昨日の夜一時のことでした。
春蘭はたまに本気でアカンことをするあたり、
なんちゃってバカと一線を画すガチバカの気概を見せてくれていると思います。
「聆ちゃんおつかれーなのー」
「な~聆、明日暇かー?」
自分の隊の調練の後、片付けを終えて一息ついた私に、同じく調練していた真桜と沙和が声をかけてきた。
「明日って、正確にはいつや?」
「今夜から明日の昼までや。なー、そんで暇なん?」
「暇か暇じゃないかは要件聞いてから決めるわ」
「言ってることめちゃくちゃなのー」
「まぁ落ち着けや。私の言うとることがちょい変なんは今に始まったことじゃない」
「あ、自覚あったんや」
「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。やで」
「この場合、敵ってなんなのー」
「自分自身の弱さかな?」
「十割自分のことだけやん」
「所詮人は皆自己中心的なもんやってこっちゃ」
「せやなぁ」
「……まって。なんで沙和たちこんな話してるの?」
「あ、せやったせやった!聆、明日暇か?」
「やから、要件早よ!」
「あのね!最近大人気のお店に、限定のお菓子を買いに行くの!早いうちから並ばなきゃだけど、すっごく美味しいって有名なのー!」
菓子か。無いな。
「残念!私明日は巡回当番やったん思い出したわ」
「ちょ〜、沙和、何でとりあえず酒言うとかへんねん」
「つーか、お前らも当番やろ」
「ちょ〜っと並ぶだけやんか〜」
「夜跨いどって何がちょっとなん」
「あーあー。聆ちゃんまで真面目っ子になっちゃったのー」
「いやー、私の隊って小賢しい奴多いからなぁ。菓子買うから仕事サボったとかなったら反抗されかねんわ」
通常、軍隊では集団行動の妨げになるため個々の思考は抑圧されるのだが、我が隊ではそれを活かし、頭が良い、つまり脳味噌の性能が高い奴をリーダーに据えて多数の小隊を作っている。突進力が低い代わりに、逆にイナシと特殊工作では他に無いほど輝く。戦場では心強いんだが、一度反感を持たれると非常に厄介だ。酒関係はすでにキャラ付けされているから許されるだろうが、菓子はナメられそうだ。……もともと好きでもないしな。
「あー、なんや聆のとこネトっとしたヤツ多いもんな」
「まー、そういうこっちゃ。また午後にでもそっちに顔出すわ」
「じゃあしかたないのー」
「せやなぁ。凪でも誘うか。凪ドコ居るか知らん?」
「武器庫ちゃう?」
「お〜。あんがと。じゃーまた明日〜」
「うぃ〜。おつかれさ〜ん」
さて、後は日が落ちるまで裏庭で投具の鍛錬するか。そんで水浴びして酒飲みながら老子読んで寝よう。
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陳留は今日も平和だ。今いるのが東側というのもあってか、事件のじの字も無い。非常に帰りたい。私にはあまりボーっとしている時間は無い。戦場でうっかり格上とエンカウントすることも有るだろうし、精神衛生のための娯楽と鍛錬以外にはあまり時間を使いたくない。正直、隊長格が直々に巡回に出るのはどうなんだ?……いや、そのメリットは分かっているんだが、こうも暇だと否定的な考えも出ようというものだ。
午後から何するか考えとくか。二課の課長相手に五胡格闘の練習でもしようか。久々に喧嘩殺法も良いかもしれない。
「鑑惺様!」
「誰が何処で何した」
「え、えと……夏侯惇将軍が四条二小路四坊大路辻付近にて大泣きなさっているとのことです!」
は?
「……周囲の状況は」
「菓子が散乱しており、夏侯淵将軍と北郷将軍が呆れ顔で何やらおっしゃっていたと」
秋蘭が居るのか。なら急ぎ何かする必要も無いな。
「ほんだらお前は通常任務に戻れ。私は一応その辺に行っとく」
「……よろしいのですか?」
「春蘭さんを一般兵がどないかできるかいや」
「そ、そうですね」
大方、買った菓子を春蘭が持ちたがって、その後うっかり落としたとかだろう。……それだけでは弱いか。その菓子が華琳への貢ぎ物だったとか?……何かそんなイベント有ったような気がするな。
それにしても碁盤の目区画整備は便利だ。場所が一瞬で分かる。華琳様々だ。これでもう少し砂利っぽい地面がどうにかなればなぁ。芝生とか提案してみるか?面倒臭いから却下だな。
「――……ね者ぁぁぁっ!」
うん?秋蘭!?
「死ぬな!死ぬな、姉者ぁぁっ!」
アカン。秋蘭が取り乱しとる。死ぬとか死なんとかいう言葉はダメだ。住民が混乱しかねない。
「鑑惺様!!」
「私が本人のとこに行くからお前ら人払いしとけ。退去はさせんでええ。野次馬が集まらんようにせえ」
「はっ!」
声のした方へ全力疾走する。街ゆく人々はほとんど避難と言ってもいい勢いで道を開けてくれた。そりゃフルアーマーでクソでかい武器を持った巨体がジョンソンダッシュしてたらビビるわな。
「姉者ーっ!」
「そこまでや!」
「聆!」
私が到着したとき、地面に倒れた春蘭の上体を秋蘭が抱きかかえるようにして、天に叫んでいた。一見春蘭に何か重大なことが有ったように見えるから質が悪い。当の本人は絵に描いたようなキョトン顔だが。一刀は私を見てホッとした様子だ。
「一体何があったんや!?いや、マジで!!」
「いや、私がちょっt
「姉者が!姉者が馬群に巻き込まれてっ!」
春蘭のセリフを遮って秋蘭が叫ぶ。確かに馬群は近く居たが、こちらも非常に落ち着いたもので、この場で騒いでいるのは秋蘭だけだ。……ストレスで心が………?
「まぁ、秋蘭さん落ち着いて」
「でも、姉者が……っ!姉者がっ!」
「……それ、ガチでやっとる?」
「ネタだが?」
「ネタかぁ。よかったよかったふざけんな」
「すまないな。年甲斐もなく街中で号泣する姉者を見て私もやってみたくなった」
「しゅ、しゅうらぁ〜ん……」
あぁ、秋蘭は隠れボケだ。
「泣くんはえぇけど、そういう死ぬとかなんとかの物騒なネタはやめてくれんか。住民が混乱しかねん」
「済まない」
「隊長も一緒におったんやったら注意してくれな」
「いや、秋蘭まで暴走したら俺にはどうしようも無いって!……それにしても、聆はまじめに働いてたんだな。さっき真桜たちに会ったけど、あいつら二回も限定菓子の列に並んでたんだ」
「何?ご褒美くれるん?酒が良え。酒くれや」
「……あげるつもりだったんだけど、そうやって催促されるとちょっとな……。冷静にかんがえたら当番の日に仕事するのって当たり前だったな」
「えー、じゃあ無しか?」
「う〜ん、どうしようかな」
「……ならば私が昼でも馳走してやろう。迷惑もかけてしまったしな」
「よし酒の呑めるとこで」
「本当に貴様は酒ばかりだな」
「春蘭さんにとっての突進みたいなもんやで」
「お、おう?そうか」
「春蘭、分かってないのか……」
「う、うるさいバカにするな!」
「うわ!!危ねっ!」
春蘭が一刀に飛びかかった。
「……早く行こうか」
「ぼさっとしとったら第二第三のゴタゴタが起きるな……」
まだ終了時間ではないが、さすがに夏侯姉妹と天の御使い相手の昼食に文句は出ないだろう。
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「やっぱすげぇな鑑惺様」
「夏侯淵将軍に説教したよ……」
「私報告行ったんだけど冷静過ぎて寒気したわ。……良い意味で」
「俺達の自主性を重視する割に、俺達自体はすっごい冷めた目で見てくるよな」
「……そこが良いのよ」
「お巡りさんコイツです」
「……そこの変態もお巡りさんだぞ」
あと二三言ってとこでぶっ飛びました。
心が折れました。
でも一日で治るのは愛のなせるワザ。
そろそろ批判米が来る時期ですかね?