哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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今回は久しぶりに3000文字代です。久しぶりでもないかもしれません。
そして文字が少ないからといって誤字脱字や矛盾も少ないかと言えばそうではないと思います。


結成!仮面討伐五大老!? 上

「その、なんじゃ……城の防衛訓練のような、な?」

「それにあの蔵の中身と言えば元より殆ど儂らのためにあるようなものじゃろう」

「………」

 

 酒蔵に現れ、それぞれ「酐酔」「酎酔」と名乗った二人組の不審者の正体は、あろうことか祭と桔梗だった。これに対し、私と、同じく駆けつけた紫苑とで協力してやっと撃退する。その後、城への襲撃という重罪であること、二人ともある程度分かった上での悪乗りだろうことを鑑みて、これまでとは打って変わって本人の私室に襲撃しかえした。私が今回も知らん顔を貫くと思っていた二人は泡を喰って対処できず今に至る

 

「いや、……すまん」

 

 張り付いたままの紫苑の微笑、煮えくり返った腸が溶けて出そうなほど深い私のため息に、さすがの老将も言い訳を引っ込める。

 

「ううむ、やはり酒は逆鱗じゃったか」

「はぁ……それも無いことは無いが、それよりそろそろ仮面も飽和状態やろ」

「確かにやり過ぎか。二人に『䣩酔』『酖酔』という名を考えたりもしておったのだが」

「……はぁ、よくよく考えれば皆やっとる中私だけマジになることもないけどなぁ」

「……やめてちょうだいね?」

 

 二人にかけられていた圧が俄かに私に降りかかって来た。

 

「冗談や。むしろいい加減真面目にこの仮面騒動も畳まんとヤバいと思っとる」

「華蝶仮面熱と言えば今や相当なものじゃからのう」

「ほんまにな」

「すまぬ」

「でもどうするの? やっぱり、今回みたいに直接本人にお説教かしら」

「それは一部に対してやな。それもある程度材料を揃えてから」

「ふむ、仮面でもそれぞれ事情が違うからのう」

「おう。やから……」

 

 私は今成都に居る将を書き出し、おまけで「華蝶仮面に仕返しする友の会」も加えた。

 

「まず、お騒がせ軍団……むねむね団の、袁術、張勲、李典、于禁、孟獲と南蛮兵幹部の三人に、友の会」

 

 言いながらその名前の後ろに×印を書き加えていく。やれやれ、あの戦を乗り越えた将がまったくどうしたものだか。戦を乗り越えてこそ、こうしてふざけられるということかもしれないが。

 

「すまん。小蓮様も、ついこの間そちらの組に入った」

「……うん、孫尚香×な。で、こん中で、美羽様と七乃さんは活動せんくなるやろう。この前仮面禁止にした麗羽さんにつき合わされる形やったからな」

「そうじゃろうか……一応、前回の出現でむねむね団頭領を名乗ったようだが」

「んん……麗羽さんから押し付けられたか。でも、まぁそれでもええわ。乗り気やないんに変わりない」

「七乃さんを仲間に引き入れたいのね?」

「おうよ。たぶんあの人今は全然やる気無いから、殆ど無害なんやが……切り崩しが進んできてそっち方面で白熱してきたら知恵比べが楽しくなって本気になるかもしれん」

「その前に味方として固定しておきたいという話だな」

 

 ふむ、と顎を撫で、桔梗はなにやら納得したような顔をした。

 

「蛇臣の恐ろしさは蛇鬼が最もよく知っておる、か」

「『蛇臣』って……七乃さんのことか。そんな呼ばれ方しとったんやな」

 

 本人の名乗りや魏の仲間内だと「大将軍」か「雌狸」か「アレ」だったからピンとこないな。というか「蛇○」って私と対か。名を大きく上げた定軍山の戦いからするとそういう風に広まるのも自然かもしれんが。

 

「そうじゃなぁ。魏の巨体がその腕に持つ大剣が春蘭たちだとすれば、お主らは離れて死角より敵を討つ正に蛇のような存在じゃったのう」

「私は防御主体やし、七乃さんも長いこと重要な作戦は任せてもらえんかったんやけどなぁ。と、まぁ、そんなことはええ。今はとりあえず、さっさと七乃さんに話つけて味方になってもらうっちゅう話。異論無いか?」

「……信用できるのか?」

「もうやる気になっとったらそれも心配有る。やから急がなあかんかもしれんのや。……最悪、損得勘定で動く人やから報酬か罰を突きつけたら味方してくれるやろけど」

 

 ちゃん美羽の命令にも従うが……それも場合によってあの人自身が誘導するし、なによりちゃん美羽も仮面なんてさっさとやめたいという態度だった。七乃さんをこちら側につけることは容易だろう。

 それで、だ。今度は名前の後ろに○をつけていく。

 

「趙雲、呂布……」

 

 呂布。心の中で軽く吐く。

 

「呂蒙、それで、ホンマに申し訳ないんやが、最近湧いた燦華蝶ってのはうちの部下や」

「それはお気の毒に。……この○印をつけたのが、『正義の』仮面ね」

 

 そして、印の付いていない者がフリー。私たち四人と凪、元むねむね団の麗羽たち三人。

 

「ああ。『正義の』な。だからこそ扱いが難しい」

 

 だって正義なのだもの。私個人としては、正義なんて世の中を回すための方便だと思っているし、星だって何でも正義の名のもとに許されるなんて甘い考えも持っていないだろう。しかし、民には正義が必要だ。

 

「それについては、ほんまに、華蝶仮面みたいな謎の武人が現れて悪人を懲らしめたって噂がたまに立つくらいが丁度ええもんやと思うんよ」

 

 本来、悪人を懲らしめるのは褒められるべきことだ。やり過ぎ、派手過ぎという話なのだが……「ならばどの程度なら良いのか? 私はこのやり方が良いと思ったからやっているのだ」と言われればばそこからは単なる意見の相違。あえて「趙雲将軍」ではなく華蝶仮面として戦うのも、正義を国と法任せにして欲しくないという思いからだろう。かつてこの国を混乱に陥れた中央の混乱とて、それは別に犯罪ではなかったのだから。

 華蝶仮面がもたらす混乱と、道徳教育的意義。……悪人をヒーローが退治することによる民衆への心理的効果のデータ、なんてものはあいにく持ち合わせていないので私には何とも言えない。

 こっちの本音としては、このまま行くと国への不満の元だと言う話なのだが、正義を行うと傾く国なんてどうぞ傾くだけ傾いてくれというものだろう。

 

「やったら何が悪いかってなると、やっぱり悪の仮面連中が悪いっちゅーことやわな」

「好敵手、か」

 

 もともと、華蝶仮面はそれこそ取るに足らない問題を利用して華やかに人を楽しませるだけの存在であった。一般兵の目も無い、"本当の穴"を戦場にしていたのだ。受け皿……知る人ぞ知る、というほど地味ではないがたまの楽しみの役割である。

 問題は麗羽たちや、対華蝶仮面の意思でまとまった友の会という大組織ができてからだ。

 麗羽たちは警備事情も知っているし、ただの兵士では相手にならかった。将の巡回経路から少し離れればどこでも好き勝手できる。星たちも同じく将の動きを知っているから、初めからその辺りに居る。町にむねむね団が出ては兵士が逃げるように将に連絡し、その将が駆けつけるより先に華蝶仮面が解決。頻度も上がり、今までになかった「国よりも役に立つ(ように見える)」ところが出て来てしまったのだ。戦いのレベルが上がって娯楽性が上がったのはもちろん、"必要な"存在になってしまっている。

 まぁその悪役たちも、華蝶仮面の派手さの影響や、魅せ重視で痛めつけるだけ、トドメも刺さず捕縛もしない戦闘スタイルのせいだと言えばマッチポンプめいた話になってくるのだが。

 

「つまるところ、これからは本格的に悪の仮面を取り締まろうということか?」

「ふむ、襲撃するか」

「素面のとこに襲撃かけてもなぁ」

「儂らにはそうしたじゃろに」

「祭さんらの場合は、仮面の中身が見抜かれとると自分で分かっとった上での悪乗りやろ? ……他は気付かれとらんと思っとるからな。本気でシラ切るかもしれんし、何より言い聞かせたところで納得するかどうか。一回は仮面状態を捕縛せなならんやろう」

「ならば今まで以上に警邏に力を入れるということか? うーむ、しかし、城を空けるのもそれはそれでな」

「城に出るかもしれんしな」

「すまんかった」

「そもそも、動きを知られとる上から捻り潰すには駒が足りんやろう。凪は仮面の中身に気付いて無さそうやし。一応、仮面対策を強化するからって声はかけるつもりやが」

 

 説明すれば納得するだろうが、いかんせん、気付いていないということは基本的な頭の良し悪しとは別に"そっち側"ということだ。少し頼りないし、下手をすれば既に……なんてことも考えられる。

 凪については、純朴ながらも時折見せる容赦のないマジレス力で見抜いていることに期待していたのだが……見抜いているとすると、私たちのように面倒くさいから気付いていないフリとはいかないだろう。

 

「密かに動くということね」

「そう。休みついでに警邏を補って、っていう。穴は有るけど、引っかかるのを待つ作戦やな。できれば居場所が知られんようにひっそり一人でこじんまりした呑み屋にでも潜んどくよう」

「うーむ、そういう呑み方は性に合わんが、仕方ないかのう」

「あとは袁家を使うつもりや。さっきも言った通り美羽様んとこの七乃さんは仮面に乗り気やないし、麗羽さんとこはもう一回収めとる。それに、仮面狩りやなんやと乗せれば自由に動かせるやろ」

「動かせたところで、"使える"かどうかとは思うが、な」

「それはまぁ七乃さん次第やね。向こうにやる気ないとして、こっちのことにやる気出してくれるとも限らんし。あとは友の会の相手でもしてくれれば程度に」

「その友の会じゃが、アレは面倒な考え無く、単純に討伐対象と考えて良いな?」

「ん、そやな。普通にゴロツキやし、なんやかんや実害出しとらん身内連中と違て、調子乗って野盗まがいのこともしとるらしいし。それこそ斗詩にでも詳しい話聞いて一気に潰す」

「おうさ」

 

 力強い返事が返ってくる。ちょっとした間違いが有ったが、やはり頼りになる老将たちだ。

 そうして方針が決まって話がひと段落すると、桔梗が酒瓶を取り出した。

 

「では決起集会、でもないが、今から吞もうではないか」

「それさっき盗った酒やんけ」

 

 うっかり忘れかけていたが実害有った。やはり仮面は早急に討ち倒さねばならないようだ。




こいつら平定したのになんで戦ってんだ

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