哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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では主人公の名前説明を……。
※「/」の前が今作での読みです。

姓 : 鑑(カン/ガン)

名 : 惺(ショウ/セイ)

字 : 嵬媼(カイオウ)
嵬→(高く)けわしい,あやしい,でたらめ。聆の身体を表す。
媼→媼(BBA),母,祖母,土地の神、御祖。聆の性格を表す。
つまり、「すっごいBBA」

真名 : 聆(レイ)
「令」は「神意を聞く」の意。世界の行く末を知る聆の魂を表す。
つまり、「こいつチート」



第八章一節その二

 「華琳様。先鋒から連絡が来ました。……前方に劉の牙門旗。劉備の本陣のようです」

 

予想していたよりかなり早く劉備の本陣前に到着した。

五千に満たない少数行軍とはいえ、急な招集、そして夜間行軍にも関わらず、文句一つ無く素早い行軍。さすが曹魏は一味違うぜ!そしてもう一つ、劉備の陣が本当に国境ギリギリの所に張られていたことも要因の一つだ。

 

「なら関羽。貴女の主の所に案内して頂戴。何人か一緒に付いてきてくれる?」

 

報告を受け、華琳が当然のようにさらりと言う。

 

「華琳様!この状況で劉備の本陣に向かうなど、危険すぎます!罠かもしれません!」

「桂花の言うとおりです!せめて、劉備をこちらに呼び出すなどさせては……!」

 

こちらは寡兵。対して劉備は本陣、つまり軍力の集結地点だ。例え曹操軍の練度が高いといえども、罠なら曹操死亡→反撃不可となるのは明らかだ。相手を呼び出したなら、逆に劉備を人質にして逃げるなりできる。

 

「でしょうね。私も別に、劉備のことを信用しているわけではないわ」

「……曹操殿」

「けれど、そんな臆病な振る舞いを、覇者たらんとしているこの私がしていいと思うかしら?」

「……ぐっ」

 

華琳の理論の前に、春蘭や桂花、他の反対しようとしていた者たちが押し黙る。

私は「コイツらたまに覇道と博打を履き違えるな」と思ったが、目の届かないところで説教を済ませてくれるんならそれで良いとも思い、黙っていた。

 

「だから関羽。もしこれが罠だったなら……貴女達にはこの場で残らず死んで貰いましょう」

「ご随意に」

 

無理だろ常考。……いや、気合補正でなんとか……?

 

「それで……誰が私を守ってくれるのかしら?」

「はっ!」

「ボクも行きます!」

「私も!」

 

言い終わるか終わらないかの内に三人が勢い良く挙手する。

 

「なら、春蘭、季衣、流琉、聆」

「へっ?」

 

何で?

 

「あら、嫌なの?」

「嫌ちゃうけど……」

 

本当はかなり嫌だ。でも命令に背くのはさすがにまずい。

劉備陣営と面識があるからだろうか……。あそこでの出来事が地味に色々と響いてきているな……。

 

「なら良いのよ。……じゃあ、その四人。それから、稟と一刀も来なさい。残りの皆はこの場に待機。異変があったなら、秋蘭と桂花の指示に従いなさい。」

「はっ!」

「華琳様、お気を付けくださいませ。春蘭、絶対に華琳様のことをお守りするのよ!」

「言われるまでもない」

「では関羽。案内してちょうだい」

 

急遽建てられた仮の陣を離れ、関羽の後をいかにも楽しそうに歩く華琳の後をしぶしぶ歩く。嫌いなキャラへの説教なら楽しみなんだろうけどなぁ。左慈とか。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「曹操さん!」

 

陣に入ってすぐのところで劉備が待っていた。驚き半分、話を聞いてもらえることへの喜びがもう半分、といった表情だ。

 

「聆!久しぶりなのだ!」

「おー、久しぶりやな鈴々。空気読めんのは相変わらずやなぁ」

「にゃ?」

「今から華琳さんと劉備さんが話せなならんからちょっと静かにしとかな」

「桃香って呼んでください鑑惺さん。宴会の時は真名交換する前に酔い潰れちゃいましたから……」

「あぁ、んだら私のことも聆って呼んでくれてええわ」

 

一応真名交換したが……桃香も空気読め!華琳様置いてけぼりやんけ!うわぁ。かゆうまを紹介した時と同じぐらい微妙な表情だ。それを見たはわわもはわわってるし。

 

「…………久しいわね。劉備。連合軍の時以来かしら?」

「はい。あの時はお世話になりました」

「それで今度は私の領地を抜けたいなどと……また、随分と無茶を言ってきたものね」

「すみません。でも、皆が無事にこの場を生き延びるためには、これしか思いつかなかったので……」

 

"皆が無事に"という言葉に、華琳の眉がピクリと動いた。

 

「まあ、それを堂々と行う貴女の胆力は大したものだわ。……いいでしょう。私の領を通ることを許可しましょう」

 

喜ばせて叩き落とすスタンスである。よく見ると悪巧みしているときの顔だ。

 

「本当ですか!」

 

実質嘘です。

 

「華琳様!?」

「華琳様。劉備にはまだ何も話を聞いておりませんが……」

「聞かずとも良い。……こうして劉備を前にすれば、何を考えているのかが分かるのだから」

 

その結果クソ甘い子供と判断したんだろう。

 

「曹操さん……」

 

対して劉備は顔全体に感謝と感激を滲ませている。

 

「ただし街道はこちらで指定させてもらう。……米の一粒でも強奪したなら、生きて私の領を出られないと知りなさい」

「はい!ありがとうございます!」

 

本当に嬉しそうに感謝を述べる桃香。それ、フェイントだぞ?

 

「それから通行料は……そうね。関羽でいいわ」

 

ここからが本番 。

 

「…………え?」

「なに……?」

 

桃香と一刀がきょとんとしている。

 

「何を不思議そうな顔をしているの?行商でも関所では通行料くらい払うわよ?当たり前でしょう」

 

だったら関所を通らないルートなら?という屁理屈をぐっと喉の奥に押し留める。言ったらどうなることかわからんからな。……言ってみるか。

 

「関所を通らない順路なら?」

「…………」

「すみませんでした」

 

ヤバい。めっちゃ睨まれた。帰ったら何かされるなこれは。せめてこれからは黙ってよう。

 

「……貴女の全軍が無事に生き延びられるのよ?もちろん、追撃に来るだろう袁紹と袁術もこちらで何とかしてあげましょう」

 

関羽抜きでは益州入りした後がキツいと思うが。

 

「その対価をたった一人の将で贖えるのだから……安いものだと思わない?」

 

劉備は安いものだと思わないと分かっていてこういう事を言うんだから、華琳は本当のドSだ。

 

「……桃香様」

「曹操さん、ありがとうございます」

「桃香様っ!?」

「お姉ちゃん!」

「……でも、ごめんなさい」

 

桃香もフェイント。

 

「愛紗ちゃんは大事な私の妹です。鈴々ちゃんも朱里ちゃんも……他のみんなも、誰一人欠けさせないための、今回の作戦なんです」

 

カッコイイこと言ってるんだがこの後フルボッコなんだよな。

 

「だから、愛紗ちゃんがいなくなるんじゃ、意味がないんです。こんな所まで来てもらったのに……本当にごめんなさい」

 

そう言って桃香はペコリと頭を下げた。

 

「そう。……さすが徳をもって政を成すという劉備だわ。……残念ね」

 

Five……

 

「桃香様……私なら」

 

Four……

 

「言ったでしょ?愛紗ちゃんがいなくなるんじゃ、意味がないって。朱里ちゃん、他の経路をもう一度調べてみて。袁紹さんか袁術さんの国境あたりで、抜けられそうな道はない?」

 

Three……

 

「……はい、もう一度候補を洗い直してみます!」

 

Two……

 

「なあ、華琳」

 

One……

 

「劉備」

 

Zero!

 

「……はい?」

 

F I R E !!!!

 

「甘えるのもいい加減になさい!」

「……っ!」

 

華琳さん始まったな……。

 

「たった一人の将のために、全軍を犠牲にするですって?寝惚けた物言いも大概にすることね!」

 

全軍犠牲とか言ってない言ってない。

 

「で……でも、愛紗ちゃんはそれだけ大切な人なんです!」

 

その返答だと犠牲にするって認めたことになるぞ?

 

「なら、その為に他の将……張飛や諸葛亮、そして生き残った兵が死んでも良いと言うの!?」

 

みんな欠けさせられないって言ってんでしょうが!

でも結果的にはそう言ってるのと変わらないけどな!!

 

「だから今、朱里ちゃんに何とかなりそうな経路の策定を……!」

「それが無いから、私の領を抜けるという暴挙を思いついたのでしょう?……違うかしら?」

「………そ、それは……」

 

ああーー、何も言えないのがもどかしい。何言っても仕方ないことなんだが。

 

「諸葛亮」

「はひっ!」

 

めっちゃビビってる……。コレが私を嵌め殺そうとしたっていうんだから、恋姫は恐ろしい世界だ。

 

「そんな都合の良い道はあるの?」

「そ……それは……」

 

無いだろうなぁ。山の中とか通っていいならいくらでも有るが。あ、コレ私の隊なら行けるのか。我ながら凄いな鑑惺隊。

 

「稟。この規模の軍が、袁紹や袁術の追跡を振り切りつつ、安全に荊州か益州に抜けられる経路に心当たりはある?大陸中を渡り歩いた貴女なら、分かるわよね?」

「はい。幾つか候補はありますが……追跡を完全に振り切れる経路はありませんし、危険な箇所が幾つもあります。我が国の精兵を基準としても、戦闘若しくは強行軍で半数は脱落するのではないかと……」

 

同規模の我が隊なら山と森と川を駆使しつつ瓦解したと見せかけて再合流で九割八分保存は堅いな。

 

「……っ。朱里ちゃん……」

「…………」

「そんな……」

 

ま、練度の低い劉備軍では絶対無理だろうが。

 

「現実を受け止めなさい、劉備。貴女が本当に兵のためを思うなら、関羽を通行料に、私の領を安全に抜けるのが一番なのよ」

「桃香様……」

 

でもここで はいそうですか と関羽を手放すような人物ならそもそも劉備陣営など存在しない。そして、ここで心変わりして渡したとしたら、その後瓦解するだろう。渡しても破滅。渡さなくても破滅。言うなれば完全な八方塞がりだ。

助け舟を求めるように鈴々が見つめてくるが、何もできないし、必要なイベントなので、手で小さくバッテンを作って応える。

(・×・)ムリダナ

魏ルートの桃香は叱られて完成するのだ。蜀ルートなら、一刀の影響によって現実と理想の匙加減と君主の自覚を知り、呉ルートでは立派な外道に進化する。

 

「曹操さん……だったら……」

「それから、貴女が関羽の代りになる、などという寝惚けた提案をする気なら、この場で貴女を叩き斬るわよ。国が王を失ってどうするつもりなの?」

「…………!」

 

結構問題無さそうだと思うのは私だけか?桃香は精神的支柱、つまりその場に居なくても効果(?)を発揮する。むしろ早く桃香を取り返そうとみんな頑張るような……。

 

「……どうしても関羽を譲る気はないの?」

「…………」

「まるで駄々っ子ね。今度は沈黙?」

 

情けないが、この通り沈黙して、華琳が呆れてしまうのを待つのが最善だったりする。

 

「…………」

「桃香様。やはり私が曹操殿の下に降ります」

「でも……っ!」

「仕方のないことです。本来なら、皆揃って討ち死にしていてもおかしくないのですから。それに、死ぬわけではないんですから……」

「愛紗さん……」

「愛紗ちゃん………ごめん……なさい。本…ッ…と うに、ご…めんな……さい…………っ!」

 

桃香がボロボロと涙を流して……あれ?こんな流れだったか?

 

「賢明な判断ね、関羽。貴女ほどの将なら、死ぬどころかいきなり五千人規模の大部隊を率いることも夢ではないでしょう」

 

華琳は心底楽しそうだ。桃香の泣き顔が見られて、関羽も手に入ったのだから。

だが、マズいな……。史実系なら関羽が魏にしばらく入るのは普通なんだが、恋姫だとそのまま天下取りかねない。

 

「いえ。それよりも聆……鑑惺殿の隊で一兵卒として働くことを希望します」

 

は?

 

「……どういうこと?」

 

マジでどういうこと?

 

「私は、曹操殿の下に降りますが、高い身分は求めませんので、その代わりその後の労働や生活を鑑惺殿の下で行いたいのです」

「……つまり、私は主として認めず、聆を主としたい、と……?」

「いやぁー?そういうわけとちゃうんちゃう?」

「そうです」

「あ、そうなん?」

 

何で華琳の神経逆撫でするようなこと言うんだ?武人の矜持か?

アホめっ!!

 

「ふ、ふふふ……アハハハハ!!こんなにも虚仮にされたことが今まであったかしら!?……もういいわ。貴女たちと話していても埒があかない。益州でも荊州でもどこへでも行けば良い」

「…………」

「…………」

 

ほら……華琳様のテンションがヤバい。

 

「ただし」

「……通行料、ですか?」

「当たり前でしょう。……先に言っておくわ。貴女が南方を統一したとき、私は必ず貴女の国を奪いに行く。通行料の利息込みでね」

「…………」

「そうされたくないなら、私の隙を狙ってこちらに攻めてきなさい。そこで私を殺せたなら、借金は帳消しにしてあげる」

「……そんなことは」

「ない?なら、私が滅ぼしに行ってあげるから、せいぜい良い国を作って待っていなさい。貴女はとても愛らしいから……私の側仕えにして、関羽と一緒に可愛がってあげる。減らず口も叩けなくなるぐらいにね」

 

多分原作とセリフほとんど一緒なんだろうけど……相当キレてるなぁ……。

 

「稟。劉備たちを向こう側まで案内なさい。街道の選択は任せる。劉備は一兵たりとも失いたくないようだから……なるべく安全で危険のない道にしてあげてね」

「はっ」

「それでは私たちは戻るわよ。……劉備。今日、ここであったこと、決して忘れることのないように」

「……はい」

「ふん……。帰るぞ」

「はっ!」

「はい!」

「……それから……聆は陣に戻り次第私の天幕に来るように」

 

あ、コレ私死ぬわ。




「原作の大幅コピー」に引っかかったら不貞寝します。

作者も持ち上げて落とすタイプの人間です。
さあ、最近コメントで持ち上げられていたのは誰かな!?

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