飲酒戦闘ダメ、絶対。
「夏侯淵さまー!東側の防壁が破られたのー。向こう側の防壁は、あと一つしかないの!」
敵は戦力を東西に絞って今までに無い突撃を見せ始めた。西側の防壁も先程一つ破られ、残り二枚となっている。街側の予想外の奮戦の為に時間を消費し、焦っているようだ。焦っている、と表現すれば、逆にこちらには余裕が有るように聞こえるが、全く無い。現に防壁は破られているし、戦力もガリガリ削られている。許緒・夏侯淵率いる先遣隊が加わったおかげで、指揮官を後方に置いた組織的な戦闘が可能になり、効率的に敵を倒せるようになった。だが、元々の戦力差が大きすぎ、特攻紛いの攻撃を止めることができない。
「……あかん。東側の最後の防壁って、材料が足りひんかったからかなり脆いで。すぐ破られてまう!」
「仕方ない。西側は防衛部隊に任せ、残る全員で東の侵入を押しとどめるしかない」
「先陣は私と聆が切ります」
「ん!?凪何言っとん?なんで私?いや!行くけど!!」
「私の火力と聆の迫力を合わせれば、戦線をある程度押し戻せるだろう?」
「いや…ゴメンあれ酔ぅとったんや」
「戦いながら呑んどったんかいな!?」
「ちょっと引いたけどすごかったのにー」
引いたのかよ。……ただ、あれは本当に危うかったと思う。陣からの突出、思考力の低下、力任せの戦闘。
相手が貧しく不健康で技量の低い賊だったから弾き飛ばせたが、正規の兵には通じまい。張飛とか許緒とかその他諸々の物理法則を無視した面々はどうだか知らないが、私の剣戟の威力は物理の範疇を超えない。簡単に、とは行かないだろうが、あれでは受け止められ横から切られてお終い、だ。
突出も、今回は相手が怯えて逃げ出したから良かったものの、もっと組織戦闘に慣れた相手だったら?むしろ、今回の敵でさえ実は微妙なところだ。「北がダメなら西東南がある」相手だから良かったが、「ここで負けるともう後がない」相手だったなら、逆上して皆で突進して来ていたかもしれない。
調子に乗って色々口走っていたが、元々怯え竦んでいたのは私の方だった。酒に逃げたのだ。
「いや、でも私自身先陣任せてほしいし、自分で言うんもなんやけど、適任やとも思う。凪の動きのクセに一番合わせられるんは私やろうから」
人を殺すのにはまだ慣れない。……慣れなければいけない。世の中、考え無しではいけないが、考えすぎても上手くいかないものだ。「歩くように撃て。呼吸するように撃て。欠伸をするように撃て」とはどこの軍人の言葉だったか。ゆくゆくは、陸遜をして「気持ち悪い程訓練されている」と言わしめた黄蓋隊を相手にする予定なのだ。さっきは酔ってチャンスを無駄にしたが、敵が弱い内に前線で殺し合いに慣れなくてはならない。ホント狂った世の中だぜ!!
「そうか。聆、背中は任せる」
「楽進、鑑惺、先陣頼んだ。……死ぬなよ」
「「はっ!」」
「秋蘭様、ボクたちも……」
「ああ。……皆、ここが正念場だ。力を尽くし、何としても生き残るぞ!」
「わかったの!」
「おう!死んでたまるかいな!」
「報告です!街の外に大きな砂煙!大部隊の行軍のようです!」
「なんやて!」
「えー……また誰か来たの?」
メイン馬鹿キタ!!
「敵か!それとも……」
「お味方です!旗印は曹と夏侯!曹操様と、夏侯惇様ですっ!」
こwれwwでwww勝wwwwつwwwwwるwwwwww
「皆!援軍が到着した!憎き賊共を一気に殲滅するぞ!」
――――――――――――――――――――――
黄巾党を倒して街に入った俺たちを、季衣と秋蘭が迎えた。
「二人共無事で何よりだわ。損害は……大きかったようね」
「はっ。しかし彼女らのおかげて、防壁こそ破られましたが、最小限の被害で済みました」
「……彼女らは?」
「私らは義勇軍のモンや。賊の襲撃に抵抗する為に戦力を纏めたんやけど…」
そう言った暗い茶髪の娘は、いつかの熊肉の娘だ。
「あら……あの時の。武の才も持ち合わせていたのね」
「いやー、あん時はどーも」
そうやって軽く会釈した彼女の隣にいたのは……
「ヘンな絡繰作ってた籠屋の娘……」
「変な絡繰って何やねん!!スゴイ絡繰の言い間違いやろ!」
「貴女も義勇軍の一員なの?」
「せやでー。そっか……陳留の州牧様やったんやね……」
「あ、お姉さん!おひさー!なの♪」
「于禁、姉者と知り合いなのか?」
「そうなのー。前に服yむぐぐぐーー!!」
「あー、ちょっとな!珍しい巡り合わせも有るものだな!!」
「どうしたんですか急に」
「い、いや、何でまないっ。何だも!」
「噛んでいるぞ、姉者」
「むぐぐぐーむぐぐーー!!」
「……で、その義勇軍が?」
いかにも武人らしい娘がそれに答える。
「賊の規模に圧倒され、こうして夏侯淵様に助けて頂いた次第……」
「早馬でも出せば良かったんやろけど、そこまで頭も手ぇも廻らんかったんや……」
「そう。確かに詳細な情報が回って来ていればもっとやりやすかったでしょうね」
「反省してるのー」
「面目次第もございません」
「とはいえ、貴女たちは、私の大切な将を助けてくれたわ。ありがとう」
「私にとっても大事な仲間やったしな。当たり前やわ」
「あの、それでですね、華琳様……」
「私たちを、曹操様の部下として取り立てては頂けませんか」
「義勇軍が私の指揮下に入ると言うこと?」
「残存の六割、ですが」
「私らと、その六割の奴らはこの国の行く末に不安を持って、それを変えたいと思っとる。曹操さんも未来を憂ぇとるって聞いたから」
「至らぬ力ではありますが、その大業に、我々も加えてくださいますよう……」
「……そちらの二人は?」
「ウチもええよ。曹操様の噂はよう聞くし……曹操様が大陸を治めたら、今より平和になるっちゅうことやろ?」
「凪ちゃんたちが決めたなら、わたしもそうするのー」
「秋蘭、彼女等の能力は……?」
「は。一晩共に戦っておりましたが、経験を積めば皆一廉の将にはなる器かと」
「華琳様、真桜ちゃんが防壁を造ったり、聆ちゃんを前に敵が逃げ出したり、すごいんですよ!」
「そう……。季衣も真名で呼んでいるようだし……良いでしょう。名は?」
「楽進と申します。真名は凪。……曹操様にこの命、お預け致します」
「李典や。真名の真桜で呼んでくれてもええで。以後よろしゅう」
「于禁なのー。真名は沙和っていうの。よろしくおねがいしますなのー♪」
「改めてやけど、姓は鑑、名は惺、字は嵬媼、真名は聆。色々できるから上手ぉ使ぅてくれや」
「凪、真桜、沙和、聆。そうね……一刀」
「へ?」
あ、ちょっと寝てた!……昨日ドキドキしてなかなか寝られなかったからな……
「さしあたり、貴女たち四人は、この男に面倒を見させるわ。別段の指示がない場合は彼の指揮に従うように」
「なん……っ!?」
「このお兄ーさん、大丈夫なのー?ちょっとカッコイイけどー……」
「ウチの発明品壊してたし……」
「曹操様の命だ。それに従うまで」
「能ある鷹的な感じで、一定の条件満たしたら化けるんとちゃう?主に夜」
「おいおい、ちょっと待てよ、華琳!あと聆!」
いきなり義勇軍と華琳の将の候補を四人任されて……どうすればいいんだ?小さな隊の指揮しかした事ないぞ?あと聆さんは真顔で下ネタはやめてくださいそういう人ってイメージが付いたらどうしてくれるんだ!
「あら。何か問題がある?」
「大ありですっ!なんでこんなのに、部下をお付けになるんですか……!」
「あ、桂花。いたんだ」
桂花いたんだ。
「あんたと違って、私はちゃんと仕事をしているの。華琳様、周囲の警戒と追撃部隊の出撃、完了いたしました。住民への支援物資の配給も、もうすぐ始められるでしょう」
「ご苦労様、桂花。もう休んで良いわよ」
「はい華琳様、ありがとうござっ……て、ちょっと、華琳様!?」
「フフフ……。冗談よ、桂花。で、一刀の件だったっけ?」
「そうです!こんな変態に華琳様の大切な部下を任せるなど……部下が穢されてしまいます」
うおーい!桂花さん!?
「こらこらこら!初対面の連中に変なこと吹き込むんじゃないっ!」
「…………」
「…………」
「まじかぁ…………」
「たまげたなぁ…………」
「いや、誤解ですよ?桂花ってば冗談ばっかり言っちゃって!」
うわなにそのびっくりするほど冷たい目。聆は面白い"モノ"を見る目だが……これはこれでかなり嫌だな。
「……聆ちゃんの冗談だと思ってたけど……軍師さんも言ってるしー……困っちゃうのー」
「せやなぁ……凪はどうなん?命令とあらば?」
「……時に過ちを犯しそうな上官を止めるのも、部下としての役目……!」
ちょっと、拳をかまえないで……!
「凪ェ、逆に考えるんや。戦で敵に捕まってマワされるよりはマシやと考えるんや!」
「どっちの展開も起こさないから!」
「……私は関知しないから、するなら同意の下でおねがいね。四人とも、一刀に無理に迫られたら、痛い目に遭せて構わないわよ」
「華琳までっ!」
「そういうことなら了解ですわ。……じゃ、よろしゅうな、隊長」
「了解しました。隊長」
「はーい。隊長さーん」
「逆に襲うんはアリなんけ?」
!?……聆さん!?
「構わないわ」
!!?……華琳さん!!?
「華琳!?」
「皆、義勇軍の件に関して何か異論は有る?」
「特に問題は無いかと」
あ、無視した
「良かったね!四人とも!」
「季衣ちゃん、これからよろしくなのー♪」
「………」
「? 春蘭、一刀の素質に何か懸念でもある?」
「いえ、これで北郷も少しは華琳様の部下としての自覚を出すのではないかと」
「自覚はあるつもりなんだけどなぁ……」
「北郷程度で自覚があるなんて言うなら、陳留市民なんて全員そうだな」
「えー……」
「それではこの件はこれでいいわね。物資の配給の準備がおわったら、この後の方針を決めることにするわよ。各自、作業に戻りなさい」
――かくして、北郷隊は結成された。……先行きが不安過ぎる……。
第四章二節前半の前半は原作第四章一節の終盤という不思議。
主人公が絡んでない話を省略したり、セリフを入れ替えたりして頑張ってるんですが、主人公が空気になったり、完全原作コピぺにならないようにしつつ流れを変えないのは難しいです。
キャラが多いのは魅力であり2次創作での難関。
名言を残したのはパンツじゃないから恥ずかしくないお姉ちゃん。