今の華琳さんは、逃さんやろなぁ……」

 

 まぁそこを上手くやってしまうのが華琳だろう。

 

「……始まるんだな」

「……そーや」

 

 一刀はふーっと細く息を吐き、空を仰いだ。藍色の空に、星がちらちらと光っている。

 

「黄巾の頃さ、『流星と共に現れる天の御遣い』の噂が流行ってたの覚えてる?」

「……おう。ちゅーかご本人やろ」

「どうなんだろうな。確かに俺は何歩も進んだ知識を持ってる気でいたけど、実際は全然違ってて。華琳も、他の皆も俺が知ってるはずだった"歴史"なんて自分で跳ねのけていった。そもそも俺が知ってた曹操って、どうやったって華琳のイメージと結びつかないオジサンだしな。他にも居ないはずの人が居たり、居るはずの人が居なかったり。下手に一致するところが有る分面倒なだけで、何の役にも立たなかった」

 

 それに比べれば、私は格段とよく知っていた。……が、変わらない。いざ暮らしてみると知っていたのは『イベント』の前後だけで、全力を尽くすことになった鍛錬や学問、事務仕事なんかは碌に分かっていなかった。もし私のこの半生が物語になったとしても、やっぱり省略されてしまうだろう。良くて「これこれを勉強することにしました」って一文で、次のシーンじゃ何事も無かったようにマスターしてる。

 皆との付き合いもそう。従順マジメの凪が何かと私の弱点になっていて実は気が抜けなかったり、華琳には吊し上げられたりもした。いざ引き入れてみた猪々子や華雄との付き合いなんて、意外と律儀だったり普段は物静かだったりして『ああ、こいつってこんなヤツだったんだ』という発見の連続だった。桃香があんなに強い国主になるとも予想できなかった。そしてなにより、当たり前だが、部下や民には一人一人"顔"が有った。

 それに、一番重要なことは後回しにするしかなくて、今の今まで何も分からなかった。

 

「三国志を知っている者として、曹操の統一を達成させるが役目だ、なんてな。……気付けばただ魏の一員として、北郷隊隊長として、必死だった」

「北郷隊の役目は警備……これから一層大事になるな」

「もちろんだ。休んでるヒマは無いぞ、って言うか今も働いてくれてる隊員が居るしな」

「そんな中フラフラと女の子探して歩いとった、と。隊長として宴会を盛り上げるでもなく」

「ぐ……いやいや、聆だって一人で呑んでるじゃないか」

「やから別に悪いーとは言っとらんで」

「どうだか」

「ま、どうせそうならキッチリ目的果たしといて欲しいけどな。華琳さんの方も、ひょっとしたら隊長に会えるかも思てここ来たんかもしれんで」

「……聆はどうしてここに?」

「ここに居ったらこうやって華琳さんや隊長やと会えるやろな思って」

「戦が終わっても、聆の読みは怖いくらいだな」

「読みも何も。二人かて無意識でも同じように思ってここに来たんやろ。私にはぼーっと突っ立っとれる時間が有るだけや。……ともかく、華琳さんとこ行ったげたら?ここから中央に真っすぐ行ったら、どっかの地点で会えるやろ」

「聆はもういいのか?」

「んん?大陸一の色男であるこの俺と別れるのが惜しくないのか、と?」

「いやいや、そんなんじゃないって!」

「ま、聞きたい話は聞けたし」

「何か変な愚痴ばっかりで、大したこと言ってないと思うけど。……それに、華琳も俺に構ってる時間有るのかな」

「覇王にも嫁さんに時間裂くくらい許されるやろ」

「嫁さん言うな。……まぁ、行って来るよ。ありがとう」

「時間有る言うても朝までしっぽりは無理やろけどな」

「一言余計だ!」

 

 覇王に、御遣いに。思えば凄い相手と話したものだ。が、まだもう一人と会うことになるだろう。向こうも今か今かと待っていたようだし。

 

「どこまで掌の上なのかしらね」

「それは今から互いに答え合わせするとこや。貂蝉」

 

 黒幕、ラスボス、謎、私の予想が正しければ被害者。この世界を監視するモノ、そのまま、管理者。

 

「なら、先ずはこっちから。と言っても、ほとんど確信してるんだけどねぇん」

「どーぞ」

「あなたの正体……この外史が生まれるとき紛れ込んだ魂……でも、ただそれだけじゃない。わたしたちや、ご主人様の生まれた世界すら外史として内包する、一つ上の世界の人ね」

「『一つ上』って言い方が正しいかは分からんが、正解と言って良えやろうな」

「どういう物語として語られるのかしら」

「エロゲ」

「ええ……?」

「エロゲ。エロのゲーム。一刀が主人公のな」

「うっふふふふふふん。確かに、ご主人様ったらやり手だものねん。それこそ、あなたも」

「ノーコメで。今度はこっちからか。……とは言え、そっちからしたら何言ってんだって話かもしれんが」

「物語として知っているならば、訊くことはあまり無さそうなものだけれど」

「重要なことはえてして抜けとるもんよ」

「蛇鬼鑑惺にお教えできることが有るかしらね」

「蛇鬼ね……。勝手に妄想して、勝手に怯える。よぉ有るこっちゃな」

「そうねぇ。ヒトの面白いところよ」

「お前ら、さして何もできんな?私と同じように」

「……ご主人様は、あの人ですもの」

「あくまで主人は一刀。管理者は管理するに過ぎん。本当に重要な舵は、一刀の心に依る、と」

「ええ。外史を作り出し、迷い込み、その中の存在を連れ出すことすらできてしまう稀人。それが北郷一刀」

「もし一刀が『俺はここに居てはいけない』と思ったらその分存在が弱くなるし、『大陸平定が役目』と考えたなら、そこで一刀は居なくなる。ついでにこれからの安泰を望んだら、一刀不在の世界が延々と続いていく」

「まるで見て来たようねん。って、見ているのよね。だとすれば、あなたの知っているわたしたちは、相当下手をうったようね」

「それは分からんなぁ。一刀主観の物語では、お前らのことは殆ど語られんし。単刀直入に訊くけど、何が目的なんや」

「そのまま、管理よ。ご主人様の作る外史で、ご主人様が永く暮らせるように」

「……それを崩そうとする動きをするなら、何が動機になる?例えば実際に人物として話に乗り込んで一刀の陣営を攻撃するような」

「今となっては大失敗なのだけれど――」

「やっぱり、つながった過去なんやな」

「単に、偶然事故で生まれた外史とその主だと考えたならば、さっさと潰してしまおうと考える人もいるわ」

「なら、逆に永く保つ理由は」

「偶然じゃなかったとき、それとも、その力を手に入れてしまったとき。その人によって無造作に外史が乱立し、最悪そこからたくさんのモノが取り出されることが有っては正史が乱れてしまう。だから、外史が生まれる予兆に対して割り込み、補助して作り込み、それを"物語"だと認識できないほど本気にさせて閉じ込めてしまうことにした。もっと言えば、新たな、独立した正史になれば良いと繰り返した。大切な人を失ってしまって『もしあのときこうしていれば』と強く後悔すればそこで新たな分岐が生まれてしまう。でも反対に簡単に行きすぎても嘘っぽくなってしまってダメ」

「上手くバランスが取れても、別世界の人間だと強く意識してもたらアウト」

「そうね、そういうこともあるわ。そういう試みが、ここと、それより前のいくつかの外史。……その様子じゃそのいくつかの外史も知っているようだけれどねん」

「知っとるんかなぁ。私はお前らが邪魔しとるんと、平定後まで一刀が残っとる"成功"の話と、あと、この世界に近い一つしか知らん」

「わたしの認識では、失敗を重ねてこの世界が初めての成功しそうな例よ。……やっぱり、生まれた世界が違うわん」

「そうなんかな。でも、私が元居った世界も誰かからすれば物語の一つに過ぎんかもしれん。或いは、この世界も別に私の世界の創作、外史やなくて、単に何かの超能力で受信した同等の世界かも」

「……あなたも本気になっちゃったのかしらん?」

「追い出されることがなけりゃ、な」

「それなら安心よん。むしろあなたが帰っちゃったらどうしようかと思って釘を刺しに来たくらいよ。貴女が別のわたしたちを産み出しちゃうかも……ていうのは、たぶんわたしたちには認識できないから実質関係無いんだけど、それでご主人様を悲しませちゃったらただじゃ済まないわ」

「ダミーでも置くとか?」

「あなたっていかにも作りにくそうだし、ご主人様はそんなことで誤魔化しきれるような薄情な人じゃないわ」

 

 やっぱりなんだかんだ言って人を作れてしまうのか、それとも一刀の中に有る私の記憶を補助するのか。訊くのも野暮だし訊いても意味ないだろうし、訊いても理解できないだろう。

 

「ま、変な奴らに監視されとる以外は至って快適な世界やし?手放す方がおかしいけど」

「予期せぬ来訪者の導きと稀人の意思によってこの世は三国志から外れ、新しい国が始まるわ。それが、新しい世界の始まりでもある。今でもなんでもできるワケじゃない。ご主人様の『もしも』と、世界の偶然について知らないこともたくさんある。それが、更なる進化を遂げたなら、もはやわたしたちがどうこうできるものじゃない。……けど、お客さんとしてご主人様の顔を見に来るくらいは許してねん♥」

「こっちこそそんなこと言われてもどないもできる立場やないわ」

 

 自覚の無い主と、主権の無い管理者と、能力の無い上位もどき(?)。うん、よく分からん神や物理法則によって生まれた世界よりはよほど信頼できるな。

 

「うふふん。なら、一旦ここでサヨナラね。今のわたしがこの世界を外史に押しとどめる最後の楔。新しい朝、新しい世界の第一歩は、それはそれは美しいものよん」

 

 灯りがいつのまにか消え、兵たちは眠りこけている。月と星の軌跡が残った空が、俄に朱に染まる。地平から射した鮮烈な光。

 視界の白さが晴れれば、そこには紛れも無い、朝の光景が広がっていた。ただの、成都の朝。これから私が生きる世界の日常。

 ……直前に会ったヤツが若本ボイスのおかま筋肉ダルマじゃなけりゃもっと素直に感動できたと思った。




ここから文字通りエンドレスなんですけど需要ありますかね。
なくても書くんですけどね。

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