と思っていたら、
その前にまず劉備と人悶着あるっていう。
ぐぅ〜ぐ…ぐぅ〜〜
「よーし、まてまてもうそろそろだ」
長引いていた書類整理が終わり、やっと昼休みになった。
「さぁ、今日は何だろうな〜。なんか、メンマが大量に入荷されたらしいけど……。メンマ丼とかじゃないよな?」
くぎゅう〜
「そうだなー、このセリフはフラグになりかねないな」
腹の虫と会話しつつ、食堂に向かって早足で歩く。今週は張三姉妹と四人娘に奢りすぎてピンチで、この二三日は食堂にお世話になっている。
「ただ……ちょっと遅いからな……。人居るかな?」
きゅるるる………
「そうだな。居なかったら自分で作れば良いか」
最近気付いたけど、俺の腹の虫って高確率で応えてくれるんだよな。本当に何か住んでんのかな?
「って言ってる間に着いたっと」
入り口からちらりと中を覗く。とりあえず、もう食べてる人は居ない。だけど厨房にはまだ誰か居るみたいだ。
「すいませーん」
「おーう」
ん?この声は……。
「よぅ、隊長も今から昼?」
「そうだけど……聆もなのか?」
「違うで?」
「…………真顔でテキトーなこと言うのやめてくれよ」
「アッハッハッハ。そーそ。私も今から昼。さすがに分かるかー。春蘭さんとかやったら本気で悩みだすんやけどなー」
「お前それ軍議の最中でもするから新しく来た禀と風にちょっと警戒されてるぞ」
「うわー衝撃の事実やなー(棒)」
「あんまり気にしてないってことか……。で、厨房に居たみたいだけど、何か作ってたのか?」
「ちょっと水餃子っぽい何かを。隊長も要るか?」
ぐぅ〜〜〜きゅるる
「あっ」
「くくく……なかなか良え反応やんけ……。じゃあどっか適当なとこ座って待っといてなー」
「何か手伝おうか?」
「簡単にやるから別にええわ」
俺の腹をスルッと一撫でして、聆は厨房に立った。
城の厨房は、所謂オープンキッチンになっていて、聆の料理姿がよく見える。俺の分の追加なのか、新たに肉塊を取り出し、器用にスライスしたものを重ね、格子状に切って肉の微塵切りの完成だ。次に玉葱、大蒜、判別がつかないけど何か葉物を慣れた手つきで刻んでいく。
「〜〜♪」
鼻歌なんかも出たりして。
微塵切りの粒の大きさにバラつきがあるものの、気にしていない。と言うよりは元々大きさを揃える気が無いらしい。肉と野菜と香辛料をこれまた適当な容器に入れて混ぜる。
「ららららら〜ヒヒヒヒヒ〜〜♪」
「!?」
「お前〜とわた〜しとー牛と蟹〜〜♪」
鼻歌はイントロだったようで、変な歌が始まった。何か人を不安にさせるメロディ。聆の艶のある声とのミスマッチ感がヒドい。
「ちょ、ちょっと待て何だその歌!?」
「何よもー、ヒトがせっかく良え気分でやんりょるのに」
「いや、何か他の歌はないのか?」
「えー、あの歌嫌か?」
「こう……お腹がむわっっとする」
「んだら無難に役萬で……。……〜♬」
そう言う間にも手は休みなく働き、予め準備していた少し分厚い皮に餡を包んでいく。
「ちょっと小さめなんだな」
「おー。具にあんま余裕無いからな。元々はもっと小さく作る予定やったし。あと……歌詞入る直前やったんやけど……」
「ごめん」
気持ちヒダ大きめの餃子が次々と出来上がり、出来たそばから鍋の中へ。始めからここまで、一切の淀みなく進んでいる。手際が良い、という次元ではなく、無駄な動きと力が全く無い。
「すっごい慣れてるみたいだけど……よく料理するのか?」
「うん、まあ最近は特に」
「聆も金欠なのか?」
「あー、ちょっと新しいことやろ思とるから。ちょい入り用なんや」
「聆って多才だよな……料理も上手いし」
「まぁそれなりに努力もしとるからな。特に料理に関してはなぁ……御立派な料理人と美食家がな………」
「流琉と華琳か……アレはまた別だろ」
「いやー、私のんって結構テキトーに作っとるし華琳さんが見たら酷評されるやろなって。この前もどっかラーメン屋で火ぃ噴いたらしいやん」
「あれは不幸な事故だったんだ……。とりあえず今は昼休みから少しズレてるし、華琳が厨房に来ることは……」
「あら、あなた達こんな時間に何をしているの?」
……来るんだよな……。
「ちょっと書類整理に手間取って」
「私は元からこの時間狙いで予定組んどった」
「華琳はどうしてここに?」
「はぁ……。末端に遅れが出たなら、それを纏めるのが遅れるのは道理でしょう」
つまり俺のせい、と。
「すまん」
「いいのよ。一刀の手元に渡る以前で資料の数値が狂っていたのは知っているから。そのせいで長引いたのでしょう?それより、聆が作っているのは……水餃子?」
「あ、華琳さんも厨房使うん?空けよか?」
「いえ、私もそれ、いただけるかしら?」
「……ああー、じゃあ、うん。もうすぐ初めのんが茹で上がるから」
「ええ。楽しみだわ」
いかにも上機嫌といった様子で、俺の隣に座った。ほとんど間を置かずに、聆が水餃子を運んできた。スープじゃなくて、焼き餃子みたいにタレにつけて食べるスタイルらしい。
「いただきましょうか」
「お、おう」
華琳が、一つ摘んでタレにつける。
頼む……捻り無く美味しいって言ってくれ……っ!
「……そんなにマジマジと見てないで、一刀も食べなさいな」
「お、おう!」
言われて、不自然なくらい素早くなってしまった動作で餃子を口に入れる。
……!
「う、旨い……!」
讃岐うどんのようなしっかりとしたコシのある皮。タレはどうやらポン酢に近いモノのようだ。もう、それだけでも美味しい。皮の中から旨みの強い肉汁が溢れて口の中を満たす。適当に切り分けられた野菜の食感も心地良い。
「……じゃあ続き、茹でてくるわ」
「おう!どんどん茹でてくれ!」
華琳も黙々と食べている。ただ……これだけじゃあ華琳の判断は窺い知れないんだよなぁ。この前も、一旦「美味しい」って言ってからが地獄だったし。
一皿目を完食してから少しして、聆が追加を運んできた。
「聆、色々と聞きたい事があるのだけれど……」
「うーん、お手柔らかに……」
「この皮、凄く食感が強いのだけれど……」
「めっちゃ捏ねたん」
「この肉、豚ではないわね?猪かしら」
「昨日、賊の討伐の帰りに獲ったんや」
「野菜の大きさがバラバラなのは?」
「大きさに気ぃつけて切るんが面倒かったのと、食感オモロなるかな、って」
「このタレは……?」
「醤油に、酢の代わりに酸っぱい蜜柑の汁混ぜた」
「そう……」
そして一つ食べ、呟く。
「やはり天才か……」
「じゃ、最後、茹でてくるわ」
気を良くしたのか、そそくさと厨房に戻る。
「そう言えば、聆は食べなくていいのか?」
「茹でながら何個かつまんみょるー」
じゃ、ここにある分は安心して食べていいな。
「旨いなぁ……」
「……聆が味方で本当に良かったわ」
「そんなに気に入ったのか?コレ」
「確かに気に入ったけれど、そうじゃなくて……あの娘に弱点って有るの?」
妙な歌を歌いつつ調子良く料理する聆をよそに、華琳は声をおとして言う。
「……それを華琳が言うか」
「そうか……酒を断てばあるいは……?」
「聞いてないし……」
「お待たせー」
「あ、サンキュー」
「産休?また天の言葉かしら?」
「そ、ありがとうって意味」
軽く説明して一つ口に放り込んだ。
「……!??苦ッッ!?」
口の中から脳髄に駆け上る衝撃。思わずビクンと跳ね、椅子から転げ落ちてしまった。
「椅子からひっくり返る反応……。さすがやでぇ」
「ロシアンルーレットかよ!?苦ッッにっがっ!何入れたんだ!?」
「最近薬の勉強しとってな。免疫力増進の薬草入れてみた」
「一刀、ろしあんるーれっと、って?」
「あぁ、俺のいた世界の遊びで、小籠包とか饅頭とかのなかに一つハズレを混ぜるんだ。元々は、ロシアって国の決闘(?)からきてる」
「そう……。まあ、これだけ有る中から最初にハズレを引くのは逆に運が良いのではなくて?……ハム……やっぱり皮のd!?辛っッ!!?なに!?なんで!!?痛い!口の中が!!あ゛あ゛あ゛」
「ハズレは一つと誰が決めたか……。この皿にアタリはたった一つ!言うなれば逆ロシアンルーレット。芸人さんも安心!!」
「なんでそんなお約束知ってんだ!?って言うか、水、水!」
「はい!水」
「おう。華琳、ほら、水だ」
「ゴク……!!?!い゛た゛い゛喉が あ あ あ あ あ 」
「聆!?」
「ごめん宴会芸用特濃酒やった☆」
その後、食堂の前に数刻の間、華琳デザインの奇抜なオブジェが設置された。
具体的には、逆さ吊りにされた聆が。
華琳「聆の作品を参考にしてみた」
華琳 聆
武術 関羽なみ 華雄なみ
政治 一国の主 一隊の長
料理 本格的 ガサツ
芸術 伝統的 前衛的
精神 覚悟を決めた少女 三十代後半+α
聆は尖った知識と武術、
現代社会のドロドロの中で鍛えられた精神を持つものの、
まだまだメインを張れる実力ではないですね。
ちなみに、
現代約三十五年+恋姫(転生前)約十五年+恋姫(転生後)一年弱(?)
で、多く見積もると五十歳以上です。
今回の餃子はたまたま天の知識的なものが多く活かされていて華琳の意表を突くことができて高評価です。