meet-meも終わったし兄貴も亡くなったし私いじけちゃうし.exe
このファイルは初投稿です.誤字脱字の確認を行いますか?
はい いいえ
「それでは亞莎殿の服を見に行きましょうぞ」
食事の途中であがった、服装についての話。麗羽は点心のころには忘れていたが、星がまた堀り返した。「うっ」と亞莎は都合の悪そうな顔をする。星の悪戯っぽい表情。麗羽の強引で他人を巻き込む性格。服屋に行ってしまえば着せ替え人形一直線なのは誰の目にも明らかだ。
「そうですわね。なら、亞莎さんはこの通りですし、私の行きつけの店にしましょう」
有無を言わさぬどころか意見されること自体想定してない様子の麗羽。亞莎は助けを求めるように私を見たが……まぁ、その時々、相手や場面に合った服を持っておくべきだというのは私も思うところ。それに、凪だっていつぞや沙和に無理やり鎧を引っ剥がれてからお洒落の楽しみを覚えたものだ。最悪の場合骨は拾ってやるというくらいの気持ちで、あえて気付かないふりをした。
そしてやってきたのはさっき沙和を見かけた店。亞莎にとっては幸いなことに今は居ないようだ。麗羽と星の二人はどちらかというと相手の反応を見て楽しみたいタイプだが、沙和は(悪戯心を発揮する面も有るが)服選びには純粋なせいで例え亞莎が疲れ果ててうんともすんとも言えなくなっても納得のいくものが見つかるまで燃え滾っただろう。
「さぁ~て、どうしてあげましょうかしら?」
明らかに真面目に選ぶことが目的ではない麗羽の言葉と共に皆それぞれ服の森の間に消えていく。
「どうなってしまうのでしょうか……」
「さぁ……」
こればかりはどうにも。あいつらも他意こそあれど悪意は無い。この程度の悪ふざけ、どこにでもある話である。おもちゃにされるのはもちろん気の毒だが、下手に断っても角が立つ……というほどでもないけれど、これから麗羽や星に対して"そういう態度"を取る人として過ごすことになってしまうだろう。私が守ることもできるがそれもなぁ……。
もう少しだけ自信のある態度で、例えば「選んでもらった分、私もあなたの服を選んであげます」とやりかえすくらいになったなら、やるやられるの関係を超えてむしろ良い友人になれると思うのだが。麗羽と華琳の関係が地味に深いのは、その辺りの要因が有るのではないだろうか。
ともかく、今は亞莎の服選びである。私も色とりどりの衣装に目を細めながら、様々な亞莎の姿に思いをはせはじめた。「貴女もですか」と絶望的な表情をする現実の方の亞莎は無視した。
「では私から、といこうか」
そうして、亞莎のところへ最初に星が戻ってきた。
「どれ、まずは小手調べ」
「そうですねぇ……。!? ちょっとこれは……」
受け取った服を広げてみて亞莎は目を丸くした。
ぱっと見は普通以上にふわふわと豊かに布を使った上品なドレスっぽかったのだが、広げてみると全く防御力が無い。薄紫の生地の向こうに困惑した亞莎の顔が透けて見える。
「何かの上に羽織るもの、ですよね」
「そうだな。これと一組だ」
「……その手に乗っかってるのはひょっとして下着ですか? 私の知っているそれより随分と小さいのですが……」
「確かに肌に直接当たるという点では下着だが、これは見られることを前提に作ってあるぞ」
「これ見せて歩くって、殆ど胸もお尻も出してるようなものじゃないですか!」
亞莎の普段の服もしっかり胸元開けてお尻も太腿も放り出してると思うんだが……。まぁ、しかしそれで全体の印象は大人しい感じなんだから、あの服は凄いな。
「気に入らんか……」
「できれば避けたいです……」
「いや、ひょっとするかもしれん。試着してみてはどうか」
「そうですわ。服の本当の姿、ひいては着る者の魅力とはその服を身に纏って初めて分かるものですのよ!」
「そういう麗羽殿はどのようなものを? ……ほほう」
「なんですかそれ。……縄?」
「服ですわ」
「江東で漁師たちが使っている網縄にそっくりです」
「それはその網縄"が"この服"に"似ているのです。さぁ、試着室に行きましょう」
亞莎はまるで戦場に立っているときのような冷静さ(そこまで追い詰められているらしい)で星たちが選んだものが服ではないと説明しようとするも、二人にはまるで効いていない。今にも垂れ幕で仕切られた小部屋に連れ込まれそうになっている。
「や、やめてください! 縄を身体に巻き付ける趣味は有りません!」
「んもう、しかたのないわがままですわねぇ」
「ん? 別のにするのか」
「どうしても嫌だと言うようですので、しょうがないですわ」
「考え直してくれて有り難いです」
「ええ。そもそもこっちの方が似合うと思いますし」
「……今度は紐ですか」
「あら、微妙な反応ですこと。嫌ですの?」
「貴女はこれを着ることができますか?」
「私が着るとその美貌で周囲の精神の均衡を崩してしまう恐れが有るので着られませんのよ」
「あ、そうなんですか……」
始めの三発でもう突っ込む元気もないという様子である。
「それにしても、これもダメですの? じゃあ、こちらは?」
「もはや糸クズ!」
さっきまでのは一応肩に掛ける部分とかが見てとれたが、とうとう両端が小さな輪っかになった一尺弱の紐が出て来た。いや、ホントに何だこれは?
「姫ー! 面白いの見つけました!」
そして三人目、猪々子。
「何故股間から白鳥の頭が……」
「すみません! 文ちゃんが面白がってるってだけで、亞莎さんに着せようとは思っていませんから!」
それでも今までで一番マシなんだよなぁ……。
「いいじゃありませんの。亞莎さんったらお堅いですから、このくらいひょうきんな服を着てみるのもよろしいんじゃありませんこと?」
「ありませんよ……せめて白鳥が無ければ……」
「白鳥が無くてもなかなか面白いがな。この円盤状に張り出した腰布はどういう意図なのだ」
「スケスケ出して来た星がそれ言うか」
「あれはワザとふざけていましたからな」
「………」
ただでさえグロッキーなところに開き直りまで入ればもう亞莎にはどうしようもない。
「……さて、私の選んだ服も見てもらおか」
「おねがいします」
色々な意味が込められていそうな「おねがいします」だ。私はそれに応えて優し気な笑みで服を渡した。
薄茶色のエプロンドレスのような服。さっきまでとはうってかわって普通と比べても大人しめなものだ。ただ、具体的にどうとは表現できないが全体のプロポーションは細身に洗練されていて素材も良い。……そして値段もなかなか。
「えっと、……そうですね、これなら。……でも、私には少し高級過ぎる気もしますが」
「大丈夫やって。ほら、着てみて」
そうして試着室へ亞莎を送り出した私の背中にじっとりとした視線が絡みついた。
「無難ですわね」
「"置き"にいったな」
「見損なったぜ」
「待って」
一人だけ良い恰好をしようとしたと非難の的。だが待ってほしい。私とて、亞莎をいじめるつもりこそ無いが、こんな場面で一切の遊びも無く服選びできるほど堅物でもないのだ。
「こう、無難な服から徐々に崩していくんや。さっきから、反応見て楽しむにしても取り付く島もないって感じやったやろ」
「むう、確かにそうですな」
「面倒ですわねぇ」
「じゃあ、次はさっきのよりちょっと布の少ない服を持って来れば良いんだな」
「良いのかなぁ……」
斗詩は迷っている様子だが、その結論が出る前にシャッと垂れ幕が開いて亞莎が顔を出した。
「どう、でしょうか……」
「おお~……」
「ふむ、これはなかなか」
「あら、貧相な体つきかと思ってましたけど、こうして見るとそれなりのものをお持ちですのね」
「はうぅ……」
ふんわりとしているが、それが体形を隠さずにむしろ女性的な柔らかさを際立たせている。我ながら良い選択をしたし、亞莎の素材力にも天晴といったところだ。だが、本当の目的はこれではない。
「亜麻色の綺麗な髪やし、これをきれいに見せるような服がええよな」
だいたい思ったそのままではあるものの、他意もバリバリ満載の一言。すぐさま星が便乗した。
「となると背中側は簡素な意匠が良いか」
「髪留めで前に流すのも良いですわね。斗詩、隣の小物屋で適当なものを買い揃えてらっしゃい」
「は、はい!」
そして始まる第二ラウンド。
「これはどうだろうか」
「清楚な感じでええなぁ」
「けれど、背中側が平坦な感じがしますわ」
「しかし、簡素なものにするという話だったろう」
「簡素は簡素でも、こう、何も変化が無いとなぁ……一面布ベタ張りは。むしろ更に減らしてちょっと開けるとか」
「そ、そうなのですか……?」
「そうですな。では今一度探して来よう」
私と麗羽と星の三人で代わる代わる服を持って来ては、少しずつ布面積を小さくしていく。
「これはいかがかしら?」
「うーん、何か、着るというより背負っとるみたいな。後ろ側減らせへん?」
「破けばできますわね」
「それはできんって言うんやで」
ただ小さくする一辺倒ではバレるだろうと適当な理由をこじつけ、ときに布地を増やし戻したりと小細工に余念がない。
「ど、どうでしょうか」
「前だけ布が多くてハリボテみたいやなぁ……」
「注文が多いですなぁ。だが、確かに言う通りでもある。後ろで減らした分に合わせて前もある程度削らなくては」
「それだと軽くなりすぎませんこと?」
あたかも意図など無く選んでいるような演技を忘れない。……麗羽の場合は素で忘れているかもしれないが。
「髪留めをいくつか買ってきました!」
「よろしい。腕輪と首飾りを選んで来なさい」
「へ? は、はい!」
「あの、手袋とか……」
「もちろん、ええな。それに本人の意見やし重視せん手は無いで」
途中からはすっかり亞莎の警戒も解けていった。
その結果。亞莎はすっかり露出の高い格好になってしまった。今にもベリーダンスなんかを踊りだしそうだ。他にも色々と服やアクセサリーを買った。最初に星が持ってきたあのスケスケも結局買うことになったし、いつか使う時もあるだろうと勝負下着的なものも。麗羽たちもそれぞれに服を買って着替え、
荷物と言えば、亞莎のもともと着ていた服だ。これがなかなかずっしり重い。あの長い袖の中に刃物やらなにやらが隠されているのだ。私も服の内側にいつも武器を隠し持っている仲間。頭脳と武力の両刀であることもそうだが、なかなか親近感が湧く。
「さて、服も選び終わったことだ。次は相応しい町の遊びでも」
「良い考えですわね星さん。幸いなことに、成都は狭い割に娯楽は充実していますから。それでいいですわよね、亞莎さん?」
「は、はい」
「ああ、楽しんでくると良い」
「星さん、どうされましたの?」
提案したその人の星がまるでついてこないような物言い。振り返れば桔梗にがっしりと肩をつかまれて苦笑いを浮かべていた。
「ああ、全く、お主らは楽しんで来ると良い。こやつは放っぽりだしておった兵の訓練をやらねばならんからなぁ」
「そう力まんでくれると助かるのだが。もと対立していた相手と親睦を深める、これも立派な将のつとめだぞ」
「ああ立派じゃろうて。しかしそれをすべきは部下の世話という最低限の役目をこなしてからの話じゃ」
……私は警邏と同時にやってるからセーフ、だな。たぶん。
「ほれ、行くぞ」
「やれやれ。ついでだ。ここまでの荷物は私が城まで運んでおいてやろう」
荷物を抱えて落胆した様子で城へと帰る星だが、さすがに引きずられて行くような醜態は晒さなかった。
それにしても、桔梗が亞莎に全然反応しなかった。ひょっとして、普段の服装のイメージからかけ離れ過ぎていて亞莎だと気付かなかったのか?
くそダサ作者特有のクッソ曖昧な衣装描写恥ずかしくないの?(嘲笑)