哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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遅くなりました。
作者は悪くないです。
ウィルスが全部悪いんです。


第九章拠点フェイズ :【鑑惺伝】心理吐露系イベント

 「えーと、これはこっちに廻して……、あ、クソッ記載漏れしてるじゃないか!物資関連は風だったよな……」

 

西涼との戦に向け、じわりじわりと仕事が増えてきて、城内も独特の緊張感に包まれる。優秀な部隊長四人に支えられているとは言え、俺も将軍の一人。当然その仕事量は軍の中でもトップクラスだ。だからミスが起こるのは仕方ないワケで……いや、言い訳はよそう。今は風を探さないと。

 

 

 「――まぁ、予想はしてたけど自室には居なかった」

 

仕事が忙しいからな。それも、風の仕事は軍全体に関わるものだ。会議やらなんやらで、自室にずっといるわけにもいかない。……もしくは、自由人が発動してどっかでサボってるとか。この前も桂花が探してるのに気づいてて無視し続けてたからなぁ。

 

「今もどっかすぐ近くで無視してるとか……」

ニャー

「ん?」

 

どこかから猫の声が聞こえてくる。

 

「……ちょっとぐらいなら良いよな。風もどっか行っちゃってるし」

 

猫でもいじって癒されるとしますか。最近ストレスが溜まってたからな。ストレスが溜まった状態だとパフォーマンスが低下してうんぬんかんぬん……だからこれはただのサボりじゃないんだ。

 

「待ってろよ猫共……存分にナデナデぐりぐりモフモフしてやるぜ!」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「――で、猫と一緒に風が居るっていうね」

「いやー、見つかってしまいましたねー」

「そんなので仕事、大丈夫なのか?」

「風は誰かさんと違って、すべきことはもう全て終わらせてしまっているのですよ〜」

「ぐぬぬ……」

「それに、この光景を見ては抗う術などないのですよー」

 

風がちらりと視線を移す。

 

「……よく、寝てるな」

 

そこかしこに丸まっている猫とは対照的に、全身を緩やかに伸ばして穏やかな寝顔を見せているのは、聆だった。聆は明日から遠征に出るから今日は休んで英気を養っておくように言われていた。

 

「寝てる女の子の顔を堂々と覗き込むなんてー、さすがお兄さんなのですよー」

「あ、いや、すまん!」

「まー、確かにこれが『おりえんていりんぐ事変』を一言で鎮圧した猛者の顔とは思えませんけどねー。えいっ」

「んむあ……」

ニャー

ナーオ

 

頬をツンツンとつつかれ、煩わしそうに寝返りをうつ。お腹の上に乗っていた猫がずり落ちた。

『おりえんていりんぐ事変』とは、言うまでもなくこの前のオリエンテーリングに関するものだ。その苛烈すぎる内容に対して、閉会式での華琳の言動が不適切だったため、一部の将が腹を立てて魏上層部が一時険悪なムードになってしまった。

 

「『一回や二回死ぬ目に遭うたぐらいでピーピー囀んなやこのポンコツ共が』か……」

「聆ちゃん以外が言ってたら戦争もあったでしょうねー……」

「説得力が段違いだもんな……」

 

実際に何度も死にかけてるし。

 

「……風としては、それでも魏に仕える聆ちゃんの方が不自然なのですよ」

 

急に真面目な話に……。あれ?さっき心読まれた?

 

「一時期は華琳様からの扱いも良くなかったようですしー」

「あー、劉備さんの……」

 

失礼なこと言われてたしな。聆はとばっちりだけど。

 

「それに、戦いに命をかける動機も……。どうやら素面では戦好きなわけではないようですし、華琳様に心酔してるわけでもないみたいのですよー。一方でじわじわと影響力も広げて行ってるのです」

「……華雄さんが言ってたことなんだけど、聆は自分の命をあまり大切に思ってないっぽいらしいんだ。だから俺たちじゃ怯んじゃうようなときでも命をかけるんだと思う。それに……風は色々と疑ってるみたいだけど、聆は華琳の危機に誰よりも早く駆けつけてくれた。……それが答えじゃないかな。……って言うか、聆のすぐそばでこんな話してていいの?」

「風も軍師の端くれ……人の心を読むことを生業にしてますからねー。聆ちゃんの深層は読みきれませんでしたけどー、起きてたら気付k」

「ええで、軍師が何でも思い通りに出来るってんやったら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す」

「…………」

「…………」

「………ぐぅ」

 

あ、寝て誤魔化そうとしてる。

 

「あーあ、何でこうも軍師連中に警戒されるんやろなぁ。桃香んとこも諸葛亮だけは真名教えてくれんかったし」

 

猫の喉元を指先で撫でながらぼやく。……あんまり気にしてない感じだけど。

 

「うーん、でも、確かに、経歴と状況を文字にして並べると意味不明になるからな。聆は」

 

経歴、と言えば、史実にも三国志演義にも出ていない、鑑惺嵬媼という武将、その存在自体が気になるけど。もっと出世するはずなのにしてない人とか、存在が消えてる人は結構居るんだけど、この世界でしか有名じゃないってのは聆だけだ。これも歴史のズレなのか……?

 

「なんや難しいこと考えとるみたいだけど、私がここに居る理由は単純なもんやで」

「……それって?」

「私はここが気に入っとる。やから守る。あと、かゆうまが言ったことは割と図星や。言うてもそんな軽ないで?誰かの代わりやったら死んでも良えかな、って思っとるだけで」

 

さも当然のことのように言い放つ。風の顔に落書きしながら。

 

「うん。傑作」

「……聆ちゃんは起こしてくれないから調子が狂っちゃうのです」

「あ、自分で起きた」

「まぁ、今日は芸術品として生活するのも乙なものでしょうかー?」

「いや、俺に同意を求められてもな」

「あ、決心ついたんやったらもうちょいガチで描くけど?」

「おおぅ!風は仕事が忙しいのでこの辺でー。では、さようならー」

 

そう言うなりさっさと立ち去ってしまう。うーん、睡眠回避が封じられた風はこうも脆いのか……。

 

「それに、さっき仕事終わったって言ってただろ……。あ、そう言えば俺も風に用が有るんだった!」

「おー、んだら仕事頑張ってなー」

「ああ!聆も明日からの遠征、頑張ってくれよ!」

「任せぇ」

 

軽く手を振り合って別れる。結局猫とは戯れられなかったけど、また一つ聆のことが分かったから良かったかな。




風をもっとちゃんと動かせるようになりたいです。
でも原作そのまんまだとこの作品の存在価値がないので、
原作通りウィットに富んだジョークを飛ばしつつも何かと受けに回ってしまいがちな風
を目指したいです。
この話はリメイクあるでぇ。

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