実家の居心地が悪すぎます。親と馬が合わないので。
ガキ共だけが癒しです。
「どうもありがとうございました」
「いえいえ。困っている人を助けるのも大切な仕事ですから」
「みつかいさま、ありがとー。おにさんも、かたぐるまたのしかったー!」
聆との警邏の途中。道に迷っていた母娘を案内した。なんでも、戦争で夫を亡くし、働き口を求めて最近洛陽に来たらしい。
「お兄さんやのぉてお姉さんやでー?」
「おにのおねぇさん!」
「あっ……(察し)」
「……す、すいません!こら、そんな失礼なこと言っちゃダメでしょ」
「まぁえぇがなえぇがな」
聆は気にも止めずに女の子の頭を撫でてにっこりと笑う。
「ええがなー!」
女の子もにぱっと笑いかえした。
「ふふっ……じゃあ、俺たちはこの辺で……」
「はい。ご親切に ありがとうございました」
「また困ったことがあったら気軽に声をかけてくださいね」
「またねー!」
「うぃー」
ブンブンと手を振る女の子に、ひらひらと手を振りかえして、警邏の順路に戻った。
「旦那さん……気の毒やなぁ」
「はあ……。俺達のせい、かな」
「おん?なんで?」
「いや……戦での作戦とか、そもそも戦争するしないを決めるのも俺達だろ?じゃあ、やっぱり、戦争での生き死にって、……」
俺達、国の上部の支持で何百何千何万もの人が動く。それはつまり、それだけの数の命を背負うというわけで……。
「まあ、確かに私らの責任はデカいけど。罪悪感を持つ必要は無いんちゃう?最善、尽くしとんやろ?」
「まあな……」
「んだら、反省はしても自責は要らんわ。してもしゃーないし」
「そういうもんなのかな……」
そう簡単に割り切れないよなぁ……。
「そんな気になるんやったら囲ってまえや」
「はぇっ!?」
「結構……いや、かなり美人やったし」
「いやいや!急に何言ってんだ!」
確かに優しそうな穏やかな笑顔が印象的なヒトだったけど……。うわ、俺、無意識のうちに結構見てるな……。
「うーん、直で側女にしたら抵抗感有るやろから、まず女官で雇って、それとなく隊長の専属みたいにしていったらそのうち惚れとるやろ。さすが変態長」
「いや、頭の中で勝手に計画進めて勝手に変態呼ばわりするなよ」
「……これガチで良え案ちゃうのん?子連れの女の雇い先なんかそうそう無いし。丁寧で真面目そうやったから十分働けるやろ。娘さんも可愛いしな。よし決定。あの人は隊長の専属女官になります!おい」
「はっ」
「うわ!?」
どっから出てきた!?
「様子窺って適当な頃合いに女官に取り立てぇ」
「御意に」
「ちょ、勝手に決めるなよ」
「いや、何の問題が有るん?まあ想像せぇや。暖かな陽気に微睡んどったら『一刀様、一刀様』と、あのヒトの声がするワケや」
……声真似うまっ!
「『もう少し寝かせてくれよ……』『いけませんよ。お仕事に遅れてしまいます……』」
……ちょっといいかも。
「『あと五分……五分だけだから……』『もう……しようのないひとですね。でも、もう起きていただかないと』『うん………あと十分したら………』『はぁ……。こうなったら仕方ありませんねぇ。………それっ!』『うわっ!?』『ふふん。もうお布団はありませんよ。観念して起きて……く………だ…………っ!』『ん?どうしたんだ?……って、あ……』『〜〜〜っ!!』『いや、これは生理現象で!決してそういうアレじゃ………!』」
「ちょっと待て!」
「ん?なんや?ほぼ完璧な……あ、子持ちの未亡人にしては反応が初心過ぎるか。さすが変態長!細かいトコにもよぉ気付く!」
「そーゆうことじゃなくて!」
「何?嫌なん?」
「嫌じゃないです!!って違ーーう!もうこの話は終わり!警邏に戻るぞ!!」
「いやー、露骨に動揺するから弄り甲斐あるわー」
「勘弁してくれ……」
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警邏もほとんど終了した。今回も特に大きな事件は起こらず、いつも通り平和な洛陽だったんだけど……。
「うーん、何と言うか………」
「……なんだよ」
「何か変な薬品でも散布しとん?ってくらいに女性に人気やな。あと一部の男性からも。さっすが変態長」
「そう言う聆は店主のおじさま方に人気みたいだな」
本屋を覗けば本をプレゼントされ、八百屋の前を通れば珍しい果物を特別に試食させてもらい……。
「待って。お姉様方からの人気もあるで。店主やったら」
「値段設定とかも相談されてたろ」
「適正価格での取引の推進に努めとりますさかい安心しておくんなはれや」
「なんだその微妙に違和感の有る言葉遣い……」
「まあまあ。それよりもう警邏も終わったし、お昼行かん?」
「そんな露骨な話題転換に乗ると思う?」
くぎゅるるる………
「乗るらしいけど?」
聆が勝ち誇ったようににまりと笑う。くそう。俺の腹の虫ってばいつもタイミングバッチリなんだから!
「はいはい、わかったよ……。あ、真桜と沙和に奢る約束してたんだった!」
「無謀な約束やなぁ」
「流れでいつの間にか約束させられてたんだよ。うーん、あいつらどこにいるんだろ」
「向こうもそろそろ警邏終わらせて警備隊の宿舎で待っとるんちゃう?」
「自分達で飯行ってそうだけどな」
むしろそうしておいてくれ。
「いや。奢ってもらえるって言うんやったら絶対に待っとるな。ついでに凪霞も追加ちゃう?」
「……ありそうで嫌だなぁそれ。財布がまたすっからかんか……」
みんな可愛いんだけど……容赦無いんだよな……。いや、これでみんなの笑顔が見れるんなら安いものか……?
「んだら半分くらいは出したるわ。最近羽振り良えんや」
「え!出してくれるのか!?」
鑑惺先輩!
「商売がおかげさまで上手く行っとるからな」
「ああ、養蜂だっけ?上手く行ったんだな!」
「せやでー。やから一回奢るぐらい余裕余裕」
「感謝っ....!圧倒的感謝っ....!」
そして俺達は軽い足取りで宿舎へと向かうのだった。
た ま た ま 遊びに来ていたバカたちに集り潰されるとも知らずに。
気がついたら予定していた話と全然違ってました。
それも又一興。
登場した母娘は黄忠と璃々ではないです。
念のため。