ゴメンネ!
また誤字が多いかもしれません。
ゴメンネ!
「突撃ッッ!」
勇ましい号令と共に、馬超は夏侯淵隊へと突進をかける。無数の矢の雨に晒されるが……槍を縦横に振り回し、打ち払っていく。馬岱と隊員たちもそれに続き、猛進する。犠牲は出るが、それ以上に速く、敵陣に突き刺さり、踏み潰す。それが西涼のやり方だ。敵の策には耐えた。あとは、目の前の敵を倒すのみ。
あと一町…………半町……三間。
そして、天を裂くような轟音に呑まれた。
「ハッッ!」
「っラぁ!」
「……なかなか良い反応ね」
「おうよ。小バエ落とすんは得意なんや」
「言ってくれるわね。ただ、貴女自身はそうでも、貴女の隊はどうかしら?……第一射構え!――放て!」
ザザザっと空気を震わせ、黄忠の背後の軍勢が一斉に矢を放つ。それらが全て鑑惺の元へ殺到するのだが……当の鑑惺は余裕の表情で片手を軽く挙げた。
「……打ち方、始めェェッ!」
黄忠隊にも劣らない一斉射撃を皮切りに、無数の矢が鑑惺の頭上を超えて行く。
「な……何故、貴女の隊が、矢を………!?」
「自分で、もうわかっとんちゃうのん?……とんでもない間違いをやらかしてもたことになァ」
「まさか……そんな………!!」
「よぉ耳澄ませェよ。もーすぐ聞こえてくるわァ」
「……HALLLLLLLL URULAAAAAAAA!!!!!!!」
「「HALLLLLLLL URULAAAAAAAA!!!!!!!」」
「「「HALLLLLLLL URULAAAAAAAA!!!!!!!」」」
「はい、西涼騎馬隊終了のお知らせですよー」
※――――――――――――――――――――――――――――※
「――して、策とはなんぞや?七乃よ」
「はい。まず、危機を偽造し、敵を誘い込んで討ち取る策です。倒した敵の装備を奪って味方の一部を蜀兵に偽装し、追われているふりをして山を下ります」
「相手はそれを好機と見て突撃、そこで偽装兵を含めた全軍で迎撃。混乱した相手を討ち取る、か。ふむ……」
「うーん、なかなかの策やけど、ちょい決め手に欠けるなぁ。やっぱ、演技って気づかれるやろし」
「はい。黄忠さんは経験豊富ですし、何より目が良いでしょうしね。ね?秋蘭さん」
「ん?ああ。その辺の弓兵はどうだか知らんが、大陸で一、二ともなるとな。……だが、そうなると、見破られると分かっていてこの策を?」
「そこで第二の策です。相手が先の策に気づいた場合、恐らく、山中での戦闘、そして鑑惺隊の迎撃を嫌って草原に隊列を組みこちらの出方を窺うでしょう。その間に我々も陣形を整えます。夏侯淵隊と鑑惺隊、左右に大きく分かれて、です」
「前後ではなく、左右、か……」
「はい。そして同時にこの策の目玉、聆さんの登場です」
「……あー、分かった。煽ればえんやな?」
「そうです。思いつく限りの言葉で馬超を罵倒してくださいね」
「馬超を馬騰?どういうことかの?」
「『バトウ』は靑さんの『馬騰』やのぉて、ののしる方の『罵倒』や」
「……だが七乃よ。挑発することによって馬超を鑑惺隊に当てようとしているのだろうが……それも、黄忠が止めるのではないか?」
「もちろんですよ」
「……?…………!ふふ、なるほどな。私が鑑惺隊を引き連れておくワケか」
「で、私が夏侯淵隊を、と。隊列の表面にだけそれぞれ逆の装備を持たせとけば直前まで分からんか」
「……のう七乃。黄忠は山に居る妾らの動きを読むのじゃろ?」
「ええ。そうですけど……?」
「ならば、草原で対峙したときは当然それより互いに近いのじゃから、誤魔化しているのがバレるのではないかや?」
「……………」
「……………」
「……………」
「……どうしたのじゃ」
「すごーい!お嬢様が、そんなことに気づくなんて!いつの間にかこんなにお利口になっていたんですね!」
「めでたいなぁ」
「……ああ。先日の姉者といい、嬉しいかぎりだ」
「そうじゃろそうじゃろ、うははははー」
「でも残念!実はそこも考慮済みなんでーす」
「なんじゃと!」
「角度の関係で、斜面を降りてしまえばもう隊列の表面しか見えないんですよねー」
「……?」
「お嬢様には後で説明するとして、それで思い出しましたけど、第一の策の偽装兵は夏侯淵隊から選出します。そして装備は槍で」
「鑑惺隊と勘違いさせるのか」
「勘違いの補強と言った方が正しいですね。勘違い自体は聆さんの後ろに立つだけで起こりますので」
「……相手の捜索の蜀兵は元々殆どが弓兵やからな。わざと怪しませるってことか」
「はい。まぁ、そこまで見えているか分かりませんが。斜面での戦闘中、槍を持っている上、蜀兵への偽装……つまりは奇策の実行。おそらく相手の想像する鑑惺隊に限りなく近いのではないでしょうか。言ってしまえば、第一の策は第二の策への前振りですね」
「だが……そうなると装備が逆なのをどうするのだ?奪うにしても、敵が持っているのは弓矢だけだぞ?」
「そこが難しいところなんですけど、一応、討伐数から考えると弓は全軍に行き渡りそうですから、隊列を組むときのドサクサに紛れて槍の受け渡しを、と。ですから、聆さんにはできるだけ派手に啖呵を切ってもらいたいんです」
「注意をこっちに引き付けるんやな」
「そうです。そしてもう一つ、黄忠に熟考させることです。黄忠が考えれば考えるほどこちらが有利になりますからね。頑張ってくださいね。あと、そうですねぇ……運が良ければ流琉さんの援軍がちょうど良くやって来てくれるかもしれません」
「なるほどなぁ……。馬超を狙っとると見せて黄忠を踊らすんか。……あ、秋蘭さん、馬超と馬岱、二人は生かして逃がしてくれん?」
「……なぜだ?」
「あ、分かりましたー。蜀本体への打撃ですね!」
「え、うん」
「………ふむ。つまりは馬超と馬岱が蜀の綻びになると?」
「はいー。この戦中、馬超さんは延々と黄忠さんに指示され続けるわけですから、その指示に従った結果、相手の策に嵌った……それも自分の隊が大破となったら……」
「人徳によって成り立つ蜀に、致命的な不和が生まれるな。……私自身、なかなか頭の良い方だと思っていたのだが……。お前たち、恐ろしいな………」
「いえいえ、それほどでもー」
「そーそ。思いついただけ思いついただけー」
「笑顔とはこれほどまで邪悪な表情だっただろうか……」
「さて。それでは作戦はこれで決定で良いですね。秋蘭さんと聆さんは、敵兵の装備を集められるだけ集めてください。私はその結果から子細を調整しますので」
「了解した」
「おー。任せぇ。……お前ら!行くで」
「「はっ!」」
「良いの良いの♪妾も久々に歌いたい気分じゃ」
「あ、じゃあ兵士さんたちのお夕飯の時に歌ってもらえますか?」
「任せよ!皆を妾の歌声で骨抜きにしてやるのじゃ!」
「骨抜きにしちゃダメですよ!」
※――――――――――――――――――――――――――――※
「翠ちゃんっ!?……くっ」
「全て事も無し。描いた絵図の通りやわ」
真逆の答えを導くヒントをチラつかせ、相手を騙す。いわゆるミスリードというやつだ。
「騎馬隊はぐちゃぐちゃになって敗走しとるけど……お前らはどうする?黄忠ェ。……おっと、そんなこんなで援軍も来たみたいやな」
敵陣の背後に土煙といくつかの旗。……流琉だ。とことんタイミングが良い。出待ちしていたのかもしれないな。
「退却……退却よ!全軍、退却!!」
悔しげに顔を歪ませる黄忠。コロンビアドヤ顔で返してやった。まさに圧倒的勝利。これで原作通り、孔明をビビらせることができるはずだ。
「聆さん!秋蘭様!ご無事ですか?」
「ああ。大丈夫だ」
「おー。……まぁ、でも、多少撃ち合いになったから秋蘭さんの隊に被害は出てもたけど」
「いや、少ない方さ。……こちらも、何人か敵の後をつけさせているが、良いか?」
「深追いせんように言っといてくれたんやったらな」
「ああ。言っておいた」
「なら後でちょっとだけ追撃かけちゃいましょうかー」
「ほほほ。なかなか良い見せ物じゃったのぉ」
「あ、七乃さん、美羽ちゃんも、無事だったんですね!」
「ええ。ここからさらに第四の罠、聆さんの鬼畜策が炸裂しちゃうと思うとわくわくしちゃいますよー」
「ああ。言われた通り、意図的に馬超と馬岱は逃がしておいた。……それにしても、相手が気の毒だな」
「生きてること自体が相手の策略の布石だなんて、絶望以外の何物でもありませんね」
「こんなに飯が旨い状態で、流琉の料理を食べるとどうなるのかのう……?」
「あ、何か作りましょうか?」
「ふふ。私の分もお願いできるか?食材なら色々とあるぞ」
「えーと、じゃあ、熊とかは熟成させた方が美味しいので、川魚を中心に料理しますね。皆さんもいかがですか?」
「お願いしますー」
「期待しとるで」
「よし、ならば、流琉の飯を食べ次第、追撃に出発ということで良いな」
「ふふ。もう仲間割れで潰れてたりして。あ、それだと本国に影響でないからダメなんですか」
「……せやな」
戦の直後とは思えないような和やかな空気が流れ、非常に気分が良い。
ちょっと調子に乗りすぎた感が有るけど、結果的に馬超も生きてたし、良いよね!
定軍山
夏侯淵隊(弓.槍.蜀偽装)
鑑惺隊(弓.聆.秋)
↓
鑑惺隊(弓.槍.秋.表面弓) 夏侯淵隊(弓.聆.表面槍)
平原
※どちらも表面上はもう片方の隊のフリをしています。