哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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よく訓練された読者様方に恵まれて、作者は幸せ者です。


第十章三節その二

 「前半はキワモノでしたけど後半は眼福でした」

「ちょっと黙れ」

 

馬騰を別の部屋の寝台に寝かし、やっと一息ついた。それまでの行程は……まぁ、残念ながら大体三課長の言葉通りだ。どこのスカビデオだよっていう惨状をどうにかこうにか処理し、体を洗ったのだ……ついでに私自身も。馬騰の名誉のために人を呼ぶこともできず、私と三課長で全てやらなければならなかった。途中で戻ってきた六課長を叩き伏せなければならないというハプニングも起こってしまったし。まぁ、とりあえずこれで馬騰保護は一旦完了だ。

毒が心配だったが、致死量ではなかったようだ。……ちなみに、その毒の種類だが、どうやら食中毒の原因物質を集めたようなものだったらしい。腐った肉とか野菜とかを絞った汁だ。馬騰が即死を狙って「一番強力な毒」をリクエストしたところ、当の薬師は最も苦しむ毒が最も強いという思考だったらしく、コレを渡したのだ。途中で止められて良かった。

と言うか、原作の謎が解けた。馬騰の部屋に入ろうとした一刀に華琳があんなにブチ切れたのか不思議に思っていたのだ。……そりゃ、こんなヤバい症状で死んでたらな。

 

「伝令!曹操様が到着なさいました!」

「おーう。部屋の事伝えといてくれ」

「了解です!」

 

馬騰の自室は立入禁止にして換気している。

 

 そして……ついに死亡キャラの救命をしてしまったワケだが。……頭痛が来ないってことはセーフなのだろうか。あくまで"華琳の命令に従って"天の知識を直接の要因とせずに動くことに気をつけたのだが……。この方式なら大丈夫ということか。いや、まだ油断はできないな。原作一刀さんとか、かなり細かいとこでも頭痛発生してたし。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「一体どんなカラクリを使ったんだか……」

 

馬家本拠に入った俺たちの目に映ったのは、……まるで何事も無かったかのようにきれいなままの街並みだった。兵の死体はおろか、血のあとすらも無い。

 

「圧倒的な大勝なら、こんなものよ。戦おうという意思すら湧かなかったのでしょう」

「何か、実は墜ちてませんでした、みたいなことが有りそうで恐いな」

「私たちがこうやって入城しているのが何よりの証拠よ。それに、馬家の旗も降りているわ」

 

確かに馬家の旗は降りているけど……。

 

「あれ?墜とした城にはその証に旗を立てるんじゃなかったっけ?」

 

曹とか、魏、鑑の旗が上がっていない。

 

「聆の配慮でしょう。馬騰との会談前に"占領"してしまわないようにね」

 

そう言われれば、馬騰は誇り高い武人らしいからな。魏の旗を立てられたりしたら二言と無く切腹しそうではある。

 

「華琳様、聆からの伝言です。『馬騰殿の体調が優れないため、面会の人選はよく考慮してほしい』とのこと。……あと、これが馬騰が居る部屋までの見取り図です」

「そう。では……秋蘭、一刀。ついて来なさい」

「はっ」

「え、俺も?」

「はぁ……。貴方、天の御使いなのだから、顔見せして然るべきでしょう。それに、左右に一人ずつ立っている方が見栄えが良いわ」

「まぁ、そうだな」

 

こういうとき、いつもなら春蘭なんだろうけど。バ……いや、馬超を逃がしてしまったってしょげてたしな。

 

「ふふ……楽しみだわ。馬超も顔は良かったし、期待できるわね……」

 

華琳は相変わらずだな……。

 

 

 「ここです。華琳様」

 

やって来たのは家臣達の私室が集まる区画。

 

「領主の部屋って感じじゃないな」

「馬騰の部屋は別に有るのだがな。どうやらそこで一戦交えたらしい」

「なるほどな……」

 

武将の娘同士の戦いは、例えそれが練習試合でも周囲がボロボロになる。それが本気の戦いともなれば部屋一つ使い物にならなくなって当然だろうな。

 

「じゃあ、入るわよ。身なりを整えなさいな」

「お、おう」

 

これから会談だもんな。一応シャツの裾をズボンに入れて上着のホックまで閉めたけど……。そもそも服の作りからしてこっちのものと違うから意味無いかも。

 

「曹孟徳が参った!面会願いたい」

 

「どうぞー」

 

内側から戸が開き、聆が俺たちを迎え入れる。奥の寝台に座っているのが馬騰さんかな。

 

「……貴様が曹操か」

 

寝台の横に立った俺たちの方にゆっくりと振り返る。

 

「……?」

 

そして少し不思議そうな顔。

 

「ええ。我が名は曹孟徳。覇によって天下を治めんとする者よ」

「私は夏侯妙才。先日遣いとして参上した夏侯元譲の妹だ」

 

あ、これ、俺も自己紹介する流れ?

 

「えっと、俺は北郷一刀って言います。一応天の御使いってことになってます」

 

それを聞いた馬騰さんはますます疑問の表情を深める。

 

「……どうかしたのかしら?」

「いや、想像してたのとかなり違うのでな」

「あら、どんな人物を想像していたのかしら」

「まず"人物"だと想定してなかったな。もののけかそれに類するものだとばかり」

「!? ……どうしてそうなるのよ」

「つってもなぁ……『夜な夜な若い娘を食べる』とかって話を聞いてるしな」

 

……間違っちゃいないけど……。

 

「それに"天の御使い"もとい"種馬"の北郷は、捕虜にした将に、男女問わず種付けして、より優れた魔神を産み出す苗床にするという噂も有るしな。まさかこんな優男が来るとは」

「あぁ、やからあんな自害したがったんやな」

「待て待て!男女は問うし!無理やりなんてしないぞ!?」

「……どうやら色々と悪意の有る情報が流されているようね」

「自業自得でもあるんちゃうのん?ギリギリ事実掠っとるし」

「聆、自重してくれ」

「でも、馬騰さんはどうしてそんな荒唐無稽な噂を信じたんだ?」

「……アタシも眉唾ものだと思っていたんだがな。夏侯惇の左目が噂通りの物だったのを見てな……」

「噂って?」

「『夏侯惇の左目は天の秘術によって作られた魔眼』だと」

「確かにアレは神秘的なほど美しいし、色々と拘った品だけれど。妖術や外法の類とは一切関係無いわよ」

「そう言われてもな。鑑惺の不死身はもう確認したし」

「……貴女、また何かやったの?」

「はっはっは。いや、こう、首がな。でもアレやで?関節技に強いってだけやで?」

「後ろ向きになるまで首を捻られて生きている人間が有るものか!」

「いや、それ言うんやったらそっちの剣裁きも異常やったからな?」

「聆……鑑惺についてはこちらでもあまり良く解っていないから気にしないでちょうだい」

「ヒドない?」

「正常な思考よ。……あら?そう言えば貴女、その服は?」

「西涼の衣装だな」

 

華琳と秋蘭の言う通り、聆は西涼風の服を身に着けている。身長の関係で長い脚が大胆に出ていて、それに、胸もはみ出し気味だけど。

 

「いやー、長いこと山篭りしとったからなぁ。もともとのヤツ結構汚れとったし」

「はぁ。別に隠さなくても良いわよ。どうせまた何かぶちまけたのでしょう?」

「ブフッッ!?ゴホッッゲホォッッ!」

「馬騰!?」

「と、とりあえず医者!」

「い、いや、かまわん。それより、用件を聞こうじゃないか!」

「そう?どうやら本当に体調が優れないようだし、日を改めても良いのだけれど」

「いや、早く済ませてしまいたいのでな」

「そう。なら単刀直入に言うわ。馬寿成、この曹孟徳の軍門に降りなさい」

「断る」

 

即答かよ。

 

「……聆、貴女のことだからもう既に説得済だとばかり思っていたのだけれど……」

「私をなんやと思っとるん?」

「一騎打ちした相手を従えることが出来る便利な娘」

「よっしゃ華琳さん私と一騎討ちするか!」

「ふん……どうやら噂は本当に誇張だらけなようだな」

「ええ。それに、悪く聞こえるように捻じ曲げられているわね。……それはそれで対処を検討するとして。……断る理由を聞かせて貰えるかしら?」

「……以前にも言ったが、アタシは漢の将だ。それ以外に仕える気は無い」

「腐った役人共をのさばらせ、農民上がりの反乱も抑えられずに滅びたような漢に仕えたまま朽ちるのは惜しいとは思わない?」

「例え衰えようと、例え果てようとも一度主を決めたならそれを貫き通すのが武人としてのけじめだ。敵に尻尾を振ってまで生き延びようとは思わん」

「そう……。この天下を手に入れた暁には、西涼を任せられるのは貴女を除いて居ないと思っているのだけれど」

「ふん。おかしなことを言う奴だ。なら何故ここに攻め入ってきたんだ」

「確かに貴女は優れた人物よ。……でも、西涼諸侯の全てがそうかしら?……私はそういう無能で不要な為政者を消し去るために戦っているの」

「『占領地の役人を一掃して自国の者にすげ替える』という噂はここから来ているのか……。やれやれ。バカを見せられたもんだ……」

「どう?私の覇道について来る気は無いかしら?私はこの天下を本気で守りたい。その為には、長年蛮族と戦ってきた貴女の力が必要となるでしょう。貴女が欲しいの」

「……………」

「んだらこないしたら?"家臣"やのぉて"同士"ってことで。アレやん?天下を治めるっていう漢の遺志と華琳さんの目的は同じやから華琳さんに協力しても漢を裏切ったことにはならんのちゃう?」

「聆……お前、天才か!」

「まぁ、華琳さんにとっては、同盟とかは手緩いかも知れんけど」

「いえ。それでも構わないわ。……馬騰。私に力を貸してくれないかしら」

「………………分かった。武を振るうことはもう満足にいかないが、西涼の地理と経験、その覇道に存分に役立ててくれ」

「よし、そうと決まれば早速みんなに知らせないとな!」

「いえ。待ちなさい一刀。……馬騰、貴女が聞いている噂は当然馬超や馬岱も聞いているのよね」

「ああ。そうだが。……なるほどな。ならばアタシの生存は伏せた方が良いか」

「……どういうことだ?」

「噂では私たちは相当な鬼畜なようだから。むしろ生きている方が馬超の心象は悪いでしょう」

「……ここは、自刃したということに」

「ええ。それが一番でしょうね。種明かしは戦を終わらせて馬超に私たちの本当の人となりを知ってもらってからにしましょう。馬騰も、それでいいかしら」

「いや、一つ良くないところが有るな」

「……?」

「同士になったってのに、その呼び方はな。アタシの真名は『靑』だ。受け取ってくれ」

「ふっ……。そうね。私の真名は『華琳』」

「華琳様が許したのなら私も。『秋蘭』だ」

「『聆』やで」

「えっと、天には真名って風習がなくて……強いて言うなら『一刀』がそれに当たるかな」

 

うっ……俺も真名欲しいぞ……。

 

「……なら、華琳。これからよろしく。この私に協力させるんだから、絶対にこの天下を完璧に治めてくれよな」

「言われなくてもそうするつもりよ。でもそのために貴女も十分に働くのよ。靑」

 

 

 こうして対西涼遠征は終わりを告げた。これによって曹魏が大陸の北半分を手に入れたことになる。これからはいよいよ三国三つ巴の戦いになるだろう。蜀や呉とも、こんな風に分かり合えたら良いな。




馬騰オリ設定真名「靑」
表示できないこともないですよね……?
拠点フェイズが終わったらいよいよ定軍山ですが、
楽勝な気がします。
ヒント : 七乃さん無双

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